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『バックオーライ ケッカオーライ』10秒だけ時間を戻せる新米刑事。倫理観ゆるめでサーセンね。  作者: 団田図


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第13話 グリーンゲマー降臨 ④

 俺も遅れじとその背中を追い、二人で慎重に歩を進めた。

 広大な倉庫内はコンテナが乱雑に積み上げられ、死角だらけだ。どこから何が飛んできてもおかしくない。

 その時だった。

 先を行く杵塚先輩の足が、床に張られたピアノ線のような極細のコードを引っかけた。


 シュッ!


 空気を切り裂く鋭い発射音。

 刹那、目の前の杵塚きねづか先輩がどうっと仰向けに倒れ込んだ。

「せ、先輩!?」

 駆け寄って覗き込む。

 先輩の左胸――心臓の真上には、短く太いクロスボウの矢が深々と突き刺さっていた。口から鮮血が泡となって溢れ出し、瞳孔が急速に開いていく。

 即死だ。

 嘘だろ……。

 俺は一瞬呆然としたが、すぐに思考を切り替えた。感傷に浸っている暇はない。俺にはアレがある。

 俺は素早く、強く、三回マバタキをした。


 パチパチパチ バック!


 強烈なめまいと共に、世界がビデオテープの巻き戻し映像のように歪む。

 倒れた先輩が起き上がり、飛び散った血痕が収束し、矢が闇の中へ吸い込まれる。

 意識が再構築されると、俺は倉庫へ入る直前、鉄扉の前に立っていた。

 隣には、生きている杵塚先輩が銃を構えている。


 俺は冷や汗をぬぐった。

 油断した。相手は「音無き死神」と呼ばれる元傭兵のスナイパーだ。正面から撃ち合ってくれるとは限らない。罠の一つや二つ、予期しておくべきだった。

 だが、予知なんてできない。……いや、違うな。俺には「未来を見てからやり直す」という、予知以上のインチキができるんだった。

 俺は覚悟を決めた。

 この先、どんな罠が待っているかわからない。その全てを俺が解除するのは不可能だ。

 ならば方法は一つ。

 杵塚先輩に先行してもらい、死んだら即座に時間を戻し、回避方法をアドバイスして進ませる。

 つまり、杵塚先輩を「俺の操作キャラ」に見立てた、リアル死にゲーの攻略だ。

 先輩には悪いが、何百回死んでもらうことになるかもしれない。


 何も知らない杵塚先輩の目つきが変わり、再び足を踏み出した。

「行くぞ!」

 扉が開き、薄暗い倉庫へ踏み込む。

 さっきの未来で先輩が死んだ地点の手前で、俺は声をかけた。

「先輩。ストップです。足元、ケーブルが張られています」

 杵塚先輩が足を止め、懐中電灯で床を照らす。

 キラリと光るピアノ線。

「おおっ……! よく見つけてくれた兎木緒ときお君。危ないところだった」

 先輩は額の汗を拭い、感心したように俺を見た。

「おそらく警報装置か自動攻撃のトラップだろう。いい観察力だ。これを避けて先へ行こう」

 先輩が慎重に罠を跨ぐ。

 第一関門突破。だが、これは地獄の入り口に過ぎなかった。

 俺は先輩から付かず離れずの距離を保ち、背後を警戒しながらついていく。


 ドンッ!


 倉庫の奥、コンテナの影から乾いた銃声が響いた。

 次の瞬間、またしても杵塚先輩がその場に崩れ落ちた。

 今度は額を撃ち抜かれている。ヘッドショット。即死。


 パチパチパチ バック!


「行くぞ!」

 本日三度目の突入。

 どうやら俺たちが侵入したことは、すでに犯人に知られているようだ。

 しかも、かなり離れた位置からの正確無比な狙撃。暗闇の中、動く標的の眉間を一発で捉える腕前は、まさに「死神」の名にふさわしい。

 まともにやり合えば全滅だ。だが、弾道とタイミングさえ分かっていれば対処できる。

 俺は罠を回避させた後、狙撃ポイントの手前で口を開いた。

「あ、杵塚先輩、靴の紐がほどけてますよ!」

 俺の声に、先輩は足を止めた。

「ん? そうかい?」

 薄暗い倉庫の中で、先輩がその場にしゃがみ込み、足元を確認しようと頭を下げた。

 その瞬間。


 ヒュンッ! バチュッ!


 先輩の頭があった空間を、銃弾が切り裂き、背後のコンテナに突き刺さった。

 先輩はきょとんとして顔を上げた。

「え? ほどけてないよ、兎木緒君。見間違いじゃないか?」

 自分の命がコンマ一秒の差で救われたことなど知る由もない先輩は、不思議そうな顔をしている。

「あれー? おかしいな。すみません、俺の勘違いでした」

「やれやれ、緊張しているのかい? リラックスだよ」

 苦笑する先輩。その背後で、俺は冷や汗を流しながらガッツポーズをした。

 よし、回避成功。

 だが、試練は続く。


 ドンッ! スナイプショットで先輩の左肩が弾け飛ぶ。

 パチパチパチ バック!

「先輩、左に蜘蛛がいます! 右に寄って!」


 ドォォン! 頭上からの鉄球落下罠。頭蓋骨陥没死。

 パチパチパチ バック!

「先輩、置いていかないでくださいっす」後ろから服を引っ張る。


 シュッ! 下からの細鉄柱突き上げ罠。串刺し死。

 パチパチパチ バック!

「先輩、足元に毒蛇!」


 死んで、戻って、死んで、戻って。

 何十回、何百回と繰り返される「死」のループ。

 俺の目は乾燥しきって悲鳴を上げ、脳は焼き切れそうなほど疲弊していた。

 だが、不思議と苦痛ではなかった。

 昨夜のゲーム配信と同じだ。理不尽な難易度を、試行錯誤と根性とインチキでねじ伏せていく感覚。

 そして何より、俺の指示一つで、凡人の杵塚先輩がまるで超一流の特殊部隊員のような動きで死地を切り抜けていく様が、痛快ですらあった。


 そして、ついにその時は来た。

 最奥の部屋の前。

 ここまでの道中で、犯人は持てる弾薬と罠の全てを使い果たしたはずだ。俺たちがそれを全部「消費」させてきたのだから。

 杵塚先輩は、あれだけの銃声や爆発音の中、なぜ自分たちが無傷でここまで来られたのか不思議そうにしていた。

「すごいな……。敵の攻撃がまるで当たらない。兎木緒君、君はもしかして、弾道が見えているのか?」

「まさか。先輩の悪運が強すぎるだけですよ」

 俺は乾いた笑いで誤魔化した。

 先輩は真剣な表情で頷き、最後の扉の前に立った。

「兎木緒君、これからこの部屋へ突入する。中には弘樹ちゃんと犯人がいるはずだ。君はバックアップを頼む」

「了解!」

 俺は扉の横に身を隠し、突入の合図を待った。

 先輩が大きく息を吸い込み、ドアを蹴破った。

「警察だ! おとなしくしろ!」

 二人が雪崩れ込む。

 俺も銃を構えて続いた。


 部屋の中には、パイプ椅子に縛られ、ガムテープを貼られた弘樹ちゃんが怯えていた。

 そしてその奥には、両手を上げ、床に膝をついている男の姿があった。

 新世界シューター・ネオ。またの名を「音無き死神」。

 その顔は、恐怖と困惑に歪んでいた。

「こ、降参だ……撃たないでくれ」

 男の足元には、空になった弾倉と、壊れたクロスボウが転がっている。

「弾が尽きた……。信じられん。俺の完璧な狙撃を、全部かわして近づいてくるなんて……」

 犯人は震える声で、目の前に立つ杵塚先輩を見上げた。

「あんた、一体何者だ? 未来予知でもできるのか? 凄腕スナイパーとして世界を渡り歩いたこの俺様が屈するとは……あんた、スゲー奴だ」

 犯人は乾いた笑いを漏らした。

「もしここが戦場だったら、あんたは伝説のヒーローだ。俺様からの惜しみない賞賛を、光栄に思うがいい」

 最高の褒め言葉だった。

 だが、言われた当の本人は、きょとんとしている。

 杵塚先輩は犯人に手錠をかけながら、首をかしげた。

「何が凄腕スナイパーだ。さっきから銃声ばかり大きくて、僕には一発もかすりさえしなかったじゃないか。君の腕が悪いのか、それとも威嚇射撃のつもりだったのか?」

 先輩の世界線では、弾はすべて「偶然」外れたり、先輩が「たまたま」しゃがんだ頭上を通り過ぎたりしただけなのだ。

 先輩は弘樹ちゃんの縄をほどき、泣きじゃくる小さな体を両腕で抱き上げた。

「罪のない子供をさらうような卑怯者に、戦場の英雄を語る資格はないよ。君からの賞賛など、何の価値も無い」

 バッサリと切り捨てる先輩。

 犯人は呆気にとられ、そして俺の方を見た。

 俺はニヤリと笑って肩をすくめた。

 悪いな。うちの先輩、天然なんだよ。


 こうして、俺たちは無事に犯人を制圧し、弘樹ちゃんを救出した。

 無線で本部へ確保の報告を入れる。

「こちら杵塚! 犯人確保! 弘樹ちゃんも無事です!」

『なっ……!? 本当か!?』

 無線の向こうで、本部の驚愕する声が聞こえる。

 俺たちは出口へと向かった。

 長い戦いだった。俺の体感時間では数時間にも及ぶ死闘だったが、現実時間では突入からわずか数分だ。

 倉庫の出口が見えてきた。

 外からは、遅れて到着したパトカーのサイレン音が近づいてくる。

 これで一件落着……。

 そう思った矢先だった。


 入り口の鉄扉が乱暴に開かれ、スーツ姿の男が入ってきた。

 臼伊賀うすいが管理官だ。

 彼は廃工場へ向かっていたはずだが、俺たちの報告を聞いてUターンしてきたらしい。

 息を切らし、髪を振り乱して駆け寄ってきた。

「お、お前たち!」

 臼伊賀は、弘樹ちゃんを抱く杵塚先輩を見て、悔しそうに顔を歪めた後、すぐに尊大な態度を取り繕った。

「全く、勝手な行動をしおって! お前たちがもっと早くタクシーの映像を見つけていたら、こんな混乱はなかったはずだぞ!」

 開口一番、説教かよ。どこまでも自分勝手な野郎だ。

 臼伊賀はズカズカと先輩に歩み寄った。

「まぁいい。とにかく解決だ。……おい、早くその子供を私に渡しなさい。県知事へは私からお返しする。それが一番、絵になるからな」

 手柄の横取り。予想通りだ。

 杵塚先輩はムッとした表情を見せたが、相手は上司だ。逆らうわけにはいかない。

「……わかりました」

 先輩が弘樹ちゃんを渡そうとする。

 臼伊賀管理官が、汚い欲望にまみれた手を伸ばしながら近づいてくる。

「ほら早く! こっちへ寄越せ!」

 その時だった。

 臼伊賀の革靴が、入り口付近に残っていた罠――俺たちが一番最初に回避した、あのピアノ線――を引っかけた。


 シュッ!


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