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転生したら幽霊だったのだが  作者: 白乃兎
六章 異変編
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リオ

 暗い、怖い、嫌悪、憎い。

 憤怒、嫉妬、傲慢。

 悪意、殺意、敵意、害意。


 様々な負の感情が流れ込んでくる。


 人を殺し、魔物を殺し、植物を殺し、虫を殺し、化け物を殺し、神をも殺す。


 暗く、怖い。これはおそらく、リオの精神の中。

 邪神族の墓地でクレストに憑依した時もこんな感じだった気がする。


 リオにこんな負の感情があるのはリオの理性の崩壊が関係しているのだろう。


 だが、リオの心がこんな負の感情を抱えているなんて知らなかった。

 いつも笑顔だったリオからはこんな感情を持っているなんて知らなかった。


 俺とカナとの生活は楽しかっただろうか?

 俺とカナの前では常に笑顔だったリオ。

 俺はその裏に隠された負の感情を知らなかった。

 リオは元気でポジティブな子だと、思い込んでいた。


 だが、どんなに子供でも、元気でも、自分の中には何を抱え込んでいるか。

 知らなかった。


 俺はリオから与えられるだけだった。

 リオの笑顔から元気を与えられた。

 カナとリオとの生活で幸福を与えられた。


 俺はリオに何かを与えてやれただろうか?

 いや、何も与えていない。


 子供に与えられるだけ?


『そんな自分が情けない』


 でも、これから与えてやることができるなら、リオを取り戻して、リオに何かを与えてやる。


『まずは、この暗い空間からリオを見つけないとな』


 辺りを見回すと暗闇の中膝を抱え込んでポツンと座っているリオがいた。


『リオ』


 優しく声をかけて近くまで行こうと…。


「こないでっ!」


 拒絶の声がリオから発される。

 嫌われたか?

 俺が不甲斐ないから?


「リオは悪い子なのっ!」

『悪い子?』


 子供のいう悪い子。

 その定義はわからないが、俺はリオは悪い子ではないと断言できる。


「リオは壊しちゃうの。お兄ちゃんがくれた幸せも、その場所も、カナお姉ちゃんだって!それだけじゃない。リオは氷神滅狼アイスフェンリルだから…全部凍らせるの。大きくなるとね、自分の住む場所を作るために気に入った場所を魔法で凍らせて雪山とか作るようになるの。その弱いのが、あの吹雪の魔法。だからきっとお兄ちゃん達もっ」

『それはリオの意思でやったんじゃないんだろ?』

「でもリオがやった事には変わらないっ!リオの心の奥には、何か黒い物があるの。その黒い物はね、たまにリオに話しかけてくるの。やっちゃえ、壊しちゃえ、リオのいらないものは全部壊しちゃえって話しかけてくるの」


 黒い物?氷神滅狼の中の本能のような物か?


「最近はね、特にカナお姉ちゃんと二人っきりの時とか、修行してる時とかにそれが多くなってきたの。帝国にカナお姉ちゃんに会いに行った時くらいからかな」


 それは、帝国の皇帝(仮)の使用していた力とカナの邪神の力が衝突していたからそれに反応したのだろうか?


「今日のカナお姉ちゃんとの戦いの時は凄かった。ずっと頭の中に声が鳴り響いて、お姉ちゃんと戦っているのに、頭の中では別のものと戦っていたの。カナお姉ちゃんに負けて、少ししたら、もっと黒い物が強くなって…」

『黒いのに呑み込まれたのか?』

「うん」

『今は大丈夫なのか?その黒いのは』

「ここがその黒いのの中だよ?」


 えっ、vsリオの本能とかを予想していたが外れたようだ。

 だが、辺りが暗くて、負の感情が溢れてる理由はわかった。


「お兄ちゃん、早く出て行って。リオは気にしなくていいから。ルシアお姉ちゃん達が、リオを殺してくれるから」

『リオは何もしてないだろ!』

「カナお姉ちゃんを傷つけたっ!お兄ちゃんの体を傷つけたっ!」

『そんなの気にしてなんか』

「もう治らないんだよ!?お兄ちゃんの体、もう絶対に動かなくなったんだよ?」


 え?動かなくなった?どういうことだ?

 リオの一撃を食らったから?そんな事で…回復魔法を使えばカナの時みたいに。


「カナお姉ちゃんの時はまだ完全にリオは呑み込まれてなかったの。でも、今は黒いのが、完全にその力を使ってるから!神殺しの力を!リオは、お兄ちゃんの体を殺したんだよ?だから、リオだって殺されても文句はっ」


 全く。リオってやつは。


『こんの、馬鹿があぁぁ!』

「いったあ!?な、何するの!?」


 近づくなと言われたが無視し、ズカズカと近寄り霊体の体で霊力を体に回し拳骨を頭に落としてやる。


『馬鹿!ったく、さっきから聞いてりゃグチグチ言いやがって。リオの所為じゃねぇって言ってんじゃねえか!リオはやってないの!』

「で、でも」

『でももクソもあるか!リオの自分の意思でやったのか?違うだろ?もしこれがリオの意志でやったとしても、誰も死んでない!俺の体は気にするな!』


 リオは子供だから小さな罪でも余計に気にしているのだろう。

 子供は変なところ気にするからな。


『リオ。気にするな。リオは子供だ。たくさん間違って、馬鹿して、そうやって成長していくんだ。子供は大人よりも前を進んで、迷ったら手を引いてもらう。それでいいんだよ』

「でも、それじゃあみんなの隣に立てない!」


 隣に立つねえ。

 リオはいつもそう言っている気がする。

 周りが、カナ、ルシア、エルみたいなすごいやつらがいるから、そんなことを気にしているんだろう。


『俺だってまだカナの隣に立ててないんだぞ!』


 それどころかリオの隣に立つのも厳しい。


「で、でも、お兄ちゃんはカナお姉ちゃんから凄いって言われてるし!」

『そんなのお世辞だろ?』


 そうだ。実際俺は強くなった。

 でも、カナたちには全く及ばない。

 カナはそれでも俺に隣に立つ資格はあるなんて言ってくれるだろう。

 でも俺はそれじゃあ納得がいかない。


『リオ、俺もみんなの隣に立てるくらい強くなりたいんだ。だから、一緒にみんなの背中を追いかけようぜ』

「…手、繋いでいてくれる?」

『一緒にって、そういうことだろ?』

「リオ、また暴走するかもしれないよ?」

『またこうして止めに来てやるよ』

「リオ、自分勝手だよ?」

『子供はそれぐらいが一番だよ』


 リオは怖いのだろう。

 自分の意思とはいえ群れから一人離れたのだから。


「許して、くれる?」

『もちろん』

「ごめんなさい。ごめんなざぁいっ」


 リオの涙腺が決壊し涙が溢れ、俺の胸に飛び込んできた。

 俺は、それを霊力で固めた体でなんとか受け止める。


 リオは泣きながら何度も、何度も謝ってきた。


 許さないわけない。

 リオに謝られて許さない奴なんていないさ。




「ご、ごめんなさい」


 顔を赤くして謝るリオ。

 今度の謝罪は先ほどとは意味が異なる謝罪なのがわかった。


 顔を赤くするリオ、マジ天使。


『で、どうすればここから出られるんだ?』

「この黒いのを吹き飛ばせば良いんだよ!」


 どうやって?

 そう言いかけるとリオが吹雪を発生させる。


「吹雪で吹き飛ばしちゃえっ!」


 カナとの戦闘や、獣化した時のリオと同等の出力の吹雪が吹き荒れる。


 だがらこれでは闇は吹き飛ばなかった。

 火力が足りないのだろう。

 やがて吹雪が止む。

 やはり不可能だったようだ。


「ど、どうしよう」

『じゃあ、力を合わせるか』

「え?どうするの?」


 こうするんだよっ!


 《憑依》


 リオの体に憑依し、リオの第二人格的なポジションになる。


『行くぞ、リオ!』

「うん!」


 再び吹雪が吹き荒れる。


 《念力ポルターガイスト


 吹き荒れる吹雪をさらに念力で出力アップ。

 これで、闇を払う!


『「いっけええええええええーーー!!!」』


 ゴウゥーと、吹き荒れる青白く輝く吹雪。

 その吹雪は、視界を埋め尽くし、その淡い光はこの場所を包み込む闇を払っていく。


 ブワァッ!


 青白く視界を埋め尽くしていた吹雪が晴れると、そこには白い地面と、光り輝く空が見えていた。


…無理やり感が否めない。


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