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転生したら幽霊だったのだが  作者: 白乃兎
五章 帝国編
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棺の中身【カナ・アークノート】

更新速度が落ちてきているぅ〜。

ここを踏ん張らなければ!

 今、私はエルと一緒に最上階へと続く階段を登っている。

 エルはロキアが連れてきたこの国の第二皇女。

 ロキアは知らない間に人脈を広げたりするのでびっくりする。


 そのロキアは現在皇帝の直属騎士の足止めでこの場にはいない。

 ロキアの実力ならば、負けることはないだろう。

 ただ、ロキアは甘い面が見られるのでそこだけが不安だ。

 私が早く決着をつければそれだけ早くロキアを助けに行ける。

 早く終わらせなければ!


「カナ、ロキア達にカナの実力はなんとなく聞いているが、兄上の持っている棺はとても強力だ。大丈夫なのか?」

「問題ないわ」

「それは頼もしいことで」


 問題なんかにはならない。

 あの棺の中身は帝国に来てから少し調べた。

 その結果、中身はいくつかに絞れた。

 どの場合であろうと私を殺せるには至らない。

 運が悪ければ傷がつく程度のものだろうと予想している。


 ロキアを残して死ぬなんてことは絶対にしない。

 ロシアとリオは私が少し家を開けただけなのに追いかけてきてくれるくらいには仲が深まっている。

 それもみんなロキアが来てからそんな事が起こり始めた。


 ロキアには伝えたいことがたくさんある。

 でも、それはまだ口にはしない。

 少なくとも、私からは。


 階段で最上階まで上がると、そこには多くはないが複数の扉が。


「ここが兄上の自室だ」


 エルが教えてくれた皇帝の部屋は他の部屋とは中から漏れ出す空気が全く違う。

 それも、中にある棺の所為なのか。


「エル、私の後ろにいなさい。私が開けるわ」

「私に守られていろと?」

「あなたが死んだらロキアたちが悲しむからよ」


 私の言葉にエルは少しムッとしたようだ。


「だが、私は守られるほど弱くはないと自負している。足手纏いにはならないぞ」

「そうじゃないのよ。エルも自分で言ってたじゃない。棺の力は強力だって。なら、少しでも防げる方が先陣を切るのは当たり前のことよ?」


 エルの意見を聞かずに先に扉を開ける。

 すると開けたとたんに淀んだ色の魔力球が飛んでくる。

 それを片手で弾き、飛んできたと思われる方向へ跳ね返す。

 しかし、直撃した音はしなかったので当たってはいないだろう。


「ほらね?私が先でよかったでしょ?」

「これくらいなら私でも防げたっ!それより前見ろ前」


 エルに言われた通りに前を見ると、この国の皇帝最有力候補のリーデヴィッヒがいた。

 しかし、その腕は先ほどの魔力球のように酷く淀んだ色に染まっていた。


 大して適正もないのに棺の力を多用するからこんなことになるのだ。

 自分の潜在能力ではなく、他の力に頼ろうとするからいけないのだ。


 私の弟子、ロキアは必死に自分の力を伸ばそうとしている。

 だから私はロキアが納得のいくまでロキアの師匠であり続ける。

 自分の力を信じず、他人の力を使うなど私は認めない。

 そんな奴は私が叩き潰してやる。


「で、エル、アレは殺しちゃっていいのよね?」

「もちろんだ」


 今更殺すな何て言われても困るけど。


「我を殺す?不可能だ。我の力はすでに人間を逸脱している。お前らは我に指一本触れることなどできない」


 思い上がりも甚だしい。

 指一本触れられない?こっちのセリフだ。


「この棺の力さえあれば、邪神の力さえあれば、我が世界を手にするのもっうあっ!?」


 イライラしてついつい手が出てしまった。

 突然魔力を放った私を見てエルは驚いている。


「邪神の力、旧リクレイフィアに封じられていた力のことでしょう?残念だったわねその程度の力じゃあ私には届かないわ」

「さっきのように行くと思うなよ!まだだ、まだいける」


 リーデヴィッヒの腕の淀みがどんどん広がっていく。

 そして肩まで淀む。

 体を対価にして力を引き出しているようだ。


「力の差を教えてあげるわ"失われた楽園(ロスト・エデン)"」


 そう言うと、私の手には一本の黒刀が現れた。

 ロスト・エデン。無駄な装飾はなく、刃渡り一メートル程度。

 刀身は純粋な黒。

 これは神々の戦争時代、高位の邪神達が力を長い年月をかけて込めた、最高の刀。

 斬れ味、重み、耐久性全てにおいて現存の刀を上回る。


 ロスト・エデンの切っ先をリーデヴィッヒに向ける。


「かかって来なさい。そして知るがいいわ。あなたの無力を」

「おい、私はやること無しか?」


 なんかエルが言っていたけど無視。

 いいじゃない。最近は目立つのを避けるためにあまり力を出せなかったから体を動かしたいのよ。

 ここにはエルとリーデヴィッヒしかいない。

 ならば城ごと破壊なんてしなければ目立つ心配はない。


「殺すっ!」


 リーデヴィッヒは淀んだ魔力をロキアのように変形させて剣を作る。


 ガキィン、ガン、ガキィン。


 流石は皇族といったところだろうか。

 王宮剣術?みたいな華麗な剣。

 しかし、異質な魔力の所為か、豪剣のように一撃が重い。


「人間にしてはだけど」


 すべての剣撃を刀身を斜めにして受け、受け流す。

 別に真正面から受けても問題ないのだが、脳筋馬鹿のような相手を力でねじ伏せるのは疲れる。


「なぜっ、なぜ?なぜだぁ!?」


 攻めあぐねているからか、リーデヴィッヒの精神が不安定になってきている。


「くそっ、もっとだ!もっと力を!喰らえ、俺の体半分くれてやる!」


 肩まで侵食していた淀みは更に侵食を進めていく。

 体半分まで浸食が進んだところで止まる。


「チカラ、チカラが溢れる。やれるこれならっ!」


 グインと振るった剣の刀身が伸びる。

 とっさのことで受け流すことがかなわず受けてしまう。

 受け流すことが成功してもこの伸びた刀身は中々の斬れ味を持っているようでこの城が壊れかねない。


 この城にはまだロキアやリオがいる。

 この城が崩壊したらロキア達が危険だ、でも守りながら戦えばっ。


 上から、横から、下から、様々な方向から剣撃がくる。

 それも完全に人間を逸脱したスピードで。

 完全に浸食が進んだら私たち邪神にも届きうるのではないだろうか?


「守りながら戦うのか?ククク、大変そうだなぁ?」


 ちっ、私がこの城の柱を壊すのを避けているのがばれている。


「これでぇ、終わりだぁ!」


 体の淀みがついにリーデヴィッヒを完全に浸食した。

 淀んだ色はさらに禍々しくなり、伸縮する剣は巨大に。

 もはや剣術など無視といったように、ただ振り下ろすだけの一撃。


 この城どころか帝国そのものを滅ぼしかねない一撃。

 これはマズイっ!

 でもーーー


 《禁忌の楽園》


「私の前では全ての力は無力と化すのよ」


 氷神滅狼アイスフェンリルの群れを救出し小規模な戦争をした時の《禁忌の楽園》とは段違い。

 私を中心に漆黒の領域テリトリーが広がっている。


「なあっ!?」

「残念だったわね。私が相手じゃなかったら、あなたは勝っていたわ」

「クソッ、なぜだ!?体が動かない。このチカラでもダメなのか!もっとだ、全てをくれてやる。だから我にチカラをーーー」


 グォン。


 突如禁忌の楽園が無効化された。

 だが、この能力は無効化能力が効くような能力ではない。


「チカラ、チカラ、チカラ、チカラチカラチカラチカラチカラ!ワレガ、コノセカイノオウニナル」


 禍々しく、狂化したリーデヴィッヒ。

 この力は邪神に届きうる。

 私は棺の中の力を見くびっていたようだ。


 これは城の崩壊は避けられない。

 リーデヴィッヒを倒す方法はあるのだが、最終的には城が壊れる。

 私の禁忌の楽園が無効化されたのは、おそらく互いの領域テリトリー系の能力が互いを打ち消しあったから。

 だからこれは効かないと思っていい。


「シネヨ」


 リーデヴィッヒが踏み込み、腕を振り上げる。

 今私にはこれを無効化する術がない。


戦乙女ヴァルキリー。《銀花一閃》」


 後ろから、銀色の閃光が一閃。

 その閃光はリーデヴィッヒの頭に突き刺さる。


「ふう、私の出番が消えるところだった」


 エルの方を警戒していなかったとはいえ、私でも目で追うのが精一杯だった。


「ふふふ、美味しいところは私がもらったぞ」

「みたいね。もう動かないし」


 リーデヴィッヒが死んだところで棺の中身を見てみましょうかね。

 ガコンという音と共に棺の中身が露わになっていく。


「なんだ?これは何も入っていないぞ」

「全部リーデヴィッヒが全部取り込んだからじゃないかしら」


 まあ、いいわ。

 とりあえずは一件落着ね。

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