迷宮
迷宮。これもファンタジーの世界には欠かすことのできないものだろう。
これにも魔法と同じ難易度が設定されている。
難易度が高くなるほど迷宮に出現する魔物のランクが高くなる。
その分、入手できる魔法道具も希少度も高くなっていく。
冒険者が頻繁に潜り金を稼いでいる。
ある程度進むとボスのようなものも出現する。
出現のしかたは迷宮の種類によって異なる。
迷宮は洞窟のような自然に出来たものから塔のようなものまで様々な種類が確認されている。
迷宮は誰が作ったのかなどは一切不明。
今なお増え続けているらしい。
「迷宮なんて大っ嫌いだーー!」
今俺とカナが潜っている迷宮は王都近くの地下にある迷路型の迷宮。
迷路なのだから当然道は入り組んで複雑になっているわけである。
「さっきから同じ道を何度も通っている気がするわね。この迷宮ってこんな感じだったかしら?」
はい、すいません。俺の仕業です。
俺は方向音痴なのです。
それに加えて迷宮の道が複雑になっているときたもんだ。
しょうがないんです。
俺の修行のために迷宮に来ているわけだし、俺が後ろにいるわけにはいかない。
だからとりあえず進んでいるのだが道がさっぱりわからない。
こんな迷子の状態で魔物なんかに襲われたら心が折れる。
「でも、さっきから魔物出てこないわね」
「たしかに。同じところを回ってるから出なくてもしょうがないんだけど」
俺たちの通る場所に魔物がいない。
俺たちは元の場所からそこまで移動もしていないから魔物がいるわけないのだが、魔物も生き物。
移動してもおかしくない。
魔物も迷った?
「ガゥッ!」
噂をすれば魔物。
かなり大きな狼?
毛色は銀色、目は鋭く金色。
開けた口にはとても鋭い牙、足につく鋭い爪。
この狼が出てきて少し寒くなってきた。
さっきまで少し暑いくらいだったのに。
おそらくはこの狼の仕業だろう。
だってなんか冷気ガンガン出してるし。
狼の立っている場所がパキパキ凍ってるし。
「なんか強そうなの出てきたー」
「氷狼よ。多分。そこそこ強いはず、かなり大きな個体だしね」
へー。なんか強そうじゃん。
初心者が苦戦する魔物とかそんな感じだな。
「ガァゥ!」
そんな呑気な事を考えていたらいきなり飛びかかられた。
それをとっさに避け、霊力で大鎌を作る。
なんか久しぶりなきがするな。
攻撃を回避された氷狼はすぐに足の向きを反転させ足で地面を蹴る。
すると数枚の魔法陣が俺の周りに現れる。
氷狼なのだからおそらくは氷属性魔法。
魔法陣を使用している事からそこそこな威力な魔法である事が予想される。
「光属性《付与》」
これは魔力を体に纏わせる魔法。
付与というしっかりとした名前があったようだ。
光は常に熱を持つ。
ならば光の強さを強くする事で熱量も上がっていく。
俺は火属性魔法が苦手なので、まだ適正の高い光属性を使用する。
氷狼の発動した魔法陣から出てきたのは氷の槍、氷槍だ。
それが五、六本。
これくらいなら光属性の持つ熱量でもなんとかなる。
纏っている光属性の魔力の出力と、鎌に回している霊力の出力を上げ、一気に氷の槍を薙ぎはらう。
しかし、完全には溶かす事が出来ずに刃の潰れた氷の塊が直撃。
刃は潰れているとはいえ、氷の塊がそこそこの速さで飛んできたのだ。
痛くないわけがない。
痣になっているだろう。
その程度で済んで良かったと思うべきか?
動きが早く近接、遠距離共に戦える全距離対応型。
面倒な敵だな。
「『闇弾』」
黒い拳大の闇の弾を何発も打ち出す。
闇魔法が一番適正が高いので威力もある方だ。
この迷宮の道幅はそこまで広くない。
せいぜい三メートルくらいだろう。
そんな場所で、闇弾を逃げ道を塞ぐように放つ。
こんな狭い場所で面を意識して放った闇弾。
もはや弾幕である。
流石に避けられず氷狼は被弾。
動きが止まる。
その瞬間を見逃さず、地面を蹴り接近。
そこから鎌を大きく振り上げたところで氷狼に変化が起きた。
氷狼の体が発光。
え、何?進化?
光が収まるとそこにいたのは先ほどの氷狼ではなく小さな美少女。しかも全裸。
見た目的には十二歳?
だが、髪の毛は銀色。目の色も金。
小さく可愛らしい口から覗く人間にしては鋭すぎる犬歯。
全裸なので見える子供特有の凹凸が少なく、未発達の体。
「誰だよ!」
俺の大きな声のツッコミにビクッと少女は震える。
「あ、あのぅ」
「どうした?」
とりあえず、対子供用の甘い声で対応。
グゥー。
腹の虫の音が少女の腹から聞こえた。
「おなかすいた」
ええ〜。
♢
カナの家のリビング。
カナの作った食事が食卓にズラリと並ぶ。
日本では見られないようなよく分からない食材を使ったりしている、よく分からない料理を作ったらしているのだがなかなかに美味しい。
先ほど拾った少女もカナの作った料理を貪るように食べている。
あの後、カナが適当に収納の魔法から取り出した布で即興の服を作り一度帰宅。この娘の要望通り食事をしているのである。
「よく食べるなあ」
すごい速さで食べ物が無くなっていく。
というか氷狼かもしれない娘を家の中に入れたりして良かったのか?
「おかわりっ!」
・・・大丈夫だな。
もはやただの元気っ娘だろ。
将来有望な感じだし。女性的に。
「君はどうして襲いかかって来たんだ?」
「もぐもぐもぐもぐ」
「あ、食べてからでいいよ」
どんなけ腹減ってたんだよ。
普通に俺とカナ以上に食べてないか?
これが食べ盛りか。
「ふぅ。ごちそーさま」
「ふふ、お粗末様」
やっと食べ終わった。
こちらには聞きたい事がたくさんある。
「で?なんで君はいきなり襲いかかってきたんだ?」
「悪い人間の仲間だと思ったから。悪い人間は迷宮にみんなを閉じ込めたの。山に住んでたらいきなり迷宮の中に飛ばされたの」
?どういう事だろう。
迷宮に飛ばされた。
氷狼のような動物はおそらく群れで行動する。
なのに迷宮にはこの娘しかいなかった。
狼なのだから鼻もものすごく効くだろう。
なのにも関わらずはぐれた?
それはおかしい。
はぐれたとしてもすぐに見つけられるはずではないか。
カナも迷宮に違和感を感じていたようである。
何者かが迷宮を作り変えた?
そしてそこに魔物達をそこに送った。
どうやって?
この世界は魔法が存在している。
ならば何が起きてもおかしくはない。
「カナ、転移魔法ってあるか?」
「ええ、あるわよ。でも転移出来るのは一定の範囲に入っている生命体よ。荷物などは普通に転移できるわ」
ならば、土属性魔法などで迷宮を作り変えそこに魔物を強制転移。この娘は転移の際座標がずれたりしたのだろう。
でも一体誰が何のためだろうか?
ま、いいか。関係ないし。
「あなた名前はなんて言うの?私はカナ」
「リオ!」
なんかいい光景だ。
美女と美幼女。絵になる。
「ねーねー、お兄ちゃんは?」
「グハッ、え、えとロキアだ」
危うく鼻から愛が溢れそうだったぜ。
幼女からのお兄ちゃん呼びは最高だぜ!
「リオをみんなに会わせて?」
「任せとけ」
「やったー」
即答。いやーやっぱり無関係とかそんな事ないよね。
お兄ちゃんだし。
「本当だー。カナお姉ちゃんの言う通りにしたら言う事聞いてくれたー」
・・・なんか聞こえたような気がするが気にしない。
「でも、どうして俺に頼んだんだ?」
「だって、お兄ちゃんの目が悪い人と違ったから」
いやー。それほどでもぉ。
やっぱり善人っていうのはオーラが違うんだよ。
「で?助けると言ったはいいけどあてはあるの?」
「ない」
はあ、とカナは呆れたように溜息をつく。
まあ魔物を集めているという事はなんらかのアクションを相手側が起こすという事だろう。
ならばそれを待って、リオの言うみんなを回収。
あとは好きにして下さいみたいな感じで行こう。
まずは情報収集からだな。
全ては幼女のために!




