No.011
四月二十一日。
午前三時半くらい。
別のアナザー。
「まずは挨拶替わりだっ!」
イメージする事で実現出来る世界。
だとしたら、これだって可能って事になる。
両手の付け根を合わせ縦に向きを変え、そして、合わせたまま腰の後ろへ引き。
「食らえっ! しんんんっ空ぅぅぅ……」
イメージしろ、よく知ったあの技のイメージをっ!
青白い光の帯が集まり始め、合わせている手の中心に向かって収束して行く。
いけるっ……これは、いけるはずだっ!
「ハドオオォォォケェェェエンッ!」
ドヒュウオウ!
ドガガガガガガッ!
「おぉ、おおおおっ! はは、すげぇ……マジで出た…………出たよっ、出ちゃったよーっ!」
本当に実現出来たっ!
しかもただ単純に発動出来たわけでは無い。
威力だって申し分無し。
たった一発放っただけなのに、ファントムナイトを直線状に吹っ飛ばし、壁の向こう側、真っ白な世界の真っ白な色が見えるようになった。
これなら、抗える。
「掛かって来いファントムナイト。お前達を全滅させて、アリスをここへ引き摺り出してやるっ」
ゲームの世界を反映していると言うのであれば、こいつ等を全滅させる事によってアリスが現れるはず。
そしてそのアリスを無事に倒せば……ステージクリア。
数は確かに多い……数えていたら嫌気がするくらいに。
でも、リリカノさんが施してくれた能力があれば……たぶん、いや、絶対にいける。
イメージを実現出来るこの能力は、僕の力を何倍にだって引き上げてくれるのだから。
ただ、今の飛び道具を発動して分かった事がある。
どうやら飛び道具系の技は、体力を失ってしまうようだ。
二百メートルくらいを、本気の全力で走り切ったような感覚。
さすがに僕自身の体力までは強化されず、現実そのものって事なんだろう。
体力を失った場合の回復力も、現実と変わらず、超回復力があるわけでも無ければ、傷が治る治癒能力があるわけでも無い。
事実として、僕の足は、アナザーから出る為に無理をした時と痛みが全く変わっていない。
それから、錬金術のような新しい物体を作り出す事も不可能。
武器でもあればリーチを補えると思って、試してはみたけれど、全く反応は無い。
飛び道具の要領で魔法力(?)とでも言えばいいのか、その魔法力を使って武器っぽい形を維持しながら戦う事はたぶん可能だろう。
けれど、それは飛び道具の技が示した通り、体力を削る事になる。
しかも維持し続けるのであれば、体力の減少は止まらないって事だ。
でも。
上空へ高く飛び上がるイメージを浮かべてジャンプすると、思い通り、人間の力では絶対不可能な高さまで飛び上がる事が可能。
「ひぃぃぃ、怖っ! 足がすくむぅっ! ちびりそうっ!」
飛び上がり過ぎた。
高所に立っている時の、地に足がしっかりと着かないあの気持ち悪い感覚。
VRも臨場感はあるけれど、さすがにこっちの怖さは比にならない……なんて言っていられない、次の行動を取らなければ、頑張れ僕。
そこから二段ジャンプの要領で、ファントムナイトの軍勢を目掛けて急降下。
「断空脚っ!」
ドッガガガガガッ!
軍勢の中心に向かって、急降下からの蹴りを、一体のファントムナイトへ入れる。
着地と同時にファントムナイトが一斉に攻撃を仕掛けて来た。
「おおおおおおっ!」
大剣、斧、槍、レイピア、ハンマーと様々な武器を扱うファントムナイトの攻撃は、予想を超えてとても苛烈だった。
アナザー世界のファントムナイトとは動きが段違いに変わっている。
力も速さも体力も全体的に上がっていて、一方的に僕だけがレベルアップしたわけでは無い。
「さすがに飛び込んだのはっ、不味かった、かなっ?!」
前後左右、周囲を気に掛けながら応戦していく。
そうは思っても、飛び道具は体力の消耗が激しいし、かと言って、僕は装具による格闘術の超近接型。
間合いを取って戦っていては、無駄に長期戦になってしまい、それはそれで体力が無くなってしまう事が明白だ。
「このぉっ!」
ドッガンッ!
「?!」
間一髪、防御が間に合ったけれど……これは、受け切ってはダメだ。
重過ぎる……これを受け切ったら、無駄にダメージを上げてしまうだろう。
耐える事を止め、そのまま手で押さえたハンマーの勢いを殺さず身体ごと飛ばされる選択を。
上手く打撃力を流し切り地面に着地した後、間を開ける事無くハンマーを振って来たファントムナイト目掛けて、高速ダッシュ。
「断っ空っ拳!」
ドギィンッ!
倒したファントムナイトはゲームと同じように、自然と消えて行く。
この辺りもアナザー側とは違うのか。
集中力を保ち、まだまだ全滅には程遠いファントムナイトを次々相手にしながら、確実に一体ずつ倒し切る……必死に、死に物狂いで、ひたすらに。
戦っている最中に気付いた事がまた一つ。
いくらかファントムナイトの攻撃を食らってしまっているけれど、衝撃はあっても、痛みは感じない。
その代わり、攻撃を食らった時に出現する緑色のゲージが、相手の攻撃の強弱によって減っている事が確認出来た。
「まったくっ、こっちは!」
ブオンッドギンッ!
避けて、受け止めて、攻撃を当てて。
「必死だってのにっ、ゲーム扱いって事……かよっ!」
このゲージは、ゲームで言うところのヒットポイントゲージ。
これが無くなるとゲームオーバーって事、なんだと思う……いや、少し違う、かもしれない。
これって攻撃を受け切れる耐久値、に近い気がする。
今は攻撃を食らっても衝撃だけで済んでいても、ゲージを使い切ると、たぶん……もろに僕はダメージを身体に食らう、んじゃないだろうか。
勘に過ぎないけれど、ここがゲーム世界を反映しているって事なら、当たっていると思える。
なるべく避け切らないと……アリスも相手にしなければいけないのだから、出来る限り耐久値は残しておく必要がある。
その後も僕は、ひたすらファントムナイトを相手に応戦した。
徐々にイメージでの戦い方へ慣れるに連れて、身体能力は完全にゲームやアニメのキャラそのものとなり、高速移動したり、瞬間移動したり、遂には浮遊する事(驚愕)も可能となり、ファントムナイトの数を大分減らす事は出来た……んだけれど。
「はぁっ……はぁっ、ふぅっ……さすがに、キツイ」
途中で「隠れる場所が無いなら、浮遊して休めばいいじゃないかっ!」と思って試してみたところ、どうやら浮遊は体力を消耗する能力らしく、余計疲れてしまい作戦は呆気なく徒労に終わった。
今いるこのゲーム世界に合わせて言うのであれば、魔法に該当する事象に関しての能力は、使うと余計に体力を消耗するのだと思う。
要約すれば、体力と魔法力は同意ってわけ。
『初音さん、今、大丈夫かしら?』
「え、えぇ……少しなら……はぁふぅ……」
『辛そうね』
「始める前は、圧倒的に有利なのかなって思っていたんですけど……はぁはぁ……あっちもゲームに合わせて強くなっいて、これが結構大変……」
それでも頑張ったかいがあり、数は三分の一くらいまでは減らせたと思う。
『一つ朗報よ。高瀬さんだけれど、無事に呪術から解放されていたわ』
「会いに行ったんですか?」
『私は普通の人には見えないものが見える側だから、彼女の家の前までいけば、感じ取る事が出来るのよ。呪術的な感覚は全く無かったから、彼女はもう安心でしょう』
「そう、ですか……それは良かった、です……」
まさか僕のように別の世界へ、なんてちょっとした不安があったけど、リリカノさんが言うのだから安心して良いだろう。
『それで、そっちはどう?』
「あまり、時間を掛けると……僕の体力が持ちません」
体力もそうだけれど、例の耐久値ゲージが半分くらいまで減っているから、このままだと本命のアリスと戦う時が厳しくなってしまう。
「でも、何とかしますから……もう少し、待っててください」
『ええ、月並みだけれど、頑張りなさい』
「はい、絶対……帰ります」
ファントムナイト達は、僕が一筋縄で倒されるような人間では無い事を理解しているようで、迂闊な攻撃を仕掛けてこなくなっている。
それがむしろ攻め難くさせていて、まだ理不尽な程数がいた時の方が、倒すのは楽だった。
耐久値がこれ以上無くなるよりは、体力を犠牲にした方がまだいいか。
「よし」
足に力を入れて、高く高く飛び上がる。
人間の慣れって凄いものだよ、これだけ高く飛び上がっても、もう全然怖くも無いし、足もすくま無いのだから。
こんなのになれちゃうと、VRゲームとか……物足りなくなるんじゃ……?
そんな事を思いながら、両手を縦に広げ、僕の身体を中心にして魔法力(?)を集め始める。
目の前に何本もの光の帯が集まりながら収束する。
「んぎぎぎぎぎっ!」
歯を食いしばり更に魔法力を集め、巨大な一つの球体がイメージ通りに形作られて行く。
「でっ出来たぁぁああああっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
うぐぅ、疲れたっ、辛いっ!
浮遊せずにただ飛び上がったのは、少しでも体力の消耗を抑える為……だったんだけど、これを作り上げるだけで相当消耗してしまった。
でも、これだけ大きければ……。
「はぁっふっ……あの、リリカノさん」
『何?』
「この世界って……どれだけ丈夫、なんでしょう?」
『そちらの世界を見たわけじゃないけれど、何をどうしたって世界が崩れるような事は無いでしょうね。ゲームの世界を反映しているのだから、簡単に崩壊してしまうようだと、そんな世界を作り上げても意味が無いでしょう?』
「はぁ……はぁ、なる、ほど……確かにそうかも、ですね」
なら、これを放っても大丈夫ってわけか。
不安なのは……まさか、僕自身にも当たり判定が発生しないだろうか、と言う事。
だ、大丈夫、だよ……な?
不安だけど、わざわざ体力消耗して作り上げちゃったし…………やるか。
コイツで一気に殲滅して、そしてアリスを引き摺り出すっ!
「行くぞぉっ! 極大魔法……インペリアルマジックッ!」
『それ、名前、必要なの?』
「だぁぁっ、気を削がないでくださいよぉっ!」
格好良く打ち出そうとしたのに、魔法力を凝縮した巨大な球体は、零れ落ちるようにしてファントムナイト達を目掛けながら落ちて行ってしまった。
僕のイメージは、あの球体が地に着くと、魔法力がドーム状に膨れ上がり、そして盛大に爆発し、魔法力の柱が天を突き抜けて行く、となっている。
成功、してくれよ……。
「お、おおおおおお、うおおおおっ!」
想像通り、着弾と同時に魔法力がドーム状に膨れ上がって行く。
「……い、行けそう」
そして、爆発の光が視界を真っ白にし。
ドッッッッガアアアァァァァアアアアッ!
「う、わぁああああっぁぁあぁぁぁっ!」
想像を超える威力になって、僕を巻き添えに大爆発を起こす。
ゴゴゴゴゴゴゴ…………。
「いてててて…………」
地面をゴロゴロと転がって、ようやく身体を起こし。
「ファントムナイトは?!」
光の柱が徐々に薄くなり、周囲の光景がハッキリして来たその先には……。
「や……った、のか……」
ファントムナイトの姿が一体も見当たらない。
体力、結構使ったけど…………こんなに上手く行くとは。
ゲーム、たくさんプレイしていたのが良かったのかも。
ハッキリとイメージ出来ていたわけだし。
今更だけど、二次元好きやってて良かったぁ。
そんな僕の喜びも束の間の事。
ドギンッ!
「アリス……」
本命の登場。
重厚な金属音を響かせ、空からアリスが舞い降りて来た……なんて優しい言葉では無く、空から飛び落ちて来たと言った方が当てはまるような衝撃音で姿を現した。
綺麗に直っている、武器破壊したはずのあの大剣を手に持って。
「くふふふ……今度こそ、逃がしませんから」
アリスと視線が重なった直後。
「…………?!」
背筋に言い表しようの無いとても嫌な感覚を受ける。
こ、れって…………殺気……?
こんなにハッキリと感じるくらい放てるものなの、か……?
母さんが本気を出した時も、人間レベルを遥かに超えた威圧感は半端無かった、けれど……これは
、レベルが……次元が違う。
「死んで……死んで下さい。私の為にっ!」
「え……消、えた…………?!」
まずいッ!
ブオンッ!
ザギィンッ!
「…………」
さっきまで僕がいた場所は、アリスの大剣が地面に深々と突き刺さっている。
……あ、危なかった。
とにかく今いた場所を離れる事が精一杯で、どのように避けるべきなのかなんてのは、考えられなかった……考えられるわけが無い、見えなかったのだから。
身体はどうにか言う事を聞いて動いてくれたけれど、一秒にも満たない短い時間、その刹那の瞬間の判断が出来ていなかったら、確実に頭の先から真っ二つにされていただろう。
目の前から姿が消えた、その事を判断出来ていなかったら、確実に……。
こんなの、ファントムナイトの大軍勢を相手にしていた方が、断然楽じゃないか。
たった一人…………そのたった一人だけの相手に……全く勝てる気が、しない。
何か……方法は無いのか?!
少しでもいいから、僕が有利になる方法がっ!
考えろっ、考えなくちゃダメだっ!
このままじゃ……僕は死ぬっ!
「アリス……どうして、僕を狙う? お前に狙われる覚えが、僕には無いんだぞ?」
時間稼ぎをする為に、アリスへ会話を試みた。
言葉を話せるのだから……たぶん、会話くらい出来る、んだよな?
その間に、何か方法を考えなければ。
「そんなの、決まっています。私が寂しいから……独りは嫌だから……それだけです」
「……だ、だからって、殺す事は無いだろ? 死んでしまった人間を相手にしたって、虚しいだけじゃないか」
放っておけば、いつか人間は朽ちて果てる。
ただの人形やぬいぐるみよりも……死んでいる人間なんて、何も役に立たない。
そんな人間相手に、寂しさや孤独を紛らわす事は不可能だ。
「では、あなたがこの世界でずっと私と一緒に居てくれるのですか?」
「……そ、れは…………無理だ。ずっとなんて……根本的な問題として、人間は、食べなければ死んでしまう。この世界には食料が無い」
「だからこそ、殺します。この世界に留まる事が出来ないのであれば、無理矢理にでも留まらせるだけです」
「だから……それはさっきも言ったけれど、死んでしまった相手と居たって、アリスの言う寂しさは埋められないんだって」
「そんな事は試してみなければ分かりません。それで私の気持ちが埋まらないと言うのであれば、別の方法を、別の人間で試すのみです。どうですか? 私、おかしな事を言っていますか? 筋は通っていると思います」
試してダメなら、また別の方法……通っていると言えば通っているようにも思えるけれど、全く解決になっていないっての……。
「だから、私の為に死んでください」
時間稼ぎのつもりだったのに、アリスの言葉に耳を貸し過ぎてしまった。
何か、考えないといけないってのに。
「ま、待ったっ! もう一つっ! どうして僕なんだよ? 別の人間も襲っていたじゃないか? 僕に拘る必要は無いはずじゃないか」
他の人間を犠牲にして自分が助かろう、そう言う意味で質問をしたわけでは無い。
考える時間を稼ぐ為に、咄嗟に思い付いた事だけれど……問い掛けた自分でも、それは気になる事に変わりは無かった。
「初めて見た時から、決めていました。あなたがいいと。私はあなたが欲しいです」
そのくせ僕を殺すって?
これじゃあ、アナザー世界の鈴と言っている事が全く同じじゃないか。
レーデンヤの呪術式が絡むと、みんな同じような性格や態度になるってわけ?
発言と行動が真逆。
それとも僕の方が変だって事、なのか?
一緒に居たいから、相手を殺害する…………普通の事、なのか?
そんなわけがあるか……冷静になれ。
これは呪術式絡みの事だから、振り回されてはダメだ。
「そう言ってくれるのは、まぁ、悪い気はしない。でも、やっぱり一緒にはいられない……」
「そうですか」
僕の言葉を聞いて、アリスが動きを見せる。
それは……僕に対する絶望の言葉。
「……マジカルフォーミュラ」
アリスの身体が光に覆われて、足先から順に、装甲が装着されて行く。
とても綺麗で見惚れると同時に、絶望がドンドン歯止めを掛けずに膨れ上がる。
「やっと……本気を出せるようになりました……」
黒基調の洋服の上に、深い藍色の光沢感がある装甲を装着したアリス。
ゲームの中と全く同じ。
全身を覆うフルアーマーでは無くて、要所にアーマーを装着するのが魔法騎士のスタイルだ。
こんな状況じゃなかったら、目の前にゲームのキャラが存在するだけで歓喜出来るんだろうけれど……これは、ダメだ…………もし、何か策が思い付いたって……終わった。
「くふふ」
ドガンッ!
正面からとんでも無く思い一撃が、突然来た。
その一撃に成す術も無く吹っ飛び、ゲーム世界の中を盛大に跳ね転がる。
「うが…………な、んだよ……」
半分程はあった耐久値が、ほぼゼロ近くになっていた……たった一撃を浴びただけなのに。
目の前からアリスが姿を消した事さえ、捉えられなかった。
気付いた時…………いや、気付く事が出来ないうちにアリスの打撃を受けて、地面を盛大に転がっている最中でようやく、自分がアリスから攻撃を受けた事に気付いた。
変身前は目の前から“消えた事”を気付く事が出来たのに……アリスが変身した後の動きは見えなかった……見えない事も見えていない…………何もかもが認識出来ず理解出来なかった、そう表現する方が近い。
「くふ、ふふふ……きゃはははっ! 弱いっ、弱いですっ! あなたはもう、私に……殺されるだけですっ! アハハハハッ!」
「うっ!」
アリスの……あの、構え。
ゲームの中での魔法を放つ時のモーションと同じ。
避け切れる、のか?!
それとも同じように飛び道具を使って相殺するべきか?!
でも、ファントムナイト戦で消耗している状態では、相殺出来る程の威力があるとは限らない。
「塵になってください…………終わりです。黒の火葬華!」
「塵になったらそれこそ意味無いだろうがぁっ! ちくしょーっ!」
耐えられるのか分からないけれど、こうなったら打撃で相殺するしか無いっ!
残り少ない耐久値で耐え切れるかどうか。
「六道っ!」
右手を引き、下半身へ重心を落とし、身構える。
最大の攻撃力をイメージしろ。
対抗する物が間接攻撃の魔法だろうと消し去ってしまう、最大攻撃力の打撃をっ!
渦を巻きながら迫りくる、漆黒の火炎流へタイミングを合わせ。
「断っ、空っ、拳っ!」
ズドンッザザザザザッ!
「ぐぐぐぐっ!」
その威力に身体を一気に押されながらも、受け止める事が出来たっ!
後はコイツを……うぎぎぎぎっ!
くっそー、ゲームの中でもド派手なエフェクトだったってのに、実際食らうと、ゲームの見た目なんか、可愛い物じゃないかよっ!
「うぐぅっ! ぬぐぐぐぐぐっ、弾けろぉぉぉおおおおおおっ!」
渾身の力を込めて、思いっきり腕を振り切る。
ドガンッッッッゴゴゴゴゴゴゴ。
「…………しぶといです」
「おいおい、少しは休ませてくれ…………」
じょ、冗談キツイっての。
あの構え……連続しての黒の火葬華。
無理だ、こんなの……何回も受け切れるわけが無い。
「ふぅ……リ、リリカノさん……えぇっと、頑張るだけ無駄っぽいです……」
『どう頑張っても無理なのかしら?』
「アリスが強過ぎます……悔しいですけど、残念ながら……太刀打ち出来ません」
イメージした事を実現する能力は相当凄い。
普通の人間である僕が、飛び道具や高速移動、さらには浮遊と、本当にアニメやゲームのような動きが可能になるのだから。
でも、その力があっても、僕のイメージ出来る最大性能をアリスの基本ステータスが上回り過ぎている。
基本ステータスはとても重要な事。
それが相手と対比した時に低ければ、苦戦は必至だろうし、今のアリスと比べた場合、苦戦するどころか立ち向かうだけ無駄だ。
絶対強者。
超えられない壁。
次元の違う存在。
まさにそれは……チート。
いや、アリスにしてみたら変身能力は普通の事だし、チートって事でも無いのか。
有り得ないっての…………あれでもまた、たぶん本気じゃないのだから。
『帰って来ると言うのは嘘だったのかしら?』
「嘘……では無い、ですよ。その気持ちは本当にあったので……でも」
せっかくここまで頑張ったってのに、心が挫けてしまった。
あれだけリリカノさんに啖呵切っておいて……格好悪いな……。
『あなただって力を上げれば済む事でしょう? イメージの実現でそれは可能なのだから』
「そ、それはそうなんですけど……アリスの身体能力の基本ステータスが高過ぎるんです……どこまで高いのかそれすら未知数で……」
『そう、分かったわ。それなら、同じように変身しなさいな』
「え、いや、だから……イメージの実現でもたぶん、無理なんですって……足元にすら及ぶのかどうか」
変身と言うか、パワーを上げるのはきっと可能だと思う。
僕自身の体力を消耗する魔法力を上げ切れば……でも、それだって、一過性の能力に過ぎないし、基本ステータスの遥かに高いアリスは物ともしないだろう。
『私の言いたい事が伝わっていないようね。基本ステータスと言うのを上げたいのでしょう? だから、あなたもイメージでは無く、アリスと同じように変身しなさい、と言っているの』
「変身しろって……そんな能力、普通の人間である僕にあると思います?」
『ついさっきも言ったわよね? 私は出来る限りの事をする、と』
「それは覚えてますけど……」
『その装具に呪術式の干渉を利用したと言った事も?』
「はい」
『干渉を利用した。それは詰まり、その世界と同等の事が可能になるように、私は干渉を利用して調整したのよ』
「え……? え? えっと、それ……マジ、ですか……?」
『私だって鬼では無いわ。こんな時に変身能力があるなんて馬鹿な冗談を付いたりしないわよ』
本気、にして良いの、か?
な、なんなんだ、この人……神様、なのか?
創造神、なのかっ?
ゲームマスター、なのかっ?!
どれに属するかなんて分からないけれど、一つ言えるのは……とんでも無い人、だって事。
はは、この人も充分チートだわ……人間だってのに……。
でも、そのリリカノさんが言うのだから、ステータスアップは大いに期待出来る。
まったく……抗えるって分かった途端、挫けた心が“まだいける”って感じてしまうのだから、調子良過ぎる自分が恥ずかしいよ、ホントにさ。
「……ここまで来たんだ、アリスッ! 僕は絶対、お前に殺されたりはしないっ! ここからが本気で最後の勝負っ! 初っ端から全開クライマックスバトルと行こうじゃないかっ!」
A Preview
「初音くん、いーっつもそのジャージだけど、ちゃんと換えているの?」
「当たり前じゃないか。いつも同じ服だなんて有り得ないって」
「でも、アニメとか漫画のキャラクターはいつも同じ服装だよね?」
「知らないのか。あれは、同じ服を何着持っているんだよ。だから、毎回同じって事さ」
「んー、だからって、同じ服装は、なんだかなぁって思うよ」
「……鈴やリリカノさん、ここに来る時、毎回服装違うよな」
「それが当たり前だと思うけど?」
「この製作者泣かせめ。僕を見習え、私服姿の時は全部ジャージだぞっ!」
「女の子なんだから、もっとオシャレしようよ」
「男だってのっ!」
「あぁ、そうだったね」
「男ならジャージでいいわけっ?!」
「まぁ、いいんじゃない」
「…………どうでも良さそうな」
「考えてみてよ? いつかこのお話しのイベントが開催された時、来場する人全部がジャージ姿って事になっちゃうんだよ?」
「いやっならないからっ!」
「なるよー。服装はジャージって決まりだもん」
「バカなっ?!」
「私達、中の人も含めてみーんながジャージ」
「……前代未聞のイベントだわ」
「公式ジャージも作ろうよ」
「要らないからっ!」
「上下セットで三万円」
「高ぇよっ!」
「コスプレする人は楽でいいかもね」
「それコスプレしてるのか普段着なのか見分け付かないだろっ!」