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少年、男、少女の想い・別れ。


話の区切り方がワカンネ←


なんだか「恋愛」の名に恥じぬモノを書こうと躍起になってました


なんだか…まぁ、恥ずかしいの一言に尽きますので


…温かい目で |ω・`)






 煌貴は苛ついていた。父に反対されたこともその原因だったが、何より祥の話をあまり詳しく聞けなかったことが悔しかったのだ。


 煌雅の部屋を出た後も、煌貴の苛つきは収まらなかった。


『父上は祥の話を聞かなくてもよかったかもしれないけど…俺は知りたかった…それに…祥を護りたかった』



 煌貴は空を見上げた。歯を食いしばって…。




‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡†




 祥は昔から我慢強い性格だった。育ってきた環境が過酷だったので慣れたのかもしれない。煌貴はそんなことは有り得ないと思っている。辛いことは何度起こっても辛いのだから。


 幼いときから祥は虐げられてきた。煌貴は今でも覚えている。祥が自分に投げられた石がどれだけ痛かったか、言葉がどれだけ冷たかったか語ったことを。


 その日の授業の帰りだった。確か祥と煌貴が5歳くらいのころ。


 煌貴が祥に今日の授業の復習をしようと声をかけたとき、祥は泣いていた。


 煌貴は初めて祥の涙を見た。随分声を押し殺すように泣いていた。


 煌貴が訳をきくと、彼女はたどたどしく自分に起こったことを語った。


 煌貴は祥を1人にしたことをひどく後悔した。そして祥に酷いことをした者達が許せなかった。


『祥のことは、僕が護ってあげる』


 煌貴が祥に告げた言葉は、気休めなどではなく、一生の誓いだった。


『なのに…』


 父に止められてしまった。


 煌貴は父を尊敬しているし、立派な領主になりたいと思っている。


 しかし、綺羅ノ国にとって重要な山路ノ領の領主には国の権力をもった人の娘が贈られる。


 煌貴の母、紗奈も綺羅ノ国の摂政の娘だ。


 煌貴にはおそらく約束された人がいるのだろう。


『でも…それじゃあ…』


 彼女を護ることはできない。


 しかし、煌貴は父のような立派な人間になりたい。


『…どうすればいいんだ…?』


 溜め息が空に溶けていった。




†‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡




 煌貴は煌雅の部屋を出た後も、自分の部屋に戻る気にもならなくてしばらく庭を見ていたのだが、そんな煌貴に話しかける者がいた。


「湿気たツラしてるな」


 煌貴が怪訝な顔で見上げると、そこにはクロードがいた。


「なんですか?」


「せっかくのいい夜が台無し」


 気味の悪いものでも見るかのようにクロードは顔をしかめた。


「そんなに祥について行きたかったのか」


 そんなことはどうでもいいのにと言いたげな様子のクロードに、煌貴は内心苛ついた。


「そりゃそうですよ。今までずっと一緒にいたんです」


「ふぅん…ずっと…ね」


 クロードのからかうような目線が刺さる。


「…本当に何なんですか」


 思わず煌貴はクロードを睨んでしまった。


「祥はお前について来て欲しいと思っているのか…分からないな」


「………」


 煌貴は考えてもいなかったことをクロードに言われて驚いた。そして何より、一番心配すべきことに気づいてしまった。


「ただの人間には辛い旅になる。止めておけ」


「じゃあ祥はただの人間ではないのですか?」


 クロードは説明するのも面倒くさそうに答えた。


「それは俺に話す権利はない。祥が話したかったら話すだろう」


 望んだ答えが帰ってこなかったので、煌貴はもどかしい気持ちに襲われた。


「祥が目覚めるまで待てません…。目覚めたらすぐに出立するでしょうし」


「これだから人間は面倒くせぇんだよな」


 クロードの溜め息が響いた。


「なんでも知りたがる性格なんだよな、お前は。煌雅だってそうだが」


「知りたいと思ってなにが悪いのですか」


 煌貴の言葉を聞いて、クロードは表情を変えた。今までは呆れたような表情だったのが、今は本当に不快そうにしている。


「所詮それも欲望だ。まぁ、人間の性だから仕方ないが、俺がお前の質問に答えるのが面倒だ。知る必要がないのに知ろうとするし」


「必要です!それに面倒だとか言わないでください」


 煌貴はクロードの目を真っ直ぐと見た。


「……仕方ないな…。何を知りたい?」


 クロードは根負けして溜め息をついた。煌貴はクロードから目を逸らさず、ゆっくりと言った。


「祥の生い立ちや気持ちは本人に訊きます…。もし…父や祥がついて行くのを許してくれて…俺が努力して、辛いことに耐えれば旅についていけるでしょうか」


 煌貴の質問に、クロードは数秒黙った。ただひたすらに無表情だが、何か考えているようだった。


 あまりに無言の時間が長いので、煌貴は落ち着かなくなって、口を開こうとした。しかし、クロードの形のいい唇が弧を描いたので、彼がなにを言うか固唾を飲んだ。


「それはお前の努力次第だ。まぁ、この俺に傷をつけられれば、力の面では申し分ないだろう。…どうせ無理だろうけど」


 煌貴にはクロードの笑顔が挑発的に見える。夜に映えるその顔立ちは、男である煌貴にもどきりとさせられるものがあった。


「それはどういうことですか…?」


「竜の鱗は竜の爪や牙によってしか貫けない。祥や我々が戦う相手は、それらを竜の屍から手に入れた人間共だ」


 クロードの瞳に鋭い光が宿る。月の光を背にしているので顔は暗いが、瞳だけが金色に光っていた。


「そんな危険な戦いに自ら飛び込む勇気と力はあるのか?」


 クロードは嘘は言わないだろう。真実を話した上で煌貴を試しているのだ。


「…祥を護るためならどこにだって行きます。なんだってします」


 クロードは苦笑を浮かべて煌貴の言葉を聞いた。


「おめでたい人間だな。本当、素っ敵な話だ」


「馬鹿にしてますか」


 冗談で言った訳じゃないのに、と煌貴は密かに思った。


「冗談だったらまだマシだったのにな」


「なっ」


 煌貴は心を読まれたことに驚いた。何か言い返そうと思っていたのにクロードは身を翻した。


「もう疲れた。お前も寝たらどうだ?早く寝ないと背が伸びない」


「背は別にいいですっ」


 話すのが面倒だから話を逸らされたのか、クロードは煌貴の密かに気にしていることを言って去っていった。


 煌貴はしばらくその場に立ち尽くしていた。心の中を嵐が過ぎ去っていったような、そんな感覚が残された。




‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡†




「…ん…」


 祥は眩しい光で目が覚めた。


 今度はどれくらい眠ってしまったのだろう。どこかぼーっとする頭をゆっくり起こして周りを見回した。


「昼…か」


 微かに開いた襖から高く上った太陽が見える。


 祥は身支度を整えて縁側に出た。庭を見ると、そこにはクロードがいた。


「…早いな…」


「何日眠っていましたか…?」


「帰ってきた時は4日経っていた。寝たのは2日程度。前より寝ていた時間が短い。竜に慣れたようだな」


 クロードが祥に歩み寄る。着物を着て庭に立つ姿はなんとも不思議だった。


「慣れた…のでしょうか…」


 縁側と庭の高低差のお陰で、クロードと祥の目線は同じ高さになっている。それにクロードはかなり近い距離で祥と話している。


『慣れません…絶っ対に無理です』


 目と鼻の先ほどの近さにクロードがいるので、祥は赤面して考えた。


「馴らすのも楽しいものだな」


 それを見て、クロードは喉の奥でくつくつと笑って祥から身を引いた。


「ふざけないでください!」


「ふーん…ふざけているように見えるのか」


 一旦離れたクロードの身体が再び近く。クロードは祥の耳元で囁いた。低く深い声で。


「前より竜の匂いが強くなってるな」


 温かい吐息を項に残して、今度こそクロードは祥からスッと離れていった。


「あのっそれってどういうことですか!?」


 祥はどぎまぎしながら呼び止めようとしたが、クロードは颯爽といなくなってしまった。


 それからすぐ後、祥にはクロードが去った理由が分かった。


「祥!!もう起きても大丈夫なのか!?」


 廊下から煌貴が走ってきたのだ。煌貴が今の光景を見たら大騒ぎになっていただろう。


「うん、大丈夫」


「でも顔赤いぞ、熱でもあるのか?」


 先程のクロードの行動で随分と恥ずかしい思いをしたので祥の顔は火照ったように赤くなっていた。指摘されたことでさらに恥ずかしくなって、祥は俯いた。


「…ううん!本当に大丈夫だから」


「…俺としては祥が風邪でもなんでもいいから長居してくれたほうがいいんだけどな…」


 煌貴は小さく呟いた。


「なにか言った?」


「いや、気にしないでいいよ。…それよりさ…祥は本当に…海の向こうの人達と戦うつもりなの?」


 煌貴の質問に、祥は目をぱちくりとさせた。


「分からない。でも協力することにはなると思う」


「そんな危ないこと、して欲しくないよ」


 煌貴は真剣な表情で祥と向き合う。


「…でも…」


 祥は泳いだ目で煌貴を見返す。


「どうしてもと言うなら、俺もついて行く」


「でもそれじゃ…煌貴に迷惑になる…心配かけさせたくないよ」


 祥は唇を噛んで俯いた。


「全然迷惑じゃない。それより祥があいつと2人だけで旅をするほうがはるかに心配だよ。祥がいいって言ってくれたら、祥を助けたい」


「…煌雅様は許してくださったの?」


 煌貴はその言葉に一瞬躊躇いの表情を見せた。


「いや…まだ…」


「きっと煌雅様も紗奈様も心配されるはず…。親を心配させるなんていう親不孝は煌貴にしてほしくない。…親がいない私の分まで大切にしてほしいの」


 先程の戸惑った瞳とは真逆のまっすぐな眼差しが煌貴を貫いた。


 親のいない祥が語る親孝行は、煌貴が口を出せないほどの強い意志が込められていた。


『…でも…もし祥に二度と会えなくなったら…』


「大丈夫、頑張って帰ってくるから!」


 煌貴の重く沈んだ面差しを見て、祥は元気づけるように明るく言ったが、彼の心は不安が増す一方だった。


「わかった…絶対無事に帰ってきて。約束」


「うん」


 お互い、顔を見合わせて笑いあった。


『せめて、祥がなんの心残りもなく旅立てるように…今は笑っていよう』


 煌貴は小さな決意をした。








 控えめな笑みを浮かべて煌貴はその場を立ち去った。


『このほうがよかったんだ。煌貴には迷惑をかけすぎていたんだから』


 祥は心になんとなく寂しいものを感じた。しかし、祥に感傷に浸っている暇はなかった。


「祥っ!」


 美桜のよく通る高い声が響いたのだ。それに驚いているうちに、彼女は祥のそばへと駆け寄ってきた。


「祥すごいじゃない!クロード様に気に入られて都に連れて行ってもらえるの!?うらやましいー」


 美桜は祥の返事を聞こうとしない。祥は気圧されながらも、都に行く口実がに『気に入られて』になってしまったことに赤面した。


「どんな手を使ったの!?どうやってその気にさせたの!?」


「ちがうちがうちがうっ!!それは口実!私が都に行きたいからクロードさんに頼んだだけなの」


 えーっと言いながら美桜は信じていないような顔をした。


「ふーん…まぁそういうことにしておきましょうか」


「本当だって!」


 祥がむっとすると、美桜はふきだした。


「あははははっ!祥は面白いなぁもう。………いなくなっちゃうなんて寂しいーっ」


 百面相とも言える美桜の表情と気持ちはころころと変わって祥を惑わせる。今笑ったかと思えば、くしゃっと顔を歪めて祥に抱きついた。


「…帰ってくるから大丈夫だよ…」


 祥はそう言いつつも美桜の本心に触れて目頭が熱くなった。


「祥ぃ〜っ」


「…美桜」


 自分も美桜のように感情を面に出せれば良かったのにと祥は思った。彼女と離れるのは祥自身も辛い。一緒に泣いて気持ちを分かち合いたかった。


「私祥がいたから頑張れたんだよ。祥がいなくなったら…私もうやってられないっ!!」


「そんなことないよ。美桜はすごい人だもん」


 世渡り上手で、底抜けに明るい美桜は昔から祥の憧れだった。


「えへへー、そう?」


「ちょっとー!どこまでが本当なの!?美桜の気持ち全然わからない!」


 祥は豹変する美桜の表情に振り回されてばかりだ。


「さっきから言ってるじゃない!私の気持ち全部!寂しいんだよぉ祥!私もう田舎に帰るっ!」


「分かった分かった!美桜の気持ち分かった!私ちゃんと帰ってくるから!」


 気休めに言ったのではない。決意して言ったのだ。


「都なんて怖いところだよ。いずれここの良さが分かる。その時には帰ってくるから」


「まあまあ、私のことは気にせずゆっくりしておいでよ。祥のしたいようにしてきて」


 美桜は目を潤ませながらはにかんだ。


「ありがとう。美桜に逢えて本当に良かった。こんないい友達ができるなんて思ってもみなかった」


 祥は常日頃から思っていることを美桜に打ち明けた。言おうと思っていてもなかなか言えないことだから。


「祥に友達が少ないのは周りの人間が見る目がないだけよ!都で沢山友達を作ってきて!…勿論私も忘れないでね」


「ふふっ、もちろん!」


 少女達はお互いの顔を見合わせて笑いあった。名残惜しくはあるが、美桜が元気づけてくれたお陰で祥は随分自信を持てた。


『…とうとう…出発しなくては』


 そう覚悟すると祥の中でだんだんと緊張が高まってきたのだった。




†‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡




「祥、本当に今まで…健やかに育ってくれたものだな」


 祥は煌雅の書斎へ行き、時間があるうちにとお別れの挨拶をしにいった。しばらく話した後、煌雅は頭を下げる祥を見て、感慨の想いに浸っていた。


「いえ、今私が生きてこの場に居られるのも煌雅様の慈悲があってこそ。本当に…言い尽くせないほど感謝しております」


 ここで働かせてもらわなかったら、祥はどこかで野垂れ死んでいたに違いない。


「禮のお陰でもあることを忘れるなよ。そなたがここで働けるように頼み込んだのは彼女なのだから」


「肝に銘じます」


 煌雅は祥の礼に少し困ったように笑った。


「そなたがどう思っているかは分からないが、私はそなたを娘のように思っておった。…それなのに辛い思いをさせて悪かったな」


 辛い思いとは、女中達の嫌がらせや紗奈の小言など、煌雅が立場上庇えなかった祥の不幸のことだろう。


「いえ、そんなことはありません。それより、そのお言葉がなにより嬉しいです!」


 祥の笑顔が明るく部屋を照らすようだった。


「私もその笑顔に随分救われたぞ。そなたは強いな。…どうか無事で、またその顔を見せておくれよ」


 歳をとった煌雅が憂いを帯びた微笑みを祥に向けた。


「はい。今まで本当にありがとうございました」


 祥は溢れる感謝の念を育ての親に伝えた。言葉だけでは伝わらない思いは付き合いの長い2人なら既に分かり合っているのだろう。


「本当は懐かしい思い出話の一つや二つをしたかったのだが、それはまたそなたが帰ってからにしよう。な?」


「はい」


 母親より優しげな柔らかい顔立ちの祥は小さくはにかんだ。


『祥も結局都へと行ってしまうのだな…。これもまた運命なのかもしれぬな』




 煌雅はふと祥と似た美しい乙女を思い出した。目の前の少女より強い眼差しをした禮である。


『煌雅様。私は都に行きます』


 …煌雅の想いを知ってか知らずか、禮はなんの未練もないかのように、嵐のように去っていったのだ。



‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡†




『煌雅様のような御方が都にはたくさんいらっしゃるのでしょうね』


 禮がぽつりと呟く。


 2人で見上げた星空。その夜のずっとずっと前から煌雅には禮に伝えたいことがあった。


『…禮っ!…私はそなたのことが…』


 意を決して煌雅が言った言葉は禮に遮られてしまった


『お待ちください煌雅様。私は…私のことを煌雅様が知ってしまうのが怖い。きっと私を知った煌雅様は前のようなお優しい煌雅様ではなくなってしまうでしょう。だからどうか私のことは知ろうとしないでください』


『そのようなことはない!禮のことならば何だって受け止めてみせよう』


 今思うとかなり恥ずかしいことを言ったと、煌雅が思い返す度に苦笑する言葉だ。


『いえ、煌雅様。知って欲しくない、いや教えたくないのです。どうか訊かないでくださいませ。私は、私のことを知らない人達のいる場所へいつか行こうと思うのです』



 星を見たままでしっかりと呟く禮。煌雅には一生忘れられない思い出である。


 苦い、苦い経験。しかし歳をとった今なら懐かしく、有り難いものだと煌雅は思うのだった。



†‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡




 準備は着実に進み、とうとう明朝出発となった日。


 祥は祖母の家屋跡にやってきていた。クロードに壊されて跡形もなくなっていたが、やはりそこは懐かしい場所だった。


『…お婆様…お爺様…母上…』


 昔からの思い出も、美月に教えてもらった真実も相まって、この場所は祥にとってさらに大切な場所になっていた。


 森林に佇む祥に、背後から煌貴が声をかけた。


「あ、あのさ…祥…」


 しばらく祥は家屋跡を見つめていた祥だったが、ゆったりと振り返って煌貴の方を向いた。


「前訊けなかったこと、訊いていい?」


 唐突な煌貴の言葉に驚いたのか、祥は少しぼーっとしていたが、小さく笑って返事をした。


「いいよ」


 煌貴は質問を許されたのになにか迷っている表情で、話し出すのにけっこうかかった。


「あ…あのさ…。祥が良ければ、祥の生い立ちが知りたい…んだけど…」


 煌貴はぽつぽつと緊張しながら語った。祥はその言葉に聞き入っているのか、瞳を閉じていた。


「………」


 沈黙が続く。


 祥は俯いて唇を噛んでいる。


「………」


 沈黙に耐えきれなくなった煌貴が口を開いた。


「あ、あのっ」


「…分かった。話すよ」


 それを遮るように祥は微笑んで答えた。


「いや、嫌なら別にいいんだ!無理にとは言わない」


「ううん、大丈夫。煌貴は幼なじみだし、きっと分かってくれると信じてるから。驚かずに聞いてね」


『…幼なじみ…か』


 煌貴は心の中で苦笑した。しかしいつまでも落ち込んでいるわけにもいかないので、しっかりと祥を見据えた。


「いつか話さなきゃいけないと思ってたし、ね」


 煌貴を隣に誘って、祥は廃材に腰掛けた。


 そして自らの生い立ちを語り始めた。



‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡†




 過去を話し終えた祥が小さく溜め息をついた。風が心地良く2人の項を冷やす。


「そっか…。昔から祥はなんとなく他の皆と違う気がしてた」


 祥が切なげな瞳で煌貴を見る。その視線に気づき、煌貴は慌てて言葉を足した。


「違うよ!俺にとっては誰よりも綺麗で不思議で…とにかく特別に見えてたんだ!」


 取り乱したせいで、煌貴は心の内を僅かばかり出してしまった。暫時の沈黙が流れる。


「あ…」


 言ってしまったことに気づき、煌貴が顔を赤らめた。


「はははっ!煌貴、お世辞はやめてよっ」


 うずくまる煌貴を見て祥は腹を抱えて笑う。


「特別なんて、必要ない。皆と違うなんて、苦しい。そう思わない?」


 少し困ったような顔をして祥は言った。


「そんなことはないよ!少なくとも俺は祥が祥で良かったと思ってる」


 煌貴の必死すぎてよく分からない言葉に祥は吹き出した。


「ありがとう。煌貴はすごく優しいね」


「あっ…当たり前だよっ」


 2人してくすくす笑う。それはだんだん止まらなくなって、お互い腹を抱えてしまうまでになった。


 こうしていられるのもあと僅かだという、そういった寂しさを紛らわすためにも2人は笑ったのだった。




†‡†‡†‡†‡†‡†‡†‡




 とうとう出発の日。


 事前の準備が良かったので、あっさりとした雰囲気の中で祥やその親しい人たちは門に集まっていた。


 春の心地良い日差しの中、暑くもなく寒くもない陽気。まさに旅立つのによい天気だ。


「祥ぃ、どうか、どうか無事で!」


 美桜が既に泣きはらした目から涙を流す。


「泣かないでよ!私も泣いちゃうから止めて!」


 そう言いながら祥もつられて涙がでた。とうとう別れだと覚悟したからかもしれない。


「恋を応援してるわっ」


 感極まって抱き合ったときに、美桜が耳元で囁いた。


「だぁからっ!美桜はどこまでが本気なのっ!」


 先程まで泣いていたはずの美桜のからかうような声音に祥は思わず叫んでしまった。


 周りの視線が痛い。


 祥は苦笑いをしてゆっくり美桜から離れた。そして煌雅の正面に向き合った。


「祥…気をつけてな」


 事情を知らない美桜がいる手前、何について気をつけるのか詳しくは言えない煌雅であったが、その表情が心情を物語っていた。


 心配している表情、優しい瞳。親代わりの煌雅の気持ちが祥の心に温かく沁みた。


「…今まで…本気にありがとうございました」


 祥の涙で潤んだ声に、煌雅は何度も頷いた。そして、少し(いや、大分)無視されて不機嫌なクロードに声をかけた。


「どうかご無事で。祥をよろしくお願いいたします」


「ああ」


 クロードは人間の馴れ合いが面倒で仕方ないという様子で返事をした。


「祥!絶対無事に帰るんだぞ」


 煌貴が余裕なさげに言う。泣いたりはしないが、随分辛そうな顔をしている。


「煌貴も元気でね」


 煌貴も何度も頷いた。その仕草がさすが親子と思わせられる。


「クロード様、祥を護ってあげてください。俺の代わりに」


 煌貴はクロードを半分睨むように小声で言った。


「あー、どうしようかなぁー」


 クロードは意地の悪い笑みで返す。


「…っなっ!」


 怒る煌貴は無視をして、クロードは帰る支度を始めた。


「では、世話になったな」


 あまりにさっぱりとしたクロードの挨拶に、祥も急いで荷物を持つ。


「本当に、皆様…お世話になりました!」


 祥は美しく頭を下げ、育ってきた館に背を向けた。


 そしてクロードの後に急いでついていったのだった…。









クロードはお色気担当ですww


祥は恋愛感情丸出しの煌貴の態度に気づかなすぎで悲しくなりました


先が思いやられて仕方ない


祥は誰を好きになるんでしょうね(´ω`*)


私も分かりません←


私はクロードが好きd((ry




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