プロローグ 始まりの終わり。
「あーー!ラスボス倒しちゃったよーっっ!!!」
画面にはエンディングが流れ始めた。しっとりとしたBGM。スタッフロール。
そして、ゲームをクリアしたとき特有の、どうしようもない喪失感。
その全てを一気に真正面から受け止めてしまった私・藤野 葵は、ソファに倒れ込み、頭を抱える。
「終わった...ほんとに終わっちゃった......明日から何を楽しみに生きていけばいいの......」
そんな私の心からの絶叫に反応したのか、二階からドタドタと足音が響き、近づいてきた。
「お姉ちゃんうるさい!!こっちは友達と通話してんのー!」
階段を降りてきたのは、妹の咲楽。
私とは真反対の青春の道を進む陽キャ女子である。
「 だって、このゲーム大好きだったもん...!
うっ、心臓が痛い。明日からのモチベが失われたからか…」
私が抱きしめるこのゲーム、【最期の青いバラ】。
このゲームの歴史年表を全部覚えているほど、何周したか分からないくらいやり込んだ作品。
キャラもストーリーも全部が最高。
選択肢ひとつで運命が変わる、私が心から愛してやまない神作品だ。
咲楽が呆れたようにため息をついた。
「ゲーム一本終わっただけで人生終わったみたいな顔しないでよ...
それにまた心臓痛いの?本当に大丈夫なんだよね??」
咲楽はそう言いながら、テーブルの上に置いてあった私の薬をちらりと見た。
母が亡くなってから、父は1日中働くようになった。家には基本私と咲楽しかいない。
身の回りのことはほとんど咲楽がやっている。
本来なら姉の私が支える側なのに、本当に姉として面目ない。
「大丈夫大丈夫!ちょっと精神病みかけてるだけだから。」
勉強も運動も得意で友達も多い。少し反抗期だけど面倒見がよくて、美人で、誰にでも優しい子。
きっとこういう子がゲームのヒロインとかになるんだろうな〜。
「———っていうか、さっきちらっと見えたけど、あの白髪の人がラスボスなの?」
私は勢いよく顔を上げた。
「え!?見たの?」
「ちょっとだけ。だけど、思ってたラスボスと違うんだね?てっきり、ドラゴンとか怖い魔王みたいな人だと思ってたけど、全然———」
「それ、ネタバレだから忘れて!!今すぐ記憶から消して!」
「無茶言わないでよ!」
咲楽が笑う。私もつられて笑った。
それは、本当にいつも通りの夜だった。
だから、この後に起こることなんて、少しも想像していなかった。
◇◇◇
その日の深夜。
私は息苦しさで目を覚ました。
「⋯っ」
胸の奥が痛い。
まるで、何かに押し潰されているかのような感覚。
呼吸が浅くなる。身体が思うように動かない。視界が少しずつ霞んでいく。
「...さくら......」
助けを呼ぼうとした声は、情けないほどに小さかった。
起き上がる気力も残っていない。
このときになって、ようやく私は悟った。
———まずい。
昔から抱えていた病気。
気をつけなければならないと何度も言われていたのに。
頭の中を様々な記憶が、思いが駆け巡る。
——いやだ、怖い、まだ死にたくない。
もっとやりたいことがあった。
恋だってしてみたかったし、友達と馬鹿みたいに笑い合ったりもしたかった。
咲楽にだって、もっと姉らしいことをしてあげたかった。
後悔なんて、探せばいくらでも出てくる。
だけど———
(ラスボス倒した日に死ぬとか...そんなことある......?)
最後の最後に浮かんだ感想が、それだった。
よりによって今日?
人生のエンディングを迎えるタイミングまでゲームみたいじゃん。
思わず笑いたくなった。
笑う余裕なんてなかったけれど。
(あぁ......もし、もう一度だけ...)
そこで意識が途切れた。
世界が暗闇に沈む。
音も、光も、何もかもが遠ざかっていく。
そして私は——
死んだ。
......はずだった。




