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賢者の下男は平凡な日常を望む  作者: 高橋薫
第一章 王国の賢者
22/65

22 賢者様慌てる

 翌日、森へ帰る支度をする。


「心配なのでアサガオも一緒に帰りましょう」

 カオルちゃんがそう言った。

「ありがとうございます」

 アサガオさんも不安だったみたいだ。

「わかりました。では全員で帰ることにしましょう」

 キキョウさんがこたえる。


「ちょっと待ってください」


 僕は思い切って考えていたことを口にした。

「皇国に行ってみたいんだけど」

「「えっ」」

「できれば共和国にも」


「やはりそうなりますか」

「……もっともです」

「「………」」



「観光客を装えばだいじょうぶだよね」

「それは問題ないと思います。皇国を訪れる観光客は大勢いますから。

 ただ、青年が一人でとなると、いささか不自然ですね」

「じゃあ、どうすれば?」

「一番自然なのは……新婚旅行ですね」

「「「「ええええーーーっ」」」」


「誰と一緒に?」

 カオルちゃんが慌てて訊く。


「私がいきますっ」

 ユウガオさんだ。

「脚下します、ユウガオは全てにおいて未熟なのでダメです」

「えーっ」

 キキョウさんの言葉にユウガオさんがふくれた。

「さすがに私では無理があるので、アサガオに行ってもらいます」

「アサガオはどうですか?」

「よろこんでお供します」

 カオルちゃんに睨まれた。


「それで、身分はどういうのがいいかな」

「商店の跡取り息子とその嫁といったところですか」

「無難そうですね」

 カオルちゃんが微妙な顔をしている。


「ではこれから王宮へ二人の身分証と通行証を頼みに行ってきます」

「「おねがいします」」


 森からでは遠回りになるので、王都から出発することになる。

 それらしく見えるように服とか身の回りの物を買いに行くことになった。


「ごめんね、こんなことになって」

「いいえ、私も楽しみです」

「そう言ってもらえると気が楽です」

「言葉遣いにも気をつけないと新婚に見えませんよ」

「そうだね」


「旅行とかしたことあるの?」

「いいえ、王都以外へは行ったことがありません」

「じゃあ楽しみだね」

「はいっ」

 満面の笑顔だ。アサガオさんがこんなに笑うのはめずらしい。



 夕方、タカシくんたちが挨拶にやってきた。

「明日発たれると聞きまして、ご挨拶に参りました」

「お世話になりました」

「お気をつけて」


 タカシくんが近づいてきて両手で僕の手を握った。

「ほんとに、いろいろありがとうございました」

「いえいえ、みんなが頑張ったからですよ」

「次に王都にみえたときは是非一緒に食事を、おいしい店を知ってますから」

 涙目だ。

「楽しみにしています。みなさんもお元気で」

「「「はいっ」」」


 結局王宮から使者は来なかった。

 明日は別々に出発することになる。



 夕食後、また二人でテラスに出た。


「気をつけてくださいね」

「うん、わかってる」

「………」

「ごめんね、しばらく一緒にいられないけど」

「必要なことですから……仕方がないです」


「お母さんをお願い」

「はい」


「ちゃんとご飯食べるんだよ」

「はい」


「………」

「………」



 二人で街の灯りをぼんやりと見ている。


「……あの家の灯りの一つ一つに、それぞれの生活があるんだよね」

「隣り合わせにまったく別の生活があるなんて、なんだか不思議ですね」


「ずっと平和が続くといいね」

「そうですね」



 カオルちゃんの両肩に手をかけ、そっと引き寄せる。

 壊れそうなくらい華奢な肩だ。


「好きだよ」

「私も好きです」


 そっと口付けをした。




「アサガオ、リョウのこと頼みましたよ」

「はい、おまかせください」

「リョウは無茶をしないように」

「うん、わかってる」

「カオルちゃんもご飯ちゃんと食べるんだよ」

「いつもそればかりですね、私を太らせてどうするつもりですか?」

「べ、別にそういうわけじゃ……」

「「「あはははは」」」


 カオルちゃんがみんなを見回して言った。

「ではまた、みんな揃って会いましょう」

「「「「はいっ」」」」



 カオルちゃんを見送ってから王宮へ身分証を受け取りに行った。

 門衛の人から手紙も一緒に渡されたので中身を確認すると、皇国にいる諜報員の名前と連絡先を書いた紙が入っていて、その場で覚えて置いていくように言われた。


 皇国の首都までは乗合馬車で一週間くらいかかるようだ。


 とりあえず皇国で向こうにトビラを開けるか確認してみよう。

 そして、大魔導師の動向を探ってみよう。

 会えるものなら賢者にも会ってみたい。

 知らない国を見るのは楽しみだ。


「じゃあ、今日からしばらくは夫婦ということで、よろしくね、アサガオ」

「はい、リョウ」



 馬車は皇国へ向けて出発した。



 第一章 完

 第一章完結です。お付き合いくださり、ありがとうございました。

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