2話 俺は変わる
2話 俺は変わる!
「はじめまして、わたし 千条小春といいます。4月からは小学四年生になります。
この町に来て短いので分からない事もあって迷惑かけることもあるかもしれませんがよろしくお願いいたします」
「え、あうあう、古河日向、です。…4月で三年生。
僕この町詳しいので案内できる。よろしくお願いいたします!」
俺は何故か緊張して思ったように動かない口を動かし、気付けば礼をして右手を彼女の前に突きだしていた。なぜこんな体勢になっているのか分からない、一瞬テレビの映像が頭を過った。きっと無意識の内にこうしなければいけないという思いがあったのかもしれない。
「本当ですか、うれしいです是非案内よろしくお願いしてもよろしいですか」
彼女は俺の突きだした右手を両手で握ってきた。
彼女の喜ぶ声を聴くとさっきまでの体の緊張が解れていくのが分かった、彼女の両手から伝わってくる暖かさは俺のやる気を上げた。
「任せてください、僕は困った人を見ると放って置けないんです。
迷惑なんて気にせずいくらでも頼ってください。後僕のことはヒナタって呼んでください」
顔を上げると彼女がじっと描く俺の顔を見つめていたことがわかった、俺は何故か変な見栄を張ってしまった。頼む母さん何も言わないでくれそう願いながら母の顔を見ると口元がにやついていたが、一度俺の目を見て暖かい笑顔で頷いた。
「ありがとうございます、わたしこっちに来てこんなに優しい子が隣で良かったです、わたしのことも小春って名前で呼んでヒナタ君」
「良かったですね、早速友達ができて明日は荷物の整理があるので忙しいですが明後日にでも案内してもらったらどうですか?」
見知らぬ桃色の髪のダンディーな紳士が急に小春さんの隣現れた、ふと小春さんの周りを見て見るとその男性と小春さんを大人にしたような綺麗な女性が小春さんを挟むように立っていることに気づいた。そうかご両親も一緒にいたのか。
「任せて下さいお父さん、明後日でもいつでも構いません。僕が必ず小春さんにこの町をマスターさせてみせます」
「小春をよろしくお願いしますね」
「じゃあ明後日に案内状お願いしてもいい? ヒナタ君」
小春さんに名前を呼ばれるだけで心が弾むが、この場に長くいるのは辛い。
「はい、了解です。僕はこれからどこ案内するか考えるのでお先に失礼します」
そう言って俺は走ってリビングに戻って行った。
「ヒナタが僕なんて言ってる姿は小学校上がってから見たことなかったわ、それにしてもらしくなかったわね。そんなに緊張したの?」
しばらくして戻ってきた母さんは俺を見ると口元をにやつかせて言った
「母さんはやっぱり気づいたんだな、何故か俺は小春さんの前だと緊張しちゃって、困った人を見ると放って置けないという嘘をついてしまったこと。嘘だってばれたら嫌われるかな?」
俺は嘘をついてしまったあの時から罪悪感と嫌われるという不安で長い時間あの場にいたくなかったのだ。
そう不安そうに言った俺を見た母さんは俺の頭を撫でながら言った。
「母さんは別にヒナタが嘘をついたと思ってないよ、ヒナタは母さんが買い物で重い物を持っている時一緒に持とうとしてくれるでしょ。
困った人を助けるっていうのは、そういうことだと思うの。
もし私を助けただけで足りないならもっと他の人を助ければいいよ。
それでもだめだと思ったらその時に謝ったらいいんじゃないの?」
慰められた俺、泣きそうになった。
「……グズッ、わかった、俺はもっともっと人を助ける。この嘘を本当にする為」
「そう、じゃあ毎日きちんと起きてヒナタを起こすのに苦労しているお母さんを助けてくれる?」
「任せろ!、今の俺はやる気に満ちているんだ。俺は変わってみせる」
母さんは少し目を見開いた後笑った
「いつまで続くか楽しみね、それと明後日の道案内午後からでどうですかって言ってたからわかったって返事しといたけど良かった?」
「ああ、問題ないそれよりお腹空いてきたご飯まだ? いやこれは俺が手伝ったほうがいいな、さあ母さん早くご飯を作るぞー!」
こうして俺は寝るまで高いテンションで過ごした。
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翌日、朝玄関前
「おはよう、気持ちのいい朝だね。何か困ったことはないかい?」
早起きの気持ち良さを知った俺の爽やかに挨拶に葵は戸惑っているようだ。
「お、おはよう、どうしていつも朝はテンション低いし、迎えに来た時玄関で待ってたことないのに。それに今日は何か笑顔ががキモイよ」
「えっ嘘っ!?、実は昨日…」
戸惑っていたとではなく引いている様子の葵に驚いたが、弁解の為に必死に昨日の出会いから決意までを伝えた。
「えっ、一目惚れしたの!? そっかそれは仕方がないのかな。ただ友達が急に困ったことはないって、あの顔で訊いてこられたら普通びびるからやめたほうがいいよ」
「……」
「ごめん、引くとかびびるとかひどいこと言った、怒ってる?」
どうやら俺が考え事をして黙っていたので、俺怒らせたか心配しているらしい。泣きそうな顔をしている。
「いやそのこと全然気にしてない、むしろ教えてくれてうれしい、そのことじゃなくて俺は一目惚れ、というか小春さんの事が好きなのか?」
「気付いてなかったの!? 僕ヒナタが人見知りしているところ見たことないよ、可愛い女の子の前でも老け顔の僕の兄ちゃんに会ったときでも平然としてたのに。それが女の子に緊張したり格好つけようとして見栄を張るなんてあり得ないよ。きっとお母さんがニヤニヤしてたのもヒナタが一目惚れしたと思ったからだよ」
なんだとそう言われればそうとしか思えない、俺は小春さんが好きで、母さんはそれに気付いていたのに何も教えてくれなかった。
今思えばあのにやついた顔がむかつく。しかし心配事が出できた。
「葵、俺はどうすればいいんだ、好きだと気づく前から緊張したのに余計緊張するじゃないか」
「それは僕に任せろ、これでも兄ちゃんの恋の悩みを聞いていたんだ。さぁ今日はサッカーはやめて作戦会議だ」
そう言って葵は俺の家に入って行った。