幽霊の彼女に恋をした
ミライショウセツ恋と同居というのに投稿した作品です。
でも同居ネタが無理やり感半端じゃないです……すみません。
僕の名前は小見川晴翔。
ごく普通の平凡な高校生。でもほかの人と違うところがあるとすれば……
『まってよお~~たすけで~あだまいだいよお~~』
そう言いながら僕に縋り付いてくるバイクで事故って死んだ人…
『お兄ちゃん、ぼくをC田病院までつれてってよ!』
生意気にヒッチハイクを頼む小学生の浮幽霊。
『ねえ!? 何であたしがこんな目に合わなきゃいけないわけ? 悪いのはあいつなのよ! ちょっと! 何よその目、あたしになんか文句でもあるの!? あんたなんとか言いなさいよ!! ええ!?』
そういって僕に絡んでくる恋人の男性に振られて酔っぱらった末に車に引かれて死んだヒステリックなOLの幽霊。
そう、僕は“霊感”が強いのです。
「だぁーーーー! 煩い! どいつもこいつもお!」
そんな時僕は出会いました。彼女に……
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幽霊の彼女に恋をした
***
朝、いつも通り自転車で登校する毎日――。
「?」
晴翔がふと路上裏につながる場所見ると、その場に立っている女の子を見つけた。
「うわ………綺麗な子。」
栗色の長い髪、白い肌、洒落てはいるが下手をしたら喪服に見えるのではないかと言うくらい黒いデザインの学生服に身を包んだ少女の姿に目を奪われていた。
「…………」
少女がこっちを見ていると気付き、自分の方をじっと見つめる。
「……っ」
少女と目が合ったと思った。
その可憐な少女の姿に目を奪われていると……
どごん!
「痛ぇ!!」
がっしゃーーーん
前を向かないで運転をしていたせいで見事に体と顔が電信柱に直撃した。
しかも、ぶつかった電信柱のすぐ近くに看板があり…
『よそ見運転は止めましょう』
という看板が飾ってあった。その看板の内容を見ると自分への皮肉とあてつけのように思えてならなかった。
***
「「あっはははははははははははは! ドジすぎだろお前~~~~!!」」
学校での休み時間。晴翔は友人たちに電柱にぶつかり、ぼろぼろになっている顔の真相を話したのだが、大笑いをされてしまった。
「つーかさ、そこまでなるかよ普通……」
ぷくくっと笑いを吹き出しそうになるのを我慢しながら友人の一人 慧夜が晴翔に聞く。
「ひっでーな! 心配してくれるかと思ったら…薄情者ども!」
「悪い悪い……んっくくくくくくく」
口では謝ってはいるものの、全然悪びれてない様子で慧夜は腹を抱えて笑う。
「んで? なんだっけ…ぶつかった理由は女の子に見とれてただっけ?」
もう一人の友人 明良が笑いを抑えながら晴翔がぶつかった原因を確認した。
「ああ、そうだよ」
晴翔はふくれっ面をしがら答える。
「晴翔がそんなふうになる位いい女なのか? 見てみたいなその子。」
年頃の男子風を吹かせながら、慧夜は路地裏で見た少女に興味を抱く様子を見せる。
「どんな風貌だったんだ? 教えろよ?」
慧夜が晴翔が見た少女の風貌について話すよう晴翔に促す。
「ええっと……、栗色の長い髪の毛に白い肌。睫毛も長くて…」
晴翔はたんたんと少女の風貌を思い出しながら口に出す。すると、少女の風貌をだんだん思い出してきたのか、口に出さなくなり、顔を赤く染めながら上の空になる。
「………」
「おい…? おい? ハルト!?」
上の空になっている晴翔に慧夜が突っ込みを入れる。
慧夜に呼ばれ、晴翔ははっと我に返ると……
「ごっごめん。ちょっとトイレ行ってくる」
そう言いながらそそくさとトイレに逃げて行った。
「あっ、ハルト! お前……!」
慧夜が止めようと晴翔を呼ぶも、晴翔はトイレに行ってしまった。
「ちぇ~、なんだよ…ハルトのやつ」
そう残念そうに慧夜はつぶやく。
「ハルトが出逢った女の子…ん~」
そう言いながら晶良が何か思い当たる節があるような顔を浮かべる。
「んだよ? アキラ、ハルトが言ってた女の子になんか心当たりあんの?」
慧夜が晶にそう質問を投げかける。
「いやあ。ハルトが行ってる女の子の風貌がこの間聞いた怪談話の女の子の特徴に似てるんだよなぁ……」
と、晶良が質問に答える。
「はあ?」
その答えに慧夜は怪訝な表情を浮かべる。
「実はな……」
・
・
・
***
時計はもう人が就寝につく時間帯を回っていた。
晴翔ももちろん、その時間には寝ていた。
『……………て?』
「んーむにゃむにゃ」
誰かの声が自分にささやいてくる。
『起きて……起きて……』
誰かの声が自分に訴えかける。
「んーーー…」
晴翔は無視をし続け、夢の中に逃げ込む。
『起きてくださいってば!!』
「あーー! もう! うるさい誰だよ!!」
そう怒鳴りながら晴翔は自分に語りかけてくる人物の言う通りにした。
「んだよ、人がいい気分で寝ているときに邪魔してくるのは…て、あれ?」
そう言いながら自分に話しかけてくる人物が誰なのか晴翔は自分の部屋のあたりを見渡す。
そして一人の少女が勉強机の陰に隠れているのを見つけた。
「!?……あんたは」
少女の姿に晴翔は驚きを隠せないでいた。
晴翔が見た少女の姿……それは――
(今朝、俺と目が合った子……)
そう、今朝晴翔が見た美少女であったのだ。
「どうしてここに……!? っ?!」
そして晴翔は今朝出逢った少女にもっととんでもないことに気づいてしまった。
この少女は…
「ゆっ……幽霊だったのか」
少女の透けている身体を見て晴翔は少女の正体が幽霊であることに気づいてしまった。
***
『さっきはあんな風に起こしてごめんなさい…私が見える人に出逢えたのがうれしくてつい…』
「いや、その前に不法侵入だけは止めてよ…びっくりするから」
少女は必至で謝るが謝る点がずれているところに晴翔は突っ込みを入れた。
「んで? なんで俺の部屋までついてきた訳?」
晴翔は少女が自分の部屋に入って来た理由を問い詰める。
『私、ここ周辺にある高校の女子生徒でした。名木宮高校というところです』
少女は自分の生前の過去を話し始めた。
『私……、友達と呼べる人が誰もいなかったんです。いつも誰かにからかわれたり、物を隠されたり……友達と言えばこっそり飼っていた仔猫ぐらいでした。』
「…………」
『いつも通りごはんを上げようとその友達の仔猫のところに行ったんです。でもその日…
その仔が公園にいなかったんです。その仔、路地裏の近くにあった公園でいつも遊んでたんだけど…公園の中を探してもいなかったんです。』
「それで……?」
『それであの路地裏の周辺をあの仔がいないか探し回って…そしてやっと見つけた時、あの仔が動物虐待をしようとしている人に刃物を振り下ろされそうになってたんです。
私は躍起になってその犯人に体当たりをしました。しかし、今度は私がその刃物で』
「なるほど……逆に殺されたってわけか」
『ええ…実はその時、大切なものを落としてしまったんです』
「大切なもの?」
『うん……死んだお母さんがくれた、ロケットペンダント』
「………それを見つけたくて地縛霊になってたわけか」
『うん。人に話しかけても大抵の人に無視されちゃうし。たまに私の事見える人に話しかけても叫びながら逃げられちゃうし、誰もお願い聞いてくれなくて……でも今朝貴方と目が合ったときもしかして見えるんじゃないかな? って思ってあなたのところに押しかけてみたの……ごめんなさい。』
「霊感強いことがこんなふうなことになるとは…」
(俺の恋心返して……)
そう心の中で言いながら晴翔は先程まで幽霊と知らず彼女に惚れていた自分に情けなさを感じていた。
『お願い聞いてください!! お願いします。頼れるの貴方ぐらいなんです!』
少女はそう言うと晴翔の手を握った。霊体なので温度も感触もないが晴翔には手を振り払いたくても振り払うことが出来なかった。他の相手ならまだできたが、相手は幽霊と言えど惚れてしまったあの少女である。
「うう………」
『わがままなお願いだということは分かっています。でもあれがないと私……』
少女のつぶらな瞳に晴翔はたじたじになり……
「あーもう! しょうがねえなあ……惚れた弱みだ! 聞いてやるよ。明日休みだし…
ペンダント探しに丁度いいし」
『 ! 有難うございます!!』
少女の懇願に晴翔も根負けして折れた。
「あっそうだ」
『?』
「名前…一応聞いていいか? あんたのままじゃちょっとアレだし」
せめて名前だけは憶えておきたいと思い、晴翔は少女に名前を問う。
『深山朱里です。』
「ジュリ…か。よし……明日ペンダント探す前に少し寄り道していいか?」
「ええ…? でもどうして?」
「幽霊関係に詳しい人がいるんだよ」
***
・
・
・
「ほお……ハル坊が俺に相談しに来るとはねえ」
――ここはとある探偵事務所。
そして晴翔を“ハル坊”と呼ぶ人物の名は“鷲巣雄一郎”。
この人物こそ晴翔が朱里に言った“幽霊関係に詳しい人”だった。
「鷲巣さん、あんた仮にも探偵で霊媒師の血を引いてんだろ?なんとかしてよ。」
晴翔は鷲巣に懇願する。
「霊感強いのはハル坊も同じだろ? 自分で何とかしろ」
「冷たいこと言うなよ鷲巣さん、俺は霊感強くても鷲巣さんのように幽霊成仏させる方法なんてわかんねえよ!
それに…朱里は大事なもの見つけない限り成仏できないんだって。鷲巣さんモノ探すぐらい引き受けてくれたっていいだろ? 仮にも探偵なんだからさ~」
「とはいってもねえ……。こっちも一応ビジネスだ。それなりの報酬くれないと動く気にはなりませんよ」
つまり「依頼するなら金をよこせ」。
そういって鷲巣は晴翔のお願いを聞き入れない。それどころか無視するようにエロ本を読み始める始末だった。
(高校生相手に金せびるとか……この腐れ探偵め!)
鷲巣のやる気のない対応に痺れを切らした晴翔は、う~ん。と、考え抜いた後、鷲巣の弱みがあったのを思い出した。
「あっそうだ~、婆ちゃんが『今度家賃払えなかったら事務所ごと出ていってもらうことを考えなきゃいけないな』て言ってたっけ~」
「え?」
鷲巣はわざとらしく言う晴翔の声を聞き逃さなかった。
「鷲巣さん、ここ何か月家賃滞納してるんだったっけ~? お婆ちゃんなかなか払ってくれないって怒ってたし~そろそろ堪忍袋の緒が切れる頃合いかな~?」
鷲巣の弱み、それは事務所であり鷲巣が自宅として仮住まいをしているこの場所。
実はここは晴翔の祖母の所有地であり、鷲巣から見れば晴翔の祖母は大家に当たる。
しかも、鷲巣はお世辞でも稼ぎがあまり良いとはいえない為、家賃も何か月も滞納している。
鷲巣は冷や汗をかきながら顔をひくひくと引きつらせる。
「まっ俺が婆ちゃんから言って猶予与えてあげるっていうのもありだけど~?」
「だぁ~~~!! もうわかった! わかった! 引き受けりゃあいいんだろ引き受けりゃあ!」
そうわざとらしく交換条件を出す晴翔についに鷲巣も白旗を挙げ、逆切れ半分に晴翔のお願いを引き受けた。
晴翔は自分についてきていた朱里に「やったぜ」と目配せをした。
***
「朱里…ちゃん…だっけ? ペンダントの特徴とか覚えてるかい?」
鷲巣が朱里に聞きながら、朱里が死んだ場所まで足を進める。
『うーん…と、ロケットの蓋部分に“サファイア”が埋め込まれていたと思います。』
「サファイアってあの青い宝石かい?」
『はい、5つぐらいデザインとして埋め込まれていたかと…ちょうど…線を引いたら“星の形”になる感じで』
「成程……星ねえ」
そう話をしていると、朱里が死んだ現場に着いた。
「落とすとしたら……大体、排水溝とかその辺のはず……」
そういって鷲巣は重い排水溝の蓋を開ける。
「……鷲巣さんどお?」
「ん~~~それらしいものはないなあ」
鷲巣の言葉を聞いた朱里はシュンと肩を下す。
『…………お母さん』
「………大丈夫だ。必ず見つけてやるから」
晴翔は朱里にそういって慰める。
「もしかしたらここではない場所で落としたかもしれないんじゃない?」
晴翔は朱里にそう聞く。
『私の記憶に間違いなければ、確かにここら辺で落としたと思うんだけど……』
朱里は少し自身なさ気に言う。
「でも念のため朱里がよく行ってたっていう公園に行って調べて来るよ、朱里は鷲巣さんとここにいて?」
『……うん』
「何かあれば連絡してくれ」
「うん……じゃあ鷲巣さんその辺の探索よろしく」
晴翔は朱里と鷲巣にそう告げると、朱里がいつも行っていたという公園に足へ運んだ。
***
(さてと、ペンダント探ししますか……)
公園の前で晴翔はそう意気込むと公園に足を踏み入れた。
休日なのに珍しく、公園に人気はなかった。
「まずここから調べるかな~~?」
晴翔は順番に見ていこうと思い、公園の出入り口にある花壇を調べる。
(ん~~~ないなあ……)
スっ――――
誰かが、公園の中に入って行った気配があったが晴翔は気には留めなかった。
(うーん……花壇には落ちてなさそうだなぁ、他に探してみるか)
そう思って立ち上がった時だった…。
「ふしゃぁ―――――っ!!」
「!?」
猫の鳴き声がすぐ先に聞こえた。よく見たら、さっき公園に入って来たと思われる男の足元の傍に猫がいた。
「ふゥ~~~~~!」
猫が男に警戒している。男はじりじりと猫と距離を詰める。
そうすると男はナイフを出した。そして、男はその猫にナイフを振り上げる。
「!?」
男の目的を悟った晴翔は……
「止めろぉぉぉぉぉっ!!」
ドカッ!!
「ぐあっ」
そう叫んで猫を殺そうとしていた男にタックルをかましていた。
晴翔はその猫を庇うように猫の前に出た。
「大丈夫かお前!?」
晴翔が猫に心配の声を掛けた時だった。
ドコォッ!
「ぐぅ!?」
油断してしまった。
男は体勢を立て直すと今度は晴翔を襲ってきた。男がさっきの仕返しとばかりに晴翔の腹部に蹴りを入れる。
晴翔は転がり込むように体勢を崩した。
どしゃっ…!
「げほっげほ……!」
「くそっ………邪魔しやがって」
「うぎ!?」
男は思ったより力が強く、首を掴まれ晴翔は力で地面にあおむけに伏せられた。
「ぐっ………」
晴翔は男を睨む。
「へへへ、お前が悪いんだ。お前が……俺の楽しみを邪魔するから…。お前が……俺の邪魔するからぁあああああ!」
そういって男は、今度は晴翔にナイフを振り上げる。男は晴翔を刺したと思った。が――
晴翔はナイフを持っている腕の方を抑えられていない手で必死に抑えていた。
「っ痛ぅ……!」
ぴちゃっ……
切れる方を強く握っている為、晴翔の手には血がにじんでいた。晴翔の手のひらから血がしたたり落ちていた。
(負けるか……こんなやつに殺されてたまるか…!!)
「うぐううううううっ………」
「どいつもこいつもふざけやがってぇ~………」
男の力がさらに強くなり、刃物の先が晴翔の眼球に刺さるのではないかというところまで差し掛かっていた。
「ぐっぎぎ…………」
踏ん張っているもののそろそろ限界が近かった。その時―――
「てめえ! そこで何してやがる!!」
「「!?」」
誰かの叫び声が聞こえてきた。声の主は鷲巣だった。
「あっ……あっ…」
男はまずいとばかりに顔面蒼白の表情を浮かべる。
「おらぁ!!」
「ぐふっ!?」
男が鷲巣に気を取られている瞬間を逃さず、晴翔は自分の上に馬乗りになっていた男の股を蹴った。
「うおお……おっ……」
金的をかまされた男は痛さでその場に沈み込む。
「うおおおりゃあ!!」
「!?」
鷲巣もナイフを持った男が大勢を崩したのと同時に男の腕を掴み、男に一本背負いをお見舞いした。
男の持っていたナイフが男が投げ飛ばされた反動で足元に滑る様、転がり落ちた。
「が……ふ…」
男は失神してその場から動かなくなった。
『ハルト君!!』
鷲巣の後ろについていた朱里が心配そうに晴翔に声を掛ける。
「ハル坊、大丈夫か?」
「ああ……なんとか」
鷲巣が歩みより、晴翔の無事を確認した。
手は血だらけだったが、晴翔は鷲巣たちが来たことで安心して気を抜いた。
「はあっはあっ………死ぬかと思った」
『ごめんね……私のせいで』
朱里が自分が無茶をお願いしたせいで、晴翔が危ない目に合ってしまったことを自責して謝る。
「いいって。」
晴翔は朱里にそう言って安心させる。
「……警察呼んでおいた。後10分くらいしたら着くそうだ」
鷲巣が晴翔にそう告げる。
「ところで……どうやって俺の危険察知したんだ?」
晴翔が連絡もできない状態で鷲巣がどうして来てくれたのか質問をする。
「あの猫がここまで引っ張ってくれた」
「猫?」
そう言うと、すぐそばに男に殺されかけたあの猫が歩み寄ってきた。
「そっか……お前が」
自分が庇った猫が男が晴翔に気を取られている隙に何らかの方法で鷲巣に危険信号を送ってきてくれたのだと晴翔は理解した。
「ありがとな……お前」
「みゃーお…」
***
男はすぐに逮捕され、鷲巣が呼んだ警察に連れて行かれた。男の正体は朱里を刺し殺した男だった。
男はうまく人づきあいが出来ない性格らしく、いらいらすると動物を虐殺していた最低野郎だった。
4年前くらいに朱里を殺した後、男は逃げたが、実は朱里ともみ合ったとき男が使っていた刃物の傷がペンダントに傷いてしまったらしい。男はそれを思い出し、証拠隠滅のために朱里のペンダントを探していたらしい。
事件後は、当時問題になっていた通り魔事件の一件として処理されていたが、いつばれてしまうかわからなくてペンダントを無我夢中で探していたらしい。
ペンダントの傷が男が所持していた刃物でできた傷だとばれたら警察に捕まるのも時間の問題だと思って休日を狙ってはあの辺をうろちょろしてたらしい。
余談だが、証拠品のペンダントが見つからずいらいらすると、朱里が可愛がっていた猫に似た猫を見つけては殺していたらしい。
「まったくとんだ野郎だな………」
パトカーに乗せられる男を見ながら鷲巣も身勝手な男の動機に呆れ返るばっかりだった。
「あれ? この子……」
「にゃー」
猫は朱里が見えているらしく霊体である朱里の足首あたりに首をこすりつける。
『え……』
「にゃーお」
そして猫は、晴翔たちに自分について行くよう促すような態度を取る。
「…ついて来いって、言ってるのか?」
不審に思いながら晴翔たちはその猫の足取りを追って行く。
猫は晴翔たちがちゃんとついて行ってくれているか確認するように時々立ち止まって後ろを見た。
そして猫が入って行った草むらに行くと……――
「ああ!?」
デザインとして埋め込まれた5つのサファイア。サファイアをたどると丁度星の形になぞることが出来る。朱里が言っていたロケットペンダントに間違いなかった。
「これ……まさかジュリの!?」
はっ―――
『まさかあなた! あの時の……!?』
「にゃー」
朱里はすべてを悟った様な顔をした。
この猫は朱里が生前公園でこっそり飼って可愛がっていた仔猫だった。そして、その猫は朱里が命を犠牲にしてまで庇ってくれたおかげで無事、成猫として成長していたのだった。
「にゃーお」
猫は命を落としてまで庇ってくれた朱里に感謝の念を送りたくて、自分たちより先に朱里のペンダントを見つけてあの男から隠していてくれていたのだと分かった。
ペンダントは男の証言通り、刃物でできたと思われる傷がついていた。
『あなた……あの男からずっとペンダントを守ってくれてたのね?』
「みゃーお……」
『ありがとう……』
「みゃぁー……」
猫に涙が浮かんでいたような気がした。猫も朱里に会いたくて仕方なかったのだろう…、
朱里に抱きかかえられ、猫が朱里の胸元に顔をうずめていた。
「ジュリ……よかったな」
晴翔がそう呟くように言う。
『あっ……』
「ジュリ!」
「……お別れか」
そういった傍から、朱里の体が光の粒子になっていくことが分かった。未練を浄化したため朱里は迷うことなく成仏できる証だった。
「みゃーお…」
猫は別れを惜しむように鳴く。朱里は猫を腕から降ろすと…
『元気でね……』
涙を浮かべながら笑顔を浮かべた。
そして朱里は晴翔たちの方を振り向くと……
『本当にありがとう……さようなら』
「ああ、元気でな……ジュリ」
そう告げると朱里だった粒子は天へと昇って行った。
「……あの子、生きてたらきっといい女になれたぜ」
鷲巣がもの悲しそうにつぶやく。
「ああ……」
晴翔も呟く。
「?」
晴翔がふと地面を見ると自分の真下に雫がしたたり落ちたのが見えた。気が付くと自分が涙を流していたのが分かった。
「あれ……?あれ……なんだよこれ」
晴翔は気が付くと泣いていたことに頭がついて行けなかった。
(馬鹿………何で泣いてんだよ? 俺…)
抑えきれない涙をぬぐっていると、鷲巣がぽんぽんと頭を撫でてくれていた。
***
数週間後―――
晴翔はぼーっとテレビを眺めていた。
「………」
煩い幽霊たちに声を掛けられるなど前と変わらぬ日々を過ごしていたが、晴翔は胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちだった。
「晴翔? はると! はるとぉ、ちょっと来なさい」
母親の声がうるさく耳をつんざいていた。
「はあ……」
仕方なくテレビを消し、母親のもとへ行く。
「なに? 母さん……」
ちょっと機嫌が悪そうな声で晴翔は母親に尋ねる。
「『何?』じゃないわよ! これからお父さんの知り合いの娘さんがここでお世話になるから挨拶しに来たのに何言ってんの!」
「はあ? それ聞いてないよ?」
「前から話してたはずでしょ!? ごめんねーうちの子ちょっと抜けてて…」
晴翔の母親がそういって晴翔に小言を言いながらこれから晴翔の家に居候することになる子に謝る。
「いいえ…」
「? ………!?」
晴翔はふと、家にお世話になる子の顔見ると……
(ジュ………リ……?)
朱里にそっくりな容姿を持った女の子が立っていた。
「え……あ………」
朱里とそっくりの容姿の子に晴翔は驚きと戸惑いを隠せないでいた。
「なーにしてんの! さっさとあいさつしなさい」
晴翔の母親が発破をかけるように挨拶するよう促す。
「え……? あ…」
そう言われて晴翔は間を置いて咳払いをすると自己紹介とあいさつをする。
これは――あの子がくれた……運命の出会いなのか?
「えっと……これから君が居候する家の長男の“晴翔”です。君の名前は?」
それとも―――あの子が……
「初めまして、私の名前は―――」
END
最後のは彼女が帰ってきたのか、彼女とうり二つの赤の他人かは読者様の想像に
お任せします。