お礼
今回は会話が多めです。
今話にて、この章は終わりです。
カナとエルがリーデ……偽皇帝を殺したことで起こった帝国内のパニックは予想していたものより小さく、現在王位継承権第一位になったエルによって収まった。
国民は不満が溜まっていたというわけではないが、皇帝暗殺もあり得ると密かに噂になっていたみたいだ。
帝国の出入り口と言われる門の前で俺たちはまったりしている。
「帰りはゆっくりでいいよな。ていうかゆっくりにしよう。走って帰ると疲れるだろ」
「私が影の転移魔法使ってもいいのよ?」
「カナさん、ロキアさんはゆっくりとリクレイフィアに帰りたいんですよ。カナさんがいなかった時間を埋めるとかそんなこと考えているんじゃないですか?」
いいじゃないか、少しくらい。
男だって寂しかったりするんだぞ!
「リオ、お兄ちゃんにさんせーい。みんなでゆっくり帰ろう?」
「でも、それだと一日じゃ帰れないわよ?」
「途中の街に寄ってゆっくりして、そしたら転移魔法で帰ればいいじゃないですか」
「なあ、ロキア。帝国の内政をほっぽり出して私もリクレイフィアに行っても問題ないだろうか?」
「いや、それは流石に…」
エルは現在最も皇帝に近い立場にいるんだから、そんな簡単に国を出るとかは難しいと思う。
「なんでだ!なんで私だけ仲間はずれみたいになっているんだ!私だって、もっとロキア達と一緒にいたいんだぞ!」
第二皇女が駄々を捏ね始めた。
ワガママ皇女とかいう噂が流れないといいけど。
「そうだロキア私の所に婿にこないか?そうすれば一件落着」
「「「そんなわけないでしょう!」」」
カナ、リオ、ルシアの三人が同時に叫んだ。
門番はびっくりしている。
門番に驚かせてすいませんと軽く会釈をする。
「私とロキアが結ばれることの何がダメなんだ。ほら、私皇族だから、ロキアはハーレムとか合法的に作れるぞ。よくわからんが男の夢なんだろう?」
「あっ、ちょっといいかも…」
エルと結婚することのメリットがとてつもなく大きい気がしてきた。
現段階ではエルに文句などないし。
普通に美人だし。
でも、こういうキャラは料理が苦手だと相場が決まっている。
そこだけが難点だが、皇族なのだ、専属の料理人でも雇えばいいのだろう。
結構真剣に考えていると、背中に冷たい視線が突き刺さる。
カナ、ルシアはまだ分かるとして、リオも冷たい視線を送ってきている。
どこで覚えたんだそんなこと!
だが、美人、美少女のジト目というのも中々に悪くない気分だなぁ。
「いや、でもやっぱり帰るよ。皇帝を殺した一派の俺たちがこんなところにいてもマズイだろ?」
「それなら実際殺したのは私だから、私の方がマズイだろ?」
「その辺は皇族と一般人との違いだよ」
皇族なのだからあの手この手を使って揉み消せばいいじゃないか。
そういう力技はエル得意そうだし。
「むぅ、なら皇帝になるのはやめだ」
「それは帝国が崩壊するということじゃない?」
「そ、それは他の兄弟に」
「あなたの血族は大体他の国に嫁いだりしていないじゃない」
ぐう、と言葉を詰まらせるエル。
どうしてそこまで俺を引き止めたいのだろうか?
「どうして俺にこだわるんだ?」
「……仲間が、信頼できる奴がそばにいてほしいから」
小さな声でエルは呟いた。
しかし、俺の耳にはしっかりと届いた。
俺が言っていた壁はもうなくなったのだろうか?
「支え合う、それはまだイマイチわからなかったりするけど、こうやって仲間といられるのは楽しい。それも全部ロキアがいてくれたから。そんな気がするんだよ」
勘違いだ。
俺は何もしていない。
例えばカナが帝国に来なければ俺はここまで来なかった。
川でエルを助けたのは偶然。
その後は利害の一致。
確かに、エルのことは信頼していたし、いい奴だと思う。
でも、それだけだ。
エルの言うように俺がいたから何てことはない。
「なんか、その気持ちわかる気がするわ」
「カナ?」
カナまで似たようなことを言い出すのか?
俺は何もしていないというのに。
「私もね、ロキアが来てからなのよ。こんなに毎日が楽しいのは。だから、この毎日をくれたロキアのことを私は大切に思ってる」
勘違いするから、本当に告白して砕けちゃうからやめて!
「でも、自分のやったことには責任をとらなきゃね。今帝国を支えられるのはあなたしかいないじゃない」
「……分かったよ。私もいつまでもお転婆姫じゃいられないからな。すまないロキア、迷惑をかけた」
「いや、気持ちは嬉しいよ。外野からストップがかからなかったら承諾するとこだった」
俺がそう言うと再び冷たい視線。
「そもそも、死霊族と一国の姫ですよ?釣り合いが取れないし、帝国も認めるはずがないでしょう」
ルシアが辛い現実を突きつけてくる。
「それならまだ私の方が」
「あなたは光の勇者でしょ?そっちの方が認めないわよ」
またトリップしそうになったルシアをカナが止める。
確かにルシアのような勇者には魔物と付き合うとかリクレイフィアが認めそうにないな。
「じゃあ、リオなら大丈夫だね!」
純粋な笑顔を俺に向けてくるリオ。
「もう、俺と結婚するか?」
「するっ!」
ついリオが可愛すぎて言ってしまった。
しかもOKされた。
これは本気なのか!?
リオも数年すれば立派な大人。
年齢的な面の事は、俺は幽霊だから大きな問題はなし。
いけるか?
いいよね?もうゴールインしちゃっていいですよね?
多少の年の差なんて関係ないよね?
「お兄ちゃん、ちゅー」
「さすがに止めますね。リオちゃんがこんなにおませな子だとは思いませんでしたよ」
「リオもなかやかやるわね」
あっぶねー、リオとキスまでいってしまうところだったぁー。
そういうことはリオが大きくなってからにしよう。
リオが大人になった時に俺のことを好きということは保証されないが。
「ふむ、私ならどうだ?」
「へっ?」
チュッ。
頰に柔らかな感触。
鼻をくすぐる女の子特有の甘い香り。
視界の端に映った銀色の髪。
エルにキスされた?
「最初はこんなものか?」
「いやいやいやいや、一応エルさん皇女ですからね!?こんなことしちゃいけないんですよ!?」
「そうよ、羨ましいわね」
「そうですよ!羨まし…じゃなくて、ズルい…でもなくて、こんな人目があるところで!」
本音出てるぞー。
というか本音なの?
モテ期か?モテ期が来たのかー?
「私のはアレだ。兄上を殺せたのはロキアのおかげだ。その礼だよ」
「お礼にしては随分と高価ですね、エルさん?」
うん、生まれて初めてキスされた。
頰にだけど。
少し前の俺なら、嬉しさで飛び上がっていたかもしれない。
だが、今の俺はクールだ。
クールだからな、決して動揺はしないのだ。
「よよよよ、よかっ、よかったのか?こ、ここっ、こんな事して」
「すごい動揺してるんですけど。ロキアさん顔真っ赤なんですけど」
しょうがないじゃないか。
彼女いない歴=年齢ナメんな!
「問題ないさ。見ている国民などいないだろう。それに、まだ私の顔は兄上と違ってあまり知られていない方だからな。そこまで心配する必要はないさ」
「そ、そそそ、そうか。じゃあもう一回」
「わかった、今度は唇だな」
「何言ってるんですか!絶対にダメですからね!?」
「「ルシアのケチー」」
「なんで息ぴったりなんですか!」
俺とエルは意外と息が合うみたいだな。
今度は俺がエルと組んで何か討伐とかいいかもしれない。
だが、カナの話によると、エルもチート級という話だ。
カナが認めるのだからよっぽどだと思う。
「まあ、とりあえずは満足だよ。頰とは言えキスまでしたんだ。潔く諦めて帝国の安定の方に力を入れなきゃいけないしな」
「これだけやって満足じゃなかったら私が斬ってますよ」
ルシアのエルへの接し方が段々緩くなってきた。
最初はすごい硬かったのに。
ルシアもエルがこういう奴だということに気が付き、硬く接していても疲れるだけだと言うことを理解したようだ。
「やはり楽しいな。このメンバーは。今度は私がリクレイフィアに遊びに行くよ」
「その際は私が護衛してあげますよ」
「そいつは頼もしい。ロキアの家にも行ってみたいしな」
「私の家でもあるんだけどね」
というか、カナの家である。
俺は居候しているだけだし。
するとルシアは日の傾き具合をざっと見てから切り出した。
「そろそろ行きましょうか。私も長い時間リクレイフィアを開けるわけにはいきませんから」
日の傾き具合で時間が分かるんだな。
俺は分からない。
時計があれば分かるし。
「そっか、じゃあ行くかな」
「そうね、帰りましょうか」
「エルお姉ちゃんまたね〜」
「皇女なんですからもう少しお淑やかになって下さいね」
各々がエルに別れを伝える。
「またな、短い間だったけど楽しかったよ」
エルの言葉を聞くと全員振り返り、門の方へ歩きだす。
先程まで駄々をこねていたエルも静かに見送っているようだ。
今度は観光として帝国に遊びに来よう。
そう心に決めた。
「先日は兄のリーデヴィッヒがご迷惑をお掛けした。今度はこんなことはないよう、しっかりと和平を結びに来た次第です。リクレイフィアの皆様、滞在中会うことがありましたらよろしくお願いいたします」
その数日後にエルがリクレイフィアに遊びに来たのは余談である。
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