武闘大会予選 弐【カナ・アークノート】
予選第一回戦をリオと選手控え室のモニターで見た。
本当は舞台の周りの観客席で見たかったけど選手はここにいろとのことなので、仕方がないだろう。
感想としては嬉しかったとしか言えない。
その理由は弟子の戦いぶりだ。
ロキアの動きは私の動きにとても似ていた。
いや、私の動きそのものだった。
最初はまだぎこちなく無理やりだったが、数を倒していくうちに私の動きを完全にコピーしていた。
私がいつもロキアにやっている戦い方だし、見て覚えたのかしら?
知らぬところで弟子というものは成長しているのね。
そんな事を考えているとそのロキアが戻ってきた。
「あー、疲れた」
「お疲れロキア」
「お兄ちゃんかっこよかったよ!」
本当にかっこよかった。
危うく惚れてしまうところだった。
でもロキアは私なんて恋愛対象に入ってないんでしょうけど。
「次はカナだな。頑張れよ」
「フフフ、私が負けると思ってるの?」
「それはありえないな」
私の実力を信用してくれるのが嬉しかった。
弟子の信頼は本気以上の力を引き出してくれる。
「オイ、オレの応援はしてくれねぇのか?」
なんかシュウが横から入ってきた。
最近弟子との時間を奪っていく男。
ロキアの友達なので嫌いじゃないが、好きでもないのだ。
「なんでお前の応援なんてしなきゃいけないんだよ」
いっそのこと偶然を装ってこの大会で二度と戦えない体にしてしまおうかしら?
でも、それをしたらロキアに嫌われるかもしれないからやめておく。
「どうするの?私は戦っちゃいけないかしら?」
私が戦ったらロキアとシュウの戦いが見れない。
男同士のプライドと意地をかけた戦いというやつを見てみたい。
でも私が戦うとシュウごと周りの人達を戦闘不能にしてしまうかもしれないのだ。
「ふざけんなよ、オレはお前とも戦いてぇんだ」
「じゃあ手を抜いてもらったらどうだ?」
「オレがこの女に負けると?」
「何があってもお前じゃ勝てない」
ロキアの言う通りだ。
自分の実力と相手の実力を理解しない奴から戦場では死んでいく。
それがなぜわからないのか。
全く、あの墓地にいたのがシュウだったら弟子になんてしてなかっただろう。
「ま、軽く準備運動の気分でやってもカナは十分強いからなるべく力を抑えて戦ってくれればいいよ」
「わかったわ」
あまり力を出し過ぎても帝国やらが見ているから目をつけられてしまうものね。
ロキアやリオがいる日常を壊したくないし頑張るわ。
「さて、そろそろ行きましょうか」
「そうだな」
あなたには言ってない。
「カナだからな、本当は頑張れとかそういう言葉は必要ないんだろうけど一応、勝ってこい!」
「ええ、当然よ」
弟子の応援を背に受け舞台に向かう。
♢
舞台に集まっている選手たちを見てみるが強そうな人たちが見られない。
こんな奴らよりはシュウの方が強いだろう。
ロキアをあまり傷つけたくないのだが、このままではシュウが残ってしまう。
ロキアとシュウの戦いを見たくないのか?と聞かれればみたい。
今私の中でその二つを天秤にかけている。
『ではでは、予選第二回戦始めますよー。レディーFight!』
試合開始の合図。
どうしたものかしら。
速攻でこの試合を終了させることは可能だ。
でもそれだと目立つし帝国なんかに目をつけられてはたまらない。
とりあえずは、ただひたすらに相手の攻撃を避ける。
こちらから攻撃することはせず回避に徹する。
ロキアもこれを見てくれているだろう。
先ほどは私の攻撃の際の動きを真似していた。
今度は回避を教えようと思ったのだ。
…見てくれてるかしら?
見てくれてたとしてちゃんと私のやろうとしていることが伝わるかしら?
師匠も中々に大変なのね。
弟子のことを常に考えなくちゃいけないんだもの。
本当、私は最近は毎日ロキアのことを考えている気がする。
これは師匠ならば当然の事だろう。
作る料理はロキアの好き嫌いを把握してから作るようにしているし、修行のメニューもロキアの体調を考えてから立てている。
ロキアの着ている服だってぱっと見かっこよくて外に出しても恥ずかしくないものを作っているし、寝るときはロキアの寝やすいように魔法で温度調節をしてあげている。
ロキアが夢でうなされていたら抱きしめて落ち着かせてあげる、その時顔が熱くなって胸がドキドキするのだがなぜなのだろうか?
これくらいは師匠なのだから当然だろう。
ロキアは気がついてないだろうけど。
でも、避けてばっかでなんか面倒になってきた。
回避に徹して五分はたったかしら?
じゃあそろそろ攻めの方に転じようかしら?
ふと周りを見てみるとシュウがオラオラ叫びながら周りの人間を殴り飛ばしている。
それでも残り人数はまだ結構いる。
大体がシュウを取り囲んでいて、私に攻撃してくるのはたった数人。
なんか私が弱いと思われているみたいで嫌だ。
このままじゃ、時間もかかるしさっさと終わらせよう。
とりあえず私に攻撃してくる人を蹴り飛ばし場外へ。
次にシュウを取り囲んでいる奴らの中心、シュウのいる場所に移動。
「オイ!邪魔すんーー」
「うるさい」
「はあ?」
「ロキアと戦いたいなら動かないことね」
一応シュウに警告。
そして、周りの奴等を吹っ飛ばしにかかる。
掌底で相手の顎を、手刀で首の後ろ、蹴りで鳩尾。
気絶、場外で次々になぎ払っていく。
ん?魔法?
私に向かっておそらく上級以上の炎球の魔法が上から落ちてくる。
「この程度っ!」
魔力を少し解放し、手を炎球に向かって横薙ぎ。
それで炎を消し飛ばす。
周りはポカンとしている。
今のうちに。
炎を消しとばした時の要領で手を振るい、周りの人間を吹き飛ばす。
『しっ、試合終了!予選二回戦勝者は圧倒的な強さを見せつけたカナ・アークノート選手と喧嘩上等、シュウ選手の二人に決定しましたー!』
当然よ。
♢
「やりすぎだ」
「ごめんなさい」
弟子に怒られた。ついカッとなってやりました。
「かっこよかったけど、目立ちすぎだ」
かっこいいって言われた。
女としては複雑だけど師匠としては嬉しい。
「ロキアが私の戦い方をまた参考にしてくれればと思って」
「そ、それは嬉しいけど……次はあんまりやりすぎるなよ」
顔を赤くしちゃって可愛い。
この大会の決勝は師匠対弟子の対決みたいな感じで決定ね。
師匠って、こんなものでしょ?
弟子の妻とかオカン的な立場でしょ?
感想評価頂けたら嬉しいです。
今回の第四章長くなりそうです。
予選〜本戦とかいちいち区切ると長くなりますけどまとめた方がいいでしょうか?




