汚れた国
ガキィン、ガシャン、ガキィン。
鎌で何度も斬りつけているのだが、相手の腕でガードされる。
この城の廊下は広い方なのだが、それでも戦闘には適していなく、戦いにくい。
ていうか、何で素手で戦えるんだよ。
おかしいだろ、筋肉か?筋肉のおかげなのか?
「くそっ、おかしな体しやがって」
「お前も似たようなもんだロ。俺と張り合えるやつなんてそういないゼ」
開いていた間合いを一気に詰め、闇属性を付与した鎌で袈裟斬り。
しかし、それも腕で弾かれる。
上に流れた体を勢いでサマーソルトキック。
さらに空中で、霊力の槍を複数作り出し投擲。
しかし、それらも全て防がれる。
これは困った。
「いやはヤ、なかなかやるゼ」
「嫌味にしか聞こえねえよ」
「今度はこっちから行くゼ」
一気に距離を詰められる。
だが、反応しきれる速さだ。
掌底を放たれるが、腕で無理やり直撃コースだったのをそらす。
そらした腕が痛い。動かなくなるほどではないが擦りむいたようだ。
鎌の柄で顎をカチ上げようとするが、それも顔をそらすことで回避される。
ゴッ。
逆に俺の顎に強い衝撃。俺の体が浮く。
柄を上げて体が開いた直後に膝蹴りを入れられたようだ。
脳が揺れる。
無理やり態勢を立て直す。
だが、足がふらつく。
もう一度槍を投擲、この状態で接近を許してはいけない。
しかし簡単に避けられる。
今度は簡単に接近を許し、掌底を腹部に叩き込まれる。
体は吹っ飛び、階段にぶつかり体は止まる。
死ぬほど体が痛いけど、まだやれる。
「もうやめとけヨ。このままやれば死ぬゼ。どうせお前も汚れた国から来たんだロ?」
聞いたことのある単語。
汚れた国?どういうことだ?
「…汚れた国ってリクレイフィアのことだろ?どういうことだ?」
時間稼ぎが少しでも出来れば上出来。
出来なくても、スキくらいできる。
「しょうがないナ。教えてやるヨ。リクレイフィアは今こそ平和だが昔は荒れててナ。戦争なんてやってる時は悪魔なんて物を呼び出したりするのはしょっちゅうサ。悪魔に魅入られた国とか呼ばれたりしていたんだゼ。だガ、ついには邪神なんてものまで呼び出してナ、他国を脅かしていたもんだゼ。それからその邪神が暴走。リクレイフィアも半壊、他の国も被害は甚大だったんだヨ」
邪神、カナの事だろうか?
確かにカナは前からリクレイフィアに近いあそこの家を拠点としていた。
だが、邪神族の墓地や、クレストなどの邪神に関係する土地もリクレイフィアからはそう遠くはない。
「その暴走した邪神の魔力と霊力ハ、リクレイフィアに封じ込められタ。その魔力を再びリクレイフィアが利用しようと考えたらたまったもんじゃなイ。だが、下手に手を出すと利用されかねない。だかラ、邪神の力が眠る土地として汚れた国なんて呼ばれてるのサ。邪神は強大な力を持っていてな一体いるだけで最早最強の生物兵器となるのサ。そんな力が封じられてる国だゼ?被害を受けた国は侮蔑と憎しみを込めてリクレイフィアをそう呼ぶようになったのサ」
「もうかなり昔の話だけどナ」と付け加える筋肉。
だが、リクレイフィアはその事を知っているのだろうか?
光の勇者なんてルシアが平気でリクレイフィアにいることも気になる。
「さテ、終わらせようカ」
話はこれで終わりのようだ。
脳の揺れも治った。
「そうだな。"闇よ光を全てを塗り潰し呑み込む闇よ、我が命に従いその力の一端を開放せん"《闇爆発》」
先程投擲しておいた何本もの槍が爆発していく。
その威力は上級闇属性魔法にも届きうる。
実際、地龍の鱗にかなりの傷をつけた。
複数の爆発が収まると、筋肉が傷だらけででてきた。
流石にこれくらいじゃやられないか。
仕方がない。
鎌より使えないけど火力は高い大剣を使うか。
地龍の時にも使用した大剣よりは小さいが、縦二メートル、横五十センチの大剣を作り出す。
「はっ、行くゼ」
「来いよ、筋肉」
すると、男の筋肉が更に隆起する。
もはやここまでくるとキモい。
ズドンッ!と音をだし加速し俺に接近する。
ギリギリまで引きつけ、回避する。
筋肉は回避されたことに驚いた様子だったが、すぐに切り返しもう一度殴りかかってくる。
だが、それも回避する。
これは、カナが武闘大会で見せた回避術を模倣したものだ。
これもカナには遠く及ばないだろうが、付け焼き刃にはなる。
「これならどうダ」
ゴアッ。
大きく高威力の魔力弾。
この程度なら問題ない。
霊力を壁のように放出し、魔力弾を防ぐ。
「こっちダ」
魔力弾は目くらまし。
本命は拳、そう言うことか。
でもーーー
ガキィン!
「効かねぇな」
作り出した大剣で拳を防ぐ。
だが、先ほどのような威力はない。
どういうことだ?
「馬鹿だナ」
筋肉の拳から魔力砲が発射された。
俺と筋肉の距離は大剣を挟んだほぼゼロ距離。
回避は不可能。
「"闇よ光を全てを塗り潰し呑み込む闇よ、我が命に従いその力の一端を解放せん"《闇爆発》」
手に持っていた大剣を爆発させる。
先程の槍を爆発させた時の数倍の爆発。
「ぐっ」
それでも詠唱が間に合わず少しくらってしまう。
だが、まだ動ける。
相手もまだ健在のはず。
最後まで油断はしない。
「…全てハ皇帝陛下の為ニ」
血塗れだ。
必死に皇帝のいる上階に手を伸ばす。
「悪いな。俺だって戦う理由があるんだ。だからお前には殺されてやらない」
そう言い、霊力の槍を筋肉の首に突き刺す。
殺すことに慣れたわけじゃないので罪悪感を持っているのは当然のことだ。
だが、そんな事では前には進めない。
「おい、三騎士様がやられているぞ!」「者ども!騎士様の死を無駄にするな!」「侵入者を殺せ!」
この城の警備兵、廊下いっぱいに隊列を組んでいる。
少なくとも百は越えている数だ。
あんなに爆発とかさせたのに来るの遅くない?
まあいいや。
カナとエルのところには行かせない。
「こいよ、まとめて相手してやる」
再び槍を作り出し投擲。
今回は爆発はさせない。
槍は列を組んでいる兵たちの行く手を阻むように刺さる。
すると、その槍は爆発ではなく、黒い壁を作り出す。
俺が防御で使う霊力の壁である。
その間に階段を駆け上がる。
高い身体能力を生かして走る。
そして最上階へと到着する。
「《闇弾》」
階段を壊して、俺の仕事は終了。
最低限の死者しか出さず、仕事を終えることができたと思う。
「さて、カナ達はどの部屋だ?」
最上階にも関わらず、たくさんの部屋が存在している。
とりあえず片っ端から開けていくことにしよう。




