反生成AIはキモヲタ
田中太郎、32歳。部屋はカビ臭いゴミ屋敷と化していた。壁一面に貼られた反生成AIのポスター。手書きの落書きがそこら中に散らばっている。「AIなんか使う奴は全部人間の敵だ! クリエイターの血を吸う寄生虫! 俺は本物の魂で描く!」太郎は毎日そう叫びながら、ノートパソコンで下手くそな線画を延々と描いていた。生成AIの画像を一枚見るだけで吐き気がすると言い、ネットの掲示板では「AI反対運動」の急先鋒を自称していた。しかし彼の画力は小学生レベルで、プロの仕事など一度も取れたことがない。親からの仕送りと、たまにやる内職のデータ入力で細々と生きていた。その日も父親の帰宅が遅いことをいいことに、太郎はリビングで大声を上げていた。「AI使ってる奴ら全員死ね! 俺たち本物人間が時代を正すんだ!」ガチャリ。玄関の鍵が開く音がした。父親の田中一郎、55歳。建設現場で30年近く働いてきた筋骨隆々の男だった。顔は日焼けで真っ黒、腕は丸太のように太い。一郎は泥だらけの作業靴のままリビングに入り、息子の叫び声を聞いた途端、眉間に深いしわを刻んだ。「……またその話か」「父さんこそわかってないんだよ! AIが全部奪うんだ! 俺は抵抗してるんだ! 本物の芸術を——」「黙れ」一郎の声は低く、重かった。太郎はまだ興奮していた。「そんな事言ってないで、俺の活動を理解してくれよ! 寄付してくれてもいいんだぞ! 反AIデモの資金が——」一郎はゆっくりと近づき、太郎の胸倉を掴んだ。身長差と体重差は圧倒的だった。「そんな事言ってないで、働け」太郎が何か言い返そうとした瞬間、父親の拳が顔面に炸裂した。ゴンッ。鼻の骨が折れる音がした。血が噴き出す。「うわっ……!? 父さん、何——」二撃目。三撃目。腹、頬、頭。容赦のない重い拳が、次々と太郎の身体にめり込んだ。「働けと言ってるんだよ、このクズが!」一郎の声は感情を失っていた。ただ機械的に、現場で使ってきた力で殴り続けた。太郎は床に崩れ落ち、這いずりながら逃げようとした。口から血と歯がこぼれる。「やめ……働……くから……」「遅い」一郎は太郎の頭を掴み、床に何度も叩きつけた。ドン、ドン、ドン。頭蓋骨が割れる音が響いた。太郎の目は虚ろになり、手足の痙攣が止まらなくなった。最後に一郎は息子の首を両手で締め上げ、ゆっくりと力を込めた。「俺は毎日汗水垂らして働いて、お前をここまで育てた。お前は何をした? ただ文句を言って、部屋に引きこもって、俺の金を食いつぶしただけだ」太郎の瞳から光が消えていく。「AIがどうとか、そんなもん関係ねえ。お前が働かないのが全てだ」カクン。太郎の首が不自然な角度で曲がった。一郎は立ち上がり、血まみれの手を作業着で拭った。息子を一瞥し、ため息をついた。「……これで少しは楽になるか」翌朝、一郎は警察に電話した。「息子が自殺しました。部屋に反AIとかいう訳のわからない紙が山ほどあって、精神的に病んでいたようです」警察は特に深く追及しなかった。太郎の部屋の惨状と、過去の引きこもり歴を見れば、誰も疑わなかった。一郎は静かに煙草に火をつけ、窓の外を見た。「働け、って言っただけだ」




