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賢者の下男は平凡な日常を望む  作者: 高橋薫
第三章 漆黒の魔女
51/65

51 涼空気砲を教える

 翌日の朝、キキョウさんとカツヒコさんを病院へ送って行った。

「帰りはまたタクシーにします」

 《わかりました》


 お昼前に二人が帰ってきた。

 《どうでした?》

「もう大丈夫だそうです。ただ、しばらくは激しい運動は控えるように言われました」

「お世話になりました」

 《本当に良かったです》


 《タカダ様には帰りは午後からになると伝えてありますので、こちらで食事をしてから帰りましょう》

「はい」

 《何がいいですか?》

「これが最後ですね……では、カレーライスが食べたいです」

 《わかりました》


 キキョウさんと二人でレトルトカレーにサラダを作った。

「おいしいです」

 《手作りはもっと美味しいのですが……》

「キキョウさんは作れるのですか?」

「作れます」

 《作れたの?》

「はい、ハヅキ様に教えていただきました」

 《知らなかった》

「いつか食べてみたいものです」

「機会がありましたら」

「ぜひ、お願いします」



 《それでは、帰りますか?》

「師匠に歴史の本を見せたいので、持って行ってもかまいませんか?」

 《もちろんかまいません》

「ありがとうございます」


「……あの、キキョウさん、またいつかお会いできると嬉しいのですが……」

「そういう機会もあるかもしれません」

「……そうですね、その機会が来ることを楽しみに待っています。本当にお世話になりました」

「………」


 《では……》

 ミツナリさんの部屋にトビラを開いてカツヒコさんとくぐった。

 部屋にはタカユキさんとユカリさんも来ていた。


「ただいま戻りました。心配をおかけして申し訳ありません」

「クロユリに任せたのだ、心配はしておらん」

「もう大丈夫なのですか?」

「いや、まだあまり動いてはいけないそうです」

「思ったより元気そうでなによりだ」

「はい」


「師匠、ぜひこれを読んでください」

「何だ?」

「向こうの世界の歴史が書かれた本です」

 カツヒコさんが歴史の参考書を渡した。

「クロユリに、こちらの世界もいずれ同じ道を辿ると言われました」

「クロユリは本当にそう思うのか?」

 《はい、必ず》

「そうか、では読んでみることにする」

 《後で感想を聞かせてください》

「わかった」


 《何か企んでいるな?》

 《もちろんです》



 《向こうでやることがあるので、今日はこれで失礼します》

「本当に世話になった、感謝する」

 《役に立てて良かったです。それでは……》


 キキョウさんを連れて森に帰った。



「ただ今戻りました」

「ただいまー」


 カオルちゃんが迎えてくれた。

「お疲れ様でした」

「本当に疲れました」

「キキョウにしては珍しいですね」

「いえ、あんなに長い時間、男の人と一緒にいたのは初めてですから、疲れました」

「なるほど、そうでしょうね」

「無理を言ってすいませんでした」

「それは別に何とも思っていませんから」

「ありがとうございます」


 それからキキョウさんがカツヒコさんから聞いた帝国の様子などを話してくれた。




 夕食は家で焼肉にすることにした。みんな揃っての夕食は久し振りだ。

 ヒルガオさんとユウガオさんが鉱山の話をする。

 みんながはしゃぐ中でキキョウさんだけが何故か無口になっていた。


「どうかしたの?」

 お母さんがビールを渡しながら尋ねる。

「いえ、べつに……」

「まあ、いろいろあったからね、もっと飲もう!」

 キキョウさんの肩に腕をまわして笑った。



 みんなが帰っていった後、お母さんと二人で後片付けをする。


「母さん助産師の勉強を始めることにしたよ」

「いいと思うけど、いきなりどうしたの?」

「今回のことで気付いたことがあってね」

「何?」

「カオルちゃんに戸籍がないことだよ」

「うん、それは仕方ないよね」

「もー、わかってないなぁ、だから、こっちで子供が産めないんだよ」

「それって……!」

「うん、そういうことだから、がんばる」

「………」




 次の日、ミツナリさんの部屋へ行くと、ミツナリさんと三人のお弟子さんたちが何やら話し込んでいた。


「ちょうど良かった、今クロユリのことを話していたところだ」

 《どういうことでしょう》

「弟子達全員にお前の術を教えてはもらえないだろうか」

 《どの術ですか?》

「空気の術だ」

 《はい、かまいませんが》

「おおーっ、本当ですか?」

 《はい、あれは空気砲と呼んでいます。初歩の術です。あれを応用した別の術もお教えします》

「すまんな、本来他人に教えるようなものではないからな」

 《いいえ、あれはもう王国では公開されています》

「そうなんですか」

 《ですから気になさらないでください》

「クロユリは王国から来たのですか?」

 ユカリさんの問いにカツヒコさんが口を挟んだ。

「余計な詮索はしないようにとキキョウさんに言われました」

 《はい、そういうことでお願いします》

 カツヒコさんに笑ってみせる。


「これからでも構わないか?」

 《はい、構いません》

「では、訓練場へ行くか、お前達は弟子を連れて来い」

「「「わかりました」」」



 トビラをくぐった先は魔術学校の訓練場と同じくらいの広さの施設だった。例のカカシが何体も立っている。

 《帝国にも魔術学校はあるのですか?》

「帝国では士官学校の魔術科ということになる。生徒の数は王国の二倍くらいか」

 《一つの学校で騎士と魔術師が学んでいるのですか?》

「そうだ」

 《魔術が一番進んでいるのはどの国なのですか?》

「皇国だな、次が帝国、王国は三番目だ」

 《共和国は?》

「共和国は魔術師を重要視していない。何故かあそこの国民は皆魔力が弱いのだ」

 《理由は分かりますか?》

「わからんな」

 《賢者様は特別ということですか?》

「いや、彼がどれほどの魔力をもっているかはわからない」

 《そうですか》


 二人で話しているとお弟子さん達がやってきて、四人ずつ三列に整列した。ユカリさんの弟子は三人とも女性だった。

「お待たせしました」


「これはクロユリといって、護衛として雇った者だ、旧友の縁者で信頼している。声が出ないので念話になる」

 《クロユリと申します、お見知りおきを》

 弟子の人達がどよめいた。


「今のはどういう意味だ?」

 タカユキさんの弟子が答えた。

「いえ、あまりに美しいのでつい……」

「まあいい、これからクロユリに術を教えてもらう、真剣に取り組むように」

「はいっ」


 《まずは体感していただきます、列を崩して横に広がってください》

 弟子達が列を崩した。魔術学校でカオルちゃんがやったように教えることにする。


 《まず風の術です》

 両手を突き出し風を起こす。

 《次が空気砲です》

 バンッ!!

 全員がよろめき、前にいた何人かが尻餅をついた。


 《違いがわかりますか?》

 それから一通り空気砲の原理を説明した。


「一度全力のを見せてもらえないかな」

 ミツナリさんに促されてカカシの前に立ち、両手をカカシに向け全力の空気砲を撃つ。

 ベキッ!!

 カカシは根本を残し吹き飛んだ。これには自分でも驚いた。

(魔力が強くなってない?)


 振り返ると全員が茫然としている。


「さすがだな」

 《できるようになったら、これを応用した術をお教えします。今から見せますので、タカユキさん、全力で私にぶつかってきてください》

「本当にいいのですか?」

 《あー、やっぱり全力だとタカユキさんが怪我をするかもしれないので、ほどほどでお願いします》

「では、いきます」


 突進してきたタカユキさんが空気の壁に弾かれて尻餅をついた。

「おおーっ」


 《練習はまず空気を圧縮することから始めてください》

「わかりました」


 《これはやはり、お前が編み出したのか?》

 《いいえ、原理は元々あったものです》

 《そうなのか》

 《はい》


 それから練習は毎日続けられた。


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