14 賢者様告白される
念話の魔道具を見せてもらった。
こっちの世界には魔石というものがあって、魔石には魔術や魔力を溜めることができる。魔石は非常に貴重で高価なので平民では手に入れることは難しい。
構造は単純で、大小二つの魔石が金属のフレームに固定されていて、その二つは金で接続されている。
使い方は、二つの魔道具を用意し小さい方の魔石には魔力を、大きい方には念話の魔術を溜める。魔術と魔力は相手と自分で片方ずつ溜めそれを交換する。つまり相手には自分の魔術と魔力を溜めたもの、自分が持つのは相手の魔術と魔力を溜めたものということになる。
原理は、魔道具に魔力を送ると念話の魔術が発動する。発動するのは相手の念話の魔術ということになる。発動した術は小さい方の魔石に溜められている魔力と同じ魔力の反応を探し念話を送る。念話を受けると小さい方の魔石が光る。届く範囲は使用者の魔力が届く範囲ということになる。
「おもしろいね」
「そうですか」
「トビラも入れておけるのかな?」
「たぶんそれほどの魔石が存在しません。念話の魔術は小規模なのでこれくらいの魔石に入りますが、大規模な術を入れておける魔石となると、あったとしてもとんでもなく高価なものになります」
「この大きい方でどれくらいするの?」
「この屋敷が買えるほどです」
「えええーっ、そんなにするの」
「はい」
土と相性がいいヒルガオさんのために考えたのは液状化。それしか思いつかなかった。
まず、ネットで見てもらう。合わせ技なのでちょっと難しい。
砂と水を集めて振動させ土を泥水に変える。これができれば相手を傷つけることなく無力化できる。最悪、頭まで埋めれば命を奪うこともできるはず。
森へ行って練習開始。
「最初は土を振動させることから始めましょう」
「はい」
「次は水を集めて」
「はい」
「次は砂」
「はい」
「こんなことが起きるんですね」
カオルちゃんが驚いている。
「こっちに地震ってないの?」
「ジシンですか?」
「地面が揺れることだよ」
「ありませんね」
「火山とかは?」
「カザンって?」
「火を噴く山のこと」
「ありません」
「そうなんだ」
次に新しく思いついた空気系の術をアサガオさんに説明する。
ドーム型バリアの中の空気を外へ放出して内側を酸欠状態にする。相手が気を失った時点で解除すれば命を奪うこともないし、目に見えないから何が起きたのか誰にもわからないのがいい。
やり方は理解してもらえた。
これもどこまで早くできるかがカギだな。
屋敷に戻って魔術について僕が考えたことを説明する。
「魔術を使うときみんな念じるよね、あれって術を組み立ててるんだよね」
「はい、順を追ってイメージしていきます」
「でも、使ったことがあれば結果はわかるんだから、いちいち毎回組み立てる必要はないんじゃない?」
「「「「えっ」」」」
「念じている時間がもったいないし」
「それは……」
「僕はいきなり結果をイメージするだけで術を発動させれるよ」
「そんなこと考えてもみませんでした」
「これからはそういう練習をしておいてね」
「「「「はいっ」」」」
「それから、ソーラーレイと雷の術は人目のある所で使わない方がいいと思うんだ」
「なぜですか?」
「もし真似されたら、防げない」
「あ、確かに今のままでは防ぎようがありませんね」
「うん、だからホントに危ない時にだけ使うようにしよう」
「ユウガオにも伝えないといけませんね」
「うん」
午後からはキキョウさんがメイン。
これは僕でも使えるかどうかわからない。
こっちの人にはかなり難しいだろう。
でも、これが使えればキキョウさんは無敵になれる。なんとしても覚えてもらいたい。
「これはかなり難しい魔術だと思います。でも是非、身に付けてください」
ネットでまず、地球について見てもらう。
四人とも驚いている。
「これが前提です」
「「「「はい」」」」
「次に重力。重さがあるのは重力のせいです。つまり、重力が強くなればそれだけ重くなります。この重力を感じてください」
「「「「はい」」」」
「体が重くなればどうなりますか?」
「動きが鈍くなりますね」
「その通りです。ですから魔術で重力を増やし相手を動けなくします」
「原理はわかりました」
さすがカオルちゃんだ。
「名前は何というのですか」
「とりあえず、グラビティで」
「カオルちゃんは模擬戦の時どうやったの?」
「ん?」
「ほら、浮いてたでしょ」
「ああ、あれは浮くことを考えました」
「浮くっていうことは、空気と同じ重さということなんだよ。空気より軽いものは上へ昇っていくんだ。だから浮こうと念じるのと、軽くなれと念じるのは同じ結果になるということだね。こんどはその逆、重くなれと念じればいい。だからカオルちゃんはもうできるはず」
「そういうことなんですね。結果は同じでも考え方はいろいろあるということですね」
「うん」
「僕にもすぐには使えないと思います。相手がいないと効果がわからないので二人一組で練習しましょう」
「「「「はい」」」」
結果は、アサガオさんには無理そうだった。
空気だけでも相手を無力化できるので充分ですと言ってくれた。
次は僕のトビラだ。カオルちゃんと書斎へ行く。
キキョウさんとユウガオさんは外で練習している。
「どうやって覚えたの?」
「もちろんリン様に教えていただきました」
「だからどうやって?」
「それは……」
カオルちゃんの頬が赤くなった。
「このあいだと同じように、額を付けて、術のイメージを直接頭の中に送っていただいて」
「そんなことができるんだ」
「はい」
(なんか緊張するな、どうしよう)
「えーっと、やっぱり僕も使えた方がいよね」
「はい、その方がいいと思います」
「教えてもらえる?」
「もちろんです」
顔が真っ赤だ。
「では、始めます。目は閉じていてくださいね」
「うん」
またカオルちゃんの息が顔にかかる。髪の匂いがする。ダメだ、平常心で。
頭の中にカオルちゃんの意識を感じる。暗闇の中に、光る玉が浮かぶ。
(これがトビラのイメージ?)
それを両手で掴むと突然何かが流れ込んでくる。
周りが明るくなり目の前にトビラが現れた。
トビラの向こうにカオルちゃんが見える。
クラクラする頭をおさえながら、何とかトビラをくぐった。
「わかりますか?」
「んー」
「だいじょうぶですか?」
「ああ……カオルちゃん?」
「はい、私です」
「たぶん、だいじょうぶ、だと思う」
「……」
いつのまにかカオルちゃんが膝枕してくれている。
「僕、倒れたの?」
「はい」
「強力な魔術って、負担が大きいんだね」
「魔力の量によります」
「よほど魔力がないとトビラは使えないということだね」
「そうですね」
(使えるようになったのかな)
「しばらくこのままでいい?」
「はい」
「……好きだよ」
「……私も」
このまま時が止まればいいと思った。