5話 作戦開始 その2
5話
家の周りの掃除が落ち着いたので椿さんと話していると椿さんは不思議な人だった普通に話しているときは自分の事を僕と言って大人みたいな落ち着いた話し方なのに対しさっきみたいに動揺すると自分の事を俺と言ってしゃべりも少し荒くなる。無理に大人っぽく振る舞っているのだ。
話を進めて行く中で椿さんに今回の目的を訊かれたのでお礼と今回の事情を話した。
「そうなのか、ヒナタ君は今恋をしていて、好きな人に相応しい人に成る為に頑張っているわけか、立派なことだ。若くして恋の狩人となり、己の未熟さに目を背けず前に進もうとする心、立派だ。懐かしいな僕もかつて歯を食いしばり辛い現実に立ち向かったものこともあった、だが諦めなければ思いはきっと届く、そう信じ僕はついに美しきマーメイドを捕まえたのさ。それに僕と君は同じ恋の狩人じゃないか、お礼なんて水臭い物なんて不要だよ。それと僕はマーメイドを捕まえたことで恋の守り人になったんだ、だから僕は君が恋に破れる事のないよう君も守るのは当たり前の事だ」
椿さんはそう言うと俺から少し離れた所で空を眺めてから空に手を伸ばして真剣に何かを考えているようだった。
俺は椿さんの難しい言葉を思い出しながら、一度勢いに乗ると勢い良く話すのは葵に似ていて流石兄弟、そっくりだとおもった。
椿さんが言っていることは難しくて俺には分からない部分もあったけど葵の時と同じように信じられるそう思ったんだ。
「恋の狩人…」
なぜだろうこの響きは俺の胸を高鳴らせる。
「僕は恋の狩人、美しい春を捕まえる」
俺は小さく呟く。なんだろうこの言葉、今自然と口から出てきた言葉だ、でもこの言葉は俺に力をくれると俺の魂が教えてくれる。
「俺は恋の狩人、美しき春を捕まえるぜ!」
俺が強く叫んだ時、笑顔で俺と椿さんを見ていた葵が顔色を変えてこっちに駆け寄って来た。
「どうして、兄ちゃんと同じようなことをいってるの?」
すごい焦ったように言ってきた。
「俺の魂が力をくれる言葉だと教えてくれたからだ、それにしても葵は椿さんの事をダサいやつみたいに言ってたけどあんなに立派な兄の事をそんな風に言うのは例え仲良くてもだめだと思うぞ」
「…僕がヒナタをにいちゃんに会わせたからこんなことに。これじゃ…と同じになっちゃう。この二人って似てるからと思って会わせたらこんなことに」
葵は下を向き難しい顔で何かを呟いていた。
「ごめんね、ヒナタはなんの事かわからないだろうけど一応言っとく。兄ちゃんのこの不思議なしゃべり方は女子にあんまり好かれないんだよ。前に言ったけど今の兄ちゃんの彼女はサッカーしている所を見て好きになったんだ。別に普段の姿から好きになった訳じゃないんだ。だからさ、今みたいな言葉遣いはやめておこうね?」
葵はいつもより優しい笑顔で俺に言い聞かせるようにそう言った。
しかしだからといってこの魂の声を無視することは難しい。
「ごめん、俺は例え間違ってても否定したくないんだ。でも俺は葵を信じるって決めてるから、わかったやめるよ」
格好いいと思ったが仕方ないと思っていると少し離れた所で考え事をしていた椿さんが戻ってきた。
「葵、ヒナタ君はお前の大切な友達かもしれない、でもな彼は僕と同じ恋の狩人なんだ、僕はヒナタ君の意思を尊重したいな」
別に聞こえない距離じゃなかったが、椿さんにはこっちの話し声が聞いていたらしい。
「…わかったよ。神経質になりすぎてた、僕が間違ってた。でも今後も間違っていると思ったらすぐ言うよ。それとその言葉は他に人がいない時に使う秘密の言葉にしよう、簡単には魂の言葉を他の人に教えるのは良くないよ」
葵は悩んだ後でそう言った。そこだけは譲らないと言うかのように強い眼差しだ。
「うん、わかった、ありがとう、葵、椿さん」
俺は笑顔で二人を見ると椿さんはにっこりと笑い俺と葵を撫でてくれた。
「と、とにかく、早く掃除を終わらせよう、ヒナタには千条さんを前にしても緊張しない為の秘策をしないといけないんだ、その為に無事に緊張を克服した兄ちゃんを連れてきたんだ」
なんということだ、昨日言っていた、緊張緩和の為に持ってくるものって椿さんだったのか。
「そうか、君も緊張してしまうのか。葵、道具はあるのか? 良し、なら早く掃除を終わらせて僕の奥義をみせて上げよう」
葵が頷いたのを見た椿さんは話を終えるとすごい速さで掃除を再開した。
「はい、よろしくお願いします」
ここからは誰も無駄にしゃべることなく淡々と掃除を進めていった。
一時間後 俺たちは家に戻ってきた自分の部屋に戻って来ていた。
「なあ、椿さんの緊張克服法って俺でも使えるのか?」
黙々と掃除をしている中で克服法を想像していたがあまり期待ができるものを想像できなかった、だから葵にその不安を伝えた。
「ああ、ヒナタなら絶対大丈夫だから、僕も半信半疑だったけど今日大丈夫だと確信したよ。だから僕と兄ちゃんを信じてよ」
「俺は葵を信じてるよ、ただ自分を信じられなかったんだ、椿さんが大丈夫でも自分じゃだめなんじゃないかとおもったんだ。でもそこまで言ってくれるなら不安が全然なくなった、すぐに始めよう」
本当に不安がなくなって、どんなことをするのかで楽しみなった。
葵はそんな俺の安心した様子を見て満足げに笑っていた。
「良しそれじゃこれからここでで始めるよ兄ちゃん、いいよね」
「ああ、任せたまえ弟よ。こんなに頼られたのは久しぶりだな、実はかなり嬉しいぞ。ゴホンッ ヒナタ君、君はセイテン・M・ワカクテシの名前を聞いたことはあるかい?」
誰だ? 晴天? 若くして?
「どうやら知らないようだね、それもしかない、悲劇の忘れられた天才、彼はそう呼ばれていた。彼は日系アメリカ人で心理学者だったんだ。あんな出来事さえなければ…」
「まあ、偉そうに言っているけど全部本に書いてあったことだからね。その本も僕が誕生日プレゼントに困ってる兄ちゃんにプレゼントしたものなんだよね。まさかこんなに大活躍するとは思ってなかったよ。兄ちゃんそんな話はいいから、はい道具」
勢いに乗って話し出した椿さんを葵は無視して俺に話をしかけてきて、葵はポケットから紐をだし椿さんに渡した。
「すまんすまん、俺としたことがまた同じようなミスをしてしまった。 ではヒナタ君僕の前に立ってれ、僕はワカクテシ流催眠術の使い手なんだ」
そう言うと椿さんには葵から渡された紐を財布から取り出した五円玉に結び付けそう言う。これって良く見る催眠術じゃん!? えっ、ワカクテシって催眠術師だったのかよ!
「大丈夫だよ、落ち着いて君は兄ちゃんと同じで素直っていう才能があるだから大丈夫だよ」
疑ってはいないけど、葵の自信の理由は素直さだったのかよ
「よし、じゃあいくよ。この五円玉を見て」
俺は気持ちを切り替え、五円玉に集中する。すると五円玉は左右に動き出した。
「深呼吸して、そう、これから君の体にっこり催眠術をかけるその時に必要なのはイメージだ、自分の体が動かない、喋れないそうイメージいておくんだ」
俺は指示に従って深呼吸をして、頷いた。
「まずは練習だ。君の体はこれから石になって動かなくなる、そうイメージするんだ。では五円玉に集中して、君の体はだんだん重くなってきた、そして僕が合図をすると首から下が動かない。三、二、一、ハイ!」
動かない本当にに石みたいになったみたいに何も感じない
「本当だ! 動かない! 成功だ」
「よし、葵ヒナタ君をくすぐってやるんだ、この状況で本気に動けなかったら完全にせいこうだ」
椿さんそんな俺を見て嬉しそうに頷いて、そんなことを言った。
「ちょっと待て、動けないって言ってるのに、ちょっと待て、くっはははははは、おいッははは、もうやめへひゃひゃひゃひゃ、はーはー」
葵は笑顔で近づいて、くすぐってきた。うまくいってよかったねと笑顔でくすぐりをやめてそう言った。くそ、動けさえすれば仕返しができるのに。
「じゃあ、このままいくぞ、好きな人が目の前にいると想定して普段の自分をイメージするんだ」
待ってとりあえず動けるようにして、そう言いたいのに息切れで喋れず、仕方なくこのまま小春さんと普段道理の自分をイメージした。
「三、二、一、ハイ、これで終了だ。後は君がうまくやるんだ、大丈夫君は恋の狩人だろ自信を持つんだ」
こうして椿さんの催眠術はとりあえず無事に終わり、椿さんは母さんがお礼と言って作った昼食を食べてから帰っていった。