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賢者の下男は平凡な日常を望む  作者: 高橋薫
第三章 漆黒の魔女
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46 涼魔物を倒す

「今度は西へいってみるか」

「「「はい」」」


 みんなで西へ向かって歩く。

 森に入り一時間ほど進むと少し開けた場所に出た。


「少し休むか」

 各々地面に座り水を飲んだりしていると突然ユカリさんが叫んだ。

「何かが来ます、東からです!」

 東の方を見ると兵士たちの向こうの木の枝が揺れ始めた。

 カツヒコさんが駆け出す。


 森から現れたのはアリ型の魔物だった。

 魔物は上体を起こし前足で二人の兵士をなぎ倒した。

 カツヒコさんが魔物の前に立ちはだかり、拘束術を使ったが効果がなかった。


「にげろ!!」

 ミツナリさんが叫んだがカツヒコさんは動こうとはしない。

「逃げてください!」

 カツヒコさんが念じると小石が浮かび上がり、魔物めがけて飛んでいった。

 魔物は一瞬怯んだが、あまりダメージを与えたようには見えない。

「かわれ!」

 その瞬間、魔物がカツヒコさんの肩に噛み付きそのまま持ち上げた。

「くそっ、私が時間を稼ぐ、早く逃げろ!」


 ハセガワさんたちが倒れた兵士を助け起こし逃げ出す。

「おまえたちも早く!」

「手伝います」

 タカユキさんとユカリさんも念じ始める。

「師匠はクロユリさんと逃げてください!」

「だめだ! 長くはもたん」


 《まかせてください!》

 魔物の横へ回り込み横腹に空気砲を撃つ。

 バンッ!

「ギギギギ……」

 魔物は傾き、頭を振ってカツヒコさんを放り出した。

 トビラを使うには倒れたカツヒコさんとミツナリさんが邪魔だ。

(頭を狙おう)

 宙に浮き魔物の上まで移動する。

(光よ集まれ)


(いけーっ!)

 ジュッと音がして魔物の頭から煙が上がる。

 魔物が苦しそうな鳴き声を上げた。

「ギャギャギャ……」

(もっとだ)

 念じ続ける。

 魔物がもがき苦しんでいる。

 頭に穴が空きそこから炎が上がる。

(まだだ)

 さらに念じ続ける。

 ついに頭全体が炎に包まれ、燃え上がった。


 地面に降り、カツヒコさんを抱き起こす。

 気絶していた。出血がひどいし骨も心配だ。


 振り向くとみんなが茫然と僕のことを見ている。

 《手伝ってください!》

「……ああ、そうだな」

「「はい」」

 《上着を脱がせてください、血を止めないと》


 傷は深いものの肉はえぐれてはいなかった。骨まではわからない。

(これなら大丈夫そうだ)


 《私の家に連れていきます》

「そ、そうか、たのむ」

 《はい、後で魔術院へ報告に行きます》

「わかった」

 《そこに寝かせてください》


 カツヒコさんの体に手を添え浮けと念じる。

 家のリビングにトビラを開きゆっくりくぐった。



「お母さんっ!」

「一体どうしたの?」

「怪我人が出た」


「とりあえず応急処置をするから、その間に着替えて」

「わかった」

 手早く着替えリビングに戻る。

「病院に電話しておいたから車に乗せて」

 カツヒコさんを負ぶって車に乗せた。もちろん術を使っている。


「先生には何て言う?」

「知り合いが野犬に噛まれたとでも言っておくよ、あとは何とかする」

「ありがとう」


「それで、この人は誰?」

「ミツナリさんのお弟子さん、魔物に噛まれたんだよ」

「どこかの骨が折れてるかもしれないから、メイドさんとか連れてこれないかな」

「わかった、カオルちゃんに頼んでみる」

「おねがい」



 病院に着いた。

 後のことはお母さんに任せて、一旦家に戻る。


 森のお屋敷へ行き、みんなに事情を説明した。

「メイドたちはカオル様のお世話に店のこともありますから、ここは私が行きます」

「ありがとうございます」

 キキョウさんが引き受けてくれた。


「早く行ってあげてください」

「うん、またあとで報告するから」

「はい」



 家に戻って車で病院へ向かう。

「名前はカツヒコさんと言います、キキョウさんは妹ということにしましょうか」

「わかりました」

「カツヒコさんには話せる範囲で僕のことを説明してください、カオルちゃんのことまでは話さなくていいです」

「心得ています」

「はい」


「やっぱり、こういう時にはキキョウさんは頼りになりますね」

「褒めても何も出ませんよ」

「本心ですから」



 お母さんは病院の待合室にいた。

「キキョウちゃんが来てくれたんだ」

「何なりとお申しつけください」

「わかった」

「はい」


「今、先生が処置してくれてるけど、やっぱり肋骨が折れてるみたい、足首も捻挫してるかもしれない」

「意識は戻ったの?」

「うん、戻ったよ。余計なことは言わないように念を押しておいた」

「よかった。あとどれくらいかかりそう?」

「そんなにはかからないと思うけど」

「待ってた方がいいかな」

「電車で帰るからいいよ、あとはまかせて」

「じゃあ、ミツナリさんに報告してくる」

「そうしなさい」

「またあとで」



 家で着替えてから魔術院へ行く。

 部屋にはタカユキさんとユカリさんもいた。


「どうだった?」

 《向こうの医者へ連れて行きました。傷は大丈夫そうです、ただ、あばら骨が折れているようで、しばらくは安静にしていないとだめです》

「そうか、助かった。ありがとう」

「私が気付くのが遅れたせいです」

「ユカリだけのせいではない、私もうかつだった。まさかあそこに虫が出るとは思っていなかった」

 《治りますから、あまり気になさらないように》

「ありがとうございます」



「あの……師匠、説明してもらえますか?」

 タカユキさんが心配そうに口を開いた。


 《少しだけ、お前のことを話しても構わないか?》

 《はい、判断はお任せします》

 《すまない》


「実は、クロユリは向こうの世界の人間なのだ」

「「えーっ!!」」

「しかも、私よりも強力な魔力を持っている」

「「そんな……」」

「カツヒコは今、向こうの医者が診てくれているそうだ、だから心配しなくていい」

「そうでしたか」

「ありがとう」

 《いいえ、大したことがなくて良かったです、動けるようになったら連れてきますから、安心して待っていてください。それで、カツヒコさんの怪我は私の家で母が魔術で治療したことにしてください》

「わかった、お前たちもいいな」

「「はいっ」」


「あーもう、いろいろ頭の中が整理できません」

「俺もだ、クロユリには驚かされてばかりだな」


「一度にあれだけ見せられては、そうなるのも仕方ないな」

「すごすぎます、おまけにトビラまで……」

「師匠以外に使える者がいるとは思ってもみませんでした」

「あと一人いるのだがな」

「えーっ! あまり驚かさないでください」

「本当ですか?」

「本当だ、クロユリの本来の主人だ」

「「………」」


「一体……どういった関係なのですか?」

「いずれ話す時がくるだろう、それまで待ってくれ」

「わかりました」


「それにしても……驚いたぞ。何なんだ、さっきの術は」

 《魔物の頭を燃やした術ですか?》

「そうだ」

 《あれは光を集めたのです、集めた光を一点に集中させるとすごい熱が出るのです》

「そういうことなのか」

 《はい》


「宙に浮いていたではありませんか、浮くだけでも大変なのに、同時に別の術を使うなんて信じられません」

「どうやらクロユリの頭は我々とは違う構造をしているようだな」

 《そんなことはありません、術の組み立て方が少し違うだけです》

「そこが違うと言っているのだ」


 《リンがお前を選んだ理由が分かった気がする》

 《私は特別なのでしょうか?》

 《だろうな》


「すまんがカツヒコのことは任せた、また容態を報せてくれ」

 《はい、では、あちらへ戻りますが明日もここにいらっしゃいますか?》

「ああ、できるだけ外出しないようにしよう」

 《わかりました》

「よろしくお願いします」

「たのみます」

 《おまかせください》


 トビラを開いて家に戻った。


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