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『バックオーライ ケッカオーライ』10秒だけ時間を戻せる新米刑事。倫理観ゆるめでサーセンね。  作者: 団田図


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第20話 ギンギラの銀 ⑥

 杵塚きねづか先輩が、死んだ?


 俺の思考が真っ白に染まるよりも早く、俺の本能が、脊髄反射で動いていた。

 俺は素早く、強く、三回マバタキをした。


 パチパチパチ バック!


 グニャリと世界が歪む。

 噴き出した血が先輩の頭に戻り、倒れた体が起き上がり、硝煙が銃口へと吸い込まれる。

 逆再生の世界。

 意識が再構築される。


「ほらね。僕、強運なんですよ~」


 杵塚先輩の声が聞こえた。

 俺は息を呑んだ。

 戻ってきた。

 時間は、杵塚先輩が『2ショット目』を終え、引き金を引いて「カチッ」と鳴らせた直後のタイミングだ。

 片桐が銃を手に取ろうとしているところだ。


 俺は混乱する頭を整理するために、もう一度バックした。この数秒の猶予を、無限に引き延ばして考えるために。


 パチパチパチ バック!


 視界が歪む。

「ほらね。僕、強運なんですよ~」


 まず第一に。

 銃はおもちゃではなく、本物だった。

 それもそうだ。ここは闇カジノの最奥、犯罪組織のアジトだ。おもちゃの銃なんて置いてあるはずがない。

 あの片桐の狂気は本物だったのだ。

 刑事の先輩からあんなにドヤ顔で「おもちゃだ」「ハッタリだ」と言われたら信じてしまうだろう普通! あの人の観察眼、節穴か!?

 いや、おもちゃに見えるほど精巧な実銃だったのか、あるいは先輩が単純に老眼で見間違えたのか。

 どちらにせよ、事実は一つ。

 『4ショット目で、弾が出る』。


 パチパチパチ バック!


「ほらね。僕、強運なんですよ~」


 そもそも、バカラで勝たせすぎたのが良くなかったのかもしれない。

 俺が能力を使って連戦連勝させたせいで、先輩は「今日は俺は無敵だ」「本当に神が憑いている」と勘違いしてしまったのだ。

 その過剰な自信が、正常な危機管理能力を麻痺させ、あの銃をおもちゃだと思い込ませるバイアスをかけた可能性がある。

 くそっ、俺のせいかよ。

 あー、今目の前で「強運なんですよ~」とドヤ顔をしている先輩が、だんだんイラついてきた。お前のその強運、全部俺のインチキだからな!


 パチパチパチ バック!


「ほらね。僕、強運なんですよ~」


 冷静になれ。

 今の状況は最悪だ。

 もしこのまま進めば、片桐が3ショット目を撃つ(不発)。そして4ショット目で先輩が撃つ(発射)。

 判断ミスで自らの頭を銃で撃ちぬいた杵塚先輩。自殺ともとれるし、事故ともとれる。

 果たしてこれは職務中の「名誉ある殉職」と言えるのだろうか?

 いや、言えない。「捜査中にロシアンルーレットで遊んで死亡」なんて報告書、恥ずかしくて書けない。

 今回は「半殉職」ってことで1階級特進くらいにしておきましょうか。

 奥様、それから息子の正義君、ごめんよ。今回パパは半殉職だったため、退職金が少し減ってしまったようだ。次回からは真っ当に殉職できるよう、俺がもっと上手く立ち回るから……。


 ……ダメだ。

 そんな現実逃避をしている場合ではない。

 先輩を死なせるわけにはいかない。

 この閉鎖空間で、武器を持った狂人を相手に、どうやってこの危機を回避する?

 俺たちが警察だと名乗り出るか? いや、即座に蜂の巣にされるだろう。

 銃を奪うか? 周りには三人の男と、控えの黒服たちがいる。多勢に無勢だ。


 パチパチパチ バック!


「ほらね。僕、強運なんですよ~」


 俺は思考を加速させる。

 今は2ショット目が終わったところ。

 次、片桐が3ショット目を撃つ。それは「空砲ハズレ」だと分かっている。

 その次、4ショット目が杵塚先輩の番。これが「実弾アタリ」。

 つまり、弾はシリンダーの「4番目」に入っているということだ。


 どうする? どうする? どうする?

 先輩に「実弾が入ってます!」と伝えるか?

 いや、小声で伝えたとしても、片桐の前で「次は撃てません」と言えば、運勝負から降りたことになり、殺されるかもしれない。

 かといって、このまま撃たせれば確実に死ぬ。


 待てよ。

 俺の能力は「10秒戻る」だけじゃない。

 俺が戻った後、俺が違う行動をとれば、未来バタフライエフェクトが変わる可能性がある。

 しかし、ロシアンルーレットの結果は物理的な弾の位置で決まっている。俺が何を叫ぼうが、シリンダー内の弾の位置は変わらない。

 ……本当にそうか?

 物理的に干渉できれば、あるいは?


 そうだ!!

 いいことを思いついた。

 これできっと切り抜けられるはずだ。

 少しリスキーだが、杵塚先輩の脳みそが床にぶちまけられるよりはマシだ。

 俺は覚悟を決めた。


 パチパチパチ バック!


 視界が歪み、世界が再構築される。

 俺の意識は、杵塚先輩が2ショット目を終え、勝ち誇った顔で「ほらね。僕、強運なんですよ~」と間抜けなセリフを吐いた直後に戻っていた。

 目の前では、何も知らない片桐が、次の順番のために銃に手を伸ばそうとしている。


 これを回避するために考えた秘策、それは順番をズラすことだ。俺が割り込むのだ。

 俺が3ショット目を引き受ければ、4ショット目の実弾は片桐に回る。

 片桐は悪党だ。先輩を殺そうとした張本人だ。彼女がどうなろうと知ったことではない。……いや、警察官としてその思考はマズいかもしれないが、先輩の命には代えられない。


 俺は覚悟を決め、片桐が銃のグリップに触れる寸前、大声を張り上げた。


「(待ってろよ先輩。その強運、俺が本物にしてやるからな)」


 俺は一歩踏み出し、テーブルをバンと叩いた。

「この勝負、俺も参加していいっすか?」


 その場の空気が凍り付いた。

 片桐の手が止まる。杵塚先輩が目を丸くして俺を見る。

「はぁ? 何言ってんだテメェ。部外者は引っ込んでな」

 片桐が不機嫌そうに睨みつけてくる。だが、俺は怯まない。ここで引けば先輩が死ぬ。

「部外者じゃないっすよ。俺たちはバディーだ。先輩の運命は俺の運命だ。それに、人数が増えた方が盛り上がるでしょう? アンタ、ヒリつく勝負が好きなんだろ?」

 俺は挑発的に笑ってみせた。

 無駄に暴れて取り押さえられるわけにはいかない。この場のルールに乗っ取って、合法的に(?)先輩を救うしかないのだ。

 俺の提案に、片桐の瞳に狂気の光が宿った。

「……ぎゃはは! 面白いじゃないか。アタイは歓迎するよ。命を削った戦いを共に楽しもうじゃないかぁ!」

 削るのはスクラッチくじの銀膜だけで十分だっつーの。こんなヤバい奴からは一刻も早く逃げ出さなければ。


 そして、相変わらずこの銃をモデルガンだと信じ切っている能天気な杵塚先輩も、ニカっと笑って俺の肩を叩いた。

「僕もかまわないよ。僕と一緒にいたケンちゃんもきっとイイ運気がきているだろうけど、僕にはかなうまい。へへんっ」

 ……これ以上返す言葉はない。あんたのその余裕が、数分後に自分の頭を吹き飛ばすことになるんだぞと言ってやりたいが、ぐっと飲み込む。


 これで順番は変わった。

 1片桐(済)→2杵塚(済)→3俺(今ここ)→4片桐(実弾)→5杵塚。

 俺が3発目を空撃ちすれば、死神の鎌は片桐へと渡される。


 俺はテーブルの上のリボルバーを手に取った。

 警察で扱っている銃よりは軽い気がする。

 しかし、本物の鉄の塊だ。オイルの匂いが鼻をつく。

 俺は震える指で撃鉄ハンマーを起こした。チッ、という硬質な音が、心臓を直接叩くように響く。

 銃口を、こめかみに向ける。

 冷たい。

 分かっている。理屈の上では、ここは「空」だ。さっきの未来で確認済みだ。

 だが、本物の銃を自分の頭に向けて引き金を引くという行為が、これほどまでに恐ろしいとは。

 生物としての本能が警鐘を鳴らしている。指がすくむ。

 (……ダメだ。できねぇ)

 恐怖心を押し殺そうとしたが、冷や汗が止まらない。

 一度、試し打ちしておこう。

 俺は自然な動作を装い、「気合を入れるため」と称して銃口を天井に向けた。

「景気づけに一発!」


 カチッ!


 空撃ちの音が響く。

 セーフ。

 よし、大丈夫だ。弾は出ない。

 確認した瞬間、俺は素早く瞬きをした。


 パチパチパチ バック!


 視界が歪む。

 時間が巻き戻る。

 俺が銃を手に取り、先輩が「僕にはかなうまい。へへんっ」と言い終わった直後へ。


 戻ってきた。

 銃はまだテーブルの上にある。

 今日の先輩は、俺がイライラすることばかり言いやがる。だが、それもあと少しの辛抱だ。

 俺は迷わず銃を手に取った。

 恐怖心はまだある。だが、さっきの「天井撃ち」で安全は確認した。

 3ショット目。

 俺は撃鉄を起こし、銃口を自身のこめかみに当てた。

 深く息を吸い込む。カジノのタバコの匂いと、片桐の香水の匂い。

 (死ぬなよ、俺)

 俺は目を閉じ、一気に引き金を引いた。


 カチッ!


 ハンマーが落ちる音だけが響いた。

 セーフ。

 生きてる。

 分かってはいたが、心臓が口から飛び出しそうだ。もう二度とやりたくない。

 俺は大きく息を吐き出し、銃をテーブルに戻した。

 そして、次に引き金を引く順番の片桐を見た。

 これで4ショット目。実弾が入っている(はずの)ターンだ。

 片桐がニヤニヤしながら銃を手に取る。

「ひゃはははは。お前もなかなかやるじゃねぇか。いいぜ、いいぜ。楽しいぜ!」

 こいつは次に弾が発射されることを知らない。

 こいつは悪党だ。闇カジノで多くの人から金を巻き上げ、それを裏社会に流し、暴力団の資金源にしている。

 それに、さっきの未来では先輩を殺した。いや、殺そうとした。

 今からこいつは自身の頭に弾を打ち込んで死ぬ。

 自業自得だ。ロシアンルーレットなんて狂ったゲームを提案した報いだ。

 こいつが死んだ後、仲間がパニックになっている隙に、先輩を連れてここから走って逃げればいい。

 そうだ、こいつは悪い人間だ。死んでもいい人間だ……。


 4ショット目。

 片桐は恍惚とした表情で撃鉄を起こし、銃口をこめかみに押し当てた。

 呼吸が荒くなっている。

 その指が、トリガーにかかる。


 (……ダメだ!)

 俺の中で、何かが叫んだ。

 死んでいい人間なんていない。俺は警察官だ。法を守る立場の人間が、目の前の自殺行為を黙認していいのか? それは殺人と同じじゃないか?

 俺は間違っていた。命を選別する権利なんて俺にはない。

 もう一度能力を使って、片桐を死なせずにここから逃げる方法を考え直そう。

 俺がそう思い直し、バックの準備をしようとした、その時だった。


 カチッ!


 え?

 乾いた音が響いた。

 セーフ、だと……!?

 片桐の頭は吹き飛んでいない。彼女は生きていた。

 それどころか、またしてもこの外れた音に酔いしれ、目がとろけている。

「くぅぅ~……最高の勝負じゃないの。残り2発。さぁ、もういつ発射されてもおかしくないねぇ。逃げるなんて言わないでよ。うひゃひゃ」


 あ、ありえない。

 俺の記憶が確かなら、4ショット目で確実に弾が発射されるはずだった。

 さっきの未来では、杵塚先輩が4番目で死んだんだぞ?

 なぜ発射されない?

 まさか……ジャム(弾詰まり)ったのか?

 可能性はゼロではない。撃鉄を起こした時の僅かなズレや力加減によって、機構の何かが狂ったのかもしれない。

 もしくは、俺が参加したことによって時間が経過し、弾が古かったため、ちょうどここで発火性能に寿命が来て不発となった可能性もある。いわゆる不発弾だ。

 だとすれば、このまま行けば6発全てハズレとなり、全員が強運だったと証明されてゲームは終わる。

 そうか、そういうことか。

 なら、それを待てばいい。


 片桐が銃をテーブルに置いた。

 次は5ショット目。杵塚先輩の番だ。

 いまだにこの状況を「おもちゃの銃での遊び」だと思い込んでいる先輩は、余裕の笑みで銃に手を伸ばした。

「やれやれ。強運の僕はきっと当たらないから、最後のケンちゃんが大当たりですね。ざーんねーん。あはは~」

 なぜか味方であるはずの俺に向けて挑発してくる杵塚先輩。

 だから、その銃はおもちゃじゃねぇんだってば! くそっ、本当に腹立つなこの人!

 先輩の言葉を聞いた片桐は、瞳孔を限界まで開き、興奮で身を乗り出した。

「いいねいいねぇ。大した自信だ。さぁこっちをよく見て。最後の瞬間をこのアタイによく見せておくれぇー!」


 5ショット目。

 杵塚先輩ははにかんだ笑顔を見せながら銃を構えた。

 撃鉄を起こす。

 銃口を自身の頭に向ける。

 ためらいはない。

 まさか、な。さっきの実弾(4発目)が不発だったんだ。もう弾は出ないはず……。


 パーーーンッ!!


 !?


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