帝国へ
四章の修正等入るので次回の更新遅れます。
カナの家にて俺とリオは二人とも椅子に座り向かい合ったまま無言であった。
いまこの家に家主であるカナはいない。
いつも元気なリオが元気がないのはそのせいだろう。
武闘大会で皇帝が異界の鍵を使用した後、カナは俺たちに「すぐ戻るから心配しないで」と言って姿を消してしまった。
カナの事だから死んではいないだろうが、心配なものは心配だ。
武闘大会も、祭りも一応は皇帝に身の危険があったので中止と言う話になっている。
これは表立って帝国と敵対しないための措置だろう。
「…お姉ちゃん、もう五日も帰ってこないね」
「大丈夫だよ。カナの強さは知ってるだろ?カナが負けるなんてことありえないよ」
祭りが終わって一月、カナが出て行って五日。
カナがどこに行ったかは大体予想がつく。
おそらくはシクラ帝国へ向かったのだろう。
カナは皇帝にブチギレていた。
つまりは皇帝を殺しに行った?
だが、カナも馬鹿じゃない。
帝国ごと滅ぼしても、いきなり皇帝を殺しても帝国とその同盟国から指名手配されるのは確実。
今は様子を見て、安全に動いているところなのだろう。
カナは意外と天然なのでちょいちょいとんでもないことをやらかすのでそこも心配だったりする。
「カナのところ、行くか?」
でも、カナだけじゃなくて、元気のないリオも見てはいられない。
ここはさっさとカナを連れ戻すのが得策だろう。
「……お姉ちゃんのところ?うん、行く」
よし、じゃあ目的地と目的は決まった。
だが、どうやって帝国まで行こう?
俺はこちらの世界の地理などさっぱりなのでどちらに帝国があるか全くわからない。
どれだけ遠いのかもわからないので交通費もどれだけかかるかわからない。
帝国についても検問とかに引っかかるかもしれない。
…ボロボロじゃん。
どうしよう?
コンコン。
家の戸を叩く音。
?この家に今まできた人と言えばシュウくらいのものだが、シュウはノックなどしない。
誰だ?
「はい、今出ます」
ドアを開けると、騎士団制服を着たルシアだった。
「どうしたんだ?こんなとこに来て」
「いえ、お二人のことだからカナさんのところに行くのではないかと思い訪ねたのです」
まだ会って少ししか経っていないのによく分かったな。
でもナイスタイミング。
ルシアに帝国までの道のりを教えてもらおう。
「ああ、帝国に行こうと思ってたよ」
「でしたら、私と共に行きませんか?私も今回の件は聖騎士としも勇者としても見逃せなくて」
この国を襲った事だろうか?
この国の治安を揺るがす物は断罪!とかそん感じなのだろう。
「おお、ありがたい、帝国が何処にあるかすら分からなかったんだよ」
「…よくそれで行く気になりましたね」
「いいんだよ、今はルシアがいるだろ」
はあ、と呆れたようにため息をつくルシア。
「で、どうやって行きますか?馬車を使うなら三日と言ったところですが」
なんだ、そんなに近いの?
しかもそれは、少し遠回りとなる街道を通った場合である。
だったらーー
「走っていくか」
「馬車よりリオの方が速いよっ!」
「まあ、そうですよね」
街道を通らず適当に荒れた道を通った方が断然早い。
今思ったけど、こいつらも大概非常識だな。
普通走って行くか何て言われたら乗り物使えよ!って言わない?
魔族に氷神滅狼、人間と言った種族がいて最強が人間っていうのもおかしいけどな。
「で、他に連れて行く人とかいるのか?」
騎士団幹部とか連れてくのかな?
個人的には嫌だけど聖騎士が動くのなら仕方がないだろう。
「いえ、私たち三人だけです。大人数で行っても勘ぐられるだけですから」
ふむ、少数精鋭というわけだな。
よかった、個人的にはもしもの時合体出来るシュウも連れて行きたいが、シュウのような好戦的な奴は連れて行けないだろう。
「出発は早い方がいいでしょう。今日は最低限の準備。明日の朝に出発です。走っていくんですから荷物は軽くでお願いしますよ?私達なら半日あれば到着するでしょう」
半日、この体になってから移動時間の間隔がよくわからなくなってきている。
だってこの体とかハイスペックだし。
本気を出せば時速百キロは出るし。
そんなハイスペックな体でも目に見えない速さを叩き出すカナとルシアって一体…
それは置いといて、ここから半日。
カナならばその間に終わらせてしまうかもしれないが、一日かからずに行けるのはデカイ。
「わかった。荷物は適当に収納に突っ込んでおくから荷物はほぼないよ」
「了解です。では私もなるべく鎧などを置いて身軽な服装で行きます」
「リオはどうしよう?」
リオは特に荷物とかなくないか?
リオは基本素手と魔法で戦うし。
「リオは持ち物とかは大丈夫だよ。必要なものは全部俺が持っていく」
「わかった」
では、とルシアが玄関へ向かう。
「今日のところは帰ります。明日の朝にこの家で」
「了解」
「また明日ねー」
リオが手をブンブンと振っている。
少しは元気が出たのだろう。
カナがいなくなってからは元気がなかったし。
「さて、なんか持ち物あったかな?」
修学旅行前日のような気分で持ち物整理に向かうのだった。
♢
暗く、涼しい風が頬を撫でる。
静かに、聞こえるのは木々が揺れる音と虫の音。
いつか、カナに元気付けられた場所。
カナに迷惑しかかけていない俺には思い出の場所などこれくらいしか思いつかなかった。
別にカナが死んだとかでもないが、感傷に浸りたい時もある。
リオはぐっすり寝ている。
まだ純粋な子供だから夜更かしなど出来ないのだろう。
カナがいなくなった。
それはカナの意思であり、他人の介入する余地のないものなのだろう。
それでも俺にとっての日常は壊された。
それは俺が命をかけるに足ることだ。
カナは無敵だ。俺が手助けしなくとも勝手に解決して帰ってくるだろう。
それでも、俺はーーー
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