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少年の決意。



少年は決意した。





 見送りする人々は少ない。ここにいない祥と因縁のある者達はどう思っているだろう。清々しているのだろうか。


『やっぱり、寂しいんだな…私』


 祥はあの者達と別れられて、清々したとは必ずしも言えない。ある意味彼等は祥の前では本心をさらけ出していた。そこから垣間見る負の感情が祥にはなんとなく分かっていたのだ。


「人間とは弱いいきものだな。祥がいなくなったらまた新しい嫌がらせの対象が生まれるだろ」


 前を歩くクロードは呆れたように言う。


『…世には常に強者と弱者が存在し、弱者は虐げられる…』


 クロードの言葉に、祥は思わず煌雅邸を振り返った。善くも悪くもそこが祥の今までの人生を過ごした場所で、この先もきっと弱者は存在するであろう場所。振り返った先には小さく皆の影があり、手を振っていた。


『でも…ありがとう』


 支えてくれる人々が手を振ってくれたから、今まで辛くても生きてこれた。また、彼等のいるここへいつか帰りたい。どんなに苦しくとも、あの場所で得た幸せは大きく心を占めているから。


 そう、祥は思った。




‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡†




 祥がいなくなってから、煌貴は少し変わった。武術も勉学も恐ろしい早さでこなすようになった。


 庶民達は「領主になる覚悟が決まったのだろう」と感心していたが、事情を知る者達は心配そうな目で煌貴を見ていた。


「さすがに煌貴は頑張りすぎだと思うのだが」


「今までより鍛練に集中しているのですからよいではないですか」


 庭先で木刀を握り、師に向かっていく煌貴を見ながら煌雅が呟いた。紗奈が満足そうな顔で答える。


「…まるで過去の私のようだと思って心配なのだ」


 煌雅は武術はあまり得意ではない。しかし心に迷いがあれば断ち切るように刀を振るっていた。


「過去とは、あの女がいなくなった後のことでございますね」


 紗奈がため息をつく。その事を紗奈に言われると煌雅は弱い。


「…すまない」


「頭をお上げください。過去の話ですから」


 そう言う割には顔が険しい。機嫌が悪くなりつつあるらしい。


「そういえば、あの娘がいなくなっても煌貴は山歩きを止めないそうですが」


 鍛練や勉学の時以外はほとんど煌貴は煌雅邸から消えている。いつ野生の恐ろしい生き物に出会うか分からないので、紗奈は気が気でなかった。それに山歩きのときは祥がいつも一緒だったので、何故煌貴が山へ行くのか皆疑っていた。


「確かに…領主たる者そのようではいかぬな」


 煌雅は険しい表情の煌貴を見つめた。






 煌貴は両親達が何を話していたか、うっすらと分かっていた。祥と離れてから積もる焦燥感に、煌貴は我慢が出来なくなっていた。


 あれから7日も経つ。そろそろ山を越える頃だろう。一番危険な場所で、転落による死者も少なくない。


『あいつがいるから大丈夫だろう』


 それは煌貴の本心でなく、言い聞かせて自らを納得させようとしていた。それでももやもやする苛立ちは武術でも祓えず、祥と一緒に遊んだあの森でぼーっとするしか煌貴には出来なかった。


 鍛練が終わった後、逃げるように煌雅邸から飛び出し森へと走った。




†‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡




 以前のこと。


「祥の鈍感さも酷すぎるとイライラしますね」


 煌貴は祥の親友である美桜に相談?していた。大体話しているのは美桜だけだが。


「え、それっぽいことは言ったんですか?」


「ん…ああ」


 美桜は祥と一緒にいるので、煌貴もよく彼女と話す。気の置けない友人…とまではいかないが、「祥の鈍感さを嘆く会」というのを開いたりはする間柄だ。


「じゃあ、じゃあ!なんて言ったんですか!?」


「う…」


 あまりに祥と違う性格をしている美桜に煌貴は狼狽した。


「…祥には……。き…綺麗だとか…特別だとか…」


「あははははっ!祥っ!鈍感すぎっ!そんなクサいこと言われたら嫌でも気づくわ」


 美桜が爆笑しながらさらりと毒を吐く。


「く、クサいってそんな!」


「だって、有り得ない、そんなこと、普通には言えないわ」


 美桜は腹を抱えながら苦しそうに言う。


「笑いすぎだ!」


 顔を真っ赤にする煌貴を見て、美桜は更に笑う。


「綺麗だの何だのなんて睦言みたいです」


「むっ、む!?お前そんな言葉っ」


「大丈夫です!祥には教えてません!」


「…そっか、なら…いいか」


 教育上よろしくない言葉に煌貴は戸惑ったが、美桜は高々と宣言した。それで安心してしまう煌貴も煌貴だが。


「祥って…本当にすごい子ですよ」


「…いろんな意味で?」


「まあ、そっちの意味もありますけど、私じゃあ耐えられないくらい辛いことも、彼女はやってのけるんです。鈍感なのが玉に瑕、ですけど」


 美桜の人間観察力はすごい。煌貴はいつも感心する。そして、飄々としているように見えて彼女には芯がある。


「祥は強いかもしれないけど、護ってあげる人がいてこそ、彼女は強くいられるんだと思いますよ」


「そうだな」


 美桜のニヤリとした笑みを見て煌貴は苦笑いした。


 きっと美桜はすごい者になると予感していたのかも知れない。








‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡†




『護ってあげる人がいてこそ、彼女は強くいられるんだと思いますよ』




 森に行って何をするかは決めていない煌貴は、とにかくふらふらと歩き回ることにした。


 思い浮かぶのは祥のことや煌雅のこと。どうしたらいいのか分からず、煌貴は一旦頭を落ち着かせようと思っていた。


「俺はどうすればいい?いや、どうしたいんだ」


 静かな森に溜め息混じりの声は消えゆく。


『そういえば、ここでよく遊んだな…』


 比較的明るい光が射す場所は、美しい花々が咲く広場だった。


「…ん?」


 思わず煌貴は目を見はった。そこには小さな少女がいたのだ。


 巫女装束らしき上等そうな着物を着た、銀髪の小さな女の子。領地の子供達を把握している煌貴も見たことがないような少女だった。


 少女はこちらに気づいたらしく、まん丸の黄色い目で怯えたように煌貴を見た。


「どうしたの?」


 彼女の人離れした見た目に興味を惹かれた煌貴は、ゆっくりと少女に歩み寄った。


「…え?」


 少女はぎゅっと目を瞑るとその場からふっと消えてしまった。


「え?え?ちょっ!?」


 煌貴は思わず目をこすった。再び目を開くと…


「えーっ!?」


 目の前には少年がいた。橙色の髪に黄色い瞳、上等そうな山伏装束らしき着物を着た、煌貴と同い年くらいの少年だ。


 驚いた煌貴は思わず気を失ってしまった。




†‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡




「狛…ちゃんと警戒してから現れなきゃ駄目だって言ったじゃないか!」


 よく通る少年の声。


「……ごめん…なさい」


 震える少女の声。


「まぁまぁ、この少年はあの煌雅の息子だし、悪いことはないだろう」


 艶めいた女の声。


 そんな声を聞いて、煌貴は目覚めた。


「…ん?」


 煌貴は腹筋を駆使して素早く起き上がった。目の前にいるのは先程見た少女と少年、そして美しい着物を型を崩して着る女性だった。


「うわっ!?えっ!?」


 煌貴は立ち上がろうと思ったが、腰が抜けてしまい、身体を引きずりながら後ずさった。


「情けないのぉ…」


 女はそれを見て、扇を口に当ててくすくすと笑う。


 その仕草と口調に、煌貴はその女性が身分の高い生まれだと、ハッと気がついた。


「も、申し訳ございませんっ」


 急いで頭を下げる。


「まぁよい。落ち着いたか?」


「…っはいっ!」


 女性は煌貴に歩み寄り跪く彼にしゃがんで目線を合わせた。


 刺すような眼差しや弧を描く赤い唇が蠱惑的な印象を強くさせ、煌貴はそれから目を離すことが出来なくなった。


「私の名は美月。そなたは煌雅の子、煌貴だな?」


「はい。えっと…もしかして、美月様は…」


 なぜ父のことを知っているのかと訝りながらも、煌貴は考えた。祥から聞いた話通りならば、美月という名は、この山にいる竜のものだろう。


「そなたの思っている通りだ。祥は全てをそなたに話したのだな…。煌雅は元気なようで何よりだ」


 話す必要がないくらいに美月が煌貴の心を読んでしまう。


「あの…何故父のことを知ってらっしゃるのですか?」


 美月は片眉を上げて微笑んだ。


「禮にしつこくつきまとっていたからな」


「え?」


「しかし、その話をするような気分ではないな、面倒だ。ここは『気』の範囲内ではないし、長居したくない」


 美月はスッと立ち上がると、煌貴を見下した。


「そなた…このところ何をしておるのだ。祥について行かなかったのか」


 先程とは違い、険のある声音で美月は煌貴に語りかけた。


「そ…それは…」


「私は、あの若造には祥を護れるほどの心の強さは感じない。彼奴は今、迫り来る災いのことしか考えておらぬだろうからな」


 『若造』がクロードをさすということに煌貴はしばらく気づかなかったが、美月の言いたいことはそれとなく伝わった。


「祥の真実を知ったのならば、祥が真実を教えてくれたのならば、そなたは見てみぬふりはできぬぞ」


 これは新しい考え方だ、と煌貴は思った。それは竜の言葉であり、彼の心に重く、強く残った。


「煌雅は禮について終ぞ知ることはなかったが、そなたは全て知っているのだからな。煌雅とは違うのだ」


「…では、祥のもとに行けばよいのでしょうか」


 煌貴の言葉に、美月は小さく笑った。


「訊くまでもないぞ。今夜迎えに行こう」


 そう言うと、美月は煌貴に背を向けた。彼女の横に少年と少女がついて、3人はその場から消えた。


「…な…何だったんだ?」


 美月がいなくなった後も、彼女の威厳に気圧されたように煌貴はぼーっとしていた。





‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡†



『本当に…どうしよう…』


 あまりに美月の登場がいきなりすぎて、煌貴は呆然としてしまった。


 しかしいい刺激にはなった。今まで悩んでいたが、決意が固まったような、そんな気がしたのだった。



 木々の向こうにある空を見上げると、そこまで時間が経っていないようだ。恐らく、美月の『気』の範囲外で彼女と話したからだと煌貴は考えた。


『…しかし…父上にはどう説明したら…?』


 不安は大きくなるばかりだった。




†‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡




「あれ?煌貴様?」


「しーっ」


 誰にも気づかれないよう煌雅の書斎に向かうつもりだった煌貴に、美桜が話しかけた。思わず煌貴は人差し指を口元に当てる。


「すまない…今は取り込み中だ」


「もしかして、祥に追いつこうとか思ってます?」


 勘のいい美桜は煌貴の様子でそこまで悟った。


「…思ってはいる」


「準備、しますか?」


 美桜はまたニヤリと笑う。


「頼んだ」


 なんとなくその笑みに安堵して、煌貴は煌雅の書斎へ向かった。




‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡†




「おお、煌貴。ちょうどそなたにしたい話があったのだ」


 書斎の入り口に立った煌貴に気づいた煌雅は柔らかい表情で彼を迎え入れた。


「まあ座れ」


 煌雅に促され、煌貴は彼と向かい合って座った。


「俺も、父上に話があって来ました」


 煌貴は少し下を見て言った。


「では、まず私の話を聞きなさい」


「はい」


 煌雅は顔を引き締めた。人を教え諭すときの表情だ。


「そなたは最近よく頑張っているな」


「…そう…見えますか」


 煌雅の声音は、煌貴の力の入った肩を和らげようとしているのか、柔らかい印象があった。


「稽古や勉学に関しては、本当によく頑張っている。しかし、危険なのだから山歩きはやめた方がいいと思うのだ」


 煌雅は遠回しに言ってはいるが、煌貴には言いたいことが大体分かった。


「分かっているとは思うが、そなたは将来の山路ノ領の領主。私の跡を継ぐものだ。煌貴、そなたはそのようではならないのだ」


「そのよう、とはどういうことなのですか?」


 分かっている、分かっているのだが煌貴は訊いた。


「…祥を慕う気持ちはよく分かる。しかしな」

「俺は決めました!」


『これ以上分かりきった話なんかしたくない』


 煌貴はそう思って煌雅の話に割り込んだ。


「祥の生い立ちを知りました。何もしないでいるのは許されないことだと、竜が教えてくれました!」


 煌貴が叫ぶように言った後、数秒の沈黙が重たく響く。


「…竜とは何なのだ!?そこまで素晴らしい生き物なのか!?私にはもう分からない!」


 煌雅は膝を拳で強く叩いた。珍しく声を荒げている。


「俺にも分かりません!」


「得体の知れぬものの言うことをなぜ信じる!?」


 歯を食いしばって怒鳴る煌雅はかなり恐ろしい。それでも煌貴は彼の目を真っ直ぐ見た。


「あれほど強く、長く生きる生き物はいないからです」


 煌貴のその言葉で煌雅は黙ってしまった。


「…そうだ、確かにな…。しかしなぜ、なぜ私の愛するもの達は私の元から去っていこうとするのだ?」


 また沈黙が訪れた。煌雅は溜め息をついて頭を垂れた。


「絶対帰ってきます。都に行ったことがないわけではないし、きっと無事に帰ってきます」


「商いの為に私についてきたときとはワケが違う。もしかしたら恐ろしい戦が起こるかもしれないのだぞ」


 煌貴は小さく頷いた。


「分かっています」


「そなたが無事領主になってくれれば、無駄な争いも起きぬし、民も困らぬ」


「領主に相応しい人間になって帰ってきます」


 煌雅は顔を上げて煌貴を見つめた。負けじと煌貴も、まるで睨むかのように跪きながら見上げた。


「例え帰ってきたとしても、領主になれるとは思うな。私はもうお前を捨てたつもりだ!行くがいいぞ!…それで良いか?紗奈」


 途中までは煌貴が予想していた答えだった。煌雅の了解を得るには一筋縄ではいかない。これくらいの代償は必要だと煌貴は覚悟していた。


 しかし、煌雅のよびかけに応え、襖を開けて入ってきた人を見て、煌貴は言葉を失った。


「…母…上…」





 紗奈は唇を噛んでこちらを見下している。目は少し潤んでいたが、明らかに怒りの色を宿していた。


「禮も祥も、私は一生恨みます。…煌貴、そなたのことはもう息子とは思いません。お好きに出て行きなさい」


 気の強い紗奈の決起迫る表情から煌貴は目が離せなくなった。


『…俺は…なんて親不孝な息子なんだよ』


 煌貴の思考を祥の言葉がかすめた。決意が揺らぎそうになる。


『でも、もう決めたことだ』


 煌貴は精一杯頭を下げた。そして、親の思いや自分の迷いを断ち切るために叫んだ。


「今まで本当にありがとうございました!」


 帰ってくるなどと気休めは口にしない。頭を上げた後も、煌貴は煌雅達の目を見ずに足早に書斎を立ち去った。


「これで…これで、行けるよ…祥…」


 煌貴は元服していない。それに父から学べることはまだ沢山あった。


 しかし、祥の元に行きたい、その思いに駆られて煌貴は歩き出した。


 煌雅の書斎から紗奈の嘆きが聞こえても、煌貴は躊躇うことはなかった。



†‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡



 夜の帳が降りた頃、煌貴は家出という名目で煌雅邸を出ようとしていた。


「祥をよろしくお願いします。どうかご無事で」


 真剣な眼差しで美桜は煌貴に荷物を託す。小さく頷いて煌貴はそれを受け取った。


「分かった」


 決して多くはない荷物だが、心なしか重く感じられた。


「……」


 煌貴は煌雅邸をしばらくじっと見つめると、振り切るように背を向けた。


 ゆっくりと裏口から表の通りにでる。そして走りだそうとして踏み込んだ。


「っ!?」


 しかしそれは目の前に現れた人影に阻止されてしまった。






「お…お前は!?」


 地面から生えてきたように、ぬっと出てきた人影は…


「人間はこれだから嫌だ。夜目が利かぬから」


 橙色の髪の狗だった。


 黄色の瞳が月明かりを反射して不気味に光る。


「な…なんだ、あんたか」


 また彼を見て驚いてしまったと煌貴は渋い顔をした。


「美月様の命で祥のもとにお前を連れて行く」


 そんな煌貴の反応を無視し、狗は切れ長の目元をさらにきつくした。


「これから、不本意ながら、お前を我が背に乗せて駆けよう。準備しろ」


「え?あんたが背負うのか?」


 煌貴は目をぱちくりとさせる。狗の体格は煌貴よりすこし頼りないので心配になっていた。


「あんた、ではない。我が名は狗。一時的にお前に主になってもらおう。我が名を呼べ」


「…すまない…。狗…か?」


 気圧されがちの煌貴を見て狗は溜め息をついた。しかし真っ直ぐ煌貴に目を向ける。そして世界が一瞬明るくなった。


「…っ!!」


 明るさに目が眩んだ煌貴が目を開けると、そこには大きな獣がいた。


「う、うわっ!?」


 獣は暗闇の中でも薄く光っていて、橙色の毛並みがよく見える。大きさは人1人が背に乗れるほどの大きさ。


「き…狐?」


「なんだ、祥から聞いていなかったのか。我は美月様の使いの狐、狗だ」


 狐は身体を思いっきり伸ばしながら喋った。その間も煌貴はしばらく驚きが抜けなかった。


「喋っているような時間はない。早くいこ…あ!」


 話している途中で狗は暗闇へと走っていってしまった。


「ちょっと待てよっ」


 急いで煌貴も月明かりを頼りに後を追う。狗はそう遠くに行っていなかったようで、すぐ見つかった。


「狛!ついてきちゃダメだって言っただろ!」


 そこには狗と一緒に美しい銀の毛並みの小さな狐がいた。


「狛…ってもしかして…あの時一緒にいた女の子?」


「気安く名を呼ぶな!」


 狗にすごい剣幕で怒られてしまった。煌貴はすまないと小さく言って黙っていることにした。


「お前はついてこれないんだぞ」


 先ほどとは違う優しい声で狗は狛を諭した。


「………分かってる…お別れ、いいに…来た」


「…っ…。ありがとう、狛。大丈夫、僕はすぐ帰ってくる」


 狗は狛の頬を温かそうな自らのそれと静かに合わせた。


「僕がいない間、周りを確認せずに人間界にでちゃだめだよ?それに美月様の言うことをよく聞くこと!くれぐれも人間にあっちゃダメだよ!狛はこんなに可愛いんだから。どうしてこんなに可愛いんだろう?狛は本当に可愛いなぁ…本当にかわ」「分かった」


 狗が猫なで声でつらつらと喋るのを、狛の冷たく静かな声が阻止した。


「………狗五月蝿い…」


「うるさかったかぁ、ごめん」


 二匹の狐はしばらくじゃれ合ってから、やっと煌貴のもとに戻ってきた。


「よし、狛を送ってから旅立つことにする。早く乗れ」


 先ほどとの豹変ぶりに煌貴は無言で驚いたが、大人しく狗の背に乗った。


「しっかり掴まってろ」


 言われたとおりに掴まる。狗の美しい毛並みを掴むのはちょっと申し訳なかったので軽く掴む。


 そして狗は走り出した。


「うわっ」


 煌貴は急いで毛並みを強く掴んだ。


『もうちょっとで落ちるところだった…』


 狗の走る速さは尋常でなく、周りの景色や風が凄い勢いで過ぎていく。獣はこんなに速く走るのだろうか。


 気が遠くなるような光景に煌貴は辛くなって、狗にしがみつくことしか考えられなかった。


 途中で狛が離れていったのだが、煌貴はそれに気づかずただ顔を狗の心地いい毛並みに埋めていた。







閲覧ありがとうございます!


煌貴が不憫ww


次から祥中心です


狗がシスコn((ry


…とにかく、狛可愛いよ狛ってなってればいいなっていう作者の愚かな妄想です



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