No.009
四月二十一日。
午前二時過ぎ。
リアル世界。
途中、リリカノさんがバイクで僕を迎えに来てくれた。
リリカノさんのバイクは小さい見た目からは想像も出来無いくらい、力強く速い。
それにリリカノさん自身の運転技術がとても上手くて、バイクに初めて乗った僕でも全く怖さは無い。
教えられた事実は、戻って来れた嬉しさを一気に払ってしまうような事実。
僕が脱出した事で、文献に新しい記載が増えた。
その内容は、今度は高瀬がアリス達に狙われる側になる、と。
「あなたが出て来る時に使った教室のドア、そこからアナザーへ入る事が出来ると記載されているから、まずはそこへ向かいなさい」
「分かりましたっ」
自力で走るよりも短い時間で学校に到着する。
「じゃ、じゃあリリカノさん行って来ますからっ!」
借りたヘルメットを脱ぎ、リリカノさんへ一言告げ、例の教室へ向かう事にする。
「ちょっと待ちなさい。不足している説明をしておく必要があるのよ」
「走りながらさっきみたいに通信するのでは、ダメですかっ?」
「少しでもリスクを無くしておきたいのよ。呪術式の世界なのだから、今度入ったら通信が可能だとは限らないでしょう?」
「……くっ、そう、ですね」
一秒でも早く向かいたいけれど、リリカノさんの言う通りだ。
説明をちゃんと聞いておく必要がある。
「まず、文献に記載が増えた後、出口となっていた教室からアナザーへ私も入れるか試したのだけれど、無駄だったわ」
「そう、ですか……」
リリカノさんも一緒に入れるなら、これ程心強いモノは無いのに……。
「通信機器一式と装具はその教室へ移動してあるから、あるだけ少しはマシでしょう」
「すいません……面倒ばかり掛けてしまって…………」
「何を言っているの。大変なのはあなたの方なのだから。それに、出来る限りの事はすると言ったでしょう?」
「ホント助かります」
リリカノさんが入れないのは残念だけれど、それでも凄く心強い。
「そしてここからが重要な事。今度は脱出方法も明確に記載があったの。この学校には、正門と裏門の二箇所、校門が存在するわよね? 生徒玄関から出てその二つのどちらも出口になっているから、高瀬さんを見つけ次第、どちらかに向かいなさい」
「まったく……変なところで親切なのが余計、頭に来ますよっ」
「それが狙いでもあるから、冷静に対処なさい。高瀬さんを助ければ、きっとあなたの勝ちよ。伝えるべき事は以上だから、気力を振り絞って頑張って来なさい」
「分かりました。それじゃあ、行って来ます」
「あぁ、これ、ささやかだけれど」
「栄養ドリンク?」
「気休め程度にはなるでしょ」
「いえ、ありがとうございますっ! ちょうど喉も渇いていたし……いただきますね」
リリカノさんから貰った冷たい栄養ドリンクを一気飲み。
わざわざ買って来てくれたのかな?
「くぅ不味いっもう一杯っ!」
「それだけよ」
「いえ、言いたかっただけなので……」
「あなた、将来コメディアンにでもなりなさいな」
「いやですよっ!」
「ほら、さっさと行く。時間が無いのだから」
「ですね。よしっ、今度こそ本当に行って来ますっ!」
「ええ、頑張りなさい」
リリカノさんに手を上げて、アナザー側から出て来た時の教室へ向かう。
あぁっもぉ、姿が女になって小さいから、男の時よりも随分走る速度が出ないっ!
目指す教室へ向かう時、アナザー側でアリスが破壊した教室の前を通ったけれど、壁は一切壊れていなかった。
ホント、どうなってるんだよこの呪術式はっ!
ガラッ!
目的の教室のドアを開けて、教室内に入る。
「アナザー、になったのか……?」
なったような感じは無いし……。
文献に記載されていた事が、まさか嘘、だったとか?
冗談じゃないぞっ、そんな事されたら絶対お手上げじゃないかっ!
「どうしたらいいんだよ……?」
もう一度入りなおせばいい、とか?
どうするっ?!
リリカノさんの所へ戻って指示を貰った方がいいか?!
「……あ」
教室の教卓の上……通信機器と装具がある。
ピリリリリリ、ピリリリリリ。
スマートフォンから着信?!
急いでヘッドセットを耳に掛けて、通話ボタンをタップする。
「もしもし、リリカノさん?!」
『どうやら通じるようね』
「あのっリアルなのかアナザーなのか分からないんですよっ!」
『落ち着きなさい。教室から一旦出て、アナザーであれば、アリスに破壊された教室の痕跡があるはずだから』
「そっそうかっ!」
指示通り教室から外へ出ると。
「アナザー、側だ…………」
破壊された壁、その前に散らばっている壁の破片が確認出来る。
それなら早いところ、高瀬を見つけないとっ!
とりあえず、高瀬を眠らせた教室……C棟へ向かうか。
アリスとファントムナイトの事も気にしなくてはいけないけど、悠長な事はしていられない。
「一気に走って行くしかない、か……高瀬が心配だし」
装具を装着し出来るだけ慎重に、限り無く速くを心掛けて目指す教室へ向かう。
「っとと……こっちはダメか……」
ファントムナイトが数体……動作が遅いと言ってもさすがに四体もいる廊下は選べない。
「少し遠回りになるけど仕方無い……場所を変えよう」
後少しだってのにっ!
頼むっ、教室にまだ居てくれよ、高瀬。
絶対に連れて帰ってやるからな。
A Preview
「初音さん、ゲーム化が決まったわよ」
「…………のっけから突っ込みたい事はありますが。で、どんなジャンルなんです?」
「突っ込みたい? 何を言っているの、あなたには突っ込めるXXXが無いでしょう」
「何でもかんでも卑猥な方向に捉えるのは、ただのえろおやじですよっ!」
「えろおやじで結構」
「くぅぅぅ、見た目が美少女だからって余裕しやがってぇぇ……ま、まぁ、いいでしょう。それで、こんなストーリーをどうやってゲーム化に? 出来る要素なんて全く無いじゃないですか」
「あなた、この前、心がぴゅんぴゅんするんだぁ、とかって言いながらゲームをしていたわよね?」
「ぴょんぴょんですっ!」
「同じでしょ?」
「ぜんっぜん違いますよぉっ!」
「あぁ、そう、はいはいぴょんぴょんね」
「もっと弾けるようにっ!」
「うるさいわね」
「ひぎぃぃっ! また目がぁぁぁぁっ! 目がぁぁぁぁっ! そして、目~ガ~」
「……」
「分かります? とあるゲームメーカーのゲームを起動すると、メーカー名が音声で流れるんです……目~ガ~…………すいません、調子乗りました。すいません、そんな目で見ないで……見ないでよぉっ!」
「ジャンルはVRゲームよ」
「頑張ってボケてるんだから少しは構いましょうよっ! え? VR?」
「ええ。この世界をVRゲームにすれば、ホラーとして成り立つでしょう?」
「なん、だと?! コイツ、出来るぞっ!」
「それで、ゲームオーバーは即、死亡。ゲームを起動出来なくなるわ。なんて、心がぴょんぴょんするゲームでしょう」
「しませんからっ! 心、ぴょんぴょんしませんからっ! あ、どこかのゲームメーカーさん。VRでぴょんぴょんのゲーム化、お願いしまーすっ!」
「あなたも結構なやり手ね……あぁ、そうか、幼女だからやり手と言っても」
「わーわーっ! 何度も言うと本当に怒られますから禁止ですよっ!」