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賢者の下男は平凡な日常を望む  作者: 高橋薫
第二章 皇国の大魔導師
42/65

42 涼空を飛ぶ

 森のお屋敷での夕食の後、カオルちゃんと二人で散歩に出た。

 月が辺りを明るく照らし、爽やかな風が吹いている。

 いつの間にか自然に手を繋いでいた。


「思ったんだけど……僕が来なければ、カオルちゃんは今も普段通りの生活を続けていられたのかもしれないね」

「何も知らないままですけど」

「知らない方がいいこともあるのかもしれないよ」

「そうかもしれません、でもリョウが教えてくれたことは、私にとって必要なことばかりです」

「ありがとう、僕がこっちの世界へ来たことがカオルちゃんにとって良かったのか、ちょっと不安になってね」

「良かったに決まっています、私はリョウに会えて幸せです」

 見上げた頬が赤く染まっている。



「あの……リョウはあちらの世界で、お付き合いしていた方はいないのですか?」

「残念なことに、いなかったよ」

「残念なのですか?」

「いや、そういうわけではないけど……」

「好意を寄せていた方は?」

「それもいなかったよ」

「本当ですか?」

「うん」

 カオルちゃんが腕を掴んできた。

 頭を撫でる。


「ミツナリさんは、リン様を愛していたのかもしれないね」

「そうですね」

「あの剣は本当はリン様に渡したかったんだと思う」

「私もそう思います」



「無責任かもしれないけど、僕は王国や大陸のことなんて、ほんとはどうでもいいんだよ。カオルちゃんが幸せでいてくれたらそれでいいと思ってる」

「私の幸せは……リョウといつまでも一緒にいられることです」

「それでいいの?」

「もちろんキキョウもメイドたちも幸せでいてくれることが望みです」

「あー、そういう意味ではなくて……ほんとに僕なんかでいいの?」

「もちろんです」



「あの、そろそろカオルちゃんはやめてもらえませんか?」

「えっ」

「カオルと呼んでください」

「うん、わかった」


「お母さんがね、こっちで暮らしてもいいって」

「本当ですか?」

「うん」

「うれしいです、でも、こんなことにならなければ、リョウにはあちらで別の生活があったのですよね」

「うん、でも僕は運命を信じているから、カオルに会えたのは運命だと思う」

「リン様がリョウを選んでくれたことに感謝しています」

「僕も感謝しなくちゃね」


「リン様ともっと話がしたかったな」

「私も、もう一度お話がしたかったです」



「戦争が始まったら、どうしたいの?」

「もうわからなくなりました」

「うん、僕もよくわからない。ミツナリさんに任せておけばいいのかな?」

「ミツナリ様が正しいのか、間違っているのかは戦争が終わってみないと分かりません」

「そうだね、それも何十年も経ってみないと分からないことだろうね」

「はい、あの方が思い描いた世界になることを願うだけです」


「僕は、手伝うべきなんだろうか?」

「迷っているのですね」

「うん」

「リョウがミツナリ様を信じるのであれば、手伝うべきだと思います」

「そうだよね」

「でも、危ないことはぜったいにダメですよ」

「うん、わかってる」

「ほんとに?」

「そのつもり」

「もーっ」

「だって、手伝うとなれば、多少は危ないこともあると思うんだ」

「……そうかもしれません」

「だから、少しは大目に見てね」

「その時は、私も一緒に戦います」

「えーっ、それは困るな」

「私では頼りないですか?」

「そういうわけじゃなくて……、危ないことはさせたくないから」

「それは私も同じです」

「……そうだね」


「でもね、まだ完全に諦めたわけではないんだ」

「えっ?」

「戦争を回避することだよ」

「そうですか、戦争をせずに大陸の平和が保たれることが理想ですからね」

「うん、きっと、まだ何かあるはずだよ」

「リョウのことですから、とんでもないことを思いついてくれることを期待します」

「あはは、できるだけやってみるよ」

「はい、私も考えてみます」

「うん」



「そういえば、空を飛べるようになったのですよ」

 カオルちゃんはいたずらっぽく笑うと、いきなり後ろから抱きついてきた。

 二人の体が宙に浮く。


「えーっ」

「目を閉じて、じっとしていてください」

「うん」


 ゆっくりと昇っていくのが感じられる。


「もういいです、目を開けてください」


 目の前には月明かりに照らされたヒグレの森、そして遠くにヒノ村が見える。


「すごい! なんて綺麗なんだ」

「リョウに見せたかったのです」


 そのままヒノ村に向かってゆっくり飛んでゆく。

「すごいよ」

「はい」


「ちょっと止まって、僕もやってみるから、手を離さないでね」

「はい」



 両手を繋ぎ向き合う。

 月の光を浴びたカオルちゃんは一層美しく、幻想的に見えた。


「綺麗だよ」

「えっ?」

「カオルが」

「………」


 宙に浮いたままカオルちゃんを強く抱きしめた。


「愛してる、カオルが何より一番大切だよ」

「私も愛しています、ずっとそばにいてください」

「うん、約束する」





 第二章 完


第二章完結です、ありがとうございました。四章で完結の予定ですので、三章からが後半になります。よろしくお願いします。

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