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賢者の下男は平凡な日常を望む  作者: 高橋薫
第一章 王国の賢者
15/65

15 賢者様魔術学校へ行く

「そういえばみんな、魔物を見たことあるのかな?」

「本の絵なら見たことがありますけど、実物はないです」

「キキョウさんも?」

「はい、北方の砦のあたりには現れるそうですが、私はずっと王都でしたから見たことがありません」

 メイドさんたちも当然見たことはなかった。

「じゃあネットで見てみよう」



「これが魔物ですか」

「うん」

「大きいですね」

「二本足のものは動きも鈍いし比較的倒しやすいと思います。騎士だけだと苦戦しそうですが、空気砲で転ばすこともできそうだし、グラビティを使えば両手をつくと思うので、頭が無防備になります」

「そうですね、両手をついた状態なら頭に剣が届きますね」

「この四本足のは動きが速くて、もともと四本足なので空気砲でも転ばないだろうし、グラビティにも耐えると思うんです。立ち上がることもありそうですし」

「やっかいですね」

「とりあえず空気砲とグラビティで動きを止めて足に攻撃を集中して動けなくする、それから頭ですね」

「了解です」

「一番問題なのはこれ、虫タイプです。グラビティは効いても、体が硬くて剣で止めを刺すのは難しいと思います」

「虫の甲羅は固いですからね」

「まずは足の関節を狙って、切れればいいですけど、止めは腹ですね。剣よりは槍のほうがいいかもしれません。」

「他に何かないのですか」

「虫は火には弱いと思います」

「模擬戦のときミウラさんが使ったあれですね」

「でも、まだ一匹しか確認されてないみたいだから、虫タイプは捕まえにくいのかもしれませんね」

「飛びますからね」



 魔術学校の校長から手紙が届いた。

 次回の謁見で王都に来たときに高等科の生徒に講義をしてほしいという依頼だった。

 模擬戦を見た生徒たちからぜひ賢者様の講義を受けたいという申し入れが殺到したそうで、今度もまた宰相様の許可ももらってあるということだった。


「どうするの?」

「悪意は感じられないし、断わる理由もありませんね」

「そうだね」

「魔術学校へ行くということは、当然また彼と会うことになりますけど……」

「僕は行かないから」

「「あははは」」



 王都へ立つ前日、夕食のとき、考えていたことをみんなに聞いてもらう。

「あのね、空気の術を魔術学校の生徒に覚えてもらいたいと思うんだけど、どうかな」

「それはどういう理由ですか?」

 キキョウさんが訊いてくる。

「最悪の場合、帝国と戦争になることを考えると、できるだけ被害を少なくしたいと思う」

「確かにそうですね。空気の術で身を守ることができれば無駄な犠牲を出さずにすみますね」

「カオルちゃんはどう思う?」

「私も賛成です。空気の術は比較的誰でも使えますし、もし、帝国に漏れてもそれで戦局が変わるというほどのものではありませんから」

「ただ、このあいだアサガオさんに教えた空気を抜くのは教えないということでいいかな」

「それでいいと思います」




 王都に到着。

 ユウガオさんが満面の笑みで迎えてくれた。

「さみしかったです」

「元気だった?」

「はい」

 またカオルちゃんに睨まれた。


 次の日の夕方。

「ちょっと知り合いと会ってきますので、夕食はいりません」

 キキョウさんが言ってきた。珍しく女性の服を着ている。

「知り合いって?」

「なんですか」

「いえ、どんな相手なのかなと……」

「そういうのではありません」

 睨まれた。

「そ、その服、よく似合ってますよ、とても素敵です」

「キキョウは美人ですからね」

「カオル様まで……とにかく行ってきます」

 そう言い残すとキキョウさんはどこかへ出かけて行き、夜遅く帰ってきた。



「誠に申し訳ないのですが、魔術学校へはリョウに行っていただきたいのです」

「えーっ、何故ですか?」

「明後日、昔の騎士仲間達と会うことになりまして……いろいろと情報を仕入れてまいりますので、どうかよろしくお願いします」

「そういうことなら、仕方ありませんね」

(カオルちゃん、何ニヤニヤしてるんですか)



 謁見はいつも通り、無事に終了。

 カオルちゃんと明日の打ち合わせをして早めに眠った。



 次の日の朝、この間買ってもらった上等な服を着てカオルちゃんと二人で魔術学校へ行く。カオルちゃんはゴスロリドレスだ。

 アサガオさんが馬車で送ってくれた。帰りは学校の馬車で送ってもらえることになっている。


 立派な門の前で馬車を降り、門をくぐると校長自ら出迎えてくれた。数人の教師と思われる人たちも一緒だ。一番端にはミウラくん。生徒代表だろうか。


「ようこそお越しくださいました。生徒たちが心待ちにしておりました」

「お元気そうでなによりです」

「賢者様も相変わらずお美しく、目のやり場に困りますね」

(また本音が漏れてるぞ)


「ところで…そちらは?」

 僕に視線を向ける。

「これは使用人のリョウと申します。本日は執事が所用がありまして、その代わりです」

「リョウと申します。お見知りおきを」

「そうでしたか。なかなかの好青年ですね、はっはっは」

(何がおかしいんだか)


「まずは校内をご案内したいと思いますが、よろしいでしょうか」

「ぜひお願いします。私も生徒たちがどのような環境で魔術を学んでいるのか興味があります」

「それはそれは、大変ありがたいことです。賢者様にわざわざ来ていただいた甲斐があるというものです。どうぞこちらへ」


 学校は歴史を感じさせる立派な建物だった。

「実は、ぜひ賢者様の講義を拝聴したいとのことで、国家魔術師の方も三名いらしております」

「そうですか」

(あまり興味なさそうだね)


 外の施設から順に案内してくれることになった。全員がぞろぞろとついてくる。生徒は授業中だそうだ。

 まずは寮から。立派な建物が二棟並んで建っている。ほとんどの生徒は寮生活で、二人一部屋だそうだ。次は食堂。寮と校舎の間にあって廊下で繋がっている。次は図書館。カオルちゃんの目がキラキラしている。

(ほんとに本が好きなんだね)

 講堂はあっちの世界の神殿を思わせる重厚な建物だった。

 最後は訓練場。メインの大きな施設は生徒全員が入れる規模だそうだ。その横の建物はサブの訓練場で中が四つに区切られていた。


「外の施設はこんなところですが、何かご質問はありますか」

 校長が訊いてくる。

「学費はどうなっているのですか」

「おお、さすがは賢者様、良い質問です。学費は全て国から支給されます。食費もです。ただ、生徒からは寮を個室にしてほしいとか、食堂の料理の質を上げてほしいとか、いろいろ要望がありまして、予算の増額を宰相様にお願いしているところでございます」

「なるほど」

(そういうことか)


「もう一つ質問があります」

「なんでしょうか」

「騎士学校との交流はどうなっているのですか」

「これといって何もありませんが……」

「それでは戦闘のときに連携がとれないではありませんか」

「あー、それは…なんと申しましょうか、えー、魔術士と騎士のプライドの問題と申しましょうか、お互いを認めたくないといった風潮がありまして……」

「そんなことでどうするのですか」

「はっ、ごもっともです」

(さすがカオルちゃん、鋭い)


「つ、次は授業の様子などご覧ください」



 階段状になった大きな教室に案内された。高等科全員が入れる大きさで、カオルちゃんの講義もここで行うそうだ。

「今は高等科の魔術理論の授業を行っております」

 気配を感じたのか教室中がざわついた。

「ここにお掛けになって、しばらく授業をご覧ください」

「はい」


 ミウラくんが近づいてきて小声で話しかけてきた。

「お久し振りです」

「どうも」

「リョウさんというのですね。先日は名前を聞きそびれてしまって、大変後悔していたところです」

「リョウと呼んでくださってけっこうです」

「ありがとう、ではリョウと呼ばせてもらいます。俺のこともタカシと呼んでください。それと、今日の服装はとてもよく似合っていますね。素敵ですよ」

「あ、ありがとうございます。あとで少し話があるのでお時間をください」

「えっ…」

 目を見開いて満面の笑みを浮かべるタカシくん。

(まずい、誤解されたかも)

「はいっ!」


 カオルちゃんの講義は午後からだ。

 カオルちゃんは校長と教頭、国家魔術士の方たちと食堂で食事をすることになっていた。

 僕はタカシくんと別のテーブルに座る。

 他の生徒たちも食堂に集まってきた。

 カオルちゃんのテーブルはもちろんのこと、僕たちも注目を集めている。


「あれから体術と剣術を習い始めまして…」

「それはいいですね。で、どうですかやってみて」

「はい、師匠たちからは筋がいいと言われています」

「強くなった実感はありますか」

「はい、攻撃の幅が広がりました。それに魔術だけでは限界があることがよくわかりました。リョウのおかげです」

「いいえ、その恵まれた体格を活かすべきだと…私はこんなですから、もったいないと思っただけです」

「リョウは…その体型が似合ってますよ」

「あははは」


「あの、失礼なことをお聞きしますが、あの後大丈夫でした?」

「なんのことですか」

「いえ、負けてしまって、困ったりしませんでしたか」

「ああ、そのことですか。困るどころか、先生方や生徒からもすごく評価してもらえました」

「安心しました。賢者様も心配されていましたから」

「とんでもないです、とても感謝しています」

「よかった」


「それで、話というのはなんですか?」

 タカシくんが小声でささやく。

「実は今日、生徒のみなさんに新しい魔術を覚えてもらおうと思っています」

「ほんとうですかっ!!」

「声が大きい」

「すいません。それで、どんな魔術ですか?」

 目が輝いている。

「模擬戦のとき賢者様がタカシくんの術を防いだあれです」

「ええええーーーーっ」


 食堂の全員が振り向いた。


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