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転生したら幽霊だったのだが  作者: 白乃兎
七章 名も無き幽霊
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魔女と呼ばれた女【ネラヒム】

ネラのフルネームがネラヒムです。

キャラ紹介ではネラだけなので、一応。

 ◆


 カナはアタシにとって娘のような存在だった。

 結婚なんて考えもしなかったアタシは男の事なんて考えたことなどなかったし、暇さえあれば魔法の研究をしていた。


 だから、アタシの生涯の友、アリア・アークノート。

 彼女が結婚したと聞いたときは、どうお祝いすれば良いのか分からず、複雑な気持ちだった。


 でも、相手の男は性格もよくアリアは幸せそうな顔をしてた。




 アリアは邪神と呼ばれる存在だったが、アタシのようなただの人間を友と呼んでくれた。


 アタシは子供の頃から魔法の事で頭が一杯で友なんて作るつもりなんてなかったのだが、いつの間にかアリアはアタシの側にいて友達を名乗るようになっていた。


「ネラヒム、魔法も良いけれど体調管理もしっかりしなくてはダメよ?」


 耳が痛くなるほど彼女からその言葉を聞いた。


 正直面倒だと思ったこともあったが私の身の回りの世話まで偶にやってくれていたので蔑ろにはできなかった。

 アリアはアタシの事を本気で心配してくれていたのは知っていたので心がこそばゆかった。


 アリアはアタシの開発した魔法の実験にもよく付き合ってくれた。


 たとえその結果が失敗であってもアリアは励ましてくれたし、一緒に改善点も考えてくれた。

 成功した時には自分のことのように喜んでくれた。


 だから彼女が神々との戦争に引っ張り出されそうになった時には二人で全力で抵抗して、仲良く捕まった。

 アタシの魔力の枯渇が原因で捕まり、アリアは前線へ、アタシは奴隷となり、雑務全般を引き受けることとなった。


 アタシが、人を捨てる覚悟を決めたのはその時のことであった。


 アタシが足を引っ張らなければアリアが前線に立つことはなかった。

 アタシ強ければアリアと平穏な日々を送って行けた。


 この事が無くとも、アタシは人外へと成るつもりだった。

 魔法の研究をしていく上で足りないものは時間。

 たかが人間の一生程度の時間では魔法を極めることなどできはしない。


「アタシは、自分自身のために生きる」


 その言葉とともにアタシは人間ではなくなった。

 それからは早かった。

 人外へと成ったことにより魔力の総量が圧倒的に増えたのである。


 アタシは即座に自分に付けられている枷を外し、アリアのいるであろう戦場へ赴いた。

 戦場は阿鼻叫喚の地獄絵図であった。


 この中にあの優しいアリアがいると考えるだけでゾッとした。



 結果から言えばアリアは無事だった。

 アリアは邪神の中でも相当に高位に位置するらしく、並みの相手では勝負にもならない。


 再開時、アリアは人外へと成った私を見て言った。


「これで、ずっと一緒ね」


 正直唖然とした。

 人間をやめたことを怒られるわけでもなく、奴隷という身分を実力行使で抜けてきた事を咎めることもせず、とびっきりの笑顔でそう言ったのだ。


 おそらくこれはアリアが純粋だったからこそ出た言葉なのだろう。

 たが、正直怒られると思っていたアタシにとっては十分驚愕するに値することであった。


 しかし、嬉しくもあった。

 人間にとっての一生は邪神にとっては一瞬にして過ぎ去ってしまう。

 アリアと永遠に近い時間を共に過ごせる。

 それも悪くないと思う自分がいた。


 だが、人外に成ったからといって、研究をやめてしまうわけではない。


 私程度ではまだまだ戦争に引っ張り出そうとする邪神を撃退することはできない。

 もっと強くあらなければ、アリアとも離れ離れになってしまう。


 それから数十年。

 自分の研究室に篭りきりになり、ひたすらに魔法について研究を重ねた。


 威力、効果範囲、発動時間。

 様々な点を考慮し、戦闘において使える魔法を考え抜いた。


 天候操作。

 それがアタシの行き着いた魔法の極致であった。


 魔法が完成し、アリアに再開。

 その時には既にアリアは婚約していた。


 数十年もの間、篭りきりになっていたアタシにとっては衝撃のニュースだった。


 別にアタシはアリアを女として愛しているわけでもないし、同性愛など興味もなかった。


 だが、親友が婚約したというのに自分には男の影もないことを恥ずべきなのだろうかと思った。


 婚約したアリアだったがアタシとの関係が薄れることなどなく、普段どうりに一緒にいたり、アタシの魔法を試したりと、結局は昔と変わらない毎日を過ごしていた。


 アタシとアリアは戦場をともに駆け抜け、日常を時折共に過ごし、縁が切れることなどない。

 そんな関係性になっていた。


 それから数年。

 アリアが妊娠したという。

 アリアの相手の男は数度話したことがある程度のものだが、堅実だということはなんとなく分かっていたので互いに話し合って子供を作るに至ったのだろう。


 そういう知識はアタシにはあるが、実際よくわからないので少し恥ずかしいが、アリアに聞いてみたりもした。


 それとやはり陣痛は痛いらしい。

 アリアが顔を顰めるところなんてアタシは見たことがなかった。


 無事に生まれた女の子の名は「カナ」。

 アリアに似て将来美人になること間違いなしといった感じであった。


 カナをアタシにも抱かせてくれたりして、子供というものが愛の結晶と言われるのがわかった気がする。

 反則的なまでの可愛さ。


 あの子は将来何人の男に詰め寄られるのかと不安になったほどだ。


 カナが生まれてからも、アタシらの関係が切れることはなく、幸せに暮らしていけるはずだった。


「ネラヒム、カナをよろしくね。親友のあなたになら任せられるわ。あと、これをカナが大きくなったら渡してね」


 そんな言葉と、一つのペンダントを残しアリアは戦場へ向かってしまった。


 アリアは戦争が好きというわけでは決してなく、むしろアタシと同じで戦争反対派だったはずなのにも関わらず、夫である男と共に戦場へ赴こうとしているのだ。


 アリアの顔が、いつもの笑顔ではなく、暗く、悲しそうな顔だった。


 当然アタシは止めた。

 アタシが研究した魔法のすべての知識と実力を使って、アリアの四肢を奪ってでも止めるつもりだった。


 ……負けた。

 完膚なきまでに。


 気絶し、見送ることさえもできなかった。


 涙が止まらなかった。

 弱いアタシを嫌になった。


 側で泣くカナの泣き声がいつも以上に耳に響いた。



 アタシは止められなかった。

 だが、アリアは強いし、夫である男も相当の実力者であるということは分かっていた。


 親友を、生涯の友を信じる。

 弱く、惨めなアタシにはそれくらいしかできなかった。




 ーーーアリアが帰ってくることはなかった。



 アリアの死をアリアの同族、邪神に伝えられると同時に、カナまでも連れ去られた。


 数名の邪神に取り囲まれ、抵抗しても何もできなかった。


 アリアも、その夫も、カナさえも守ることはできなかった。


 だが、カナはまだ死んではいない。

 助け出し、アタシが守ってみせる。


 カナを頼む。

 そう親友に言われてしまったのだから。

 カナを死ぬような目には絶対に合わせない。

 アタシはそれを心に強く誓った。



 それからアタシがカナと再開したのは十数年後の話である。


 カナを攫いに邪神たちの中に乗り込みに行ったのだが、その時には既にカナが自力で抜け出し、独り立ちしていた。


 再開した時は今でも強く記憶に残っている。


「あら?あなた、どこかで会ったことがあるかしら?」


 その言葉よりも驚いたのが、アリアよく似た仕草に言葉遣いだった。

 一瞬、アリアかとも思ってしまった。


 その時、アリアの遺児であるカナを、アリアの代わりにアタシが守る、もう一度、アリアに誓ったのだった。






 ♢




「私の母はあなたの親友、それで危険なロキアの所に行かせない。そういうことだったのね」

「まあ、そうさね」


 それもまた、アタシが弱いから失敗しちまったがねと、くつくつと笑う。


 もう、笑うしかできなかった。

 涙など、とうに枯れてしまった。


「…そう、心配してくれてありがとう。でも、私は行くわ」

「考え直してはくれないのかい?」


 ただ願うのみだった。

 アタシではどうにもできない。


 アタシでは神の領域には届かない。

 安全な場所でただ祈っていることしかできない。

 それに、カナの最後の一撃が効きすぎて、数時間は治癒に時間がかかると思われる。


 時間的猶予がどの程度あるかわからない今はそんなのを待っている暇もない。

 カナはすぐにでも坊やのところへ行ってしまうだろう。


「これを、受け取りな」


 そう言って収納からアリアから預かったペンダントを取り出す。

 銀をベースとして、蒼い宝石で装飾されている。

 それをカナは受け取ると少し眺めてから首に掛けた。


「これが母の?」

「そうさ。どんなものかは知らないけど、アリアのことだ。なんかの役にも立つかも知れないよ」

「ふふふ、母からの贈り物なんて、初めてで少し嬉しいわ」


 ーーーアリア。


 昔のアリアにそっくりだった。


 このままいなくなってしまうんじゃないかってそう思わされてしまった。


「カナお姉ちゃん!ようやく終わったの?」

「カナさん、リオちゃんから呼び出されたんですが…」

「エルお姉ちゃんも後から来るって!」


 すると、カナの後ろから二人の女が。

 友達?


「あら、ありがとう。来てくれたのね」

「ロキアさんが見つかったのでしょう?聖騎士として、友人として、カナさんを、ロキアさんを助けにきてあげましたよ」

「リオは……うーん、とにかくがんばるっ!」


 二人が来てから、カナの顔が明らかに明るくなった。


 あの時のアリアとは違う。

 この娘の周りには仲間がいた。

 アリアにもいたのかもしれない、だが、カナは大丈夫だとそう思わせるほど、はっきりと、仲間が側に。


「ネラ、行ってきます」


 アタシの目をしっかりと見てそうカナが口にした。


「…ああ、必ず帰って来なよ」




 今度は、しっかり見送ってやろう。

 しっかり、その背中を。



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