王城攻略
「これが王城の大まかな見取り図だ。基本的に兄上はこの部屋、自室にいる。今回は兄上を殺せば勝ち。兄上の王位継承権は殺した私に移行する」
俺とリオが寝落ちしてしまったので、朝、怪しげな宿屋の一室で作戦会議中であった。
「王城を攻略するにあたって注意すべき人物は二人。兄上直属の騎士三人だ」
やはり王位継承権を持っている人物ともなると、護衛くらいいるのだろう。
直属の部下ともなれば、かなりの実力を持っているのはお約束。
「その三人は基本兄上のそばで護衛している。たとえ、兄上が自室にいるとしても、部屋の前で待機しているはずだ。その三人をどうにかしないことには兄上には指一本触れられない。だが、その三人は異常なまでに強い。だから困るんだ」
やっぱり。その事なら心配しなくても問題ないはずだ。
「私たちの実力的な面なら心配しなくても問題ないわ」
一対一ならば、邪神に聖騎士兼光の勇者、氷神滅狼がいるのだからその辺はあまり心配していない。
心配しているのはそれぞれ分断され、一対複数でかかって来る場合だ。
カナならともかく、リオなどは数の暴力にやられかねない。
「城の警備兵が三人の騎士と戦っているときに来たら一番まずい。そこは回避したい。何かあるか?エル」
「それなら考えがある。兄上の自室は城の最上階にある。そこに繋がる階段は二つ。それを潰せば援軍はこない」
階段を潰す、定石だな。
援軍を呼ばれるのを避け、確実に邪魔者だけを消していく。
エルもやはり皇女、怖いことを考える。
「じゃあ二チームに分けて城に侵入。兄上の自室のある最上階までついたら階段を破壊。その後直属の護衛を三人、ロキア、リオ、ルシアでなんとかしてもらえるか?カナは兄上の空間魔法を無効化したらしいから兄上を殺しに行こう。私も同行する」
これは戦争じゃない。暗殺だ。
殺す相手は少ないほうがいい。
標的は一人なのだ、余計な人間は殺す必要はない。
「今日の天気は曇り、ならば月明かりの差さない今夜がベストだろう。侵入ルートは北門と南門。私、ロキア、カナのチームと、リオ、ルシアのチームの二つに別れて行動でいいか?」
エルはみんなの顔を見回す。
エルの作戦に文句はないようだ。
というか、城を一番よく知っているエル以外に誰が作戦を立てられようか。
カナが帝国に来てしていたことは皇帝が武闘大会で使用した棺についてらしいので、作戦などはエルが立てるのが最適だろう。
「夜までは自由時間なの?」
ルシアの質問にエルは「当たり前だろ?」と首をコテンとかしげる。
そんな適当な感じでいいんですかね。
「武器とかその辺の調達はいいのか?」
「あっ、忘れてた!ありがとうロキア!みんな変装中だから戦闘用の服装に着替えて置くように!」
戦闘用ね。
エルとルシアの実力がいまいち把握できていないのでものすごく気になる。
二人の身体的スペックはかなり高い。
だが、エルは実際戦闘を見たわけではないし、ルシアも雑魚を相手にしていたから本気ではないだろう。
この騒ぎが終わったら一度手合わせしてもらおう。
何か盗めるものがあるかもしれない。
♢
夜、月明かりは差さず、数メートル先すらも見えない状況ある。
作戦決行にはベストな気候。
俺たちは変装を解き作戦時間まで待機中である。
俺、カナ、エルは北門で待機。
作戦時間になれば突入する。
「なるべく見つからないようにする方向でいいんだよな?」
「ああ、兄上以外はあまり殺したくはないからな。必要とあらば殺すが」
皇女となれば国を救うために一人を切り捨てるなんてざらだろう。
「ロキア、無茶しないでね。今回は私もすぐそばにいるから。皇帝を瞬殺して、ロキアを助けられるからね」
「あ、ああ。でも大丈夫だよ。俺だっていつまでも弱いままは嫌だからな」
確かに俺は最初の頃に比べれば、強くなったと断言できる。だが、目指している背中が遠い。
その目指しているカナと、何かと戦う時にこうやって一緒に行動するなんていうのは初めてなので少し嬉しい。
「ロキアとカナはどうしてそんなに仲がいいんだ?家族でもないだろ?」
どうして、と言われても困る。
カナの方も見ると同じ意見だったようで、俺と顔を見合わせる。
「俺が一方的に慕っているだけかもしれないな」
「それはあり得ないわ。私はロキアのこと好きだもの」
「うん、分かった。分からないけど分かった。それより、時間だ。侵入するぞ」
適当に話していたら作戦時間になった。
どうやって侵入するのだろうか?
門には二人の門番がいる。
どうやって突破するのだろうか?
「面倒ね。はっ!」
カナの両手から一発ずつ何か魔力のようなものが放たれた。
「峰打ちだから安心しなさい」
白目むいて痙攣してるんですけど。
死にそうなんですけど。
「よし、行くぞ。門は飛び越えろ」
そう言うとエルはダンっと踏み込み、五メートルはある門を飛び越えていった。
エルって本当に人間?
「ロキア、私たちも行くわよ」
「お、おう」
俺とカナも軽く門を飛び越え無事場内に侵入に成功。
「ここを直進して、突き当たりを右に行くと階段がある。そこを一気に駆け上がると最上階だ。一気に行くぞ」
エルは、帝国に来るまでに出した速度よりも速く走る。
俺も置いて行かれないよう、身体強化、限界突破を発動。
エルの先導は的確だった。
警備の兵士がいても、止まることなく死角を見事に走り抜けていく。
これは兵士がたるんでいるのではなく、侵入者がすごすぎるのだと思う。
すぐに突き当たりを右に。
すると、階段が見えてきた。
後はここを登ればーー
「ここから先は通さんゼ!」
階段には筋肉質な男が待ち構えていた。
これは?
「兄上の直属の騎士の一人だ。くそっ、侵入がバレていたとは」
まあ、作戦にはイレギュラーがつきもの。
そう気を落とすことはない。
「ここは俺に任せて二人は先に行け!」
異世界に来て言ってみたかったセリフ第三位。
死亡フラグがガンガン建設されてる気がするけど、気にしない。
「冗談は置いといて、カナとエルは先に行って目的を達成してこい。俺はここでこの筋肉の足止めしてるから」
ここで、二人が止まってしまうのは得策ではない。
ならば、俺がこいつの足止めでもしておけば万事オッケー。
「ああ、任せたぞ、ロキア!」
「すぐに戻ってくるわ」
俺はすぐに霊力で大鎌を作り出し、横薙ぎ。
筋肉の体を階段から吹っ飛ばし、道を開く。
二人が通ると、今度は俺が階段を守るようなポジションへ。
「ふう、男だゼ、お前」
「お前は漢だな」
本当に、男よりは漢と言った見た目。
俺もあんな筋肉が欲しいと思っていた時期があったなあ。
「さテ、ここを通セ」
「させねえよ」
「でモ、反対側の階段ハ、ほか二人が守っていル。そっちはどうなんダ?」
「心配はしてないさ」
くせぇセリフだなと自分でも思った。
でも、この状況でなら言っても許されると思った。
そんな雰囲気だもの。
「さて、久方ぶりの命の奪い合いだな」
「いいネ、そう言う奴は嫌いじゃなイ」
ここは、上に助っ人に来たぜとか言いながら格好良く登場したいから早く終わらせる!




