恋心
ギルドの練習場。
そんなものがあるらしい。
そこで、何かよく分からないチンピラ冒険者二人対俺とカナの勝負をするわけだ。
・・・・・カナだけで勝てるだろこれ。
カナがこんなアホみたいなやつらに負けるわけがない。
俺はなんか勝手に巻き込まれただけだし要らなくね?
と思ったら、ギルドに登録してするのにも戦闘の適正が必要なのでその試験を兼ねているらしいので抜けられもしない。
さっさと終わらせて服を買いに行こう。
「じゃあ始めます。寸止めか当たっても気絶程度でお願いします」
受付嬢の声が掛けられる。
それと同時にギャラリーも集まってくる。
「ロキア、あなたは右の男、私は左よ」
「了解」
今は武器を持っていないがクレストの身体能力ならば問題はないだろう。
軽く地面を蹴り、男に接近。
体を捻り男の死角へ移動。
「なっ!」
なにか言ってるような気がしなくもないが問題ない。
そこから相手の側頭部を軽く蹴る。
ゴスッ。
人体からは鳴ってはいけない感じの音が聞こえたきがする。
男は吹っ飛び壁に激突して、気絶。
さて、カナの方はと。
・・・・・なにか元々男であったような芋虫が転がっていた。
「《拘束》よ。少しすれば解けるわ」
魔法一つで無力化していたらしいです。
俺が男を蹴っている間にも特に戦闘音はしなかったので開始と同時に瞬殺されたのだろう。
音もなく相手を無力化するとかどんなけだよ。
強すぎるだろ。
相手が弱かったのもあるだろう。
「えっと、勝負あり。カナ・アークノート様とロキア様は手続きがありますのでこちらに来てもらいます」
チンピラ男二人は無視の方向で行くらしい。
ほっといても大丈夫なのだろう。
「こちらに名前を書いていただければ登録完了です」
俺とカナは書類に名前を書く。
すると書類が光を放ち小さくなる。
光が収まるとカード程度の大きさの物になっていた。
「このギルドカードは霊力で編まれているのであなた達の魔力を通せばカードではなくただの魔力へ戻ります。あなた達の魔力を通せばまたカードになります。身分の証明としても使用できます」
なかなか便利な感じではないな。
カナの方を見ればカードを早速折り曲げていた。え?
「あら?意外と脆いのねこのカード」
「ああ!曲げないでください。元に戻るとはいえ、そんな雑に扱わないでください!」
カナはお茶目だなぁー。
天然なのか?
意外な一面を見る事が出来た。
「最近は依頼が多く来ているので依頼をたくさん受けてくださいね」
そう言えばギルド内には人が少ないような気がする。
もっと賑わっているものかと思っていたが、全くもって静かである。
先ほどの試験の際のギャラリーも少ししかおらず皆疲れているように静かだった。
「どうしてそんな事になってるんだ?」
「最近様々な種族間で小規模な戦争が勃発しまして、その後始末などをギルドに回してくるんです。知らないんですか?」
小規模な戦争?
もしかしなくともあの邪神族の墓地に起きた死霊の大群と関係があるのではないだろうか。
戦争の死人があの墓地に引き寄せられたのだとしたらあの大群にも納得できる。
「ああ、分かった。あれからどのくらい経ったっけ?」
「一月程度だと思います」
やはりそうだ。時期的にも同じだ。
あの大群の事だと確信した。
「ふーん、依頼は後で受けるからとりあえず今は買い物に行きましょう」
「そうだな。じゃあまた来るよ」
そう言って俺たちは冒険者ギルドを後にした。
♢
「結局、服屋って、どこにあるんだ?」
「もうすぐ着くわよ」
ギルドをでた後、俺とカナは元々の目的である服屋へ向かっていた。
「着いたわ。ここよ」
「え?」
どう見ても店には見えないのですが。
見た感じ廃墟?
場所も王都の端の方。
この辺りは人通りも少ないし儲からないんじゃ?
「ここの地下が店なの。家にある布地もここで買ってるのよ。隠れた名店ってやつね」
そう言ってカナは中へ入っていった。
俺も続くと本当に地下への階段がある。
暗い階段を下ると、明るくなってきた。
先には部屋が見える。
「いらっしゃい。そろそろくるかなと思っていたよ」
聞こえたのは老婆の声。
その声の主は見た目は老婆だが、年齢を感じさせない若々しいオーラが滲み出ている。
一目で分かる、この人も強い。
店の中は西洋風でオシャレな感じだった。
服や布地がたくさん置いてある。
中々に広い店内で、見た限りでもかなりの量の布や服が置いてある。
「あら、カナにしては珍しい。ボーイフレンドかい?」
「そうです」
「違うわよ。弟子なの。それでこの弟子の服を買いたいんだけど」
お婆さんに乗ってみたが、カナに否定されてしまった。
でもまだまだ諦めない。
「ふーん。カナが弟子ねえ、アタシはネラヒム。ネラでいいよ。よろしくね」
「ああよろしく」
なにかネラさんが俺の顔を覗き込んでくる。
「んー、憑依ってところかな」
っ!
ばれている。
クレストの体は見た目は完全に人間と同じで、俺は憑依しているので霊体だという事は普通分からないのだが。
この婆さん何者だ?
「まぁいい。弟子、ちょっと来な。カナは聞くなよ」
グイッとネラさんに腕を引っ張られる。
店の奥へ連れてこられ、カナは見えなくなった。
「お前、カナに惚れているのか?」
なんだいきなり。
惚れているのはそうなんだがなぜ分かる?
年の功ってやつか。
「アタシは、まだまだ若いよ。で?どうなんだい」
なぜ考えてる事が分かったし。
「はい惚れてます」
やっぱりねとネラさんは頷く。
「あいつは手強いよ。何百年と生きてきて未だに恋を知らないやつだからね。当然そういう事もした事がないよ」
なぜあんたが知ってるし。
まぁカナが未体験っていうのは、有益な情報だった。
しかもカナは少なくとも百歳越え。
まあ、人間ではない事は分かっていたのでたいして驚きはしない。
「カナが弟子を取るなんて事もお前が初めてだ。脈あるかもよ?頑張りたまえ少年よ」
「はい」
なかなかいい人ではないか。
みんなのオカン的な立ち位置なのかもしれない。
「ちなみに名前は?」
「ロキアです。カナにもらった名前です」
「そうか、覚えとくよ」
話を終えるとカナがいる場所に戻る。
すると、カナが男物の服を数着と布地を持っていた。
「終わったの?」
「ああ、ちょっとお前さんの弟子と話してきただけさ」
「そう。これ、代金よ。足りるでしょ?」
そう言ってカナは懐から巾着を取り出し、ネラさんの手に置く。
「五万セアルか。まあいいだろう」
ちなみに、セアルとはこの世界のお金の単位である。
価値の方は一セアルと一円が等価と言ったところだ。
「じゃあ帰るわよロキア」
「分かった。じゃあなネラさん」
「あいよ、また来なよ」
暗い階段を上り、外の廃墟まで出る。
するとすでに日は落ちかけていた。
こんなところで告白などをしたら本気にされるだろうか?
いや、されないな。
カナの中ではおそらく俺はただの弟子。
それ以上でも以下でもない。
故に俺が男として見られる事もない。
これはしょうがない事なのだ。
せめて、カナの隣に立てなければカナと恋人同士になるなどあり得ないそういう事だろう。
強くなりたい理由が一人の女。
しかも助けたいとかじゃなくて、好きになってほしいだから不甲斐ない。
それでもこれが自分なのだ。
この自分を好きになってもらえるように頑張りますか。
綺麗な夕焼けの中二人並んで帰って行く。
今はそれだけで満足だ。