[09] 異世界召喚
どれくらいの時間が経っただろうか。
魔法陣に吸い込まれ、光の洪水に身を晒された。
上下すらわからない感覚の中を漂い続けた。
それが一瞬だったのか、永遠に近い時間だったのか。よく思い出せない。
目を開いたら、巨大な宮殿にいた。
驚くほど高い天井に、緻密な意匠をあしらった支柱。
壁には見たこともない図柄の長旗がかけられており、ふわふわと不思議な光る球体が室内を照らしている。
そして、瞬きを繰り返す俺の前には、嬉しそうな笑みを浮かべる少女が立っていた。
「――ようこそ、ルーベリシア王国へ!」
向日葵のような明るい笑みを浮かべている、金髪の少女。
見たこともない、修道服のような格好をしていた。
コスプレか? いや、それにしては、妙に堂に入っている。
外国人っぽいが、日本語は通じるのか――って、向こうの言葉も日本語だったな。
「……誰だ、お前?」
「わたくしはリリミィ=アーク=ルーベリシアと申します。ずっと、あなたを探していたのです」
両手を胸の前で組みながら、リリミィと名乗った少女がそんなことを言う。
「あらゆる次元、あらゆる世界を探していた中で、あなたが最も強く反応しました。わたくしの形成した魔法陣が、あそこまで強烈に反応したのは、あなたが初めてです」
「魔法陣……? もしかして、あの花火のことか?」
確かに、あれは魔法陣っぽかった。
花火でこしらえるには、ちょっと精巧過ぎだ。
あれか、プロジェクションマッピングとかってヤツか?
でもあれって、映す先のものがないとダメなんじゃなかったっけ?
「あれは、強力な魔力の器を持った者にしか、見ることすら叶わないものです」
……まりょく?
まりょくって、魔力か?
この子、大丈夫だろうか。もしかして、コスプレをした中二病の子なんだろうか。可愛いのになんて残念なんだ。
そんなこちらの考えなど露知らず、といった風体で、リリミィは歩み寄ってきた。
「ベルフェリズム・サークル――鳳凰定理と呼ばれる、古くから伝わる勇者様を探すための魔法。これまでも魔王が復活する度に、我々は勇者様を召喚しておりました」
「……勇者?」
「はい」
「誰が?」
「あなたが」
「何で?」
「魔法陣があなたを選んだからです」
意味がわからない。
そういうプレイなんだろうか。それにしては、リリミィの顔が妙に真剣なのが気にかかる。
っつーか、結局、ここはどこなんだよ?
「今、この世界は三百年ぶりに復活した魔王により、滅亡の危機に瀕しています。五つある大陸のうち、既に三つが魔王軍に占拠されています。我が王国に魔の手が伸びるのは時間の問題です」
俺が知る限り、大陸は七つあるはずだ。
ここがユーラシア大陸の東にある島国じゃないってことが、理屈じゃなく感覚的に、理解できてくる。
リリミィはいよいよこちらの胸元にすがりついてくると、潤んだ瞳で俺を見上げてきた。
「お願いします、勇者様! どうか、どうかこの世界を救ってください!」
「ざけんな。イヤだ」
以上。話は終わった。




