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賢者の下男は平凡な日常を望む  作者: 高橋薫
第二章 皇国の大魔導師
27/65

27 涼約束させられる

 馬車は無事、皇国の首都イズモに着いた。やはり城壁に囲まれている。

 乗客全員が身分証と通行証を見せ入城を許可されたが、ここでもお金が必要だった。


「お疲れさまでした」

「世話になったな、楽しんでいってくれ」

「はい、ありがとう」


 まずは宿を決めないといけない。

 御者の人に勧められた宿屋をさがして街を歩く。


「きれいな街ですね」

「そうだね、さすがというべきかな」

 さすが宗教の本山がある街だゴミなど落ちていない。

「僧服を着た人が多いですね」

「でもあまり活気が感じられないね」

「そうですね」

 すれ違う人からやたらと見られている気がする。アサガオさんが美人だからだろうか。



 勧められた宿は小さいが小奇麗な宿だった。

 あまり高くないところを紹介してもらった。

 とりあえず一泊してみて、気に入ったら続けて泊まることにしよう。


「いらっしゃいませ」

 小太りの中年の女性が笑顔で迎えてくれた。

「乗合馬車の御者さんに勧められてきました。とりあえず一泊お願いします」

「ありがとうございます。夫婦かな?」

「新婚旅行です」

 身分証を見せる。

「それはそれは、じゃあ二階へどうぞ」

 案内された部屋は小さいが落ち着いた雰囲気で綺麗に掃除されていた。

「食事は?」

「おねがいします」

「すぐに用意するから、下の食堂へ来てね」

「わかりました」


 食事は肉と野菜の煮込み料理とパンにチーズだった。ワインも注文した。

「では、無事到着を祝って…」

 二人で乾杯した。


「おいしいね」

「やっと、まともな料理を食べれましたね」

「ほんとだね、部屋もきれいだし明日もここに泊まろうか」

「はい」

 御者さんに感謝。


 食後、部屋もきれいだし料理も美味しいので暫く世話になりたいと言うと、とても喜んでくれた。

 宿は夫婦二人でやっていて、料理も二人で作っているということだった。

 料金も普通だと思った。



「今からあっちにトビラが開けるか試してみるね」

「だいじょうぶですか?」

「わからないけど、どうしても確かめておかないと」

「はい」


 一生懸命念じてみるが、どうやってもあっちに魔力が届かない。

「だめみたい」

「そうですか」

「この街が直接魔物に襲われることはなさそうだね」

「よかったですね」

「そうだね……」


「どうしたんですか?」

「いや、うちへ帰れなかったのがちょっと残念だっただけ。だけど、開けない方がいいに決まってる」

「お母様が心配ですか?」

「うん、それもあるけど、あっちからなら森のお屋敷にも行けたからね」

「それは……たしかに残念ですね」

「うん」


「明日の午前中は神殿を見に行こう。午後からはあそこへ」

「はい」

 また布団を壁にして眠った。




 翌朝、おばさんが話しかけてきた。

「今日はどこへ行くの?」

「まずは神殿を見に行こうと思ってます」

「そうなるよね、神殿に行くならついでに庭も見てくるといいよ、すばらしいから。それに近くに博物館もあるから時間があれば寄ってみるといいよ」

「ありがとう、そうします」



 朝の街をたくさんの僧侶が行列をして歩いている。

「あれは何だろうね」

「わかりませんね」

「王国にも神殿はあるの?」

「はい」

「へーっ、知らなかった」


 神殿までは一時間ほどかかった。

 神殿は古代の神殿ではなく中世の神殿のような、石造りの荘厳で重厚な建物だ。

 威圧感があって圧倒されそうになる。


 僧侶の行列が中まで続いていた。

「今は入れそうもないね」

「庭は見せてもらえるのでしょうか」

「誰かに訊いてみよう」


 街の人に訊いてみる。

「旅行者なんですけど、神殿の庭は見せてもらえるんですか?」

「ああ、あそこ、左側に受付があるから行ってみればいいよ」

「ありがとうございます」


 受付でお金を払うと中へ通してもらえた。

 ヨーロッパ庭園と言うのだろうか、素晴らしい庭が広がっていた。

 あっけにとられて立ち尽くす。

「これはすごいね」

「王宮のお庭もこれほどではありません」

「そうなんだ」


 二人並んでゆっくり通路を散歩する。

 花々が美しく咲き誇っていて、いい香りがする。


 いきなりアサガオさんが手をつないできた。

「夫婦なんだからこれくらい、いいでしょ?」

 いたずらっぽく笑いかけてくる。

「いいよ、夫婦なんだから」

(カオルちゃんがいたら睨まれただろうな)


 戦争の危機が迫っていることなど忘れさせてくれるような、静かでゆったりとした時間が流れていった。



 庭から戻ると僧侶の列はもうなくなっていた。

 僧侶たちが祈りを捧げる声が静かに響いている。すごい人数だ。

「今は朝のお祈りの時間なので、物音を立てないようお願いします」

「わかりました」

 小声で答える。


 内部は美術の教科書で見た中世の教会のようだった。

 天井には美しい絵が描かれていて正面には神様の像だろうか、女の人の形をした像が立っている。信心の無い僕でも敬虔な気持ちにさせられる。

(そういえば宗教について何も聞いてなかったな)



「なかなかいいものを見られたね」

「そうですね、すばらしかったです。いい思い出になります」

「うん」



 まだ時間があったので、おばさんが言っていた博物館に行くことにした。


 博物館にはちょっと期待を裏切られた。いわゆる博物館を想像していたのだが、イズモ教の博物館だったからだ。

 イズモ教の成り立ちから現在まで、各国にある神殿の説明、皇国の歴史などが展示されていた。歴史についてはあまり信憑性はない気がした。


「王国にも博物館はあるの?」

「ありますよ」

「えーっ、行ってないよ」

「じゃあ、今度一緒に行きましょう」

「うん」

 顔を近づけ僕の目を覗き込んでくる。

「ぜったい約束ですよ」

「……はい」

  何故か念を押された。



「じゃあ行きますか」

「ちょっと緊張しますね」

「そうだね」

 諜報員との連絡先は料理屋だった。客を装って行くことになっている。


 指定された店はいかにもといった感じの路地裏の小さな店だった。

「あからさまに怪しくない?」

「ほんとですね」

「「あははは」」


 店に入っていくと店主らしき老人が一人、カウンターの向うに座っていた。

 四つあるテーブルのうちの二つに客が一人ずつ座って料理を食べている。


「いらっしゃい」

「食事がしたいんですけど……」

 二人でカウンターに腰掛ける。


「皇国の名物料理って何かありますか?」

「これといって何もないな」

(これが合言葉になっている)

「そうなんですか」

「料理はこれしかないが、どうするね?」

 大きな鍋の中を見せながら老人が言った。


「……これですか……」

 思わず二人で目を見合わせる。

 鍋の中には野菜のスープのようなものが入っている。

「気に入らないなら他所へ行ってくれ」

「いえ、それでかまいません、二人分お願いします」


 スープを口へ運ぶ。

「「………」」

 何と表現していいかわからない、味気無いスープだ。

 他には黒くて硬いパンと水を出された。


 食べ終わった二人の客が黙ってお金を払って出て行った。


「準備中の札を出してくる」

「はい」



「さて、何が聞きたい?」

 戻ってきた老人がそう言った。


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