転生しても幽霊だったのだが
最終話でございます。
最後までどうぞお付き合いください!
暖かい。
意識が戻った瞬間に感じたのはそれだった。
まるで、布団の中のように暖かい。
だが、自分の体には布団がかかっている様子はない。
あるのは、何かに少し捕まっている感じがするのと、柔らかい感触。
まだ瞼が重い。
体の痛みと、疲労は誰かが治してくれたのか、驚くほど感じず、寝起きにしては体が軽く感じる程だ。
だが、未だ瞼は重い。
うん、一瞬目を開けて、カナが抱きついて寝てるからとかそんなことは微塵も関係ない。
あー、これならあと三日くらい寝ることができそうだ。
「ロキア、起きているわよね?」
バレていた。
もう少しこの感触を堪能していたかったが、そんなことを口に出来るはずもなく、渋々と目を開ける。
「ああ、起きてるよ」
「ふふふっ、まだ眠そうね。でももう起きて。顔を洗ったら家の前の広場に来なさい。話があるの」
「了解」
カナはそう言うと寝室から出て行く。
俺はぐっと伸びをしてから立ち上がると、寝室に置いてある水の入った桶に、収納から取り出したタオルを浸し、顔を拭く。
着ている寝間着を脱ぎ、カナの用意しておいてくれた服に着替え、家を出た。
カナの言いつけ通り、家を出て、広場に向かうと、そこには直径五メートル程度の魔法陣のようなものが地面に描かれていた。
「来たわね」
「ああ、って言うかこれはなんなんだ?」
「簡単に言うなら転生装置ね。今のロキアの肉体。怨霊に蝕まれて、かなりボロボロの状態なの。だから、その体を一度作り直す。そのための魔方陣よ」
え、転生かー。
転生と聞くと、日本にいた頃の俺ならば大いに喜んだであろうが、今はそうではない、
いきなり、幽霊に転生などという訳のわからない体験をすればそう感じるのも仕方がないといえばそうなのだろう。
「大丈夫よ、そんなに心配そうな顔しなくても。私が描いた魔法陣だし、ネラにも手伝ってもらったのよ?」
「ネラさんが?」
アルテアが知り合いと言っていたネラさん。
ネラさんも大概チートな存在だったりするのだろう。
「ええ、ネラは私の母とも知り合いの古株で、元人間の最強の魔女よ」
やっぱりチートだった。
どうしてこうも俺の周りっていうのは……。
まあいい、俺もこれから強くなればいいんだから。
「安全なら別に気にしないよ」
「そう?ならさっさと終わらせましょう。……この後の予定もあるし…」
「予定?」
「なんでもないわ。さっ、早く陣の上に乗って」
「俺本体は必要か?」
「ええ、ロキアの中身にしっくりくるように作り変えてあげるわ」
カナがそういうのなら別に迷ったりなどしないが…。
俺は意を決して魔法陣の中心へ移動する。
「痛くないわ。すぐ終わる」
そのセリフはもっと違うシチュエーションで聞きたかったなぁ。
カッ!!
魔法陣は眩しいほどの輝きを放つ。
眩しくて目を瞑る。
「大丈夫、安心して」
そんなカナの優しい声を聞くと、俺の強張っていた体は元に戻り、俺の意識は途絶えた。
♢
《ステータス》
名前:ロキア
性別:男
種族:魔王的幽霊
ランク:A
クラス:死霊使い
称号:邪神族の墓地の孤独幽霊、優しさを知った幽霊、死霊狩り、エセ探偵、魂の支配者
固有能力:念力、憑依、限界突破、五感強化、魔力操作、霊力操作、収納、干渉、肉体創造 ※残り容量〇
えー、俺の脳内に浮かび上がってきたステータスに俺は落胆した。
何?魔王的幽霊って。
前の邪神の力を持つ死霊?もよくわからなかったが、今回はもっと分からん。
魔王的?なに?魔王になったの?俺。
魔王にならないって大分前に決めたはずなんだけど。
ぶつくさと心の中で文句を言いつつも、俺の意識は戻る。
「気分はどう?」
「まあ、悪くない………ん?」
カナに声をかけられ、大した支障はない事を伝えようとして、今の自分の体の状態に気がついた。
目、ある。
口、ある。
鼻、ある。
手、ある。
足、…………ない。
体、……………半透明。
「結局これかよ!!!」
転生しても幽霊だったのだが。
「確かに、霊体状態と同じだけど、陽の光を浴びても問題ないし、肉体を具現化も出来るはずよ」
「あっ、本当だ」
試しに肉体有りと、霊体の状態とを切り替えてみる。
半透明になったり、普通の人間になったり。
………これはまさかっ!?
覗きも出来るし、やろうと思えば、夜の営みもできるということかっ!?
クレストの体ではなんか申し訳なくてできなかっ、ゲフンゲフン。
「この体、最高だ!!!」
我ながら最低なことに新たな体を使おうとしていると思う。
だが、見た目は完全に日本にいた時の俺だし、身体能力の面では、クレストの体を使っていた時より劣るが、アルテアから奪った分もあるので、これからの鍛錬次第で元に戻る事だろう。
「そう?気に入ってくれて嬉しいわ。因みに、その体にはロキアがどこに行ったかすぐにわかるように発信器のようなものを埋め込んであるけど、害はないから」
「うちの師匠はヤンデレでした!?」
まさかだよ、驚きだよ。
えー、クーデレか、天然系だと思ってたのに。
ヤンデレかー、他の女に目をやった瞬間に拘束、監禁。
………悪くないかもなんて思ってないぞっ!?
俺はドMではない。
「今回みたいに行方不明になったら困るから」
「ああ、そういう事」
なーんだ。びっくりしたー。
「なんだと思ってたの?」
「いやいや、なんでもないよ」
「まあいいわ、じゃあ行きましょうか」
「どこに?」
「ついて来ればわかるわ」
そこは、ヒ・ミ・ツ♡って言ってくれた方がいいかなぁ。
はっ、イカンイカン、なんか今日は変なことばかり考えている気がする。
ぶんぶんと首を横に振り正気に戻ると、カナの後ろについて王都の方へ向かった。
♢
「ここよ」
カナに連れられて来たのは、だいぶ前に来たネラさんの店だった。
「ここって、ネラさんの店じゃあ」
「ほら、入るわよ」
グイグイと、カナに引っ張られて見た感じでは廃墟の店中へ入る。
そして、相変わらずの外観と中との見た目の差。
外も綺麗にしようよ。
「ロキアが先に入って」
closedという札が下げられている店の扉まで来ると、カナは俺を前に押し、先に入るように促す。
え、何?罠?
入ると床が抜けたりしない?
カナがそんなことをしなくても俺を殺すことなど容易いので必要ないか。
別に前と変わらないんじゃあーー。
ドアノブに手をかけ、扉を開ける。
「「「ロキア、カナ、お疲れ様ーーー!!!」」
クラッカーのパンパンという音が聞こえて、紙吹雪が舞う。
天井からは事件解決お疲れ様というプレートが下がっている。
状況から察するに宴会を開いたという訳か。
リオ、ルシア、エルの三人と、脇の方にシュウと、………?
なんか若い見たことのない人がいる。
「ああ、あれはネラよ。若い時のね」
「え!?なんで若返ってんの?」
「こんな場にババアがいたら絵にならんだろう?アタシの若い頃は美人だからね。こっちの方が坊やも興奮するだろう?」
そう言ってネラさんは俺の方に詰め寄ってくる。
ちょっ、近っ。
「年増は引っ込んでなさい」
「アタシは永遠の十八歳だよ」
カナとネラさんはなぜか俺を挟んで睨み合っている。
というよりかは、ネラさんが俺とカナをからかっているに近いか。
グイグイと、服の裾を引かれた。
そちらに目をやるとリオが飲み物の入ったグラスを俺に差し出している。
「ほら、みんなで乾杯するから、ロキアお兄ちゃんも持って!」
「料理もこの後食べられますから、私は作ってませんけど」
「そうだ、王都の有名店と、私の専属の料理人に作らせたんだから美味いぞ!私は見てただけだが」
「オレも味見したが相当な味だったぞ。そこのチート女も作ってたが、料理人と張り合うってどういうことだよ」
リオ、ルシア、エル、シュウは俺に一声かけてから円になる。
そして、いつの間にやらカナも手にグラスを持っている。
「じゃあ、音頭は私が。この頃はロキアと、私を中心に一連の事件が起こったけれど、それも今回のロキアの件で終止符を打ったわ。と、いう訳で、事件解決を祝して、乾杯っ!」
「「「「「「乾杯!!!」」」」」」
考えてみると、俺が異世界に来てからの事件は地龍の件を除けば全て関連したものだったな。
それが終わったとなると、達成感が込み上げてくるな。
思えば、最悪な異世界の始まりだったがーーー。
「はら、ロキアお兄ちゃん、これ美味しいよ!」
「お酒もありますよ。酌してあげますよ」
「私のポケットマネーから出し物も用意してある」
「ロキア!これが終わったら腹ごなしに勝負だ!」
「ほら、ロキア」
トン、とカナに背中を押される。
「ああ!」
今は、こんな異世界が大好きだ!
これにて、「転生したら幽霊だったのだが」本編完結にございます。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
思えば見切り発車でよくここまでこれたなーと思います。
7ヶ月、長いようで短い時間でしたがありがとうございました!
今後としては新作を書きつつ、番外編を書こうと思っております。




