3.修行その1
魔女になるのに資格などはない。何かをしたら魔女になれるというものも無くて、その技術で対価を得ること。それが魔女であること。
最初に習うのは魔力と魔法の使い方。いくら魔力が多くても魔法にする為には魔法にする際に使う魔力の働かせかたを知らないといけない。
魔力が魔法になる訳ではないから。魔法を使う際の力、とでも言うのか。
なんと無く魔力が魔法になると思っていたから、ここで躓いた。
その辺りで3ヶ月くらいかかって、魔力と魔法の関係が分かってからはするすると使えるようになった。
初めは火と水。風、土。順番に魔法を発動していく。
「シェリル、魔法は使えればいいというものじゃない。どう使うか、それこそが大切なんだ」
…?
使えればいいんじゃないの?
「使い方さ。どんな場面でどう使うか。考え方一つで変わる」
その意味を理解できたのはかなり後になってからだ。そしてその意味の本質を知ることになったのは、後に出会う女神が縦横無尽に魔法を使っているのを見たからだ。
そう、私の女神…
全てが型破りな彼女は儚い見た目に似合わず大胆かつ的確に魔法を使う子だった。
生まれながら魔力が多いとは言っても限度はある。
「後天的に魔力の保有量を大きく変えることは出来ない、と言われている。でも大きくは変えられなくても増やすことは可能だ」
魔力が枯渇すると体が拒否反応を示して使えなくなる。
そこを見極めて毎晩寝る前にそこまで使い切る。
それをすると体が危機を覚えて魔力保有量を増やそうとする。らしい。
5才から続けたそれは、10才にはでに当初よりかなり多くなっていた。そうすると修行に使える魔力も増える。いいことだらけだ。
魔法を使えるようになると、薬草から薬を作る。粉末にした薬から始める。
異なる効能を持つ薬草を粉末にして、ある割合で混ぜ合わせる。
その割合は魔女の秘伝だ。
熱冷まし、腹下し、頭痛、咳止め。
それらは複数の薬草で作ることができるが、その効能は魔女の力の差が出る。
理由は薬草を混ぜる時の混ぜ方。そしてもっとも重要なのは薬草を乾燥させて粉末にする工程。薬草の質ももちろん関係する。
同じものを作っても全く効果が違うことに落ち込んだことは一度ならす何度もある。その度に工夫する。調合は秘伝だが、その方法の細かいところは各個人で見つける。人それぞれのやり方によって身に付けていくから。
私は人より薬草の質を見分けるのが苦手だった。だからそこは諦めて、薬草の質に関係なく一定の薬が作れるように工程を工夫した。
乾燥させた薬草を粉末にする際に、治癒の魔力をこめると質の高い薬草に似た効果があることが分かったから。
魔法は基本属性以外にも付与魔法、治癒はもちろん空間魔法、幻影魔法も出来るようになった。
魔法は想像力だと言われる。お手本が身近にいたから、私は魔法習得がしやすかった。
護符は札に付与魔法を施すのだが、護りと言っても様々ある。健康や安全、勉学や恋愛まで。
こちらの効能は基本、守護魔法。それをどう捉えるかは依頼者による。
心が健やかだと色々とうまくいきやすい。そのための護符だ。
本当の守護はお母さんが私にくれた腕輪だ。魔女の守護の腕輪は、魔女の魔力を込めて作る。それは自分の力を分け与えるようなもので、おいそれと受けられない。
お母さんは依頼としては受けていない。
家族にだけ与えられた特別なのだ。
「シェリル、魔女の守護の腕輪はとても貴重で価値がある。自らの力を封じ込めたもの。簡単に渡してはいけない。でもシェリルが渡したいと思えたなら、迷わず渡しなさい。その人はシェリルの特別だから。分かるんだよ、この人だって」
その言葉を理解できたのは26才になってから。
私の女神、そんな呟きが漏れた。それほどまでに彼女は私の目に輝いていた。
朝日に照らされた銀髪、白い頬、華奢な体。不思議な声。銀色の目。全てが私の目にキラキラとして見えた。
魔女の作るものは様々あるが、至高とされるのは高価なのであまり売れないが、魔法書だ。
これは魔法や薬に関する魔女の知恵が詰まった書物。師匠から教わるような、貴重な魔法についても多少は言及されている。
また、病やケガに効く薬草についても書いてある。
特に薬草や魔獣の貴重な素材については相当専門的だ。特殊な症状に効く薬草の調合についても触れている。汎用性の高いものは載せていない。むしろ貴重な症例や病気について書いてあるのだ。
私も師匠である母から教わった事や自らの体験を書き留め、それを販売用の魔法書として10年かけて作り上げた。生涯で作る魔法書は僅か数冊。その渾身の1冊は私の今までの集大成。
とは言え、値段も高いのでなかなか売れない。しかもここに書いてある魔法を使うには魔女並みの魔力が必要だ。
それでも、たとえ売れなくても…この魔法書は私の誇りだ。
その魔法書をキッカケに私は女神に出会えたから、やはり私は彼女に会うために生きてきたのだと確信した。
「シェリル」
彼女の口から紡がれる私の名前は特別なもののように感じる。僅かに耳を赤くしながら必死に褒めてくれるその顔も、魔法のように美味しいご飯を作り出すその手も、警戒心が高いのに案外情に脆いところも。
だから彼女の周りには彼女を守る為に仲間がいた。そして、強引に私もその仲間になった。
それを私は後悔していない。人を受け入れられない彼女は、何かを怖がっている。
私は待つよ…シエル。
だからどうか怖がらずに、私の胸に飛び込んだおいで…




