No.013
四月二十一日。
午前七時。
リアル世界。
ピピピピピ、ピピピピピ、ピピピピピ。
「んぐ……うんん……」
ベッドの中から手だけを伸ばし、頭の上に置いてある目覚まし時計のスイッチを止める。
「眠い…………後、五分だけ……」
むにゅん。
「んが……?」
寝返りを打った僕の顔に……なんだ、これは?
凄く柔らかい…………なのに、弾力があって……手で確認をしてみると、ぷにゅんぷにゅんで、しかも、凄くいい匂いがする。
……はたと気付く。
これ…………よくある朝起きフラグっぽい。
まさか、そんな事がリアルで起こり得るなんて考えられない……夢だよ夢、夢だと思っている事実こそが、朝起きフラグを確立させている事を理解しながら恐る恐る目を開けてみると目の前には……。
「おはよう、朝から鷲掴みにして揉みしだくなんて、過激なのね」
「のわぁぁぁぁぁああああ! リリカノさんっ何してるんですか?!」
「何って眠っていたのだけれど、あなたが突然私の胸を揉みだしたから目が覚めたのよ」
「そう言う事じゃなくてっ!」
お、落ち着こう……ふぅ、はぁ、ふぅ、はぁ……よし。
「帰ったんじゃなかったんですか……?」
「その前に、あなた、自分の姿を見て何か思わない?」
自分の姿…………?!
「って、ああぁぁぁぁぁぁああっ?! 姿が戻ってないっ?!」
「それともう一つ、記憶があるでしょう?」
「……」
そう、言われてみると……これまで起こった事全てを思い出す事が出来る……。
何故だ?
忘れるんじゃなかったっけ?
「それじゃあ、結論を言ってあげる。レーデンヤの呪術式は、まだ終わっていないわ」
「は、い?」
「これを見てくれる?」
と言って僕が視界に入れたのは、ベッドの横をごそごそしてから取り出した例の文献では無く……服を全く着ていないリリカノさんの身体…………に見惚れて、一瞬思考が停止した後。
「ほぎゃあああっ! ふっ、服はどうしたんですか?!」
「あぁ、私、眠る時は全裸なのよ」
「じゃないでしょうっ! 人のベッドの中まで入って全裸って?!」
「うるさいわね」
ズビッ!
「ひぎぃぃぃっ! 目がぁっ! 目がぁぁぁぁああっ!」
ゴロンゴロン。
あ、これ、久しいな、と思いつつ、ひとしきりのた打ち回った僕へ、リリカノさんが告げた事実はと言うと。
「……って事は、今までの事を何度も繰り返さないと、完全な呪術式の終了は無い、と言う事、ですか……?」
「ええ、その通り。まぁ、あなたがあの事象を繰り返す中で抗い負けてしまえば、解放はされるでしょうけれど、負けてしまった後、どうなるかは分からない。そう言ったわよね?」
前例者は今でも意識不明のまま入院していて、目が覚めるのか、あのままずっと覚めないのか、最悪……死亡してしまうかもしれない、とリリカノさんは言っていた。
「それって……僕は否応なしに、勝ち続けないと行けないって事ですよね?」
「前例者のようになりたくないのなら、ね」
リリカノさんが僕を自宅へ送り届けた後、学校内を一通り見回り、異常も無いようだから例の文献を確認したところ、記載が増え、完全に解呪するには繰り返す必要がある事が判明したそうだ。
僕の様子も心配だったから、また戻って来たはいいけれど、僕がリリカノさんからの着信に一切気付く事無く眠っていた為、リリカノさんは強行的に家に入り、特に問題無さそうだったから、僕の家のシャワーを借りた後、そのまま僕のベッドに潜り込んで眠り、今に至る。
「そんな恐ろしい道具、作っちゃダメだと思います……」
鍵穴に挿すと自動的にドアのロックを解除してくれる呪術アイテム。
「とても便利でしょう?」
「…………不法侵入で訴えられてもおかしく無いじゃないですか」
「それなら、あなたが私の胸を揉んだ事も犯罪じゃなくて?」
「あ、あれは不可抗力っ!」
「ふーん、寝惚けながら私の胸を思い切り吸った事も? XXXを広げて舐めた事も?」
「だーっ、そう言う言葉禁止ですよっ! じゃなくて、そんな事してないですっ!」
相変わらず顔色一つ変えず、よくもまぁそんな発言が出来るものだ。
「絶対? 神に誓って? 着信に気付かないくらい疲れていたから、寝惚けながらしてもおかしくないでしょう? 実際されてしまったのだから」
「う、嘘だっ!」
「酷いのね。私、誰にもまだ汚されていない身体だと言うのに……あんな事をされて、覚えていないだなんて、あんまりだわ」
うぐっ…………冗談のようだけれど、冗談じゃないような気もしてしまう。
ここで返答を間違ってしまえば、僕の未来はリリカノさんの手の平の中になり兼ねない。
つ、強気で行くか……それとも、謝罪すべきか。
「そう……遊びだった、と言う事ね…………。あなたが本気だったと言うなら、私はあなたを責めたりはしなかった。けれど、あれが遊びだったと言うのなら……今、ここであなたを殺して私は生きるわ」
「うわぁっ! そのナイフっどっから取り出したんですか! 落ち着きましょうっ、早まってはダメですっ!」
さり気無く自分は生きるなんて言ってるし。
「こんな悲しい事実を突き付けられて生きていけると思う? 私は……生きてなんて行けないわ。だから、止めないで」
いやいや、あんただけは生きるって言ってましたよねぇっ!
「本気っ! 本気でしたよっ遊びじゃなくて本気だった、はず……たぶん」
「たぶん……そう、私の身体なんて全く魅力が無かった、そう言いたいと」
「絶対っ、絶対本気っ! 超本気でしたっ!」
あぁ、これは完全に破滅への選択肢を選んだのだと断言出来る。
この人は嘘を真実に変え、黒を白にしてしまう能力の持ち主だ……どんなに抗っても、僕に勝機が無い事を理解出来てしまう……例え、今の話が冗談と気付いていても、僕には引っくり返せるだけの言い分が思い付かない…………。
だがしかし。
「……本気ならいいんですよね? ならば…………今直ぐ、あんな事やそんな事しちゃっても問題無いって事ですよねぇええっ?!」
一矢報いなければ、敢えてバッドエンドの選択肢だと気付いていたのに選択した、僕自身が報われないっ!
こうなったら、一揉みくらいはっ!
「ええ、いいわよ。初音さんにその勇気があれば、の話だけれど」
掛け布団で身体の前を隠しているリリカノさんが、微笑み掛けてくる。
あ、あれは……魔性の笑みだ。
ここでもし、なけなしの勇気を振り絞って一矢報いたとしても、その後の僕の人生はきっと、コロコロコロコロと悪い方悪い方へと転げ落ちて行く事だろう。
「さぉ、ほら、好きになさいな」
「うぐ……」
考える。
人生を捨て、一時の天国を選ぶか……。
それとも、とりあえず先の見えない人生だとしても、平凡な人生を歩む為に、一時の天国を捨てるべきか……。
待てよ……呪術式がまだ解呪出来ていないって事だと、僕の人生はすでに平凡では無くなっていると考えられる。
なら……ここは、一時の天国を選ぶべきなんじゃないだろうか?
この先……どんな理由にせよ、女の子とイチャイチャ出来るとは限らない。
モテ期なんてものは、元々容姿が優れているヤツにしか訪れない期間なんよ……ならば、ここは一時の天国をっ!
「って、いないしっ!」
「初音さん、今日は学校よ? 私は身支度を整えて来るから、あなたもさっさと支度を済ませる事ね」
部屋の外から、リリカノさんの声が聞こえた。
せっかく意を決したと言うのに……機を逃してしまうとは。
ま、まぁ……実の所はどっちにしようか迷っていたし、これはこれで良しとしよう。
自分で選択する事無く選択肢が決まってしまう事は、案外楽、なのかもしれない。
「学校かぁ……」
鈴……記憶は残っているのかな?
僕の呪術式がまだ続いていると言う事であれば、もしかしたら、鈴も今回の件についての記憶も消えずに残っているのだろうか?
学校へ着いたら、それとなく確かめてみよう。
けれど……。
部屋に置いてあるゲーム機をしばらく眺めて、何となく電源を入れた。
メニュー画面からマジカルフォーミュラのゲームを呼び出して立ち上げる。
プラクティスモードを選択して、キャラクターにアリスを選び、ゲームを開始。
黒基調の服。
『黒の火葬華』
見知った技。
『次元葬刃』
聞き覚えた声。
『無制限の最終魔法、黒の禍焔葬華っ!』
体感した凄まじい能力。
ゲームの中に、ちゃんと存在しているアリス。
でも、僕は……世界に存在したいと願った彼女の思いを……踏み躙った。
独りは寂しいと言って、他者を欲したその願いすらも……。
結局僕は、彼女の思いを何一つ救えず、何一つ叶えて上げられ無かった……。
「ちくしょう……」
気持ちの何処かではきっと、奇跡のような力が働いて、アリスを救って上げられる……根拠が無いのに、そんな事を僕は思っていたんだと思う。
それは短絡的で大きな勘違い。
僕のいるこの世界は、アニメやマンガ、ラノベやゲームの世界じゃない。
だから……そんなご都合主義的な事態なんて起こらなくて、何もかも上手く行く事なんて有り得ない。
「なんなんだよ、レーデンヤの呪術式ってのは……人が不幸になる事がそんなに楽しいのかよ……馬鹿にしやがって……くそ……くそっ、ちくしょおっ!」
呪術式に対しての怒りよりも、自分が何も出来なかった事に対しての悔しさや惨めさがイライラした。
無意識的に振り上げた拳を、思いっ切りゲーム機に叩き付けて、その苛立たしさを少しでも晴らそうとしていた。
でも、振り上げた拳は振り下ろせず、途中で止まった……止められてしまった。
「よしなさい。そんな事をしたって、何も解決にはならないわよ。子供じゃないのだから、物にあたるのは止めなさい」
「リリカノさん……?」
制服姿のリリカノさんが、僕の腕を掴んでいる。
「言ったはずよね? 人間なんて、何かを得る為には何かを差し出さなければいけないと。初音さんは、それを理解したからこそ、戻る選択をしたのでしょう?」
「……分かってます。分かってますけど……でも、あんまりじゃないですかっ! アリスは……存在して、あんな世界に独りで、たった数日の間に消えてしまったんですよっ?! 割り切れって言われても、簡単に割り切れるわけ無いじゃないですかっ!」
こんなのは今更な事だ。
アリスを倒して、元の世界に戻る……それを選択したのは紛れもなく僕自身。
得る為には捨てる事……その意味を理解は出来る。
でも……気持ちの何処かでは、納得出来ていなかった。
「独りが寂しいから誰かにいて欲しい……存在する理由が分からないけれど、それでも、消えたく無い……アリスはそう願っていたのに……僕は、何一つ叶えて上げる事が出来なかったんですっ! 何一つっ、アリスの思いを救って上げられなかったんですよっ! それで自分が帰る為には、何かを差し出す必要があるからなんて、納得出来るわけが無いじゃないですかっ!」
リリカノさんはジッと黙って、僕の言う事を聞いていた。
何も言わず、口を挟む事も無く、ただただ黙って。
「言いたい事は、それだけかしら? 少しは気が晴れた?」
「…………」
きっとリリカノさんは呆れている。
僕よりも大人であるリリカノさんは、僕の言い分が大人気無い一方的な八つ当たりである事なんか気付いていながら、敢えて何も言わなかったのだろう。
僕の前にしゃがみ、リリカノさんが告げて来る。
「確かに、初音さんはアリスの願いを叶えて上げられなかった。でも、あなたは、あの子をちゃんと救ってあげたじゃないの」
「……何処に、消えてしまったアリスの何処に救いがあったなんて言えるんですかっ」
「これを見て御覧なさいな」
「…………」
差し出されたのは……リリカノさんから貰ったスマートフォン。
「これ、最後に撮影したのよね?」
そこには僕がアリスとの思い出として残して撮影した画像が表示されていた。
「とても素敵な笑顔をしているじゃないの。これから消える人間が、こんな素敵な笑顔を出来ると思う?」
「……」
「人間は、嘘で泣く事の演技はいくらでも出来る。けれど、笑顔の表現は、その時の気持ちでしか表せないものよ。アリスは言っていたわよね? あなたに会わなければ良かったと。それは、初音さんが相手だったから、なお更消えたくなくなった、と言う事でしょう? そんな事を言わせる事が出来たのは、あなただったから。初音さんだったから、出来た事なの。高瀬さんでも無く、私でも無く、初音さんだったから」
「…………」
「消えたくないと願った子に、こんなにも屈託の無い無邪気な笑顔をさせる事が出来た。色々納得が出来ない事の中で、笑顔で最後を迎えられた事は、きっと、アリスに取って、唯一の救いになったのだと私は思う」
「…………」
「あなたはちゃんとアリスを救ったのよ」
画面の中のアリスは……笑顔だった。
僕に強要されたポーズを取りながら、少し頬を赤くして、それでも……とびきりの笑顔で写っていた。
アリス……僕は、お前を少しは救えたのかな?
理不尽な世界の中で、少しだけでも、存在意義を見出して上げる事が出来たのかな?
僕の問い掛けに、画像のアリスは何も答えてはくれない。
「自信を持ちなさい。アリスのその笑顔が、救って上げた事の真実なのだから。アリスはきっと……救われたのだと」
「うっ、ぐ……リリカノさん…………ごめん、なさい……八つ当たりして、うぐ、本当にごめんなさい……」
涙が溢れ出した。
悔しかった事。
惨めだった事。
救って上げられた事。
いろんな事の気持ちがぐちゃぐちゃになって、自分の感情が抑え切れず、僕はボロボロと涙を零した。
「いいのよ、気にする事は何も無いわ。今回、あなたは本当に頑張ったのだから。誰もあなたを責めたりするものですか」
救われたのは……僕の方なのかもしれない。
アリスの笑顔に救われて、リリカノさんの優しい言葉に救われた。
僕は…………強くならなくちゃ。
この先、まだレーデンヤの呪術式に抗う必要があるのだから……。
身体的にも……精神的にも、ちょっとした事では屈しない、強さを身に付けなくては。
アリスに現実世界へ帰ると約束したのだから……これから先も、呪術式から解放されるまで、絶対に何があっても、帰って来なければいけないのだから……。
ブオンブオン。
「あの、リリカノさん……色々、ありがとうございました……」
「何度も言わせないでくれるかしら? その件はもう済んだ事なのだから、気にしなくていいのよ」
あの後、リリカノさんは朝食を買って来てくれたり、治療をほったらかしにしていた僕の足を簡単に応急処置してくれたり、今はこうして学校まで送ってくれたりもした。
はぁ、情けない。
僕の方が年上だってのに……。
「今後も呪術式の影響が続くだろうから、気を付けない。後で、これからの対策も経てないといけないから、お昼休みにでも集合で良いかしら?」
「え、あ、はい……いいですけど、リリカノさんは?」
「私はお昼休みまで図書室で眠っているから、何かあったら尋ねなさいな」
「…………いや、授業出ましょうよ」
「出たって意味が無いもの。簡単過ぎてとてもじゃないけれど、耐えられないわ。それじゃあ、私はバイクを置いてから、そのまま図書室へ行くから。また後で」
そう言ってリリカノさんは、校舎の奥に消えて行った。
自転車置き場にバイクを置きに行ったのだろうけれど……授業、出なくて本当に大丈夫なんだろうか?
不安はあるけど……リリカノさんなら、何とかするだろう。
最悪、学校を辞めてしまう事も考えられる。
「元々頭は良いから、学校なんて来る必要も無いのか……」
さてと、気を取り直して、自分の教室へ向かうとしよう。
僕にはまずやらなければ行けない事があるのだから。
教室に入って、荷物を置き、目当ての人物がいる事を確認してから、声を掛ける。
「えぇっと、高瀬さん……おはよう」
「あ、うん、おはよう。珍しいね、初音くんが挨拶して来るなんて」
「んっと、高瀬さんに一つ頼みがあるんだけど?」
「あー、初音くん。呼び方がまた他人行儀になってるよー? 呼び捨てでって約束したよね?」
呼び捨て、か。
たぶんそれは、名前を呼び捨てに、と言う意味では無いのだろう。
「あ、あぁ、ごめん……まだ、呼びなれなくて」
「んー、じゃあ、今回は許してあげる。それで、私に頼みって?」
「ほら、僕、学校を早退しただろ? だから、その時のノートを貸して貰えたらなぁって」
「あぁ、そう言う事かぁ。挨拶もそうだけれど、初音くんが早退するのも珍しいよね。何かあったの?」
今の話しぶりからして、やっぱり、呪術式の件についての記憶は無いようだ。
「足をさ、痛めたから……病院に」
病院には行っていないのだけれど、リリカノさんの治療はとても綺麗に施されていて、本当に病院で治療を受けたような見た目となっている。
「大丈夫?」
「あぁ、うん。階段で挫いた程度だからさ」
アナザー側の出来事を知っているのであれば、この足の事だって知っていておかしくは無い。
そこに言及してこないとなれば、記憶が無くなっている事を疑う余地は無いだろう。
「はい、これがノートね」
「ありがとう、今日中には返すから」
「私はいつでもいいけれどね。それにしても、どうして私?」
「どうしてって…………友達だから」
「え?」
「え? じゃないだろ。僕と高瀬は友達だから頼み易いと思って、頼んだんだよ」
高瀬はきょとんとしている。
僕から友達発言した事なんて、今まで一度だって無かったからな……驚いても不思議じゃないか。
「も、もぉ、仕方ないなぁ。今回だけはそう言う事にしてあげる」
「いや、それはダメだ。言うのであれば、今回からは、に訂正して貰おう」
「そう、だね。それじゃあ、改めて、今回からは友達としてお願いします」
「おう」
高瀬にお礼を言って、自分の席に。
友達として握手の儀式をした時の出来事。
あれも、記憶に無いのか。
全く……どこまで理不尽なんだよ、この呪いってのは。
『呪いだから理不尽で当たり前。辻褄や理屈、脈絡なんてお構い無しなの』
ホント、その通りだ。
抗うこっちの身にもなって欲しいものだよ。
大変だけど、それでも、僕は絶対……お前には負けない。
そして必ず、呪いの解除を成功させる。
僕を対象として選んだ事……後悔させてやるからな。
何もかもは上手く行かない僕の世界だけれど、それでも、この先、僕は抗い負ける事無く努力する。
切り捨てるべき選択を迫られても、受け入れられない場面があったとしても……僕は何度だって自分の世界に帰って来る。
「……」
スマートフォンを取り出して、スリープモードを解除する。
そこには今も変わらず、眩しい笑顔のアリスが写って、僕に笑顔を向けていた。
「呪いになんて、絶対、負けないからな。何度だって、帰って来るから」
それが……アリスとした約束を果たす事になるのだから。
そしていつかまた、悔しい事や辛い事も含めて思い出が出来た時、こうしてまた綴りに来ようと思う。
僕の記憶が無くなった時に、自分自身へ対して残す大切な思い出として……。
「わー、可愛い子と一緒に写っているんだね。えっと、魔法少女のポーズ?」
「勝手に見るのは禁止だが、これは、魔法騎士少女のポーズだ。よく覚えておけよ高瀬」
「うむー、同じようなモノ、なんじゃ?」
「違うっ、いいかっ! これから説明してやるから、そこに座れっ! そもそも、魔法少女と魔法騎士少女ってのはなぁ!」
奇跡を起こせない魔法騎士少女だけれど、僕はこれからも正義の味方では無く、大魔王としての魔法騎士少女として戦うつもりだ。
アリス達魔法騎士少女にとって、イレギュラーな魔法騎士少女である僕は、存在を消してしまう悪い奴なのだから……。
「騎士っ、ナイトなんだよっ! ここが重要っ! 分かる?!」
「ん、んん~、分かるような、分からないようなぁ」
「感じるんだよっそこはっ!」
「やっぱりどっちも同じでお願いしたいなぁ」
「それだけは絶対に許さんっ! 魔法騎士少女っ! これ一択だよっ、キリッ」
「全然理解出来ないけれど、ナイト様って事なんだね?」
「うっわ、今、一気に聞くのが面倒臭くなっただろっ?!」
「うん」
「そこはもっと気を遣ってよっ!」
なぁ、アリス。
もしアリスがこの世界に存在する事が出来たなら、その時は、二人掛かりで高瀬を納得させような。
「高瀬……奇跡って起きるもの、なのかな?」
「ん? 唐突だねー。でも、初音くん、それは違うよ。起きる事じゃなくて、起こす事、なんだよ」
「……どうやったら起こせると思う?」
「そうだねー、それはやっぱり……強い思い、だと思うよ? 起きるかどうかなんて保障して上げられないけれど、強く願う思いが奇跡を起こす、そう私は思うけどな」
「そっか…………」
それなら、願ってみよう。
正義の味方のように軽く奇跡が起きないのであれば、大魔王の我儘特権を使って、奇跡を起こす。
願う事は、悪い事では無いのだから……。
A Preview
「リリカノさん、次で第一章が最後らしいですよっ!」
「あらそうなの。今までよく続いたわね。第二章があるかは、分からないけれど」
「そ、それは言いっこ無ですよ。えっと、それで、どうでしょう。僕とリリカノさんと、高瀬とアリスで集まって、打ち上げしませんか? 何処かお店を予約してもいいし、何なら僕の部屋でもいいですよ」
「そうねー、まぁ、全員で集まるのも悪くないかもしれないわね」
「じゃあ、予定が決まったら連絡しますから。高瀬とアリスには、僕から連絡しておきますので」
「分かったわ。中の人は、みんな成人なのかしら?」
「えっと……そう、みたいですね。アルコールも有りって方向ですか?」
「もちろんあったほうが良いでしょう?」
「了解ですっ! なるべく安く、でも、上手いっ! そんな店を探して来るので、期待しててくださいっ!」
「と、言う事で、次回の予告は、打ち上げの報告ね」
「いやぁ、こう言う事、あまり縁が無かったから楽しみですっ!」