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転生したら幽霊だったのだが  作者: 白乃兎
二章 王都編
20/82

心の暖かさ

今回はリオの話です。

あーあ、もう少しでまたテスト。

勉強しなきゃなー。

 カナの家にてこれからの行動を考えていた。

 戦争に介入とは言ったがまだ戦争は始まっていない。

 だが、始まってしまえば最悪九体もの神滅狼アイスフェンリルと戦闘しなければならない。

 俺では一体ですら難しいだろう。

 今の俺にできる事は氷神滅狼が王都リクレイフィアに侵入して来る経路を完全に把握する事だ。

 そちらをリオになんとかしてもらっている間に俺が主犯を捕らえる。


 だが、そのためには確実に主犯を捕らえられる実力と情報、探知能力が必要になってくる。

 俺ができるのは探知くらい。

 他はからっきしだ。

 最低でも氷神滅狼を強制的に転移させられるほどの実力を持っているのは確かだ。

 リオに聞くと氷神滅狼は魔法対抗能力は低いので強制転移は困難というわけでもないらしいがそれでも神話級の魔物である事には変わりがない。

 固有能力で転移魔法を所持している確率もあるがそれも微妙なところだろう。


 とりあえずは王都を常に警戒しているがそれも万能ではない。

 ましてやカナの家からの探知など正確さも期待できない。

 そうなってくるともう行動の速さだけが鍵となってくる。


「やっぱり私の力必要?」


 前はいらないと言ったがやはり必要になりそうだった。

 カナは善意で聞いてくれているのだろうが俺はただ悔しいだけだった。

 もっと俺に力があればカナに頼らずともこんな事はさっさと解決出来たのだろう。

 カナの隣に立ちたいのに未だにカナに手を引っ張って貰っているようで嫌だった。


 それでも今一番守りたいものはこの居場所。

 カナとの時間が無くなればこの世界での俺の居場所は無くなる。

 それを守るにはやはりカナの力に頼る他ない。


 それでもカナには極力戦闘には関わらせない方向で話を進めたい。


「主犯格は俺が倒す。カナにはリオの護衛を頼みたい」


 カナは少し驚いたような表情を見せてから言った。


「どうして、男の子ってこう意地っ張りなのかしらね。なるべく自分の力で解決したいんでしょう?人脈も立派なあなたの力よ」


 カナには、俺の考えている事などお見通しのようである。


「ああ。カナに頼ってばかりじゃあ強くなれないからな」

「ロキア、あなたは強くなって来てるわ。それは私が保証する。だから自信を持ちなさい」


 優しく俺の考えを否定せず、背中を押してくれるカナだから好きになったのかもしれない。

 そんなカナの応援を、期待を裏切るわけにはいかない。


「リオも頑張るっ!」

「ええ、頑張ってね」

「カナお姉ちゃんもね!」


 なんかすごい仲いいんですけど。

 和気あいあいといった感じですごいいい雰囲気なんですけど。

 俺も混ざりたい。


「ロキアも頑張ってね!」


 あれ?お兄ちゃんじゃないの?

 お兄ちゃんって呼んでよぉ!


「呼び方変わったか?」

「うん?カナがそう呼んでたからだけど。ダメ?」

「お兄ちゃんの方が嬉しいかな」


 へ?とよく意味の分かっていない表情で首をコテンと傾ける。


「まあいいや!分かったよお兄ちゃん!」


 そんな純粋な目で見ないでっ!

 こっちの悪意にもお構いなく純粋に受け答えするリオが眩しい。

 何年かしたらリオも臭いから兄貴は来ないで!

 とか言い出すんだろうか?

 そんな事になったら泣く。


「で?これからどうするの?」

「多分夜中に王都を襲うのはないだろう。昼間に襲って国民のパニックに乗じて王都の騎士団の動きを鈍くして目的を果たすって感じじゃないか?」


 なるほどね、と頷くカナ。


「もう今日は夕方だから襲撃の心配はないわね」

「多分な。さて、俺は少しやる事があるから部屋に籠っているよ」


 そう言ってカナが寝室とは別に割り当ててくれた部屋に入る。

 中には机と椅子くらいの家具しかない部屋だが、頼めばカナは必要な道具を貸してくれるので不憫はない。

 勝つための研究ってやつだ。







 ♢




 ふと目が覚める。

 クレストの体に憑依したまま研究もどきをしていたので寝てしまったようだ。


 窓の外に目をやると周りはまだ薄暗いので深夜から明け方と言ったところだろう。

 カナの家は森の中にあるとは言ってもある程度日差しが差し込むように調節されて作ってあるのでそのくらいの時間帯である事は間違いないだろう。


 窓の外を見ていると外に何か動くものがあった。

 リオの存在に気がついた敵かもしれないので警戒をしておく。

 とりあえず憑依を解き、称号の"邪神族の墓地の孤独幽霊ぼっち"を発動させ気配をできるだけ消す。


 相手に気がつかれないためとカナを起こさないようになるべく音を立てずに壁をすり抜け動くものを確認。


 ・・・リオだったよ。

 まったく、脅かすなよ。


『どうしたんだ?こんな夜中に』


 憑依をしていないので念話で話しかける。


「ひっ、誰?」


 えっ。誰ってひどくね?

 一応周りが見える程度には光が差しているので見えないなんて事はないはずである。


「おばけ?」


 そういえばリオには憑依前のこの姿を見せた事がなかった。

 少し震えているように見える。


『ああ、ごめんごめん。ロキアだよ』

「え?お兄ちゃんおばけだったの?」


 俺だと分かってホッとしたのかリオの震えが止まった。

 人の言う事をなんでも信じてしまうリオまじ可愛い。


『まあ、どっちもロキアだから怖がらないでくれよ』

「うん、おばけは怖いけどお兄ちゃんなら大丈夫かな」


 本当に良い子や。

 こんな純粋でいい子は見た事ない。

 そういえばなぜリオはこんなにも短時間の間に俺やカナに懐いたのだろうか?

 いくら純粋な子供とはいえ流石に警戒心がなさ過ぎではないかと思う。


「リオね、パパとママがいないの。いつもはみんなが優しくしてくれるけど夜とかご飯の時はよく一人になっちゃうの。だからね、ロキアお兄ちゃんとカナお姉ちゃんと一緒にご飯食べたり寝たりして嬉しかったの」


 家族がいない。俺と同じだ。

 日本にはいるがこの異世界に俺の家族など存在していない。

 その孤独さがよくわかる。

 カナが俺を気にかけてくれなければとっくに自殺していたかもしれない。

 ましてやリオはまだ十歳前後の子供。

 "みんな"とやらがいてくれるとはいえ、家族かそうでないかだけでも暖かさと言うものが全く違う。


 少し前の俺が求めていた"心の暖かさ"をリオは探しているのだろう。

 リオは俺やカナと過ごした数日にそれに近いものを見つけたのだろうか?

 だからここまで懐いてくれるのか?


「家族がいないリオがね、家族ってこんな感じなのかなって、あったかいなって、思ったんだ」


 "みんな"に不満があるわけではないのだが、満たされない心。

 リオはそれを満たす何かを見つけたのだろう。


「でもね、みんなもちょっと違うけどすごい暖かいんだ。だからもう一回暖めて欲しいんだ」


 なんて健気でいい子なのだろうか。

 子供はもっと悪戯や遊びをしていなければいけないというのに、リオは我儘も言わずにただ温もりを欲している。

 冷えきった心を温めてくれる物を探しているのだ。


『リオ、俺とカナが暖めてやるよ。それじゃあダメか?』


 リオの目尻には大粒の涙が溜まっていた。

 いつからそうだったのかは分からないが泣いている事は確かだった。

 いつも笑っていたリオが見せる年相応な本音。

 これを受け止めてやれずに心を暖めてやる事なんて出来ない。


 おそらく俺の心も冷めているのだろう。

 だが、カナと出会った事でその心が暖まっているのは確かだ。

 その温もりを少しでも分けられたらいいな。


『"みんな"を助けたら俺たちとここに住むか?』


 神滅狼の群れの中にいるよりはリオを暖めてやれるかもしれない。


「いいの?迷惑じゃない?」

『当然だろ?カナに言っておくよ』


 カナならダメとは言わないだろう。

 むしろ喜んで招きそうだ。


「うん。ありがとう、お兄ちゃん」


 あと数年もすれば真面目に惚れそうな可愛い笑顔。

 守りたいこの笑顔。



ストーリー関係なく番外編とか書こうかなぁ。

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