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魔女の憂い  作者: 綾瀬 律


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4.修行その2

「いい魔女とは何だと思う?シェリル」

 魔女にいいとか悪いとかあるの?

「…分からない」


 お母さん、いや師匠は真剣な顔で

「いい魔女は普通の魔女さ。悪い魔女は…力を悪いことに使う」

 悪いこと?


 魔女の仕事は概ね人の願いを叶えること。どうしたら悪くなるんだろう?

「人の願いを叶えるのが悪いこと?」

 お母さんは首を振る。

「違うな。悪い人の願いを叶えるのが悪いのことだ」


 ん…難しい。同じだよね?


「悪い人は、例えばシェリルを攫った男とか」

 あっ…

「アイツの願いは可愛いシェリルを攫うことだ。この願いを叶えるとはいいことか?」

 ぶんぶん首を振る。

「それは悪いこと!」


「そうだ。だからいい魔女は普通でなければならない。相手の願いを見極めなければならないんだ。努力してなんとかなるような願いは違う。努力しても得られないものを補うのはいい。でも怠けてる人間が楽をするような仕事は悪い仕事だ。私たちは依頼人を見極める目が必要なんだ」


 むっ、難しいけど分かる気がする。

 病気は努力で治せない。ケガも同じ。でも例えば頭が良くなるように出来たとして、それをなんの努力もしない人がそうなったら…それはダメだ。


 私だって頑張って修行している。努力しないで魔女になったら、きっと依頼人を見極めることは出来ない。

 正しくあること、力のある魔女だからこそ必要なんだと思った。


 だから私は普通の魔女になる為に、頑張った。やがて15才で魔女になると

「シェリル、子供を作りなさい。魔女はその血を残すのも勤め。パオ族に性格はアレだけど魔力が多い女がいる。相手はもう決めたから。子供が1人でもいいから出来たら、好きにしていい」


 で、会った女はスタイルは良かったけどキツイ顔立ちで正直言ってあまり好きになれそうになかった。

 性格も見るからに悪そうだし、態度デカいし。

 でもまぁ決まったし、仕方ない。これも魔女の努めだしな。


「ラサムですわ!こんなキレイな方と結婚出来るなんて嬉しいわ…ふふっよろしくお願いするわ」

「…お前の役割は子供を産むことだけだ。私に馴れ馴れしくするな」


 キツイ言い方だが、私はこの顔を気に入った女が嫌いだ。明らかに顔だけを見ている。

 私の中身はどうでも良さそうだ。

「ふふっ光栄ですわ!シェリル様の伴侶に選ばれて」

 外で吹聴しているのを聞いてますます嫌になった。


 婚約は3ヶ月、この間に夜を共に過ごし…まぁ有り体に言えば子作りをする。私としては早く解放されたいし、そちらの欲の処理にいいかと割り切った。


 3ヶ月後に結婚式をした。

 パオ族の衣装は前合わせの服の下にパンツを履く。婚礼の衣装は薄紫で、紗を重ねる繊細な布を使う。襟には家族が刺した刺繍。

 私は主に母と弟が魔術紋を刺繍してくれた。

 頭から被る布の先端には私の目の色でもある青い魔石。それが歩くたびにシャラシャラとなる。


 並んで高座に座り、2回拍手して頭を下げる。

 小さなコップに注いだ琥珀色の酒を順番に飲み干して…婚姻の儀式は終わった。


 そこで私の母からラサムの妊娠と、私が修行の旅に出ることを告げた。子供が生まれたら然るべき時に母が魔女として育てるのだ。


 私は末弟を連れて馬と馬車に荷物を乗せるとパオ族の天幕を出た。


「良かったのですか?師匠」

 そう、今日からは私が師匠だ。

「構わぬ。いけすかない奴だったから。義務ではあるが…師匠からもこの先に出会いがあればアレは捨てていいと言われている。確実に一子を設けるためのものだ」


 私が美しかった為に相手探しは難航したのだ。そうこうしている間に良さそうな子は適齢期を過ぎてしまった。なので仕方なく残りものから魔力の高いのを選んだと母から言われた。


「血で血を争うじゃないけど、大変だったのよ?求婚者が多過ぎて」

 ただでさえ有能な魔女は収入も高い。もちろん魔力も高い。たから普通でもモテる。そこにもって整った顔となればそれはまぁ。


 別の種族から選べたら良かったが、魔女の相手になれるほどの魔力を持ってる人間は少ない。父は人間だが、エルフのクォーターだ。なので、魔力がかなり多かった。


 そんなこんなでウザイ嫁は母に任せて私はマウリとのんびりと旅をした。

 といってもヤールカの南から中央に向かって、サーラヤという街に落ち着いた。


 サーラヤでは魔女の店を開いた。シェリル商会を興してあったので店舗を構えた。商品は主に薬と護符だ。マウリの作ったものも売れるし、修行にもなる。

 薬の材料は自分で探しにも行くし、冒険者ギルドや商業ギルドでも扱いがある。


 隣国のハイランダー王国にある国境の街マイヤーの商店とも取引を始め、街道沿いで泊まる時には広場で出店をしていた。

 本業はサーラヤにある店だから、宣伝を兼ねている。


 儲けが多いわけではないが、違う街ではサーラヤにない品物が手に入る。だから楽しい。

 最近はマイヤーで珍しい素材が入ったと聞いて楽しみに向かった。


 龍種の素材は全てが貴重だ。それが陸であれ海であれ。

 ワイバーンとリバイアサンの素材なんて誰が狩ったんだ?楽しみしかない。特にリバイアサンなんて手に入らない。

 オークションになると聞き、参加した。優先権はマイヤーの鍛治師だが、血や眼球、内臓は鍛治師が使わないので落札出来た。


 オークション自体も参加資格が厳格に審査されたが、魔女である証を見せればあっさりと参加出来た。内臓なんて鮮度が大切だし余らせて持って事だろう。

 まぁ高いは高いが出せない金額ではない。

 特に龍の血は貴重だ。新鮮じゃないと取れないからな。


 持ち込んだのはAランクの冒険者らしい。

 興味はあるが、まぁ会ったとてまぐれであろうしな。特別に縁を繋ぐ必要もないだろう。

 しかし、これで珍しい薬も作れる。私はほくほくだった、ら


 マイヤーでそれらを仕入れてからサーラヤに戻り、しばらく薬を作ってからまたマイヤーに向けて行商に向かった。何やら珍しい布が入ったと聞いた。


 パオ族としても布には興味があるし、魔女としても薬作りでは布をよく使う。気になったのでマウリを残して1人で向かった。


 結果、そこで出会えた布はふかふかしていた。良く見れば糸がループ状に編まれている。これは凄い!

「鍛治師に大人気です。水分を良く吸うんですよ」

なるほどな。私も薬草の調合で目が汚れる。手拭き布として欲しい。


 値段は安くないが、自分とマウリの分を2つずつ。良い買い物ができた。


 でも最も良かったのは道中での出来事だった。




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