ありがとう
テストが終了しましたので投稿再開です。
更新速度は依然遅いままではありますがご容赦下さい。
光の差さない墓地。
瓦礫がたくさん積まれ周囲には骸骨や、ゾンビが徘徊している。
少し懐かしさを感じながらも十字架のある墓を目指す。
見慣れた風景に、なんでこんなところに俺は目が覚めたりしたんだ…とも思いながら歩く。
周囲に良さそうな能力を持っている死霊族がいないかを確認するのも忘れない。
強くなりたい。
その一心で、転生当初はここに滞在していた。
そんな思いは今は少し変質しているが根本は変わらない。
謎の多いこの場所。
そんな場所を見慣れるなどありえないことなのだが、こんなところで目覚めてしまった俺を恨む以外のことを出来ないのがまた面倒だ。
十字架の刺さった墓。
クレストの愛したメイドの墓だ。
そこに、クレストの灰を埋めようと思っている。
死後、同じ墓に入るというのは夫婦ではよくあることだと言うのを聞いたことがあるのでやってみた。
十字架の刺さった墓を見つけると、霊体の腕を変形させ、シャベルのようにすると、地面を掘る。
本当はこんな墓荒らしのようなことはしたくないのだが、仕方がないと割り切って掘る。
掘り進めていくと、棺桶が一つ。
中を見ると、死体とは思えないほどの綺麗な女の人が手で拝むようにして眠っていた。
『クレストが魔法で白骨化しないようにしたのか?』
疑問はあったが、それは大したことではないので、本来の目的である、袋に入ったクレストの灰を女の人の拝んでいる手に握らせると俺も手をあわせる。
『今までありがとう。クレスト。憑依しようとしてお前が殺せって言ったときはびっくりしたよ。でも、そのおかげで、俺は今幸せだし、毎日が充実してる。クレストの体を消滅させちゃったのはゴメン。本当なら綺麗なまま、ここに埋めるつもりだったんだ』
念話で、語るのは感謝の言葉と謝罪の言葉。
ここで言っておかなければ後悔すると思う。
『クレストの体のおかげで、助かったんだ。固有能力も、身体能力も、数え切れないほど使った。それでも、俺が無能な所為で、体を傷つけた。ここに来たのは体が灰になっていらなくなったからじゃない。自分の力で生きていこうと思ったからだ。クレストには頼らないで生きていこうと思う。だから、謝罪と感謝の言葉を伝えたかった。俺たち、ちゃんとして出会ってれば友達になれたかもしれないと思う。俺がお前にトラブルを持ち込むのは確定だけど。お前はそんな俺を助けてくれるようなやつだと、俺は勝手に思い込んでる』
俺とクレストが話したのは憑依する前の一瞬だけ。
それだけでクレストの事を知った気になっている俺はバカなのだろう。
自覚している。しかし、クレストの過去を見て、体を使って、クレストの性格がなんとなくつかめたような気がしてなくもない。
ひどく曖昧なのは分かっている。
俺はそんな人間だったのだから。
『俺はお前を無条件に信じてしまうようなバカになってたかもしれない。欺瞞だって思うかもしれない。波乱な人生を送ってきたお前のことだから信じることが出来ないかもしれない。だからこれは一方的なものだ。俺はお前のことを信じてる。殆どお前のことを知らないけど、断言できる。それに、お前の体の事はよくわかっているつもりだと思う』
俺はクレストという存在を知っている。
だから、俺は俺の事をクレストに知って欲しかった。
聞いているとは思わない。
これは俺のワガママなのだから。
『だから、お前の事をもう休ませてやりたい。死後なんだ。どうなってるかは分からない。こんな事をしても、メイドの人に会えるかもわからない。でも、これが俺にできる精一杯の感謝の気持ちなんだ。たから、あとは言葉だけ』
長々と喋ってしまったが、最後だけは少しタメを入れる。
『ありがとう』
短く、だからしっかりと言葉を伝える。
嘘偽りなく、純粋な感謝の気持ち。
それだけ言うと、俺は棺桶の蓋を閉じ、土を被せる。
来た時と同じに、土をかぶせ、もう一度手をあわせる。
俺は、もう振り向くことはせず、墓から離れていく。
ーありがとうー
不意にそんな言葉が聞こえてきた。
それは男のものだったか、女のものだったかわからない。
もしかすると、二人の声だったのかもしれない。
だが、その言葉を聞くだけで、俺の心は軽くなった。
そんな気がした。
♢
俺がここに来た二つ目の目的。それは、自分の体だと思われる体の回収。
クレストの体を使えなくなった今、体は必要不可欠だ。
しかし、クレストに自分の力で生きるなんて言ってしまったので、体をその辺の適当な死体を見繕うことはしたくない。
なので、自分の体だと思われる体を回収しに来たのだ。
前回憑依しようとした時はなぜか弾かれてしまったが、今回はどうなのだろうか?
俺という霊体の入れ物に体という中身が入りきらなかった?
逆か?体という入れ物に俺という霊体の中身が入りきらなかった?
こんなところに眠っていた俺の本来の体。
どうなっているのだろうか?
俺の体は能力を使えるのだろうか?
『これか』
俺の死体?を見つける。
前回見た時となんら変わりはなくただ動かず眠っているように死んでいる。
俺の体。
人間か?こんな放置されているのに腐ることすらない体が?
なんなのだろう。
自分の体だと言うのに何一つとして分からない。
なぜここに俺の体が…。
もう一度、自分の体を使えばわかるだろうか?
《憑依》
今度は弾かれることなく体に入ることができた。
次の瞬間、俺の視界はブラックアウトした。
今回は次章への繋ぎといった感じでしたので短めでした。
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