戦争【カナ・アークノート】
最近は楽しい、そう思える毎日が続いている。
それも墓地で拾った弟子ロキアが来てからだと思う。
彼が来てから私の日々が楽しくなっている。
ロキアはちょくちょく私に好きだーとか、結婚してーとか言うけれどどれもその場のノリのようなものだろう。
実際ロキアは流されやすい性格だと思う。
でも、彼の心はとても繊細で傷つきやすい。
自分が劣っていると思ってとてもネガティヴになる事がよくある。
そんな時に励ましてあげると一瞬すごい笑顔になった後、何かを決意したような顔になる。
その辺男の子だなぁって思う。
リオという氷神滅狼が家に来てからもロキアはリオのためだったりいろいろ頑張っていると思う。
強くなるために頑張って一人でも鍛錬を欠かさない。
私が見ていないところですごい努力をしていること知ってるのよ?
でも、そんな平和で楽しい日々を壊そうとしている輩がいる。
正直、問答無用で殺してあげたいくらいだけどロキアが出来るだけ一人でやりたいと言うのだからあまり手を出さないようにしてある。
私の実力の一部を知っているからか、それを目標にしているようで、まずはリオと一緒に目先の事を解決しようとしている。
それでも二人では限界がくる。
そしてついに私を頼ってくれた。
嬉しい。
師匠として誇らしいな。
でも実際やる事はリオの護衛。
つまらないと感じるけれど弟子の頼みだから仕方ない。
頑張ろう。
ロキアは主犯を捕まえると迷宮の方に行ってしまった。
一人で大丈夫だろうか?心配だ。
でも、ロキアだから大丈夫だろう。
私とリオは王都に来て、進行してくる敵の排除と神滅狼たちの説得だ。
説得はリオがやってくれるらしい。
「まかせてっ!」
とリオは胸を張って言っている。可愛い。
でも神滅狼が九体程度ならなんの問題もなく排除できるのだけれど弟子の作戦を引っ掻き回したくないので待機しておく事にする。
そんな事を考えていると、隣にいるリオから声がかかった。
「"みんな"の匂いがするっ!」
そう言ってリオは駆け出す。
私もその後ろについていく。
確かに他とは違う大きな反応がする。
リクレイフィアの外にも数千程度の生物反応が。
戦争を仕掛けるのに神滅狼九体は流石にないか。
「リオ、悪い人たちがたくさん近づいて来てるわ。少し急ぎましょう」
そう言ってリオを小脇に抱え駆け出した。
面倒なので建物の屋根から屋根を飛び移る感じだ。
この方が速いし問題ないだろう。
そのおかげか、敵の兵が王都に到着する前に神滅狼の元までたどり着く事が出来た。
街の衛兵は、敵の進軍に気が付いたようで慌ただしく動いている。
住民の避難も進んでいるので多少暴れても問題ないだろう。
リオは最初に合った頃と同じ獣の状態となり何かを話しているようだ。
恐らく説得は不可能だろう。
おそらく誰かに干渉を受け、完全ではないが操られている。
「…《解呪》」
リオにバレないようにその干渉をはずす。
これで説得は成功するだろう。
ロキアにばれたら怒られるかしら?
残る問題は王都の外にいる兵だ。
ロキアによるとあまり目立つ行動は避けるように言われた。
別に軍一つ潰すくらいわけないのだが、目立たないようにと言われると困る。
広範囲殲滅魔法とか使っちゃダメかな?
目立たないように進軍を止める方法などない。
どうしようかしら?
「カナ!終わったよ!」
いつもの幼女リオが笑顔で話しかけてきた。
「ふふ、偉いわね」
そう言って頭を撫でてあげる。
リオは嬉しそうである。
『女、礼を言う。我らに掛けられた呪縛を解いてくれたであろう』
「知らないわね、勝手に解けたのではないの?」
神滅狼の長的なのが念話で話しかけてくる。
私は口ではこう言うが目ではその事には触れるなど強めに語る。
それを察したのか神滅狼の方もその事には触れなかった。
『外の軍は私達が責任を持って片付けてこよう。女は迷宮にいる少年の手当でもしてやればどうだ?』
少年?ロキア?
怪我をしたのだろうか?
心配だ。神滅狼は嗅覚が鋭い。
先ほどまで迷宮にいたのだから、血の匂いを嗅ぎ取ったのかもしれない。
「リオ、"みんな"と一緒にいなさい」
「?カナはどこに行くの?」
「ちょっと、弟子を迎えにね」
そう言って地面を強く蹴り跳ぶ。
先程リオを抱えて走った時のスピードなんて比べるまでもない。
神滅狼達も王都の外に向かって走っている。
兵を迎え撃つためだろう。
王都を出て、迷宮の方へ走る。
その途中、敵兵の大軍の中に突っ込んでしまったが、即座に闇属性最上級魔法の黒炎を無詠唱で発動する。
その黒炎を刃渡り三メートルもあろうかという長剣の形へと変形させ、魔力をかなり込めて横薙ぎ。
その一振りで軍の三分の一が壊滅したが関係ない。
ロキアが自分の居場所を守るために戦っていると言うのなら私だってそうだ。
ロキアがいなければ私の日常に変化など訪れなかったはずだ。
ロキアの居場所は私の居場所でもあるのだ。
「くそっ、相手は女一人だ!全員で潰せ!」
なにやら敵の司令官のような人が兵に命令をしたせいで、更に面倒な事になってしまった。
武装した軍人達が私に襲いかかってくる。
「はぁ、面倒ね。《禁忌の楽園》」
私の固有能力の一つを発動。
私の魔力が及ぶ範囲なら私の意のままに操る事が出来る。
物体、生き物、魔力、空気だろうと何だろうと関係なく私の支配下。
でもあまり目立たないようにという事なので動きを止める程度にして走り去る。
あんなのに構っている暇はない。
他のものには目もくれずに迷宮まで走る。
その甲斐あってか、すぐに迷宮の入り口まで到着した。
ロキアにはかっこ悪いところは見せたくないから余裕を見せて行く。
魔力の反応を感知し、それに向かって歩く。
その場から動いていないようだ。
どうしたのだろうか?
少し進むと、霊体のロキアが体に向かって回復魔法を掛けようと頑張っていた。
クレストの体は深い傷を負ってしまったようだ。
『回復魔法ってどうやって使うんだ?』
魔力や霊力を使い試行錯誤している。
上手くいかないようだ。
「回復魔法は、光属性の魔力と霊力を三:七で混ぜると出来るわよ」
ついつい使い方を教えてしまった。
弟子が可愛いからしょうがない。
『えっ?カナ!なんでこんなところに!?』
「私の仕事は終わったからね。見に来たのよ」
ロキアは間に合わなかったか、と呟いていた。
やはりあまり私に頼りっぱなしは嫌なようだ。
頼ってくれた方が嬉しいのに。
男ってその辺勝手よね。
こっちの気も知らないで。
まあいいわ、その気持ちは分からなくもないし。
でも、こんな気持ちになったのは初めてかしれない。
『あっ、出来た!』
ロキアは効果が薄いながらも回復魔法を成功させていた。
初級だが、魔族の回復速度と合わさればかなり大きな効果を発揮する。
「そのようね。じゃあ帰りましょうか。リオが待ってるわよ」
『そうだな。あ、そう言えばリオを家で飼っていいか?』
なんかペットのような扱いだ。
リオは群れに帰るのではなかったのだろうか。
「リオがいいなら問題ないわよ」
『よし!』
私の日常に弟子と更にリオが加わって楽しくなりそうだ。




