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賢者の下男は平凡な日常を望む  作者: 高橋薫
第二章 皇国の大魔導師
35/65

35 賢者様賢者を辞める

 王都に到着した。


「明日はリョウの服を頼みに行ってから店を探しましょう」

「はい」

「おねがいします」


 トビラを開き、アサガオさんとユウガオさんを連れてきた。


「博物館へはいつ行きますか?」

 アサガオさんが訊いてくる。

「うーん、いつにしようか?」


「私も行きたいです」

 ユウガオさんが食いついた。

「いいよ」

「だめです、約束なんだから」

 アサガオさんがダメ出しする。

「えーっ」


 またカオルちゃんが僕を睨んでいる。

「えーっと、博物館に行ったことがなかったから……行ってみようと思って……」

「そうですか」

「……うん」



 支度をする時間がないので、夕食は僕の家で冷凍食品を食べた。冷凍ピラフが好評だった。


「賢者を辞めたとして、お屋敷を明け渡すまで何日くらい猶予をもらえるのかな?」

「一週間くださいと言ってみるつもりです」

「家具とかは?」

「家具はお屋敷の物なのでそのままにしておきます」

「じゃあ、大きな物はないんだね」

「はい、本と私物とかです」

「それなら、とりあえず僕の部屋へ運んでおけばいいよ」

「ありがとう、やはりトビラが使えるのは便利ですね」


「博物館にはこの国の歴史とかも展示してあるのかな?」

「私は行ったことがないので……」

「そうなの?」

「はい」


 キキョウさんが口を挟む。

「ありますよ、何が知りたいのですか?」

「ほら、ニホン人が現れたこととか記録が残ってるのかなと思って」

「あー、私も博物館へ行ったのは何年も前になりますから、記憶はないですね」

「言葉とか文字の歴史とかが分かるといいんだけど」

「そうですね」


「やはり……私も一緒に行きます」

「あはは、アサガオさんに言ってみて」

「わかりました」



 次の日、まずは仕立屋へ向かう。

 二着作ってもらうことにする。一着は店番をする時のためのメイド服に近い平民用のもの。もう一着は貴族の女性が着るちょっと贅沢なドレスだ、どちらも色は黒にする。

 キキョウさんが友達にプレゼントするということで、背格好が似ている僕を連れてきたと言ってごまかすことにした。

 完成までに五日かかると言われた。

 靴も二足買ってもらった。


 次は店探しだ。不動産屋へ向かう。

「大きな店は必要ないです、でも住居のスペースは欲しいですね」

「場所は?」

「表通りは値段が高いので、少し奥になりますか」

「他にも薬屋はあるんですか?」

「専門の店というのはありませんね、薬は雑貨屋で売るものですから」

「店番は二人ですか」

「そうですね、メイドたちに交替でやらせましょう」

「たまには僕も店に出ますよ」

「共和国へは?」

「そうでした、戻ってからにします」



「あの、聞いてほしいんですけど……」

「何ですか?」

「共和国へは一人で行こうと思います」

「危険があるからですか?」

「いざという時、一人ならトビラで逃げれますから」

「何が起きるかわからないということですね」

「それで……みんなには黙って行こうと思います。カオルちゃんには手紙を書いておきますから」

「わかりました、あとは任せてください。でも、くれぐれも気を付けるのですよ、カオル様を悲しませることのないように」

「はい、わかっています」

 カオルちゃんに言えば反対されるのは分かりきっている。黙って行くしかないと思った。


 店は三軒ほど候補がみつかった。

 あとはカオルちゃんに決めてもらおう。



 次の日、カオルちゃんとキキョウさんが王宮へ行くのを見送る。

「がまんするんだよ」

「わかっています」


「カオルちゃんをお願いします」

「それが私の役目ですから」


「いってらっしゃい」

「「行ってきます」」




 お屋敷にいても落ち着かないので王宮の前まで迎えに行った。

 門を出てきた二人の表情は晴れやかだった。それを見て安心する。


「お疲れさま、うまくいったみたいですね」

「迎えに来てくれたのですか?」

「うん」

「一応慰留されましたが断わりました。特に問題はありませんでした」

「よかったです」

「これまでの功績に対する褒賞ということでお金がもらえるそうです」

「へーっ、お店が買えるくらいもらえるといいね」

「そうですね、明日の朝、使いの方が届けてくれるそうです」

「猶予はもらえた?」

「はい、一週間もらえました」

「それなら慌てなくてもいいね」

「はい」



「じゃあ、今夜はピザにしよう」

「ピザって何ですか?」

「見ればわかるよ」


 みんなで家に行き、チラシを見ながら宅配ピザを選ぶ。

「えーっ、こんなにいろいろあったら迷います」

 ユウガオさんがチラシに顔をくっつけるようにしている。

「エムサイズをいろいろ頼めばいいよ、一人一種類ね」

「「「わかりました」」」

 みんなでワイワイ言いながら決めた。


 キキョウさんとスーパーへワインとビールを買いに行く。

「良かったですね」

「肩の荷が下りた気がします」

「お疲れさまでした。それで、これからどうするつもりですか?」

「私はもう結婚する気はありませんから、番頭として商売を手伝うつもりです」

「キキョウさんほどの美人がもったいないです」

「あはは、ありがとう」

「結婚しても仕事は続けられますから、諦めなくてもいいでしょ?」

「まあそうですけど……」

「きっといい出会いがありますよ」

「その時は考えます」

「カオルちゃんも喜ぶと思いますよ」

「はい」



 お母さんは夜勤で来られなかった。

 まずは、みんなでワインで乾杯。


「「「「「おつかれさまでした」」」」」

「いろいろお世話になりました。これからもよろしくお願いします」

「まかせてください」

「はい」

「よろしくお願いします」


 ピザも好評だった。

「おいしいです」

「ほんとに」

「………」


「どうしたの?」

 ヒルガオさんが黙っているので訊いてみる。

「おいしすぎて声が出ません」

「あはは、それは良かった」

 ワインとビールでいつもより賑やかな食事になった。


 キキョウさんが改まった口調で言った。

「カオル様には森のお屋敷で薬の研究をしていただいて、三人には二人ずつ交替で店番をしてもらいます」

「「「はいっ」」」

「私は時々店に顔を出しながら畑の拡張と管理をすることにします」

「僕は?」

「始めはカオル様の手伝いをお願いします。商売が軌道に乗ったら他の村にも店を出したいので、そちらの調査と準備をお願いします」

「わかりました」



 王都に戻ってまた二人でテラスに出た。

 自然に手をつなぐ。


「仕事うまくいくといいね」

「はい」

「これで、戦争さえ起きなければいいのに」

「そうですね、王国が戦争に巻き込まれるのは避けたいです」


「どうなるのがいいと思う?」

「共和国が単独で勝ってくれることが理想ですね」

「でも、あの人は戦争の後のことを考えていると思うんだ」

「大陸の秩序ですか?」

「うん、共和国が勝った後どうなると思う?」

「帝国は共和国の領土となるでしょうね」

「そうなると?」


「……そういうことですか!」

 カオルちゃんが僕を見上げ目を見開いた。


「うん、大国となった共和国が次に狙うとしたら王国だと思う」

「また戦争が起きるということですね」

「仮に帝国が勝ったとしても、将来的には同じ結果になると思う」

「そんな……」

「それで、あの人は帝国が勝利する未来の方を選んだんだと思う」

「どんな意味があるのでしょう?」

「それがわからないから、今度会ったら訊いてみようと思ってる」

「帝国が大陸全土を支配する世界ですか……」

「王国が戦場とならないためには、それを受け入れるしかないだろうね」

「あの宰相様が受け入れるとは思えませんが……」

「そうだね、だから最悪の場合、帝国と共和国の戦争に介入するかもしれない」

「………」

「でも、あの人がいる限り帝国の勝利はゆるがない気がするんだ」



 王都の空は暗い雲に覆われていた。


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