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賢者の下男は平凡な日常を望む  作者: 高橋薫
第一章 王国の賢者
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01 プロローグ

 大学受験に失敗した涼は服を買いに出掛けた街で怪物に遭遇し、逃げる途中で異世界へのトビラをくぐってしまう。そして異世界で出会った賢者様、その執事やメイドたちと生活を通じて生きる目的を見つけることになります。その後、戦争の危機が迫る中、正義とは何か、平和とは何かと悩むことになります。

 

「「キャーーー!!」」

 突然上がった悲鳴に振り向くと、五十メートル程先に身長四メートルくらいの怪物がいた。

(ヤバっ、逃げなきゃ)

 全力で走る。できるだけ遠くへ。

 地下街の入口がある。

 階段を駆け下り、それでも全力で走る。もっと遠くへ。

 目についた細い通路へ走りこむ。

 と、勢いのまま、目の前の青白く光る空間へ跳び込んでしまった。



 最初に怪物が現れたのは二年ほど前。人々は何かのイベントと勘違いし、逃げるどころか、逆に動画や写真を撮影しようと集まってしまったため、大きな被害が出た。

 警察官の拳銃では倒せず、何時間か後、自衛隊が出動してやっと倒せたのだった。

 未知の生物の突然の出現は世界中に衝撃をもたらした。


 生物学者達が怪物の調査にあたっている最中、二度目の出現。

 次があるのか半信半疑だった政治家たちも事態を重く受け止め、警察官の武器の強化を認めた。その後、怪物が人々に周知されたことと、武器が強化されたことにより、大きな被害は出ていないが、出現の度に確実に死傷者と行方不明者が出ていた。


 怪物は一種類ではなかった。二足歩行の人型のものや四足の獣型のものなどさまざまなタイプが確認されている。

 不思議なことに怪物が出現するのは日本、しかも人口の密集した都市部に限られていた。それが偶然なのか意図的なものなのかも謎だった。


 怪物の調査とともに、世界中の科学者達はその出現のメカニズムを解明しようと躍起になっているが、いまだ両方とも解明できていない。



 僕は舘林涼。今年十九歳になる。大学受験に失敗し、今は予備校へ通うかどうか迷っている。

 去年の十二月に父親が交通事故で亡くなった。受験の失敗をそのせいにはしたくないけど、少なからず影響はあったと思う。

 母親は舘林葉月四十六歳。看護士をしている。おかげで父親が亡くなっても経済的に困ることはない。それにかなりの額の保険料も受け取っているし、家も持ち家の一戸建てだから家賃の心配はない。兄弟はいない。


 僕の外見は女性的だそうだ、小学生の時はごく普通の男の子だったのに、中学生になると、なぜかしだいに女性的になってしまった。色白で狭い肩幅、薄い胸板、顔も性別がわかりにくいと言われる。


 高校二年の時、衝動的に前髪をぱっつんにしてみた。鏡の中の自分の顔は女性にしか見えなかった。

 これには理由がある。以前から鏡に映る自分に違和感があった。これが自分だろうかという疑問。心と顔がしっくりしない。母親の化粧品やアクセサリーに興味があったし、女の子のかわいい服が羨ましかった。


 自分のことを俺と言ったことは一度も無いし、男らしい乱暴な言葉遣いができない。友人の名を呼び捨てにすることすらできない。

 もしかしたら前世は女性だったかもしれないということにして、それ以上は考えないことにした。だからといって、女性になりたいとは思わない。性別にこだわりはない。

 でも、次に生まれるなら、やっぱり女の子がいいと思う。


 小学生の時に初恋もした。近所に住む女の子。彼女は私立中学へ進んだのでそれっきりになってしまった。それからは一度も女の子を好きになったことがない。それどころかほとんどの人が同性に感じられる。告白された女子と一部の男の友達を除いて。

 告白されるとその時点で異性と認識するみたいだ。これでも少しはモテた。男の友達の方は、もし自分が女性だったら好きになるかな?といった感じ。

 高校の友達に、女だったら惚れたのにと冗談っぽく言われたことがある。男の痴漢に遭ったこともある。あれはこわかった。


 そして僕はいつも現状維持を望んでいた。

 中学生の時も高校生の時も、できることならずっと同じ生活をしていたかった。

 にもかかわらず僕には中学生からの記憶がほとんどない。写真が残っていればその場面のことは何とか思い出せても、他の日常生活の記憶がない。部活だってやっていたのに、その記憶すらほとんどない。理由はわからない。


 上の空で生きてきたようだ。それでもモットーは臨機応変。悪く言えば成り行きまかせ。

 それが父親の事故死と高校卒業で生活が一変してしまった。おまけに、やりたいことも、就きたい職業も、目標も、目的も何も無い。今こそ臨機応変に対処したいところだけど、心は鬱屈したままだ。

 僕は運命を信じる。だから父親の死も運命だと思う。長生きしてたら認知症になった可能性もある。死に時としては良かった方だろう。そう考える。孫の顔とか見せてあげられなかったけど……。

 未来はわからないのだから、やってきたことが良かったか、悪かったかなんて、死ぬ時にしかわからないと思う。


 そして僕は変人だそうだ。自覚もある。

 一番他人との違いを感じるのは欲がないことだ。少なくとも小学生の頃には欲もあったと思う。欲しい物があった。知識欲もあって、学校の授業が楽しくて仕方がなかった。それが歳を重ねるにつれて欲しい物もなくなり、授業も面白くなくなってしまった。


 高校受験の時も特に受験勉強などしなかった。現状で入れるところへ入れてもらう。そんなふうにしか思わなかった。向上心とか何もなかった。

 中学の担任との懇談ではいつも、もったいないと言われた。もっと勉強すれば一流校に入れると。それでも、一流とは言えないがそこそこの進学校へは入れた。大学受験も模試の判定で十分合格できるはずの大学を受けた。落ちてしまったけど……。


 大学でやりたいことがあったわけではないから、悔しいとも悲しいとも思わなかった。何しろ努力とか一生懸命とかそういうものとはまったく無縁の生活をしてきたのだから。


 ひまだったので車の免許を取っておいた。車はあるけど、どこかへ行く気も起こらない。

 とりあえず、バイトでも始めようかと思って、普段着をあまり持ってなかったので、服を買いに街へ出掛けた時、とんでもないことに巻き込まれてしまった。


 望んでいたのは、何も変わらない、平凡な日常だったのに……


 初めて書くので不安ですが、頑張って続けたいと思います。

 拙い文章ですが、よろしければお付き合いください。

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