56 涼ミウラ伯爵に会う
共和国の賢者に蒸気機関車の試作機が完成したことを伝えに行った。
「そうでしたか、一歩前進しましたね」
《はい、後は皇帝陛下を説得するだけです》
「うまくゆけばいいのですが……」
《それはタカダ様にお任せください》
「期待して待つことにします」
《それで、オオイシ様には蒸気機関の噂を広めていただきたいのです》
「何故ですか?」
《停戦の条件に使うためです》
「なるほど、そういうことですか、わかりました」
次に皇国へ向かいミツマサさんにも蒸気機関の噂を広めてくれるよう頼んだ。
数日後、帝都に新たに鉄道関連の専門工場を建設することが決まり、サトウさんとカツヒコさんはその準備に追われている。
そしてクロユリは皇帝から勲章をいただき、貴族待遇となった。午前中はサトウさんを手伝い、午後からは魔術を教えるのが日課になっている。
ミツナリさんは一人でいろいろと工作をしているようで、会える機会は減っていた。
タカユキさんに訊いてみた。
《水の魔術が得意な方はいますか?》
「ユカリとその弟子たちですね、何故ですか?」
《蒸気機関には水が欠かせません。水を汲むのは大変な作業ですから、魔術で効率を上げることができないかと考えています》
「具体的には?」
《例えば、機関車は駅で水を補給しなければなりません。その時、魔術師がいれば短い時間で補給することができると思うのです》
「魔術師の仕事の幅が広がりますね」
《はい》
こうして空気砲の練習に併せて、ユカリさんたちがリーダーとなって、水系が得意な人たちには水を移し替える練習もしてもらうことになった。
久し振りにミツナリさんに会うことができた。
《一人でこそこそと、何をされているのですか?》
《別にこそこそしているわけではないが、慎重派に根回ししているところだ》
《協力してもらえそうですか?》
《一番の実力者である財務大臣のエモト伯爵に帝国の可能性を説明してみたが、返事はまだない》
《信用されていないのではありませんか?》
《そうだな、私は主戦派と思われているからな》
《仕方ありませんね》
《お前はどうする?》
《王国が参戦しないようにできないかと考えています》
《手段は?》
《例の魔術学校の生徒たちの父親がいずれも貴族なので、とりあえず貴族たちの考えを探ってみようと思います》
《そうか、そっちは任せた》
《はい》
ミウラ伯爵邸にタカシくん宛ての手紙を届けた。
手紙には近いうちに会って話がしたいと書いた。
返事はすぐに店に届いた。
「明日、料理店で会うことになったよ」
「そうですか」
「まずは三人に貴族たちの考えを探ってもらって、いずれミウラ伯爵にも会ってみたいと思うんだ」
「理解してもらえるといいですね」
「あの三人なら分かってくれると思うけどね」
「期待しましょう」
こげ茶のウィッグ、平民の服で約束の料理店へ向かった。
「「「………」」」
「お久し振りです」
「……驚きました、これはまた、別人ですね」
「その髪の色は?」
「これはカツラなんですよ」
「へーっ」
「それで、話というのは?」
帝国が蒸気機関の開発に成功したことにより戦争を回避できる可能性が出てきたこと、そして、そのために帝国で工作をしていることを三人に説明した。
「そういうことですか」
「それで、私達に何を?」
「最終の目的は、たとえ戦争が始まっても王国を参戦させないことです。そのために皆さんには貴族の方たちが戦争についてどう考えているのかを探っていただきたいのです」
「学校でみんなにも話してみます」
「そして、蒸気機関の噂を広めてください」
「なぜですか?」
「停戦の条件にするためです」
「わかりました」
「カオル様は王国だけでなく大陸全土の未来を考えています。そのために今何ができるかを模索しているところです」
「大陸の未来ですか……」
「話が大きすぎて想像がつきませんね」
「今はまだ全てをお話しすることはできませんが、どうか私を信じてください」
「それはもちろんです」
「ありがとうございます」
「しかし、帝国で工作をしているなんて、リョウは何者なんですか?」
「それは、何度も申し上げている通り、カオル様の下男です」
「「「あははは」」」
ミツナリさんに三人が同意してくれたことを報告した。
「お訊きしたいことがありますが、少し時間をいただけますか?」
「かまわんが」
「ありがとうございます、では、皇帝陛下にお子さんは?」
「男子が一人だけだ。殿下は今、西方中部のシノヤマという城塞都市に司令官として赴任されているはずだ」
「会ったことはありますか?」
「ああ、何度か会ったことがある」
「殿下は戦争については?」
「主戦派だな」
「説得は難しそうですか?」
「陛下には従うと思うが」
「そうですか」
「エモト伯爵が宰相に狙われる可能性は?」
「ないとは言い切れんな」
「慎重に行動しないといけませんね」
「そうだな」
「ミツナリ様」
「なんだ急に改まって」
「ミツナリ様はトビラが攻撃に使えることに気付いておられますか?」
「いや、そんなことは考えたこともないが」
「そうですか」
トビラを攻撃に使う方法を説明した。
「るほどな、気付かなかった」
「ミツナリ様に危険が及ぶ可能性も考えられます。その時は……」
「心配してくれるのか」
「はい」
「……すまんな」
数日後、タカシくんから手紙が届き、二日後の午後、伯爵と会うことになった。
今回も変装して行くことにした。
「カオル様の下男でリョウと申します。お目にかかれて大変光栄です」
ミウラ伯爵はタカシくんと同じく立派な体格で穏やかな雰囲気の方だった。
はじめは僕の姿に驚いたが、タカシくんが説明すると納得してくれた。
「話はタカシから聞いた。貴族たちが戦争についてどう考えているかを知りたいということだな」
「はい、カオル様は王国が参戦しないことを望んでおられます。貴族の方たちの考えを知った上で今後の方策を練るつもりです」
「わかった」
「タカシが学校で集めた情報も思った通りだったが、領地が西にある者は帝国が共和国に攻め入っても暫くは様子を見るべきと考えているようだ」
「ご自分の領地を戦場にしたくはないということですね」
「そういうことだな」
「どちらが勝利しても強大になりますが」
「そこまでは考えていないのだろう」
「東側の方たちはどうですか?」
「王都も含め東側の諸侯は派兵に肯定的なようだ。同盟があるからな」
「やはりそうですか」
「ただ、帝国が開戦することに懐疑的な者もおって、態度を決めかねている者も多いと思う」
「状況を見て判断するということですね」
「うむ」
「それで、伯爵様のご領地はどの辺りなのですか?」
「共和国との国境にある」
「えっ!」
「戦争になれば真っ先に戦場となる場所だ」
「そうでしたか、それでは何としても王国の参戦を食い止めなくてはなりませんね」
「できることならな」
「仮に帝国が開戦に及んだとしても、出来る限り早期に停戦するよう図るつもりでおります。それまで何とか王国が参戦しないよう働きかけていただきたいのです」
「失礼ながら、今のタチバナ様にそれほどの力があるとは思えんが」
「信じていただくしかありません」
「タカシはずい分、タチバナ様のことを信用しているようだな」
「はい、私はカオル様に全てをお任せするべきと考えます」
「何がそこまで信用させるのだ?」
「私はカオル様を信じておりますが、何よりリョウを信じております。リョウは我々では計ることのできない不思議な力を持っています。私はそれに賭けてみたいと思います」
「なるほどな」
「わかった、出来る限りのことはしてみよう」
「ありがとうございます」
「状況はタカシに連絡させる」
「よろしくお願いします」
タカシくんに見送られ、ミウラ邸を後にした。




