23 宰相の憂鬱
第二章始めます。この章は皇国の大魔導師をめぐって話が展開していきます。
ここは王宮の応接間、先ほどまで賢者と二人の使用人がいた部屋だ。
宰相のフジワラ侯爵、軍隊のイシカワ将軍、国家魔術師のスガワラ伯爵、騎士学校のナカガワ校長、魔術学校のニシダ校長の五人が話し合っている。
「あの魔物を倒すために軍隊とは別の組織を作るというのはいかがですか?」
「やはり騎士と魔術師の混成の部隊ということになりますな」
「精鋭を集める必要があるでしょう」
「騎士二人、魔術師二人の小隊をいくつか配置するというのはどうですか?」
「いや騎士は三人必要かと」
「詰所が必要になりますな」
「早急に組織しないといけません」
「予算はどこから?」
「それは何とでもなる。選抜と編成はまかせる。概要が固まったら報告書を提出するように」
「はっ、かしこまりました」
「それはそうと、賢者様のことですが……あれは、あのまま放置しておいては危険ではありませんか?」
「いや、今回の新しい術といい、まだまだ利用価値はあると思うが」
「それはそうですが、あの力と影響力は脅威です。魔術学校であれと話した魔術師が背筋が凍る思いをしたと申しておりました」
「ひょっとすると先代以上の力を秘めているやもしれませんぞ」
「それにあの二人の使用人の力もあなどれませんが」
「確かに、あの二人だけでも充分に脅威です」
「だいたい何故あのような手練の者を雇っておく必要があるのだ」
「他にもメイドがいるというではありませんか」
「いったいどれほどの戦力を持っているやら」
「賢者様が王国に刃向うとは思えませんが」
「そもそもニシダ殿が模擬戦など申し込むからこうなったのではないのか?」
「そうだ、あんなことをしなければ、あれが表に出ることはなかったのだ」
「それは…スガワラ様が賢者様に申し込むようにと……」
「そ、そんなことは言っておらん。そういう選択もあると言っただけだ」
「そんな……」
「我々にも立場というものがあります、国民に対するあれの影響力がこれ以上強くなるのは避けねばなりません」
「これ以上あれが表に出ることのないよう宰相様にはご配慮いただきたい」
「いや、いくら賢者とはいえ、あれはまだ子供だ。先代とは違う」
「そう言われましても、今回の魔術学校の件はいささかやり過ぎかと」
「わかっておる、だから釘はさしておいた」
「では宰相様はまだあれを重用するおつもりですか」
「むろんだ。帝国に対抗するためには、あの力と知識は必要だろう」
「我々だけでは力不足だとでも?」
「そうは言っておらん」
「ではなぜ」
「まあ落ち着け、あれの王国への忠誠心は本物だ、今はうまく利用することを考えよう」
「次に何かしでかしたら、その時は……」
「うむ、考えておこう」
「では今回はこれで散会ということで」
(……まったく困ったものだ、いきなり秩序を乱すようなことをしでかすとは、一体何を考えているのやら。
先代はうまく死んでくれたというのに、余計な問題を起こしてくれたものだ……)




