4話 作戦開始
4話
朝六時
ピー! ピー! ピー! …… ピー! ピー! ピー!……
昨日の朝俺が有言実行で早起きしたのが嬉しかったのか、昨日の夜母さんは新しい目覚まし時計をプレゼントしてきた。ご褒美と言って渡してきた綺麗に包装された箱は何かと期待したら古くさい無骨なデザインで機能性と耐久性だけを求めたようなデジタル時計だった。
ガチャン カチャ
うーん、うるさすぎる、。一緒に鳴らしていた今まで使っていたお気に入りのキャラの目覚まし時計の草原の覇王ブラックライオンくんの目覚ましの音が全然聞こえなかった。
「眠い、けど頑張らないといけない。えーとまずは、なんだっけ」
俺は昨日作ったメモを見て作戦の事を思い出す。
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「俺は早速思い付いたのがあるぞ、毎朝家の表とその周りそして通学路を掃除するんだ。すると朝、仕事行こう、学校に行こうと思って外に出ると落ち葉やゴミ一つ落ちてない綺麗な道が見えるんだ。そうすれば朝の家から出る嫌さが減り、気持ち良く家を出発できる。きっと小春さんもきっと『こんな綺麗な道初めて見たわ、朝はやる気がでないけどこんな素敵な朝ならやる気がもりもり湧いてくるわ』と言ってくれるはずだ、どうだ葵?」
「いいと思うよ。誰でも汚いより綺麗な方が嬉しいし、冬にになっても微妙に落ち葉が残っているし、ごみも落ちてるし、そうしよう。まず一つ決定だね」
よし早速メモだ。[あした6時30分 そうじ] 俺は自由帳に書き込みそのページ破った。
「よし、どんどん書き込んでいくぞ。葵も好きにやるべき事をここに書いてくれ」
「朝早くだと僕らだけで出歩くのは親に止められて難しいと思う、だから助っ人として朝六時から三十分ぐらいランニングしている兄ちゃんに付き添って貰おう」
そうか、いくらやる気があって正しい事をしようとしても大人に止められることがあるのか。葵は良く気が付いてすごいな。
「それと、夕方にランニングをして体力をつける。運動ができた方が女子にはモテるからね、そしてランニングしながら困っている人を探すんだ。掃除といえば三年生になったら毎朝学校の掃除もいいんじゃない、千条さんも綺麗な学校を喜んでくれるよ」
「そうかお前がバレンタインにチョコをたくさんもらっていたのは運動が出来るからなのか。しかも俺じゃあ朝学校で掃除なんて思い付いかなかった。お前天才だな!」
「うん、兄ちゃんが告白された理由もサッカー部の練習を見てかっこよかったからって言われたらしいよ」
やるな葵と葵の兄ちゃん俺はそんなこと知らなかった、よっしゃー何かいけそうな気がしてきた。
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よし朝はまず掃除だな、すぐ着替えてホウキを探そう。
庭にある物置小屋を探す
「あれ、ここじゃないのか、ホウキは庭と玄関でホウキを使っているのをみていたから次は玄関だな、あったこいつ持つところが縮んでる!」
柄の長いイメージがあったホウキだけど、柄が伸び縮みするタイプだったらしく、小さくして傘立てにさしてあった。このサイズなら俺でも使える。
「なにやってるの?こんな朝から」
母さんに見つかった、小春さんが好きだからという理由は恥ずかしいので、そこはごまかし困っている人を助ける為として昨日の作戦考えたことを伝える。
「でもこんな朝から一人で出歩くのは危ないでしょ止めときなさい」
だが既に止められるのはわかっていたことだ、大人のやることを先読みするのは気持ちがいいな。
「でも葵の兄ちゃんが付き添ってくれるんだよ」
俺の今の顔はとてつもなく悪い顔をしているだろう、さあどうする母さんあんたのする事は既に予測していた、俺を今までのやる気のない俺だと思うと大間違いだぜ。
「でもだめよ、葵君や葵君のお兄さんにわざわざあんたのわがままに付き合わせるなんて今日は何時に来るの?」
「えっ、ろっ、六時半だよ」
そんな葵の作戦でもだめなんて、母さんは葵の予測を越えた未知の生物なのか。俺は絶望に打ちのめされる
「そう、それまでに朝ごはん作るからね、今日帰って来たら明日からのことはちゃんと母さんに話してね」
「じゃあいいの? 今日行っても」
俺は母さんの言葉に心が弾みだした。
「今日はね約束してるんだから仕方ないわ、但し明日からの事は今日きちんと母さんに相談するのよ。それと午後からの小春ちゃんの道案内忘れてないでしょうね」
「うん!、わかってるって」
俺は喜びで飛び上がった、よし早く葵たち来ないかな。
「それなら良し、これからすぐにご飯作るから、今日は寒いからもっと暖かい服に着替えて待っててね」
「わかった、もっと厚着して来る」
そう言って俺は自分の部屋に戻って着替えを始めた。
食後、俺は葵たちを待っている間に家の周りのゴミの状況を観察していた。
実際にそうじは家の周りは家が集まっているので木は余り生えていなかった為落ち葉は余り量が多くなさそうだが、家の間や建物の陰に空き缶、ペットボトルを隠す様に捨ててあり、道の端にはタバコの吸い殻が見つかった。
早く気付いて良かった、もし小春さんが先に気付いていれば最悪『うわー、マジきたねぇー、こんなところに住んでるヒナタ君もマジ不潔じゃね?』って言われていたかもしれない、もし小春さんに汚いなんて言われたらショックで立ち直れなくなったかもしれない。掃除を思い付いた昨日の俺は超すごかったな。俺は家と家の狭い間のゴミを覗き込みながらそう考えていた。
「ヒナタ 待たせてごめんね。僕たちを待ちきれなくなって外で待ってたんだろう事は分かるんだけど、深刻な顔で真っ暗な狭い家と家の間を見て一体そこに何があるの?」
俺が声の方を振り向くと困惑した顔の葵と心配そうに俺を見つめる葵の兄の椿さんがいた。俺は焦ってさっきの想像を伝えた。
「考えすぎだよ、僕がヒナタから聞いた話じゃそんなこと言いそうだとは感じなかったよ、ネガティブすぎるよ」
「確かに、ネガティブになってたのかな」
「いや、それも仕方がないことだ、恋をするということは、それだけ相手の事を考えただけで一喜一憂してしまうものだ。 気にすることじゃない」
俺は前にちらっと葵の家で挨拶したときもでかくて老け顔だから、おっさんだと思っていたが、顔だけじゃなくて中身もおっさんみたいだなと思った。全然中学二年生には見えない。
「お久しぶりです、椿さん彼女ができたんですよね、おめでとうございます。これも願神社のご利益ですかね」
俺は失礼な考えがでないよう気を使いながら彼女ができた事を祝う。
椿さんは驚いた様子で
「えっ、俺が願いが叶う神社にお願いしたこと知ってるの? マジか、俺の恋愛事情弟の友達の小学生に知られてるとか恥ずかしすぎだろー。くそっ最近俺に対する態度が雑な弟からの頼みだからって、葵の友達のヒナタ君を助けて華麗に兄貴らしさアピールしてやろうと思ったのに、葵お前俺の悩み相談の内容、外で話してたのか?」
中身は、大分普通の中学生だったな、しかもあほっぽいタイプで格好付けきれてない所が残念だ。
「いや悩み相談の内容は話してないよ、誰にも話さないって約束だからね。でも兄貴の愚痴とやったことだけ話しているよ、だから女の子の前で緊張して噛みまくったとか、神社のこととかね。大丈夫話したのはヒナタだけだよ」
それを聞いて動揺が少し落ち着いた様子の椿さん。
俺は失敗したと思った、俺は話すなという約束すらしていない。
「あ、あの葵さん俺の事も他の人に話してますか?」
「大丈夫、僕だって話して良いことと悪いことはわかるよ。君の悩みは何も話してないよ、だから兄ちゃんにはただ僕と友達が困っているとしか話してない。それに兄ちゃんは話されても怒るよりもさっきみたいにかっこよさを気にするんだ、だから僕たちがありがとうって言えば許してくれるよ」
葵は動揺している俺と椿さんを見て笑いながらそう言った
「じゃあいいことにするか、あの椿さん大丈夫ですか? これから掃除をするんですけど」
「ああ、任せろこれぐらいでへこたれてたら兄としての威厳が保てないからね。それにかつての僕と同じ様に恋に悩む君とは仲良くれそうだ。さあ行こう」
俺はもうめんどくさくなりさっきの出来事についてもう考えないことにし、掃除を始めた。