No.XXX
四月二十一日。
午前七時過ぎ。
私の部屋。
「……はぁ、はぁ、はぁ」
ベッドの中、私は布団を頭の上まですっぽり被って、乱れた息遣いのまま余韻に浸る。
「……はぁ……はぁ……ふぅ、足り無い」
一昨日、あの人に声を掛けれてからと言うもの、私の身体はおかしくなってしまった。
どんなに慰めて心が落ち着く事は無くて、むしろ、身体はあの人をより一層求めてしまう。
外見が良いわけでも無いし、頭が良いわけでも無い。
地味で目立たず、クラスの中にいなくたって全く支障にならないような存在。
そんな私の事を、あの人は気に掛けてくれたばかりか、出血してる指を見て、手当てまでしてくれた。
嬉しかった……心がきゅんとした。
生まれて初めての片思いの瞬間だった。
あの人の事を考えると、暖かくて幸せで、でも、苦しくて辛くて、相反する気持ちが入り乱れ、その度に私は自分で自分を慰める。
それなのに……一時だって静まる事の無い身体の疼き。
また、話し掛けて貰いたい。
また、私に優しい言葉を掛けて貰いたい。
もっと、私の事を見て貰いたい。
思いが溢れ出してどうにかなってしまいそう。
きっと少しでも一緒にいる時間が出来れば、身体の疼きは静まると思う。
けれど、どうしたらまた遭えるのかな?
あの人は二年生で、私は入学したばかりの一年生。
教科書を忘れたから……そんな見え透いた嘘の理由を使って近付く事すら出来無いのだから、簡単には行かないと思う。
…………いや、待ち構えていれば、遭う事は難しい事じゃない。
難しいのはその後の事。
話し掛ける事が出来るような勇気は少しも無い……そんな勇気があれば、抑えられない気持ちの衝動で話し掛けていると思うから。
それが出来無いのだから、何か方法を考えなくちゃいけない。
一昨日出合い、本を拾って貰って、怪我の手当てをしてくれた時の事を思い出した直後、とても良い方法を簡単に思い付いた。
いつの間にか呼吸は落ち着きを取り戻したけれど、疼きが解消され無い身体の事を少し気にしながら、私はベッドから起き上がり……机の引き出しを開け…………。
チャキン。
真新しいハサミを手に取り、カーテンで締め切った薄暗い部屋の中で歪に光を放つ。
「…………」
左手の人差し指に刃をあてがい、ハサミをゆっくり引くと、真新しく良く切れるから痛みを感じる事も無く血液が滴り始める。
「……私がまた怪我をしていれば、絶対にあの人は見過ごさない。私にまた優しい言葉を掛けてくれる…………」
心がドキドキと高鳴り始めた。
慰めている時なんかよりも、ずっと気持ちが良い。
だって……この方法なら、絶対上手く行くもの……そしたら、また一緒にいられる、私を見てくれる、私を心配してくれる……こんなに気持ちの良い事は他には無い。
「待っててくださいね……」
滴る血液をジッと見ながら、嬉しさのあまり悦びに満ち溢れた笑顔で、いつもより早く学校の身支度を整えて登校する事にした。
「大大大好きな初音先輩。私から目を背けないようにしてあげますから……くすくすくす…………」
A Preview
「……仕事が入ってしまったから、今日の打ち上げは参加出来ないわ。他のメンバーと楽しんでちょうだい。次……ごめんねー、急遽代役を頼まれたから、今日は行けそうにないんだよー、本当にごめんなさい。次……仕事がはいた。また今度……微妙に誤字ってるし…………。それにしたって、どいつもこいつも仕事仕事って……そんなに忙しいなら、僕にも回してくれよーっ! 暇なんだよぉっ…………空しい……。さて、行くか…………予約してしまったし、四人分、全部っ僕が食ってやるっ! それじゃあっ行って来ますっ! あ……念の為タッパー持って行ってみよ」
――終わり