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賢者の下男は平凡な日常を望む  作者: 高橋薫
第一章 王国の賢者
19/65

19 賢者様娘に憧れる

「相手はどんな作戦でくると思いますか?」

「考えられるのは三つです。一つ目は、横一列に並んで一人一殺。装備も革鎧くらいでスピード重視の作戦です」

「術の発動前に倒そうというわけですね」

「魔術師を格下と見ていれば、これが一番確率が高いと思います」

「なるほど」

「次は前衛一人に楯と鎧を装備させ壁にして、あとの二人は軽装備で後ろにつく作戦」

「最初の術を壁役にまかせるわけですね」

「三つ目は、三人とも重装備というのは考えにくいので、前衛二人が重装備で後衛一人、前衛が術を受け止めている間に一人が突っ込む作戦です。これは相手の実力を高く評価している場合ですね」

「強さをアピールしたいなら一つ目ですか」

「相手に見せ場を作らせないという効果もありますね」

「キキョウさんなら?」

「私なら二番目です。まずいきなり前衛を突っ込ませて相手が動揺する隙を突きます。武器は槍がいいですね、恐怖心を煽ることができますから」

「浮き足立った魔術師が相手なら二人で三人を切り伏せるのは簡単ですか」

「はい、勝負にこだわるなら一番確実な作戦だと思います」

「いずれにしても相手の突進をなんとか止めなくてはいけませんね」

「そういうことになります」



 午後、ミウラ邸に向かう。

「ありがとうございます。今日もお美しいです」

 タカシくんが迎えてくれる。


 キキョウさんの話を三人に説明した。

「とにかく、しばらくは空気を圧縮する練習をしてください」

「「「はい」」」

「それと、三人には短剣を持ってもらいます」

「何故ですか?」

「賢者様ほどの魔力がない限り、魔術で降参させることは無理でしょう。相手に参ったと言わせるには武器を突き付けるのが一番簡単です。武器で戦う必要はありません」

「確かにそうですね、わかりました」


「代表に選ばれたということは、この三人が魔術学校のトップということですよね」

「そうです」

「では、今から、みなさんの得意な術を見せてください」

「はい、中庭へどうぞ」


 中庭にはカカシのようなものが立っていた。

(これを相手に練習してたのか)


「まずは俺から」

 そう言うとタカシくんが念じ始める。

 三メートルほど先の地面が直径一メートル、深さも一メートルほど陥没した。

「もちろん全力ではありませんよね」

「はい、魔力は抑えてあります」


「次は俺」

 キョウスケくんが念じ始めると体を風が包み回転を始めた。

「風のバリアですか、いいですね」

「これを相手にぶつけることもできます」

 こんどはキョウスケくんの前につむじ風が現れカカシに向かってゆく。かなりの威力だ。


「私は水系が得意ですけど、攻撃には向かないので、すいません」

「謝ることはないよ。スズネは魔力が多いし、先生たちからもセンスがいいと言われているんです」

 タカシくんがフォローする。


「水でも攻撃はできるんですよ」

「「「えっ」」」

「どうやってですか?」

「あの木の人形の頭を覆うように水の塊を作ってみてください」

「はい」

 スズネさんが念じるとすぐにカカシの頭が水で覆われる。

「わかりますか?」

「「「おおーーっ」」」

「そういうことですか」

「はい」

 スズネさんが涙目になった。

「でも、やりすぎると死んじゃいますから、気を付けてくださいね」

「はいっ」

「スズネさんは術の発動が速いですね。すごいです」

「そんな、ありがとうこざいます」

「霧とかも出せたりします?」

「はい」

 今度もすぐにカカシが霧に包まれる。

「すばらしいです」


「タカシくんが一番術の発動が遅いじゃないですか」

「そ、それは、土の術はすぐには発動しないんです」

「そういうものですか?」

「はい…あ、いえ…がんばります」



「明日も来ます」

「「「ありがとうございました」」」




「どうしよう?」

「久し振りに間抜けな質問をしましたね」

「あっ、ごめん」


「勝たせることはできると思うんだけど、それでいいのかなと思って」

「どういうことですか?」

「いい勝負になるのが理想だよね」

「確かにそうですね、空気砲は使えそうですか?」

「今は圧縮だけやってもらってる。使い物になるかどうかは未知数だね」

「リョウは、今彼らが選べる選択肢を示して、何を選ぶかは彼らに任せるのがいいと思います。騎士と魔術師にお互いを認め合ってもらうことが必要なのですから」

「そうだね、どちらかが一方的に勝つのは良くないよね」

「騎士に魔術を習ってもらい、魔術師にも剣術を習ってもらえば、互いの長所や欠点がわかるかもしれません」

「タカシくんは体術と剣術を習うことで魔術の限界を感じたと言ってたよ」

「みんな彼くらい素直で単純だといいのですが……」

「それ、褒めてるの?」

「もちろんです」



 次の日、とりあえずキョウスケくんに竜巻を覚えてもらうことにした。つむじ風は威力はあっても、鎧を着た騎士にはあまり効果がないと思ったからだ。


「つむじ風の回転をもっと速くして、真ん中から上へ吸い上げる感じで」

「はい」

「「おおーっ」」

 タカシくんとスズネさんが驚いている。

「いいですね、でもあまり高く巻き上げると怪我をしますから、手加減してくださいね」

「わかりました」

「俺にも何か教えてください」

「うーん、タカシくんは遅すぎるから、とにかく今使える術を速く発動できるようにしてください、新しい術はそれからです」

「えーっ」

「私は?」

 スズネさんが訊いてくる。

「スズネさんは空気砲の空気のかわりに水を撃ち出すのもいいかなと思っています。空気砲とは違った意味で相手にダメージを与えられそうですから」

「おもしろいですね」

「見ててください」

 実際にやって見せる。消防車の放水のイメージだ。

「すごいです」

「顔を狙われたらたまりませんから、状況によってはこちらの方が効果的な場面もあるかもしれません」

「はい」


「それにしても、リョウは一体何者なんですか」

「賢者様の下男です」

「またそれですか」

「はい」



 試合の前日、空気砲はなんとか形にはなったものの、威力はイマイチだ。

「牽制にはなると思います。とりあえず相手の突進を防ぐことができれば、後は何とかなるはずです」

「作戦は?」

「私が手伝えるのはここまでです。あとは自分たちで考えてください」

「そんな……」

「もっと自信を持ってください、みなさんは魔術学校のトップなんでしょ?」

「そうですね、リョウに頼ってばかりではいけませんね」

「ほんとにありがとうございました」

「お世話になりました」



 結局カオルちゃんに招待状は届かなかった。

「どうせ行く気はありませんから、二人で行ってきてください」




「ちょっと二階のテラスに出てみませんか?」

 夕食の後、カオルちゃんに誘われた。

「うん」

 二人で二階へ上がる。

「星がきれいだね」

「そうですね」


「どうかしたの?」

「リン様ならどうされたかなと思って」

「どういうこと?」

「他にもっといい方法があったのではないかと…」

「まだどうなるかわからないんだから、今考えてもしかたがないよ」

「そうですね」

「カオルちゃんはもっと自信を持っていいと思う。結果がどうあれ後のことはまた考えればいいよ」

「はい…ありがとう」


「カオルちゃんにとってリン様はどんな存在だったの?」

「私はリン様の子供ですが、リョウとお母様のような関係ではありませんでした」

「うん」

「あくまで師匠と弟子といった関係だったと思います」

「そうなんだ」

「私は両親のことを何一つ覚えていません」

「小さい頃に養子になったんだよね」

「はい」


「リョウが羨ましいです。あんな素敵なお母様がいて」

「お母さん、娘のいる生活に憧れてたって」

「そうなんですか?」

「うん」


「私を……娘にしてくださるでしょうか」

「喜ぶと思うよ」

「本当ですか?」

「うん」


 カオルちゃんは恥ずかしそうに俯くと、おずおずと僕の腕を掴み、そのままもたれてきた。

 そっと頭をなでる。


 黙ったまま、二人でずっと王都の街の灯りを見ていた。

 夜風が気持ち良かった。


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