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魔女の憂い  作者: 綾瀬 律


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5/5

5.出会い

 サーラヤからマイヤーまでは3日。

 その日、途中の宿場町の広場でいつものように店を広げた。地面に布を引いて、そこに薬と魔法書を置く。

 魔法書はあるだけで目を引くから。


 片膝を立てて物憂げに行く人を見ていた。ここでは宣伝がメインで、そこまで売れるわけではないから。

 私を見てハッとした顔をして頬を染める人が多い。売ってる品物よりも私の顔を見る人が圧倒的だ。


 つまらないな…と思いつつ、道行く人を眺めるのは嫌いじゃない。手持ち無沙汰でゆったりを眺めていると

「きれい…」

 足を止めた二人組、いや三人組か?がいた。


 私はびっくりした。

 何故なら、私を見ていなかったから。そして前の2人、少女と青年が魔法書を見ている。

 ひそひそと話をしているが、多分本かな?とかだろう。


 足を止めて見ていた2人を見上げる。シャナリと衣ずれの音がした。

 私の顔を見て2人して固まっている。


 私の服装は長く腰で別の布で締められていて、頭から布を被っている。

 黒髪が肩から滑り落ちて、腕に嵌った腕輪がシャナリと音を立てた。

 足元はサンダルで足首にはアンクレット。


 フードの奥の少女と目が合うとふにゃりと笑った。普段はあまり笑わないんだけど、なんだかふわっと気持ちが暖かくなった。


 固まっている2人に

「それ、気に入ってくれた?」

 と声を掛けた。私の声は魔女らしく周りのざわめきの中でもハッキリと聞こえたようだ。

 こくこくと頷く。


 ぎゅっと手を強く握られた青年が我に返った。頬が赤い。鋭い目をした涼しげな顔立ちの若者だった。

「それは、本…なのか?」

 私は目線を下に向けてその本を手に取る。


「これは魔法書さ」

 不思議そうな顔をしているので顔を上げて2人を見て

「魔法の使い方の指南書、だね」

 なおも考えつつ背後を振り返った。


「見てもいいか?」

 後ろにいた儚げなイケメンが聞いてきた、

「もちろん」

 笑って魔法書を差し出す。腕輪がシャナリと音を立てた。


 イケメンは本を捲る。両側から2人が覗き込んで

「!」

「!」

 少女は青年の手を強く握る。

 ?なんだ、雰囲気が変わった。イケメンを凝視する2人。繋いでない方の手をぎゅっと握っている。


「いくらだ?」

「100万ガロン…」

 値段を聞くと肩を落とした。やはり高いのだろうな。

 しょんぼりして私に魔法書を返した。でもなんだろう、普通の人ならもっと違う反応だ。


「私はこれからマイヤーに行って、またサーラヤに戻る。シェリル商会のシェリルって聞けば店の場所は分かるはずだよ」

 なんで分かったのって顔だ。やっぱり、買うことを諦めたわけじゃなさそうだ。それは魔女の勘。


「ふふっ、腹芸を覚えな。わかりやす過ぎる。でも嫌いじゃないよ、君のことは」

 フード被ってて顔はほとんど見えなくて頭に鳥を乗せてても、そして…

「そうだね、フードに隠れてうさぎやスライムがいても…ね」

 色々と見えるよ。魔力がね、その子たちは隠す気がない。


「名前、聞かせて…?」

 少女を見て言えば

「グスタフだ」

 代わりに背後のイケメンが答えた。私は肩をすくめる。聞きたかったのは君の名前じゃないんだけどな。保護者なのか?


 店の前を去る時に少女は振り返って手を振ってくれた。笑って手を振りかえした。可愛い。

 小さくて細い手だった。


 なんだろう、あの子がとても気になる。私はトキメキにも似た感情に戸惑っていた。




 翌朝、いつも通り早く目が覚めた。日課の散歩に出る。この宿場町は少し歩くと川がある。

 そこは人があまりいなくて散歩にはいいのだ。


 ん?誰かいる…



 鳥が水浴びしてる。優雅に泳いで潜って…魚を捕まえた。

 あの後ろ姿は昨日の少女?昨日は見なかった男性と手を繋いでその光景を見ていた。

 会話をしているようだ。


 しばらく静かに川を眺めていると思ったら突然、靴を脱いでズボンの裾を捲って川に入った。

 流れる水、はしゃぐ鳥たち。明るい日差しに少女は被っていたフードを外した。空気を吸い込むように腕を広げて上を見た。


 陽に照らされたその髪の毛は銀色。キラキラと輝いている。

「きれい…」

 思わず呟くと少女は振り返った。

 年齢は10才くらいだろうか。儚げな顔に銀色の髪、そして銀色の目。

 虹彩が透けるほど澄んだ大きなその目に一瞬で目を奪われた。なんてきれいなんだろう。


 まだ警戒はされてるみたいだけど、私のことには気がついていたはず。ならば、期待していいかな。


 私は少女の近くに行くとその手を取って、跪く。そして手の甲に唇を寄せた。

「なんて美しい、私の女神…」

 口をついて出た言葉に自分で驚いた。そして納得した。

 私は少女を見上げる。複雑な表情だ。戸惑ってるよね…それは私もだよ。こんな気持ち初めてだ。


 シャナリを音をさせて手首の腕輪を一つ、少女の手首に嵌めた。唇にしーっというように指を当てるとあら不思議、ぴったりになった。

 少女は溢れそうな目を開いて腕輪を凝視した。


 それは私の…ね。

「君を守護する腕輪、だよ」

「ありがとう…」

 不思議な声は私の気持ちをぎゅっと掴んだ。耳に心地良い落ち着いた声だ。


「名前は?」

「シエル」

「シエル…私はシェリル」

 知ってるよって顔だね。違うんだよ。

 じっと見つめる。困惑したように私を見つめて

「?シェリルさん?」

「シェリル」

 違うよ、呼び捨てにして欲しいんだ。


「…シェリル」

 腕輪が光った。

 唇が、自然と弧を描いて…その腕輪にキスを落とす。そう、それで完成だ。

 私は立ち上がりながらシエルの耳元で

「捕まえた…よ」

 囁いた。


 シエルの頬を撫でると服の裾を翻してその場を去った。胸がドキドキする。

 私を見送る目線を感じた。

 シャナリ

 と気持ちの良い音を残して、私はゆったりと歩いて宿に帰った。


 こうして朝の散歩は終わった。

 私に新しい出会いと楽しみの予感を残して…

 シエル、また会おう。




シエルたちが出会った時の…一場面です

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