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賢者の下男は平凡な日常を望む  作者: 高橋薫
第二章 皇国の大魔導師
33/65

33 タカシくん決意する

 その後、王都には度々魔物が現れ、その度に多くの犠牲者が出ていた。

 公式には何も発表されなかったが、王都の住民のほとんどは帝国からの攻撃だと思っていた。



 学校は夏休みに入り、明日からはまず魔術学校だけの訓練が始まる。

 久し振りにいつもの料理屋に三人で集まっていた。


「新しい組織は全然機能してないじゃないか」

「まだ連携が不十分なのか?」

「そういうことなのでしょうか?」

「国家魔術師は空気バリアは使えるようになったのか?」

「聞いてないな」

「このままでは犠牲者が増えるだけです」


「あの時リョウが使ったもう一つの術覚えてるか?」

「ああ、魔物の動きを封じたあれだな」

「そうだ。賢者様は少しでも犠牲者を減らすために、まず防御の術を広めようとしたんだと思う。だから次はきっとあれを教えてくれただろうと思う。あれが使えたら無駄な犠牲を出さずに済むからな」

「合同訓練のことだって発案されたのは賢者様なのに、いつの間にか宰相様が発案されたかのようになっているし、きっと悲しまれていると思います。」

「あの賢者様のことだ悲しむというより、呆れてため息をついていらっしゃるだろうな」

「なんとかならないのかよ、今はそんな場合じゃないと思うんだが。スガワラ様は一体何を考えているんだ?」

「父上にそれとなく話してみたんだが、スガワラ様は宰相様に気に入られているから魔術院に口出しはできないと言われた」


「ずっと黙ってたんだが……実はあの対抗戦の後、魔術院から使いの人が来て、あの時俺が使った竜巻の術、あれは誰が編み出したものかと訊かれたんだ。それで賢者様だと思うと答えたら二度と人前で使うなと言われて……」

「何でもっと早く言わなかったんだ」

「いや、あの時の校長先生の話もあったから言い出しにくくて……」

「いっそ騎士学校や軍の方から圧力をかけてもらうことはできないだろうか」

「確かにそうだな騎士の犠牲を減らせるんだからな。一度話してみようぜ」

「父上にも相談してみる」

「私もお父様に話してみます」


「私、考えてることがあるんです」

「なんだい?」

「もう国家魔術師になるのはやめようと思っています。元々お父様からは国家魔術師になっても戦争になったら辞めて戻って来いと言われてたんです。だからもう最初からやめようと思って……」

「やめてどうするんだ?」

「賢者様に弟子入りしようと思います」

「それはちょっと難しいだろ」

「弟子は無理でも見習いとして、ううん、メイドでも構わないのでお傍に置いてもらえないかと思っています」

「そういうことなら可能性はあるな」

「それにしてもずい分思い切った決断だな」


「それにもし賢者様の立場がこれ以上悪くなるようなことになったら、うちの領地に来ていただこうかと思っています。領地の運営に知恵を貸していただけるのならお父様も喜んでくれると思うのです」

「それはそう簡単にはいかないと思うぞ」

「そうでしょうか」

「気持ちはわかるが難しいだろうな」

「そんな……」


「それにしても、あれで俺たちより年下なんて信じられないよな」

「一体どれだけ勉強してきたんだろう」

「本当にすごい方ですよね」

「そうだな、俺には真似できないよ」

「おいおい、そんなこと言うと賢者様に怒られるぞ」

「そうですよ、努力もしないで何を言っているのですかってね」

「あはは、確かに」


「そういえば、そろそろまた王都に来られるんじゃないか?」

「もうそんなになるのか?」

「月に一度のはずですから、そろそろだと思います」

「会いに行くわけにはいかないだろうな」

「そうだな、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないな」

「残念です、せっかくお近づきになれたのに」

「同感だ」



「卒業まであまり時間がないし、このまま卒業しても魔物と戦える自信はないな」

「焦るなよ、そのための訓練だろ」

「そうだな、頑張ろう」

「スズネも今はまず訓練に集中しような」

「はい、わかりました」


 魔術学校の訓練が一週間、その後合同訓練を一週間行う予定になっている。

 魔術院の体質を変えるためにもまずは俺たちが頑張らねばと思った。


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