24 タカシくん愕然とする
賢者様のお屋敷を後にした俺たち三人は行きつけの料理店へ入った。
「行ってしまわれるのか……」
「いろいろと衝撃的だったな」
「私にとっては感動的でした」
「スズネはもともと賢者様に憧れてたからな」
「もっと早く出会いたかったな」
「リョウさんのことですか?」
「ああ」
「あの人は一体何者なんだろうな」
「賢者様の友達と言ってましたね」
「ひょっとして兄弟子とかじゃないのか?」
「可能性はありますね」
「あの魔力は普通じゃないよな」
「そうそう」
「俺は…本当に自惚れてたんだと思う」
「タカシらしくないな」
「いや、学校での試合なんて遊びのようなもんだったんだ」
「たしかにそうだな、あれを見たらそう思うよな」
「本当に怖わかったです」
「あれに向かって行く勇気なんてどこにもないよ」
「術だけでなく精神力も鍛えないといけないな」
「そうですね」
「国家魔術師はどうなんだろう、あれを倒せるほどの人がいるのか?」
「それはわからないな」
「どうでしょう」
「それに、相手が魔物ならまだしも、戦争になれば人間を相手にすることになるんだぞ」
「そうか…それも考えておかないとだめか」
「私には人を殺すなんてできません」
「俺だって、今のままでは到底無理だ」
「戦争にならないことを祈るだけだな」
「そうですね」
「明日は騎士学校の連中と訓練の計画を立てることになってるから、二人とも付いてきてくれないか?」
「いいよ」
「はい」
次の日、昼休みに校長先生から呼び出された。
「訓練の計画はどうなっていますか?」
「はい今日の夕方、騎士学校の代表者と会って話し合う予定になっています」
「何か決まったら報告してもらえますか?」
「わかりました」
「ところで、国の方針はどうなったのですか?」
「ああ、軍隊とは別の組織を作ることになりそうですよ」
「具体的には?」
「騎士と魔術師の混成部隊を組織して、いくつか詰所を作って配置するとか言ってましたね」
「それはいいですね」
「やっと本気になったといったところですか」
「賢者様の策が功を奏したということになりますね」
「私達が一役買ってしまうことにはなりましたがね」
校長先生が顔を曇らせた。
「ですが……結果的に賢者様には申し訳ないことになってしまいました」
「どういうことですか?」
「もともと賢者様はいろいろ煙たがられていたようですね」
「ええ、リョウもそのようなことを言っていました」
「賢者様が次に表立って動かれると、何か罰せられることになるやもしれません」
愕然とする。
「どうしてそんなことに!」
「私には理解できません」
「強いて言うなら、賢者様があまりに孤高のお方だからですかね」
「そんな」
「人は理想だけでは生きられないのですよ。たまには融通をきかせないと。賢者様は常に理想を追われているように思えます。それが気に入らないのでしょう。
ミウラ君は卒業して国家魔術師になるわけです。その時、賢者様と懇意にしているとなると出世は望めないどころか、そもそも採用されない可能性もあるということです」
「そんなばかな!」
「あの、このことを賢者様に報せてもいいですか」
「こっそりお願いします」
「わかっています、おまかせください」
どうしてそんなことになっているんだ。
賢者様が何をしたっていうんだ。
王国のためを思って動かれただけじゃないか。
今からでは追いつけないが、森のお屋敷にいれば安全だろう。
手紙を書こう。
キョウスケとスズネの意見もきいてみたい。
二人に校長先生の話を伝え、あとで意見を聞かせてくれるよう頼んだ。
二人とも愕然として言葉が出なかった。
もう何が正しいのか分からなくなってきた。
三人で騎士学校の代表者たちとの待ち合わせ場所になっている料理店へ向かう。
二人とも黙ったままだ。
「意見を聞かせてもらうのは、気持ちの整理がついてからでいいよ」
「うん、まだよくわからない」
「私は国家魔術師になりたくなくなりました」
「そんなに焦らなくていいよ。じっくり考えてから意見を聞かせてくれ」
「わかった」
「わかりました」
そう言ってみたものの、自分の意見すらまとまっていない。
どう動くのが最善なのか……、校長先生の言葉の意味もわかる。わかるが、納得はできない。
賢者様は王国の利益を最優先に考える方なのはわかっている。それがどうしてそんな仕打ちを受けることになるんだ。
この国は一体どうなっているんだ。
今まで何も考えずに信じて求めていたものが突然虚しく感じられる。
リョウは何て言うだろうか……
少し頭を冷やそう。
今は訓練のことに集中しようと思った。




