変装
ルシアの先導でたいした時間もかからずに、近くの町までたどり着いた。
エルもやはり俺たちのスピードにしっかりとついてきていた。
「で、変装ってどんな感じのがいいんでしょうか?」
ルシアが疑問に思ったらしいが俺に聞かれてもわからない。
確かに騎士は護衛などが多く、変装とかあまりしない感じだが、俺なんて変装のへの字すら知らないんだぞ。
「これじゃダメなの?いつものリオと違うよ」
リオはそう言うとポンと狸が化ける時のような音を出し、ケモミミに尻尾を出す。
「げ、リオ、戻せ。それはなし」
「えー、そうなの?わかった」
人前で獣化はなし。可愛いけど。
もう遅いが、幸い現在は町の入り口なので人通りも少なく、俺たち以外は見ていないようだ。
「今のって、リオちゃんってただの魔物じゃないんですか?」
「リオはアイスふぇんふむっ!?」
リオが面倒ごとを起こしそうだったので口をふさぐ。
氷神滅狼はかなり希少で強い神獣だとカナが言っていた。
なのでここではまだ話すべきではない。
口は災いの元である。
「え、えーと、リオは氷狼なんだよ!」
「そうですか?それにしてはうまく耳などを偽装できていましたが…」
「氷狼なの!何があっても氷狼なの!な!リオ」
強引に納得させる方向で。
ついでにリオにも話を合わせろと視線を送る。
「う、うん、リオは氷狼だよ?」
「何で疑問系なんですか?まあいいです、それは置いといて、変装は顔や服装で私たちの事がばれなきゃいいんですよね?それならば、ウィッグとかメイクで誤魔化せませんか?」
うーん、どうしよう。
最低でもルシアとエルは完全に顔バレしているから変装はしなくてはならない。
女ならばまあ、メイクとかでごまかせるか。
でも男の俺と、子供のリオはどうしよう?
「ふむ、リオは私のスカートの中に隠れたらーー」
そう言って自分のロングスカートをたくし上げるエル。
「エルさん!ロキアさんも見てるんですよ!」
エルに恥じらいというものはないのだろうか?
いや、見えてないけど、男はそれでも狼になっちやうんですよ?
むしろリオよりも狼らしくなっちゃうよ?
「私は気にしないのだが」
「気にしてください!」
金と銀の髪の二人が漫才のようなことをやっている。
金銀コンビだな!
「とりあえず、一時間ほど時間をとるから、それぞれ変装していてくれ。集合はここ。じゃあ、一時解散!」
そう言うとルシアとエルは町の中に入っていった。
リオは俺の服の袖を掴んで言った。
「リオはどうしよう?」
「リオは耳とか偽装できるから体全体もどうにかならないか?」
できるかな?と首をかしげるリオ。
でも、確かリオの固有能力に人化があるのだから、体のイメージを変えればできると思う。
ポンっと再び変身の音が聞こえたので見てみると、普段のリオとは少し違う、元気というより物静かなイメージの黒髪ロングの幼女になっていた。
「おお、できるじゃん!」
「うん、でも、リオはいつもの方がリオいいな。これ少し疲れる」
それは今回の帝国侵入が終わるまで我慢してもらう他ない。
「俺はどうしようかなーっと」
変装、変装ねぇ。
もう他の体に憑依とかしちゃえばよくね?
と言っても手ごろな死体なんてそう簡単に見つかるはずもなく。
うーん、どうしたものか………あ。
憑依解除。
するとクレストの体は崩れ落ち、俺はいつもの霊体になる。
で、《収納》で体を収納。
で、称号"邪神族の墓地の孤独幽霊"を発動で一般人には見つからないじゃん。
これはカナにもかなりの手練れじゃないと見つけられないとお墨付きをもらった。
「お兄ちゃんが消えた!」
ふふふ、リオにも見つからないとは結構やるじゃないか、俺。
幽霊ならば匂いもなく、見つかりにくく隠密行動には便利だ。
ただ、一つ問題が。
現在の天気は曇り。
だが、この体では天候が晴れると消えてしまう。
太陽の光を浴びるとこの体は蒸発してしまう。
その辺はリオにでも日傘をさしてもらってその影に入ればいいか!
『よし、リオ、日傘を買いに行こう!』
「あれ?お兄ちゃんお化けになったの?」
『ああ、でも今はとりあえず《憑依》』
体を収納から出し再び憑依。
「よし、じゃあ行こうか」
「はーい」
俺たちも日傘を買いに街の中へ入っていく。
♢
無事に日傘を買い、俺とリオは変装の心配はなくなった。
ルシアとエルがどんな格好をしてくるかは不安だが、ルシアがついているのであまりおかしな格好にはならないだろう。
…でもエルがなぁ。
エルはカナと同等以上の天然だし。
多分自分なんて男勝りの女だから魅力なんてとか思ってるんだろうなあ。
エルは美人だし、巨乳だしでとても魅力的な女性であることはだれの目から見ても明らかである。
しかも皇族なのだから非の打ち所がない。
ざわざわ、ざわざわとなにやら向こうの方に人が集まっている。
何か嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
嫌な予感がビンビンとしながらも騒ぎの方に近づいてみる。
たくさん集まったギャラリーの中心には、予想通りルシアとエルがいた。
「はあ。なんでこう綺麗に人目を集めるんだ」
「でも、お姉ちゃん達ちゃんと変装してるよ?」
確かに、ルシアは髪の色が茶色になっているし、顔もいつものルシアに似てはいるものの、よく見ないとわからないレベルにはなっている。俺は分かったけど。
服装も騎士団制服ではなく、町娘といった感じである。
エルは髪の色が金色になり、長い髪を後ろで一つにまとめている。
ポニーテールというやつだ。
メイクもしてありこれもなかなかエルだとは判断しにくい。
こちらも服装は町娘のイメージ。
サラシを巻いているのか胸も小さくなっている。
兄弟である皇帝にも一眼では見抜けないのではないだろうか?俺は分かったけど。
で、その二人がなんで人目を集めているかと言いますと。
あの二人超絶美人じゃね?
すごい綺麗、憧れるー!
なにあれ?モデル?
二人ともドストライクーー!
まあ、わかってましたよ?
二人とも美人だし、今までこんな風に人が集まらなかったのが不自然だよ。
そしてその二人は人に囲まれオロオロしている。
しかも、自分たちが囲まれている理由がわかっていないらしい。
二人とも鈍感系ヒロインらしい。
「はいはい、ちょっと失礼」
人混みを掻き分け二人のいる場所へ。
すると二人は救いの手が来た!とでもいうような顔に。
「ほらほら、何やってんだ。行くぞ」
そう言うと、二人の手を掴み、逃げるように人混みから去っていく。
「「ロキア(ロキアさん)!」」
「こんなところで油売ってる暇ないだろ?早く帝国に行くぞ!」
人混みから少し離れたところに待機させておいたリオとも合流し、入り口まで戻る。
「助けていただきありがとうございます。ところで、何でロキアさんは変装してないんですか?」
「俺は能力で似たようなことができるからいらないんだよ。帝国の近くに着いたら使うつもりだ」
へー、便利ですねと感心しているルシア。
エルはなぜか俯いて黙っている。
「どうしたんだ?エル」
エルの顔を覗き込むと、顔を真っ赤にしているエル。
えー、俺なんかした?
怒ってるの?恥ずかしがってるの?
スカートを躊躇いなくたくし上げたところを見ると恥ずかしがり屋というのもなさそうだし、前者か?
「いや、すまん。私の性格上引っ張ることはあっても、引っ張られることはなかったんだ。忘れてくれ」
いや、あの、返答に困るんですけど。
これはあれか?
皇族で箱入りだから男ともあまり関わらなかったからいきなり引っ張られて、その場の雰囲気で惚れちゃったとか?
どんなテンプレだよ!
流石に現実でそれはねーよ!
そんな夢のような物語は二次元限定です!
微妙にエルと気まずい雰囲気になりながらも、帝国を目指すため再度走り出す。




