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始動!合唱部  作者: 兎春ミナ
青い涙
2/2

演劇部始動

5月とうにすぎてる

【春】

《5月》

《【記録者アズサ】》

 徐々に暑くなる気温。私はお兄ちゃんと学校へ向かっていた。

 "そういえば、あの忌々しい入学式から約一月経つんだよな"と思った。時間がたつのは早いな。何故忌々しいかというとそれはお兄ちゃんが生徒会長からの来賓ご挨拶及びに意気込み発表の際にお兄ちゃんが97回も噛んだからである。恥ずかしいやら何やらで見ていられなくなったのを覚えている。

 本来ならば息の根を止めておきたい気分だが、お兄ちゃんには借りがある。先日、生徒会長となったお兄ちゃんに部活を作って貰うという大きな借りだ。それに、私は機嫌が良い。10発で勘弁してやろう。

 今日はゴールデンウィーク。なのに私は学校へ向かっている。普通なら最悪だ。先程の話だが、何故機嫌が良いかというと今日から念願の部活スタートするからだ。

 学校へ着いた私は雫に話しかけた。

「おっはよーしずく~。今日からだね~」

「そうだねー。あっ。ところで聞きたいことあるんだけど」

「なになにー?」

 なんだろう?

「部室どこ?」

「あっ」

 お兄ちゃんは焦った顔をして

「やべぇ。伝えるのわすれてた」

 やはり、息の根を止めてやろう。

「え?アカハとレナはもう学校の中に入っていったよ。だから、私だけ聞いていないのかと、結局どこなの?」

 雫が焦りながらお兄ちゃんに聞く。

「第三音楽室だ。アイツら分かるかな。くそ!ミスったぜ」

 とりあえずぶん殴っておいた。一発しか殴らなかったのはお兄ちゃんが生徒会長の職務で頑張っていることを配慮した結果だった。どうやら生徒会長の仕事は6月までに生徒会役員を定めること。そして、各部の予算を決定することらしい。コミショーのお兄ちゃんにとっては、ちょっとハードすぎると思う。

「お前ら。第三音楽室の場所を知ってるか?」

 知るわけがない!

「私は知らないけど、あずちゃん知ってる?」

「知らないよ」

 知らないのも無理はない。なぜなら、第三音楽室は音楽の授業ですら使ったことがないからだ。音楽の授業は第二音楽室を主に使っている。だから私はちょっとワクワクしている。知らない場所を行くのはワクワクするものだ。私は案内してくれると言ったお兄ちゃんの後ろへ雫と共に続いた。

 第三音楽室に着くとそこには塚本先生が昼寝していた。どうやら待ちくたびれたらしい。しかし、赤葉と玲奈の姿は見当たらない。

「居ねぇな... 」

 ボソッとお兄ちゃんが呟くと雫はニヤニヤして「アヤト君のせいだよ~」と言った。

「だよな... ゴメン... 」

 お兄ちゃんは荷物を第三音楽室に投げ捨てて「探してくる」と言って廊下を駆けていった。

 ほっとけばそのうち来るのに。そういえばお兄ちゃんは昔から無駄に責任感が強いことを思い出した。コミショーのくせに。

 お兄ちゃんが出ていった数分後、第三音楽室の扉が開いた。赤葉と玲奈ちゃんだ。

「やっと見つけた!」

「場所ぐらい教えろ。アヤト...ありゃ?アヤトはどこだ?」

 赤葉が聞くと

「君たちを探しに行ったよー」

 雫が笑いながら言った。

「嘘!?うわっ」

 赤葉は頭を押さえた。

「また入れ違いになっても困るし、待つしかないね」

 私が告げると皆が賛成した。



 一時間後、ようやくお兄ちゃんが足を引きずりながら教室に戻ってきた。

「ゴメン。どこにもいな、って、いるじゃん!?」

 珍しく声を張り上げたお兄ちゃんに私は「おつかれ」とだけ言った。

「よし。みんな揃ったし、練習開始だ!」

 雫が塚本先生に駆け寄って

「先生。起きてください」

「おおう。ン?何か練習開始遅くねぇか?」

「気のせいです」

「よし。それじゃあ始めるぞ?え~と。これなに部だっけ?」

「演劇部です」

「そうそう。で、君たちに聞くけど、演劇とはどういうものだと思う?アカハ!」

 いきなり当てられた赤葉は暫し考えてから

「劇を演出することです!」と言って先生を、どうですかっと いう目で見ている。

 塚本先生は「そういうことを聞いたわけじゃないんだけどな、まぁ。間違ってはないかな。次、雫!」と言った。

「見てる人を喜ばせるものだと思います。」

「そうそう。俺はそういうのを聞きたかったんだよ。次、玲奈」

「私は、そういう難しいことはわかんない。アヤトにパス!」

「遠慮しとく」

 即答。先生も苦笑いだ。

「え~え~と。じゃあ、梓」

 えっ?私?

「誰もが楽しめるものだと思い...ます」

「OK。じゃあ答えを発表する!」

 ゴクリ

「実は答えはないんだ」

「は?」

 思わず口が滑った。

「あっすみません」

 私が謝ると塚本先生は笑いながら

「気にしなくて良いよ。で、さっきの話なんだけど答えはないんだ。なぜなら、人の考え方には色々あるからね。因みに僕も始めは赤葉と同じ言葉を言ったよ」

「... 」

 この先生ホントに大丈夫だろうか。なぜか赤葉はガッツポーズを決めている。

「じゃあ次の質問だ」

「まだあるんですか?塚本先生」

 私が聞くと塚本先生は

「塚本は...なんか嫌だな。なつ先生で良いぜ?」

 どーでもいい。話が脱線している。話を戻さなくては。

「で、質問は何ですか?」

「良い質問だね」

 なにこの先生。ムカつく。

「ん~とじゃあ、君たち。演劇とは何をやることだと思う?」

 すると玲奈ちゃんが手をあげて

「おとぎ話とか既存の物語じゃないの?」と聞いた。

 私も玲奈ちゃんと同じ意見だ。

「うん。そうだ。だけど演劇は既存の物語を使わなくても良いんだ」

「意味がわかりません」

「簡単に言うと、自分達で物語を作っても良いってことだ。君達の中で物語を作る人っていうか、文章を作るのが得意な人いるかい?」

 雫の肩がビクッと跳ね上がる。

 私はそれにあえて気づかないフリをした。

 誰も質問には答えないので夏先生はガクリと肩を落として残念そうにOKとだけ言った。

「じゃあ最後の質問だよ。」

「まだあるんですか?」

 私がうんざりとした顔でぼやくと

「まぁまぁ、落ち着けよ。」

 お兄ちゃんに言われたので、とりあえず殴っておいた。

「君達、5人で何をやるの?」

「へ?」

 条件反射で思わず口が。

「演劇じゃないの?」

 玲奈ちゃんがあくびをしながら答える。

「だから、5人だと足りなくね?シンデレラも出来ねぇぞ?」

「嘘!?」

「ホントだって」

「じゃあ、演劇部の当分の課題は部員集めってこと?」

 玲奈ちゃんが呟くと

「そういうことになるな。まぁ、そこら辺は面倒だから、後回しだな」

 そう言って、塚本先生は職員室へ戻っていった。



 今日の部活はそのまま解散となった。何もやってないような気がするのは私だけだろうか?私は雫と話したいことがあったので一緒に帰ろうとしたお兄ちゃんを追い払って二人で自転車を取りに行った。

「ねぇ、しずく?」

 雫はビクッとなった。

「なに?あずちゃん」

「あのことは言わないの?皆に」

 暫しの沈黙のあと雫は

「わかんない...」と呟いた。

「そっか。分かった。大丈夫!私からは皆に絶対に言わないから!」

 自信満々に私が言うと

「ありがとう」と言って雫は ただ笑った。

「うん。じゃあそろそろ帰ろっか?」

「うん!」

 私たちは二人で自転車に乗り駄弁りながら帰った。

 家に帰った私はすぐさまベッドに転がり込んだ。

 

 フゥ。何か今日なにもやってないのに疲れたな...何でだろ。

 そんなことを考えてるうちに私の意識は落ちていった。




 チュンチュン。雀の声がする。太陽が眩しい、あれ?今何時?

 ベッドから起き上がりながら時計を見た。8時21分。どうやら、私はカーテンもせず寝てしまったようだ。何か重要なことを忘れてる気がする。

 昨日、夜ご飯を食べ忘れたこと。多分違う。

 あっ。シャワーも忘れた。今すぐ入ろう!きっと重要なことはシャワーを浴び忘れたことだったんだな。一人納得して浴室へ向かっていった。



「う~ん。気持ちいい~♪」

 1日ぶりのシャワーはサイコーだった。

 でも何か違うような...思い出せない。まぁ、いっか。そういえば昨日結局部活してないな... ン?部活?

『あー!』


 今日9時から部活だった。なに呑気にシャワー浴びてんだ。私のバカ!

 私はすぐに浴室を出て制服に着替えた。時刻は8時59分。マズイ。マズイ。マズイ... 私は鞄を持って家から出た。多分忘れ物があるだろうが関係ない!家を出た私はすぐに自転車に乗り全速力で学校へ向かった。こういう時に限って信号に引っ掛かる。

 "間に合え!時よ止まって!"そう念じた。

しかし、時が止まるわけもなく学校へ着いたのは9時5分だった。私はテンパりながらお兄ちゃんに昨日教えてもらった第三音楽室を目指した... はずだった。



「あれ?ここどこ?」


 迷ってしまった。ヤバイ!何故校舎なのに分かれ道があるの!?昨日お兄ちゃんはどっちへ行ったっけ?思い出せない。私は自分の運を信じることにした。


 結果、私が間違っていた。高校の中を走り回ってようやく第三音楽室の前に着いた。時刻は10時ジャスト。1時間の遅刻だ。

 怒られるだろうな。

 いっそこのまま帰ろうかな。ええい。女は覚悟だ! 



 私は第三音楽室の扉を開けた。

「やぁ。梓さん」

 不気味な笑顔をした夏先生が立っていた。その周辺には何故か必死に腕立てしてる皆。

「夏先生。おはよう!あれ?皆どうしたの?」

 不気味な笑顔に気づかないフリをしてその場をやり過ごそうとした。

「皆には軽く筋トレをやってもらったんだよ。演劇には体力も必要だからね。腕立て100回×2セット、腹筋100回×2セット、グラウンド声だしランニング20周」

 イヤイヤ、まてまて。軽い筋トレのレベルじゃないぞ!?

 私が驚いていると夏先生は笑顔で

「梓さんは1時間の遅刻だ。だから、彼らの4倍やってもらおうかな?」

 4倍!?腕立て800!?腹筋800!?ランニング80周!?そんなの無理に決まってる。

「さぁ。楽しい筋トレの開始だ!」

 夏先生は笑いながら言った。この先生ドSだ。

「ぎゃーっ」

 音楽室に私の悲鳴が響き渡った。




 ダメだ。腕がもう動かない。部活終了後の清掃活動時、私は既に瀕死状態であった。体力には自信があったのだが... もう無理だ。立っているのもやっとの状態だ。こんなに疲れるのは生まれて始めてかもしれない。

 私がぐったりしていると、雫が

「次は遅刻しないようにしなよ?」

「ウン。もう...二度とこんな思いはしたくないからね...」

 すると、夏先生は「次遅刻したら今日の2倍だからね?」と告げて職員室へ帰っていった。

 2倍とか。死刑宣告された人ってこんな気持ちなんだな。

 先生がいなくなったことを確かめると私は皆の方を向いて謝罪した。

「ゴメンね。皆、私のせいで今日、筋トレだけで終わって」

 そうなのだ。私のせいで皆は今日、演劇の練習ができなかった。それどころか夏先生に「連帯責任な」と言われ、私の筋トレが終わるまで皆も筋トレをさせられていたのだ。合わせる顔がない。

 ところが皆は笑って

「次からはしっかり頼むぜ!?」


「まぁ。人間誰しも忘れることはあると思うよ?」


「ウン。だから、あずちゃんが落ち込まなくても良いんだよ?私だって遅刻するかもしれないし!」


「イヤ、自慢して言うなよ!?」


「て、ことだ。梓。ここにはお前を責める奴なんて元から居ないさ。次からは気をつけろよ」


 お兄ちゃんの台詞に私は衝撃を受けた。

何でだろ?涙が溢れ落ちた。目が滲む。仲間って良いなぁ。だけどね。私思ったんだ。

 お兄ちゃんが家を出てく前に声をかけてくれたらこんなことにはならなかったって。

 とりあえず、お兄ちゃんの頭をぶん殴った。


「何でだよ!?」

「何となく?」


 別にお兄ちゃんは悪くはないと思うから一応謝っとく。心の中で。

「じゃあそろそろ帰るか」

赤葉が言うと皆が同調した。



 帰り道、私はお兄ちゃんと二人で自転車をこいでいた。遅刻しそうなので咄嗟に自転車に乗ってきてしまったが中々良いものだ。明日からも自転車で行こう。

 雫は用事があるからと言って先に帰ってしまった。多分、例の仕事関係のことだろう。

 お兄ちゃんとは、一言も話すことなく家に着いた。私はすぐに自分の部屋に入って1冊の本を取った。

 作者 宮咲葵の本『蒼い大地』だ。宮咲葵の本は1冊1冊が物語で、どの物語も内容が濃くておもしろい。中でもこの『蒼い大地』はベストセラーにもなった宮咲葵の代表作だ。近々映画化も決定しているらしい。

 言うまでもなく宮咲葵は人気作家だ。ファンも大勢いる。

 私は「はぁ~」と溜め息をして、夜ご飯があるリビングへと向かった。

 夜ご飯を食べた私は浴室へと向かった。本日2度目のシャワーだ。やっぱりシャワーは気持ちいい。 1日の疲れを癒してくれる...イヤ、あんまり癒されないな。もう眠い。早く寝るとするか。

 浴室を出た後、すぐに自分の部屋に戻りベッドに転がった。今日は疲れているから早く寝れそうだ。おやすみ...。



「もう無理休もうよ」

「まだ10周残ってるよ?さっさと終わらせて早く練習やろうよ?」

「あずちゃんは凄すぎるよ...」

「さぁ。雫!スピードアップしていこう!」

「えっ!?」


 5月の第2週目。私たちが入部して約3週間たった。未だに演劇練習には入れず、筋トレをやってから発声練習という順番で部活動を行っている。今は筋トレ(基礎練習)?の最中だ。

 夏先生には悪いけど、当たり前のように運動部と同じぐらいの筋トレをさせるのはホントにやめてほしい。私は平気だけど皆がついていけないからだ。このままでは退部する人も出るだろう。


 それだけは阻止しなければ。


「私もうギブ」

 ついに玲奈ちゃんがギブ。

 ちなみにお兄ちゃんはとっくの昔にギブアップしている。多分、2周目くらいでギブアップしたと思われる。

 ギブアップ出来るならすれば良いじゃん?と思うかもしれないが、ギブアップをすると残っているのが1周につき腕立て伏せが50回増えるというペナルティーが付いている。普段の腕立て伏せでもギリギリなのに...私にとって腕立て伏せをやることよりも走ることの方が楽だ。それは赤葉も同じようで、必死に走っている。今現在走っているのは私と赤葉と雫のみとなった。

「はぁ、はぁ、後4周だよ!」

「ふぇ!?まだそんなに!?」

 泣きそうな雫。可哀想。

「ラストスパートだ!」

 赤葉がスピードアップする。

「私たちも頑張ろ?」

 雫は苦しそうな顔で「そうだね」と返した。



 走り終わって音楽室に戻るとお兄ちゃんと玲奈が必死に腕立て伏せをしている。お兄ちゃんは2周しか走ってないから腕立て伏せは... 50回×18だから・・・900回!?

 終わったな。お兄ちゃん。ご愁傷さまです。

 玲奈ちゃんは残り6周で力尽きたから300回か。お兄ちゃんの3分の1。そう考えると少ないように思えるがお兄ちゃんの回数が異様に多いだけなので実際は少なくない。

 (玲奈頑張れ!)と心の中で言って私たちは発声練習に移った。

 夏先生が指示を出す。

「まず梓から大声出して!」

 私が大声を出すと先生はOKと言った。

「次。赤葉。」

 赤葉が私の5倍ぐらいの大きさの声を出した。イヤ、これは大声を出すというよりは叫んでると言った方が良いかもしれない。

 夏先生もそう思ったようで困った顔をしている。

「赤葉。叫ぶと大きな声を出すのは種類が違うぞ?もう一回やってみような?」

「了解です」

 赤葉はさっさと同じように叫んだ。どうやら、伝えたことが分かってないらしい。

 夏先生は、ガクリと肩を落とした。

「先生!どうですか?」

 何故かドヤ顔の赤葉に夏先生は苦笑いしか返せなかった。

「赤葉は後で個別レッスンな?」

「ええっ!?なんで!?」

 驚く赤葉を無視して夏先生は「次!雫!」と頭を掻きながら言った。

 雫は少し恥ずかしがりながらも大きな声を出した。

「良いじゃん!梓と雫は筋が良い!プロになれるかもね~」

 夏先生が笑いながら言った。

「先生が言うことは信用なりません!」

 私が言うと夏先生は「酷い!」と言って泣いたフリを始めた。


「先生、どこがダメだったんですか?」

 赤葉が夏先生に問う。イヤ、自分で気づけよ。夏先生は呆れた顔をして


「自分で気づけよ!って梓さんが......」

「えっ!?なんで?もしかして夏先生は超能力者?」

「テキトーに言ったんだけどホントにそう思ってたんだね......」

 かぁーと顔が赤くなる。

「自分で分かんないから聞いてるんですよ~教えてくださ~い」

 赤葉が笑いながら言った。

「多分、赤葉は腹から声が出せてないんじゃないかな?」

「は?声は喉から出すもんじゃないんですか?腹が鳴るってことと同じですか?」


 ブフッ。


 夏先生は思わず噴いてしまった。

「赤葉。やはりお前は個人レッスンが必要なようだ。一緒に第一音楽室に行こう」

「えっ!?えぇっ!?なんで!?」

 頭にクエスチョンマークが大量に浮かんだ赤葉を夏先生は強引に第一音楽室に連れていった。

「嫌だッ~放せッー」

 赤葉の叫び声が聞こえてくる。徐々に遠くなる叫び声を聞いて「乙です」と、小声で呟いた。

「どうする?先生行っちゃったし。帰る?」

「綾斗君達が筋トレ終わるまでは帰らないでおこうよ」

「ウン。OK。けどこれ後何時間かかるかな.」

 お兄ちゃんの方を見ると、ちょうど100回終え、休憩しているところだった。

「後1時間くらいで終わるんじゃない?」

 雫が言うとお兄ちゃんは「無理だろ!?」とソッコー返した。

「無理でもやれ!」

 私が拳を握りながら告げるとお兄ちゃんは少し躊躇いながら「はい」と言い、休憩を止め、また腕立て伏せを始めた。

 玲奈ちゃんは後10回で終わるようで「お先に」とお兄ちゃんに向かって笑いかけた。


─1時間後

「...898....899...900!ハァハァ。もう無理だぜ...」

 そう言ってお兄ちゃんはドサリと床に倒れ込んだ。

 おぉ。ホントに1時間で800回を終わらせた。凄い!普段は500メートル歩くだけでもう力尽きるのに。

 人っていうのは自分の命が危険を察知すると普段の力の何倍の力を出せる生き物らしい。もっともお兄ちゃんだけかも知れないが。

「すごい、ホントに800回を1時間で.. 」

 雫が感嘆の声をあげる。ウン。同感だ。

「ハァハァ。さぁ。......帰...ろう......ぜ? 」

 お兄ちゃんは立ち上がろうとするが腕と足に力が入らないみたいで起き上がれない。

 ちょっと悪ふざけがしてみたくなった私は雫にお兄ちゃんにも聞こえるくらいの声で話しかけた。

「雫。もう1時間たったから行こうか?」

「えっ!?綾斗君は!?」

「置いてっても死にはしないよ。」

「おい......待て...梓!それが......腕立...て伏せを必.死に..1時...間で...終わ. らせ...た兄に.対す...る態度か!?」


 ウン。もういい、喋るな(笑)

 必死すぎるお兄ちゃんを見て私は少し反省した。もう悪ふざけは止めておこう。

「ジョーダンだよ。そんなこと私が言うわけないじゃん!」

「梓ならフツーに言うだろ......」

 ドゴォ。お兄ちゃんから凄まじい音がした。つい本気で殴ってしまった。反省してる。お兄ちゃんは一発ノックアウトだ。ノックアウトされたお兄ちゃんを見て雫はオロオロしている。玲奈ちゃんは何時の間にか机にうつ伏せて寝ていた。何とも凄まじい光景だ。うるさかった音楽室が音1つ無い空間へと生まれ変わる。誰かこの空気を何とかしてくれ。

 ガラガラ。不意に響いた音に私は少しビックリした。見ると赤葉が目の前の光景に茫然として音楽室の入り口付近に立ち尽くしている。ドサッと赤葉の手から荷物が落ちる。

「あの..お取り込み中、スミマセン...お邪魔しました...」

 赤葉は体を小さくしながら、そそくさに帰ろうとした。

「イヤイヤ、お邪魔じゃないよ!?お願いだから帰らないでよ...このバカ兄起こすの一緒 手伝ってよ...」

 私の必死の嘆願に赤葉は胸を張って

「アズサちゃんの頼みなら仕方ない。俺に任せとけ!」

 赤葉はお兄ちゃんの肩を掴んで無理矢理立たせ、そのままお兄ちゃんを背負った。なんだコイツ...。

「よいしょ。ン?意外とあるな...ぐぅ...」

 よろけながらも何とか赤葉はおんぶに成功した。

「じゃあ。家までよろしくね~!」

「えぇっ!?そういうのは普通、家族であるアズサちゃんがやるもんでしょ!?」

 赤葉の顔が歪む。

「だって私、自転車通学だし。お兄ちゃんの自転車も持って帰らなきゃ行けないから往復しなきゃならないし。そもそも女の子だし!」

 私がそう言うと

「そうか......そうだよな......女の子にこんな奴おんぶさせちゃダメだよな......こんな童貞変態自慰行為野郎をおんぶさせちゃダメだよな......」

 赤葉は呪文を唱え始めた。何か怖い...はっきり言って常人が見たらすぐ通報するレベルだ。

「あれ?そう言えば赤葉。夏先生は?」

「... 何か用事があるって言って職員室に帰ったぜ。うっ......重い......じゃあ俺は...アヤトをおぶってかなきゃ...いけないから...先に行くぜ......くっ...」


 足取りがフラフラだ。階段から落ちるんじゃないか?

「あっ。雫!私もお兄ちゃんの自転車を家に置いてこなきゃいけないからもう行くね!待ち合わせは...いつもの場所で!」

「あっ。うん。私はレナちゃんを起こしてから下に行くから。行ってらっしゃい」

 音楽室を出た私は全速力で廊下を駆け抜ける。意外にも既に赤葉達の姿はなかった。先に行ったのだろうか?

 そのまま私はお兄ちゃんの自転車に乗り家に帰った。家まで全力で自転車を漕いで約5分。そのため私が家に着いてお兄ちゃんの自転車を置くまで大した時間はかからなかった。

 お兄ちゃんの自転車を置いた後、私は走って学校へ向かった。私は走るのが好きだ。走ると自転車に乗っている時とはまた違う風を直に感じることができる。

 走るのサイコー!

 全力で走っていたためか学校へ着くのに7分しかかからなかった。新記録だ。

 学校へ着くとすぐに私は自分の自転車に乗り、雫との約束の場所へ向かった。

 約束の場所へ着くとそこには雫と玲奈ちゃん。更には赤葉。そして完全復活したお兄ちゃんが待っていた。お兄ちゃんは笑いながら寄ってきた。

「梓、おかえり」

「お兄ちゃん、御愁傷様」

「なんで!?」

「何となく」続けて「今日は歩いて帰らなきゃいけないよ?ファイト」と言った。

「うぐっ...そうだった。最悪だ。でも、ありがとな?俺のためにやってくれたんだろ?」

「そりゃね。ノックアウトさせたの私だし」

「まぁ、そりゃ、そうだけど......それでも俺のために動いてくれたんだろ?何て言うかありがとう」

「ウン。これからはあまり殴らないようにするよ」

 学校では。

 私達の会話を黙って聞いていた皆は苦笑いをしている。今は午後1時。今日の練習は朝から始まっていたので皆ご飯を食べていない。これ以上待たせるのはさすがに気が引ける。

「よし。そろそろ帰ろうか?」

 私が言ったときだった。

「おーい。君たちまだ帰ってなかったのか~?」

 夏先生が伸びをしながら昇降口から出てきた。

「今から帰る所ですよ夏先生」

「じゃあ、内容だけ伝える」

「何ですか?」

私が急かすと

「7月1日に校内演劇をやることになった。その関係で次回から演劇の練習に入る」

「マジで!?」「ようやく!?」「やったー!!」

 皆から歓声の声が上がる。だが、私は素直に喜べなかった。それは、疑問があったからである。

「なんで校内演劇をやることになったんですか?」

 後ろに立っていた雫が手を挙げて質問する。

 さすが雫!

 私もそれが聞きたかったのだ。

足がぁ足がぁ

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