あれ?
日常のほんの小さな違和感。
そこから、逃れられない悪夢が始まります。
※短編ですので、ぜひ最後までお楽しみください。
━━あれ?このお部屋のコンセントってこんな所にあったかしら?
わたしはふと手を止めた。ドライヤーのプラグをコンセントに挿そうとしていたのだ。
ところが、そんな違和感を感じてつと手を止めてしまったのだ。
改めて部屋を見回した。紛れもなく、わたしのお部屋のようではあった。ただし、何処かに堪らない違和感を感じてならないのだ。
例えば窓の位置。窓は南側に一カ所あるだけだったはずだ。ひとつしかないのは間違っていないけれど。
ただ、今正午なのだが、その窓から直に照りつけてるはずの太陽が見えてさえないのだ。雲が立ち込めて 太陽の光を塞いでいるというわけではない。実際、雲一つない快晴の天気なのに違いはなかったのだ。
━━するとこのお部屋は?わたしが入るべき お部屋を間違えたとか……?賃貸マンションのお部屋の間取り なんて、どこもほとんど変わりないのかもしれない。それに加え、趣味がたまたま同じで同じような強度を揃えたりすれば、他のお部屋と区別がつかなくなるのかもしれない。
こんなことを考えた時だった……。
玄関のドアノブが、ガチャガチャと荒々しく回された。
「誰……?」
思わず身をすくめる。施錠されているはずのドアがゆっくりと開き、入ってきたのは見知らぬ若い男だった。男は手にした買い物袋をテーブルに置くと、わたしの方など見向きもせず、親しげに声をかけてきた。
「ただいま。外、急に晴れてきたよ」
男の言葉に、心臓が跳ね上がる。
……外が晴れてきた? わたしはさっき、窓の外が「雲一つない快晴」なのを確認したばかりだ。なのに、なぜ?
恐る恐る、もう一度窓の外へ視線を向けた。
青空だと思っていたものは、よく見ると青いペンキで塗られたただの壁だった。太陽だと思っていた光は、天井の隅から照射されている強い照明に過ぎない。
ここは、部屋ではない。部屋を模した「箱」の中だ。
「ねえ、聞いてる? 昨日のドラマの続き、見ようよ」
男が笑顔でこちらに振り向く。その瞳には、わたしの姿など映っていないようだった。男が見つめているのは、わたしが立つ位置の少し右側——そこには、部屋のセットを撮影するための大型カメラが設置されていた。
頭の中に、忘れていた記憶が濁流のように流れ込んでくる。
わたしは住人ではない。
一か月前、この密室型連続殺人事件のセットで命を落とした、最初の被害者だ。
「さて、今日の撮影も始めるか」
男がポケットから取り出したのは、血に染まったドライヤーのコードだった。わたしが手をつけていたコンセントの横には、今もあの日と同じ、わたしの遺体が横たわっている。
わたしは部屋を間違えたのではない。
死んだ自覚のないまま、自分の殺害現場を永遠にループ再現させられていただけだったのだ。
【了】
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
日常の些細な違和感から始まる恐怖を描いた短編ですが、いかがでしたでしょうか。ラストの展開にぞくっとしていただけたら嬉しいです。
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