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賢者の下男は平凡な日常を望む  作者: 高橋薫
第一章 王国の賢者
18/65

18 賢者様唖然とする

 キキョウさんが昨日の続きを話してくれる。

「帝国には今のところ目立った動きはないそうです。共和国は着々と軍備を整え、帝国との国境付近に新しい砦を築いているとのことでした」

「同盟は守られると考えていいのですか」

「そう思います」

「皇国は?」

「皇国にも同盟に参加するよう、度々使節を派遣しているそうですが、まだはっきりとした返事はないそうです」

「気になっていたのですが、共和国や皇国にトビラを使える魔術師はいるのですか?」

「共和国はまだ成功していないようですが、皇国は成功したのではないかという憶測があるそうです。皇国には高名な大魔導師がいますから」

「そうなんですか。抑止力を手に入れているとしたら、同盟には参加しない確率が高いですね」

「そうなりますね」

「他の国にも賢者はいるんですか?」

「いるはずです」

「他の国の賢者と連絡をとったりはしないのですか?」

「しないですね」

「そもそも賢者って何ですか?」

「それは私が説明します」

 カオルちゃんが口を開いた。


「賢者は代々その知識を受け継いで、国の政策にかかわってきた者をいいます。魔術も含め工業や農業、治水や道路の整備などあらゆることに助言を与えます。魔術師は魔術だけを研究し、戦争になれば戦場にも出向きます。しかし賢者は作戦の立案や指揮にかかわるため、戦場に出向くことはありません」

「そうなの? それは良かった」

「そして賢者は、その知識を引き継ぐために最低二人の弟子をとらなくてはなりません」

「ということはカオルちゃんもいつかは弟子をとるんだね」

「年上の人を弟子にしても仕方がないので、まだ少し先のことになります」

「たしかにそうだね、あれっ、じゃあリン様には他にも弟子がいたの?」

「リン様と一緒に亡くなりました」

「……そうなんだ……えっと、リン様の兄弟弟子の方は?」

「兄弟子が一人おられました」

「会ったことあるの?」

「一度だけ」

「今はどこに?」

「隠者となられ、どこかの森に住んでおられるはずです」

「連絡とかないの?」

「ありません」



「リョウさんに手紙が届きました」

 アサガオさんが手紙を持ってきてくれた。


 手紙はタカシくんからだった。

 そこには、試合までにどうしても空気砲を使えるようにしたいので教えてほしい、特別に学校から許可をもらって、毎日午後から練習をするので来てほしい、無理を承知のお願いなので断わってもかまわない、という内容が書かれていた。

 場所はなんとミウラ伯爵邸。地図が添えられていた。

(タカシくん伯爵家だったんだ)


「困ったな」

「気持ちはわかります」

「当然でしょうね」

「ただ、カオル様が手を貸したとなればまた問題になります、ここは我慢した方が賢明かと思います」

「そうなりますね。でも直接出向くことをせず、こちらに配慮してくれていることを考えると、なんとかしてあげたい気もします」

「彼にはいろいろ手伝ってもらってますからね」



「あー、あの、キキョウさん、女性の服を貸してもらえませんか?」

「「えっ」」

「とりあえず一度会って話してみたいと思います。女性に変装して裏口から出れば気付かれないと思うのですが……」


 僕は今、髪を束ねて後ろで縛っている。こちらではごく普通の髪型だ。

 もともと長めの髪をしていたのが、ほかりっぱなしだったので肩にかかるほどの長さになっている。

 鏡を見ながら、前髪を眉の下で切り揃える。髪をとかして、キキョウさんの服を着る。鏡に映った姿は完全に女性に見える。

(しかたないか)



「うわーっ、なんですかそれ」

 最初に声をあげたのはユウガオさんだ。

「ほんとにリョウなんですか」

 他の三人は唖然としている。


「はずかしいから、あまり見ないでください」

「ぜんぜん恥ずかしがる必要はないと思います」

(アサガオさんどういう意味ですか)

「……なんと」

 ようやく立ち直ったキキョウさんが呟く。

 恥ずかしさでカオルちゃんを見ることができない。


「どうですか?」

「だれもリョウだとは思わないでしょう」


「きれいです」

 カオルちゃんがポツリと呟いた。



 昼食後、裏口から出てミウラ伯爵邸へ向かう。

 アサガオさんが後ろ髪を整えて、少し化粧をしてくれた。

 だいじょうぶだろう。


 玄関でメイドさんにタカシくんに会いにきたことを告げる。

「どうぞこちらへ」

 何も聞かずに応接室に通された。

(それでいいのか)


 しばらくするとタカシくんが二人の生徒を連れてやってきた。

「「「………」」」


「リョウですけど、わかりますか?」

「えええーーーっ」

 タカシくんが猛烈な勢いで近づいてきて僕の顔をまじまじと見つめる。

(近いって)

「リョウなんですね」

「はい」

「おおおーーっ、なんと美しい、ほんとにリョウなんですね」

(くどいって)

「来てくれてありがとうございます」

 また両手で手を握られた。

「痛いです」

「し、失礼しました」


「こっちはキョウスケ、こちらはスズネ、同じ三年生です」

「キョウスケです。よろしく」

「スズネといいます。よろしくお願いします」

「リョウです。こちらこそよろしく」

 キョウスケくんはすらりと背が高くちょっとワイルドな感じ、スズネさんはおとなしそうな少し太めの女の子だ。


「以前から訊きたかったのですが、リョウと賢者様は一体どういった関係なのですか?」

「私は賢者様の下男ですが……」

「いえ、そんなはずはないでしょう。いつも対等に話していますから」

「ああ、そのことですか。それは、もともと友達だったのですが、無職だったので雇ってもらったんです」

「そういうわけですか、なるほど、それで納得できます」

(納得するのか)

「そんなことより、大事な話があるのでは?」

「そうでした」



「とりあえず、いろいろ聞いておきたいことがあります。まず場所は?」

「競技場です」

「試合の形式は?」

「三人対三人での模擬戦です」

「勝ち抜きではなくて?」

「はい」

「武器は?」

「訓練用の木の武器を使います」

「カオル様との模擬戦で使った火の玉は使えますか?」

「使えます」

「タカシくんは土系の術が得意ですよね」

「はい、よくわかりますね。キョウスケは風、スズネは水系が得意です」

「タカシくんは騎士学校の生徒と剣で戦えると思いますか?」

「それはまだ無理だと思います」

「キョウスケくんとスズネさんは武器は?」

「「使えません」」

「空気砲はどうですか?」

「まだぜんぜんです」



「これを見てください」

 ビニール袋を取り出して三人に見せる。

「それは何ですか?」

「私にもよくわかりませんが、カオル様からお借りしてきました」

「「「おおー」」」

 簡単に納得してくれる。

「これに空気を入れます」

 袋に空気を入れ口を結ぶ。

「見てわかるように空気はこのように存在します」

 三人が頷く。

 袋をタカシくんに渡す。

「こうやって押してみてください」

 身振りで両手で挟むよう促す。

「押さえると小さくなりますね、それが圧縮された状態です。圧縮された空気は周りの空気より重くて固いのです。

 風からは圧力しか感じませんが、この圧縮された空気をぶつけると衝撃を与えることができます。それが空気砲です。

 空気砲の威力は、圧縮の強さと撃ち出す速度によります。圧縮には時間がかかるので、どれだけ素早く圧縮できるかが問題です。まずは圧縮だけを練習しましょう」

「「「はいっ」」」



「今日はこれで帰ります」

「「「えーっ」」」

「キキョウさんは元騎士ですから、二人で作戦を考えて、明日また来ます」

「そうなんですか、女性であの佇まい、只者ではないと思っていました」

「それを聞いたら喜ぶと思いますよ。あと、私が手伝うことは絶対に秘密にしてください」

「わかっています」

「それから、明日は裏口から入れるようにしてください。それではまた明日」

「「「はいっ」」」


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